7 / 71
7.夢の終わり
しおりを挟む
招待されていた夜会をすっぽかし、他人の情事を出歯亀した挙げ句、それを他人に見咎められ不様にも転んで昏倒してしまった私が目を覚ましたのは、見たことのない部屋のベッドの上だった。
顔面強打は避けられないと覚悟していたのだが、どうやらそれは上手く避けられたらしく、予想された痛みはどこにもない。
ということは、さっきのは全て夢だったのかもしれない!どうやら寝てたみたいだし!!
都合よく自分の状況を解釈したかった私は、ここが自室のベッドでないことも、デビュタント用に誂えたドレス姿のままだったという事実も、そんなことはまるっと無視して、夢オチということにしようと自分に言い聞かせてみたのだが。
「あら、目が覚めたのね」
突如聞こえてきた女性の声に、それが不可能だということをすぐに思い知らされることになってしまった。
がっかりした私が声のしたほうに視線を向けると、ベッドから少し離れた位置に置かれているソファーセットにひとりの女性が座っているのが見えた。女性は穏やかな笑顔を浮かべながら、優雅にお茶を飲んでいる。どうやらこの女性が、先程転ぶ寸前に私に声を掛けてきた女性で間違いなさそうだ。
そう気付いた途端、私の心はあっという間に重くなっていく。
──どうしよう……。恥ずかし過ぎる。
少しの間、穴があったら入りたいほどいたたまれない気持ちに苛まれたが、冷静さが少しずつ戻ってくると、とりあえず今のところは現実逃避を止めて、現状の把握に努めたほうが良さそうだということに気付いたのだった。
まずは助けてくれたと思われる女性に目を向ける。
年の頃は私の母よりも少し若い。
身なりや仕草から、かなり身分の高い女性であることが察せられた。
…………。──身分の高い方!!
そう気付いた途端、自分が依然ベッドの上であることを思い出し、私は慌ててベッドから下りることにした。
ところがまたしても慣れない夜会ドレスが邪魔になり、私は不様にもベッドから転げ落ちると、床に蹲るようなかたちで着地することになってしまった。
やってしまった……。
度重なる失態に内心冷や汗もので、ご婦人の顔色をこっそり窺ってみる。
「あらあら。大丈夫?」
あきらかに苦笑されてしまっているのがわかったが、怒っている感じではないことがせめてもの救いだ。
私は今度こそは失敗しないようゆっくり立ち上がると、姿勢を整え、目上の方に対する礼儀をとるために両手で軽くドレスのスカートを摘まんでから膝を曲げ、視線を落としたまま口を開いた。
「この度はご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。そしてお助けいただきありがとうございました。私はクレイストン伯爵家の末娘で、ロザリーと申します」
「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。ロザリー。目が覚めたばかりだもの。楽にして」
「……ありがとうございます」
そういわれても、あきらかに身分の高そうなご婦人の前で楽になどできるはずもない。
せめてこのご婦人がどこの誰かということだけでもわかれば少しは気が楽になるのかもしれないと考えながら、曖昧に微笑んでみた。
本当に楽にして、後で実は王妃様でした!とか言われたら恐すぎる。
どう対応するべきかと考えてあぐねていると、いつの間にかご婦人の後ろに立っていた男性が、私に厳しい視線を向けながら、ご婦人が何者なのかを教えてくれた。
「こちらは王妃様だ」
やっぱり……。
最悪の想定に言葉もない。
ベルク王国の最高位の女性を前にして、ろくでもない姿ばかりを見せてしまった私は、呆然と立ち尽くしたまま微動だに出来なかったのだった。
顔面強打は避けられないと覚悟していたのだが、どうやらそれは上手く避けられたらしく、予想された痛みはどこにもない。
ということは、さっきのは全て夢だったのかもしれない!どうやら寝てたみたいだし!!
都合よく自分の状況を解釈したかった私は、ここが自室のベッドでないことも、デビュタント用に誂えたドレス姿のままだったという事実も、そんなことはまるっと無視して、夢オチということにしようと自分に言い聞かせてみたのだが。
「あら、目が覚めたのね」
突如聞こえてきた女性の声に、それが不可能だということをすぐに思い知らされることになってしまった。
がっかりした私が声のしたほうに視線を向けると、ベッドから少し離れた位置に置かれているソファーセットにひとりの女性が座っているのが見えた。女性は穏やかな笑顔を浮かべながら、優雅にお茶を飲んでいる。どうやらこの女性が、先程転ぶ寸前に私に声を掛けてきた女性で間違いなさそうだ。
そう気付いた途端、私の心はあっという間に重くなっていく。
──どうしよう……。恥ずかし過ぎる。
少しの間、穴があったら入りたいほどいたたまれない気持ちに苛まれたが、冷静さが少しずつ戻ってくると、とりあえず今のところは現実逃避を止めて、現状の把握に努めたほうが良さそうだということに気付いたのだった。
まずは助けてくれたと思われる女性に目を向ける。
年の頃は私の母よりも少し若い。
身なりや仕草から、かなり身分の高い女性であることが察せられた。
…………。──身分の高い方!!
そう気付いた途端、自分が依然ベッドの上であることを思い出し、私は慌ててベッドから下りることにした。
ところがまたしても慣れない夜会ドレスが邪魔になり、私は不様にもベッドから転げ落ちると、床に蹲るようなかたちで着地することになってしまった。
やってしまった……。
度重なる失態に内心冷や汗もので、ご婦人の顔色をこっそり窺ってみる。
「あらあら。大丈夫?」
あきらかに苦笑されてしまっているのがわかったが、怒っている感じではないことがせめてもの救いだ。
私は今度こそは失敗しないようゆっくり立ち上がると、姿勢を整え、目上の方に対する礼儀をとるために両手で軽くドレスのスカートを摘まんでから膝を曲げ、視線を落としたまま口を開いた。
「この度はご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。そしてお助けいただきありがとうございました。私はクレイストン伯爵家の末娘で、ロザリーと申します」
「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。ロザリー。目が覚めたばかりだもの。楽にして」
「……ありがとうございます」
そういわれても、あきらかに身分の高そうなご婦人の前で楽になどできるはずもない。
せめてこのご婦人がどこの誰かということだけでもわかれば少しは気が楽になるのかもしれないと考えながら、曖昧に微笑んでみた。
本当に楽にして、後で実は王妃様でした!とか言われたら恐すぎる。
どう対応するべきかと考えてあぐねていると、いつの間にかご婦人の後ろに立っていた男性が、私に厳しい視線を向けながら、ご婦人が何者なのかを教えてくれた。
「こちらは王妃様だ」
やっぱり……。
最悪の想定に言葉もない。
ベルク王国の最高位の女性を前にして、ろくでもない姿ばかりを見せてしまった私は、呆然と立ち尽くしたまま微動だに出来なかったのだった。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる