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「お前はとりあえずクルトの手伝いをしてこい。必要だったら魔法使っていいぞ。俺が許可する」


 初日から野宿だということを聞かされた僕は、テンションだけでなくやる気もがた落ち状態で王弟殿下の指示を聞いていた。


「……わかりました」

「何だ?なんか文句あんのか?」


 明らかに低いトーンの僕の返事に王弟殿下の目が眇められる。どうやらガッカリ感がうっかり表情に出てしまっていたらしい。
 しかし僕の声より更に低いトーンの王弟殿下の言葉に不穏な空気を感じ取った僕は、即座に自分の言動を反省する羽目になった。
 寡黙な少年という設定なので愛想を振り撒く必要はないものの、自分の修行に付き合ってもらっている立場でありながら不満そうな態度をとってしまうなんて良くないことだ。


「……いえ、野宿は初めての経験なので戸惑っているだけです」

「そうか。これからいくらでも経験できるぞ。良かったなー」


 今度はニヤニヤしながら軽い調子でそう言われ、僕は不躾にも王弟殿下の顔を凝視してしまった。

 今日だけじゃなく、これから約二ヶ月もの間何度も野宿する事になるのかと思うと、少しも良かったとは思えない。


「言っとくけどこれも修行な。お前はまず便利な生活をやめたほうがいい。お前のように発想の柔軟性に欠ける人間は、不便な環境にいたほうが創意工夫できるもんなんだよ」


 尤もな指摘と思えるだけに反論する気もおきず、僕は大人しく王弟殿下の指示に従いクルトさんの手伝いをすることにした。


『天才魔術師デビュープロジェクト』の一員で僕の魔法の先生でもあるクルトさんは、黒に近いグレーの髪に榛色の瞳を持った中性的な顔立ちの人物だ。
 一見身体つきも魔法使いのイメージどおり線が細く見えるが、魔法なしでも充分戦えるほどの実力がある相当優秀な人物だと聞いているので、着痩せするタイプなのかもしれないと僕は密かに思っている。

 ちなみにもうひとりのプロジェクトメンバーであるディルクさんは金色に近い茶髪に緑色の瞳で顔立ちも体型も男らしい。
 こちらは服の上からでも発達した筋肉のシルエットがわかるので、想像しなくても筋肉マッチョな体型であることは間違いなさそうだ。



 今晩宿泊する予定の場所から少し森の奥に入ったところで僕は難なくクルトさんの姿を見つけることができた。
 僕の気配に気付いたクルトさんが笑顔で軽く手を挙げてくれているので、すぐに駆け寄って声を掛ける。


「クルトさん。お手伝いさせてください」

「では焚き火の準備をしますので、枝を集めて下さい」

「はい」


 地味な作業を黙々とこなしているクルトさんに驚いたものの、よく考えてみれば火は魔法で起こすことができるが燃やすものがなければ焚き火は出来ない。
 本で読んだ知識としてならば焚き火というものがどういう手順で行われるものなのか知っていた筈なのに、実際にこういう作業を体験するのは初めてだ。

 確か乾いた小枝を拾えばいいんだよね……。


 ところが、鬱蒼と木が生い茂っている森は地面に日が射しづらいせいなのか、乾いた枝を見付けるのはなかなか難しい。
 僕が躍起になって乾いた枝を探し求めていると、いつの間にか両手で抱えるほどの枝を収集しているクルトさんの姿が目に入った。

 何でクルトさんはあんなに見付けられたんだろう?
 乾いた枝を見つけ出すコツでもあるんだろうか……?

 クルトさんが枝を拾う様子をジッと観察してみたが、どう見ても適当に拾っているようにしか思えない。
 思いきってクルトさんに小枝拾いのコツを聞いてみたところ、ビックリしたような顔をされてしまった。


「魔法で乾かすので湿っていても構いません。とりあえず適当に拾ってください」


 なるほど!そういうことね。そういえば僕も魔法使えるんだった。

 今まで日常生活において自分が魔法を使うという感覚がなかったため、そういう発想が全く頭に無かったのだ。

 王弟殿下がクルトさんの手伝いに魔法を使っていいと言ったのはこういう訳だったのか……。

 僕がようやく合点がいったとばかりに納得していると、

「アルフレッド様が旅に出ないとダメだと仰っていた意味がようやく理解出来ました」

 クルトさんがそう呟きながら苦笑いしている。


 自分の察しの悪さが無性に恨めしいし、恥ずかしい。

 僕はそれを誤魔化すようにがむしゃらに枝拾いに精を出したのだった。
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