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7.夢の終わり

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    招待されていた夜会をすっぽかし、他人の情事を出歯亀した挙げ句、それを他人に見咎められ不様にも転んで昏倒してしまった私が目を覚ましたのは、見たことのない部屋のベッドの上だった。

 顔面強打は避けられないと覚悟していたのだが、どうやらそれは上手く避けられたらしく、予想された痛みはどこにもない。


 ということは、さっきのは全て夢だったのかもしれない!どうやら寝てたみたいだし!!


 都合よく自分の状況を解釈したかった私は、ここが自室のベッドでないことも、デビュタント用に誂えたドレス姿のままだったという事実も、そんなことはまるっと無視して、夢オチということにしようと自分に言い聞かせてみたのだが。


「あら、目が覚めたのね」


 突如聞こえてきた女性の声に、それが不可能だということをすぐに思い知らされることになってしまった。


 がっかりした私が声のしたほうに視線を向けると、ベッドから少し離れた位置に置かれているソファーセットにひとりの女性が座っているのが見えた。女性は穏やかな笑顔を浮かべながら、優雅にお茶を飲んでいる。どうやらこの女性が、先程転ぶ寸前に私に声を掛けてきた女性で間違いなさそうだ。

 そう気付いた途端、私の心はあっという間に重くなっていく。

 ──どうしよう……。恥ずかし過ぎる。

 少しの間、穴があったら入りたいほどいたたまれない気持ちに苛まれたが、冷静さが少しずつ戻ってくると、とりあえず今のところは現実逃避を止めて、現状の把握に努めたほうが良さそうだということに気付いたのだった。


 まずは助けてくれたと思われる女性に目を向ける。

 年の頃は私の母よりも少し若い。
 身なりや仕草から、かなり身分の高い女性であることが察せられた。


 …………。──身分の高い方!!


 そう気付いた途端、自分が依然ベッドの上であることを思い出し、私は慌ててベッドから下りることにした。

 ところがまたしても慣れない夜会ドレスが邪魔になり、私は不様にもベッドから転げ落ちると、床に蹲るようなかたちで着地することになってしまった。


 やってしまった……。


 度重なる失態に内心冷や汗もので、ご婦人の顔色をこっそり窺ってみる。


「あらあら。大丈夫?」


 あきらかに苦笑されてしまっているのがわかったが、怒っている感じではないことがせめてもの救いだ。


 私は今度こそは失敗しないようゆっくり立ち上がると、姿勢を整え、目上の方に対する礼儀をとるために両手で軽くドレスのスカートを摘まんでから膝を曲げ、視線を落としたまま口を開いた。


「この度はご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。そしてお助けいただきありがとうございました。私はクレイストン伯爵家の末娘で、ロザリーと申します」

「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。ロザリー。目が覚めたばかりだもの。楽にして」

「……ありがとうございます」


 そういわれても、あきらかに身分の高そうなご婦人の前で楽になどできるはずもない。

 せめてこのご婦人がどこの誰かということだけでもわかれば少しは気が楽になるのかもしれないと考えながら、曖昧に微笑んでみた。


 本当に楽にして、後で実は王妃様でした!とか言われたら恐すぎる。


 どう対応するべきかと考えてあぐねていると、いつの間にかご婦人の後ろに立っていた男性が、私に厳しい視線を向けながら、ご婦人が何者なのかを教えてくれた。


「こちらは王妃様だ」


 やっぱり……。

 最悪の想定に言葉もない。

 ベルク王国の最高位の女性を前にして、ろくでもない姿ばかりを見せてしまった私は、呆然と立ち尽くしたまま微動だに出来なかったのだった。

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