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8.理由の追及
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「とにかく座って。少しお話しましょう」
心なしか楽しそうな表情の王妃様が、ありがたくも向かいの席を勧めてくれたのだが、社交経験の少ない私にはここで素直に座っていいのかどうかということもわからなかった。
何者かはわからないが、あきらかに私よりも身分が高い成人男性が王妃様の後ろで立ったままだということが気にかかる。
私は物凄く不機嫌そうな顔をしている男性を、思わずチラチラと見てしまった。
「カイル。貴方も座ってちょうだい。このままでは彼女もゆっくり話が出来ないみたいだから」
その言葉でカイルと呼ばれた男性は、無言で王妃様の隣に腰を下ろした。
私も一拍置いてから二人の向かい側にあるソファーの端のほうに腰掛けてみたのだが。
……向かい側にいる男性の視線が恐い。
酷く居心地の悪い思いを味わいつつ、私はたった今座ったばかりにも関わらず、すぐに居ずまいを正してしまった。
それに対して、隣にいる王妃様がどことなく楽しそうにしているように見えるのは気のせいだろうか。
どういうことかと内心訝しんでいると、王妃様が穏やかな声で私に話しかけてきた。
「どこか痛いところはない?貴女派手に転んだから」
「はい。大丈夫です。不思議なことにどこも痛いところはございません」
あれだけ勢いよく前のめりに転んで、よく無傷でいられたものだと我ながら感心する。
もしかしたらボリュームあるドレスがクッションがわりになってくれたのかもしれないな、などと呑気に考えていると、目の前の二人が微妙な表情をしていることに気付いてしまった。
「そう。それなら良かったわ。ね、カイル?」
「……ええ」
同意を求められた男性は肯定の言葉を返しながらも、どこか不服そうだ。
私が覚えていないだけで、この男性に対して迷惑を掛けたのだろう。
もしかしたらここまで運んでくれたのも彼かもしれない……。
ようやくその可能性に思い至った私は、すぐにお礼を言おうと口を開きかけたのだが。
「ところでロザリー。貴女あんなところで何してたの?」
王妃様に言葉を遮られ、完全にタイミングを逃してしまった。
「え……?」
むしろその事について聞かれる事は覚悟していたものの、今このタイミングで王妃様からダイレクトに聞かれるとは思ってもみなかっただけに言葉が出ない。
もちろん何をしていたのかなど、口が裂けても言えるはずがなく、あの所業が王妃様に知れたら、私だけでなくクレイストン伯爵家全体の品位が疑われる可能性がある。
私は咄嗟に尤もらしい言い訳を口にした。
「初めての夜会に緊張してしまって、少し外の空気に当たろうと思ったのですが……」
「もしかして、植え込みの向こう側いた人達のせいで出るに出れなくなってしまったのかしら?」
私はあえて何も言わず、曖昧に微笑むだけにとどめておいた。
そこにいた過程はともかく、出るに出れなくなったのは本当なので余計な事まで喋る必要はない。
「あんなところに隠れてたから、てっきりアルフレッドのことを見ていたのかと思ったのだけれど、違ったのね。よくあるのよ、そういうこと。……あの人は本当に無駄にモテるから。まさかこんなに若いお嬢さんまでとは思わなかったけど」
「アルフレッド……様……?」
突如もたらされた彼の情報に、私は必要以上に動揺してしまった。彼のものらしき名前を呟いた声が震えていたのが自分でもわかる。
「先程お前が蹲っていた植え込みの向こうで、女性といかがわしい行為に及んでいた方が、アルフレッド様だ」
信じたくなかった現実を改めて聞かされることになった私のショックは計り知れない。
彼が本当の『アーサー』ではないことはわかっていたつもりだった。
でも本当の名前を聞いて、全てが台無しにされたような気がするなんて……!
自分が一体何にショックを受けているのかもよくわからずに呆然としていると、向かいに座っている男性から鋭い視線が飛んできた。
「で、本当は何をしていたんだ?正直に言え」
「何って、それは……」
言葉を濁した私に、男性の視線だけでなく表情全体が段々と険しいものに変わっていく。
「そもそもお前は本当にクレイストン伯爵家の娘なのか?本当は誰かに雇われてこの夜会に潜入してきた人間なんだろう?ここで正直に答えておいたほうが身のためだぞ」
全く身に覚えのない事を厳しい口調で追及され、私は言葉を失った。
──何故こんな話になるのか、見当もつかない。
「あの時、お前は何か呪文のようなものを呟いていたな?──魔法を発動しようとしていたのではないのか?」
「私は魔法なんて使ってません!あれはただの恋のおまじないです!!あ……」
私は身の潔白を証明しようと躍起になるあまり、つい言わなくていいことまで口にしてしまった。
……………。しまった……。
後悔してももう遅い。
私はいたたまれない気持ちで、そっと目を伏せたのだった。
心なしか楽しそうな表情の王妃様が、ありがたくも向かいの席を勧めてくれたのだが、社交経験の少ない私にはここで素直に座っていいのかどうかということもわからなかった。
何者かはわからないが、あきらかに私よりも身分が高い成人男性が王妃様の後ろで立ったままだということが気にかかる。
私は物凄く不機嫌そうな顔をしている男性を、思わずチラチラと見てしまった。
「カイル。貴方も座ってちょうだい。このままでは彼女もゆっくり話が出来ないみたいだから」
その言葉でカイルと呼ばれた男性は、無言で王妃様の隣に腰を下ろした。
私も一拍置いてから二人の向かい側にあるソファーの端のほうに腰掛けてみたのだが。
……向かい側にいる男性の視線が恐い。
酷く居心地の悪い思いを味わいつつ、私はたった今座ったばかりにも関わらず、すぐに居ずまいを正してしまった。
それに対して、隣にいる王妃様がどことなく楽しそうにしているように見えるのは気のせいだろうか。
どういうことかと内心訝しんでいると、王妃様が穏やかな声で私に話しかけてきた。
「どこか痛いところはない?貴女派手に転んだから」
「はい。大丈夫です。不思議なことにどこも痛いところはございません」
あれだけ勢いよく前のめりに転んで、よく無傷でいられたものだと我ながら感心する。
もしかしたらボリュームあるドレスがクッションがわりになってくれたのかもしれないな、などと呑気に考えていると、目の前の二人が微妙な表情をしていることに気付いてしまった。
「そう。それなら良かったわ。ね、カイル?」
「……ええ」
同意を求められた男性は肯定の言葉を返しながらも、どこか不服そうだ。
私が覚えていないだけで、この男性に対して迷惑を掛けたのだろう。
もしかしたらここまで運んでくれたのも彼かもしれない……。
ようやくその可能性に思い至った私は、すぐにお礼を言おうと口を開きかけたのだが。
「ところでロザリー。貴女あんなところで何してたの?」
王妃様に言葉を遮られ、完全にタイミングを逃してしまった。
「え……?」
むしろその事について聞かれる事は覚悟していたものの、今このタイミングで王妃様からダイレクトに聞かれるとは思ってもみなかっただけに言葉が出ない。
もちろん何をしていたのかなど、口が裂けても言えるはずがなく、あの所業が王妃様に知れたら、私だけでなくクレイストン伯爵家全体の品位が疑われる可能性がある。
私は咄嗟に尤もらしい言い訳を口にした。
「初めての夜会に緊張してしまって、少し外の空気に当たろうと思ったのですが……」
「もしかして、植え込みの向こう側いた人達のせいで出るに出れなくなってしまったのかしら?」
私はあえて何も言わず、曖昧に微笑むだけにとどめておいた。
そこにいた過程はともかく、出るに出れなくなったのは本当なので余計な事まで喋る必要はない。
「あんなところに隠れてたから、てっきりアルフレッドのことを見ていたのかと思ったのだけれど、違ったのね。よくあるのよ、そういうこと。……あの人は本当に無駄にモテるから。まさかこんなに若いお嬢さんまでとは思わなかったけど」
「アルフレッド……様……?」
突如もたらされた彼の情報に、私は必要以上に動揺してしまった。彼のものらしき名前を呟いた声が震えていたのが自分でもわかる。
「先程お前が蹲っていた植え込みの向こうで、女性といかがわしい行為に及んでいた方が、アルフレッド様だ」
信じたくなかった現実を改めて聞かされることになった私のショックは計り知れない。
彼が本当の『アーサー』ではないことはわかっていたつもりだった。
でも本当の名前を聞いて、全てが台無しにされたような気がするなんて……!
自分が一体何にショックを受けているのかもよくわからずに呆然としていると、向かいに座っている男性から鋭い視線が飛んできた。
「で、本当は何をしていたんだ?正直に言え」
「何って、それは……」
言葉を濁した私に、男性の視線だけでなく表情全体が段々と険しいものに変わっていく。
「そもそもお前は本当にクレイストン伯爵家の娘なのか?本当は誰かに雇われてこの夜会に潜入してきた人間なんだろう?ここで正直に答えておいたほうが身のためだぞ」
全く身に覚えのない事を厳しい口調で追及され、私は言葉を失った。
──何故こんな話になるのか、見当もつかない。
「あの時、お前は何か呪文のようなものを呟いていたな?──魔法を発動しようとしていたのではないのか?」
「私は魔法なんて使ってません!あれはただの恋のおまじないです!!あ……」
私は身の潔白を証明しようと躍起になるあまり、つい言わなくていいことまで口にしてしまった。
……………。しまった……。
後悔してももう遅い。
私はいたたまれない気持ちで、そっと目を伏せたのだった。
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