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5.別れの過程
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それから、彼とは何度も公園で会った。
とはいっても、初めての恋に浮かれまくった私が、ほぼ毎日公園のあの場所に通いつめていたために遭遇率が上がっただけの話なのだが、特に迷惑そうな素振りも見られなかったので、そのまま偶然の出会いを装い続けのだ。
彼は最初に会った時に息抜きに来ていると言っていたとおり、いつもひとりでフラリとやって来ては、何をするでもなくただ芝生に寝転んでいるだけだった。
──昼間からこんなところに来るなんて、どんな職業の人かしら?
そう思った私は、彼が眠っているのをいいことにチラチラと盗み見しながら観察してみたのだ。
年齢は一番上の兄と同じくらい。よく見るとやたらと身なりがいいことがわかったので、かなり高位の貴族であろうことが容易に想像できた。
他にも高位の貴族だと思わせる要素がちらほら。
たまに彼から話し掛けられることがあるのだが、若い女性が好みそうな話題から、私が好きな本の話題まで、どんな話題でも相手に合わせて話すことができる知識の多さに、彼の教養の高さが窺えた。
そんなところも恋愛小説に出てきた『アーサー』を思わせ、私は彼が実は王子様なのではないかと半ば本気で思い始めていたほどだ。
もちろんそんな事があるはずないのだが、この時の私は初めての恋に舞い上がるあまり、思考がお花畑になっていた。
この国の王子様はまだ16歳で、こんな大人の男性ではない。しかも厳しいと評判の私の次兄が常に側にいるのだ。こんな自由にひとりで公園に来れる訳がない。
私は謎めいた雰囲気を持つ正体不明の男性に益々のめり込んでいき、自分はまるで物語の主人公になったかのような錯覚に陥っていた。
それからの私は、彼のほうから話し掛けられれば少しだけ話をしたり、ただ静かに眠る彼の横で本を読むふりをしながら彼のことを盗み見したりという程度の事しか出来なかったが、会う度にどんどん彼の事を好きになっていった。
今までの私では考えられない普通の女の子らしい感情に自分自身でも戸惑ったほどだ。
ところが、そのうち私は、あんなに楽しみだった図書館に通うことよりも、彼に会う目的だけで外出するようになり、今までたいして気にしていなかった自分の容姿にも、少しだけ気を使うようになっていった。
彼の事を考えるだけで胸が高鳴る。
もっと一緒にいたい。
彼の藍色の瞳にもっと私を映してほしい。
そんな想いが溢れでて止まらなくなった私は、勇気を出して彼に告白することに決めたのだが──。
──想いを伝えようと決意したその日、突然彼から別れを告げられたのだ。
「面倒なことも片付いたから本来の場所に戻らないといけない。残念だけどお別れだ。──キミと話をするのはなかなかの暇潰しになったよ。ありがとう」
一方的にそう告げた彼は、もう私のほうなど見ようともせず、何の未練も無いといった様子で立ち上がった。
私はショックのあまり何も言えず、ただ彼の顔をすがるようにじっと見ていることしかできなかった。
「もう会うこともないだろう。住む世界が違うから」
彼はキッパリとそう言い残すと、足早に私の前から去って行ったのだった。
とはいっても、初めての恋に浮かれまくった私が、ほぼ毎日公園のあの場所に通いつめていたために遭遇率が上がっただけの話なのだが、特に迷惑そうな素振りも見られなかったので、そのまま偶然の出会いを装い続けのだ。
彼は最初に会った時に息抜きに来ていると言っていたとおり、いつもひとりでフラリとやって来ては、何をするでもなくただ芝生に寝転んでいるだけだった。
──昼間からこんなところに来るなんて、どんな職業の人かしら?
そう思った私は、彼が眠っているのをいいことにチラチラと盗み見しながら観察してみたのだ。
年齢は一番上の兄と同じくらい。よく見るとやたらと身なりがいいことがわかったので、かなり高位の貴族であろうことが容易に想像できた。
他にも高位の貴族だと思わせる要素がちらほら。
たまに彼から話し掛けられることがあるのだが、若い女性が好みそうな話題から、私が好きな本の話題まで、どんな話題でも相手に合わせて話すことができる知識の多さに、彼の教養の高さが窺えた。
そんなところも恋愛小説に出てきた『アーサー』を思わせ、私は彼が実は王子様なのではないかと半ば本気で思い始めていたほどだ。
もちろんそんな事があるはずないのだが、この時の私は初めての恋に舞い上がるあまり、思考がお花畑になっていた。
この国の王子様はまだ16歳で、こんな大人の男性ではない。しかも厳しいと評判の私の次兄が常に側にいるのだ。こんな自由にひとりで公園に来れる訳がない。
私は謎めいた雰囲気を持つ正体不明の男性に益々のめり込んでいき、自分はまるで物語の主人公になったかのような錯覚に陥っていた。
それからの私は、彼のほうから話し掛けられれば少しだけ話をしたり、ただ静かに眠る彼の横で本を読むふりをしながら彼のことを盗み見したりという程度の事しか出来なかったが、会う度にどんどん彼の事を好きになっていった。
今までの私では考えられない普通の女の子らしい感情に自分自身でも戸惑ったほどだ。
ところが、そのうち私は、あんなに楽しみだった図書館に通うことよりも、彼に会う目的だけで外出するようになり、今までたいして気にしていなかった自分の容姿にも、少しだけ気を使うようになっていった。
彼の事を考えるだけで胸が高鳴る。
もっと一緒にいたい。
彼の藍色の瞳にもっと私を映してほしい。
そんな想いが溢れでて止まらなくなった私は、勇気を出して彼に告白することに決めたのだが──。
──想いを伝えようと決意したその日、突然彼から別れを告げられたのだ。
「面倒なことも片付いたから本来の場所に戻らないといけない。残念だけどお別れだ。──キミと話をするのはなかなかの暇潰しになったよ。ありがとう」
一方的にそう告げた彼は、もう私のほうなど見ようともせず、何の未練も無いといった様子で立ち上がった。
私はショックのあまり何も言えず、ただ彼の顔をすがるようにじっと見ていることしかできなかった。
「もう会うこともないだろう。住む世界が違うから」
彼はキッパリとそう言い残すと、足早に私の前から去って行ったのだった。
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