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カイル様の言葉にどう反応を返したらいいのか迷っていると、それを言い出した当の本人に困ったように笑われてしまった。
「悪かった。困らせるつもりで言ったんじゃないんだが……」
そう言いながら、カイル様の大きな手が僕の髪をグシャグシャとかき回す。
──これって、もしかして自分の発言を有耶無耶にしようとしてるってことなのかな?
それとも話してしまった後の僕の反応を見て、冗談で済ませたほうがいいと判断したってこと?
でもって、話す気はなかったのに、つい言ってしまった事を後悔してるとか……?
カイル様がアレの時以外で積極的なスキンシップを図ってくるのは珍しい。これが一体どういう事なのか、僕なりにカイル様の今の心境を推測してみたものの、色々鈍い僕では察することはできそうになかった。
本当は聞かなかったことにするのが貴族としての正しいやり方なのだろうが、今の僕は平民のアーサー。やっぱり気になって仕方がないので、あえてそういう暗黙の了解的なものはまるっと無視することに決めた。
だって、どう考えても気になるよね!?
カイル様も呪われてるかもしれないんだよ!!
僕は逸る気持ちを抑えつつ、なるべく落ち着いた口調を心掛けながら話を切り出した。
ところが。
「もし、その話が本当だったら……、……え?」
そう口を開いてすぐに、カイル様の大きな手が僕の額辺りに翳され、視界が一瞬塞がれる。
そしてその手はすぐに僕の頭の上に戻り、優しい手付きで僕の銀色に近いブロンドを撫でていった。
……これは一体どういうことでしょう??
以前の僕だったらこんな接触にドキッとさせられるところだが、今の僕は大丈夫。いくら愚かであろうとも、少しは学習するのが人間だ。
相手は普段から僕にああいうことをしてくれてても、少しも表情が変わらないカイル様。これになんの意味もないことはわかっている。
もしこの行動に何か意味があるのだとしたら、この話をここで有耶無耶にしようという魂胆だけだろう。
僕はすぐに冷静さを取り戻すと、『誤魔化されませんよ!』という意味を目力に込めてカイル様をジッと見上げた。
目があったカイル様は困ったように笑うと、髪を撫でていた手を離し、一歩後ろに下がってから、あらためて僕と向かい合った。
僕はそんなカイル様のことはあえて気にせず、先程の言葉の続きを口にする。
「──で、カイル様の対価は何だったんですか?」
「まず気になるのがそこってことは、お前相当気にしてるんだな……」
しみじみとそう呟かれ、僕は若干イラッとした。
そりゃ気にするでしょう!女性の身体も困り物だが、元に戻ろうとする度にあんな恥ずかしいことしなきゃならない呪いなんて嫌すぎる。
「僕の事はいいんです。さっさとカイル様の話をしてください」
怒ったような口調になった僕にカイル様は苦笑しながらも、今度は誤魔化さずに答えてくれた。
「俺の対価は瞳の色だ。大きな魔力を必要とするような上級魔法を使うと、瞳の色がピンクっぽい紫色に変わる」
「………へぇ」
勿体ぶっていたわりに、羨ましいほど大したことのない対価を聞かされ、僕は急にカイル様の事情に対する興味を無くしてしまった。
「……そんなあからさまにガッカリされると、その先の話がしづらいだろうが」
いえ、なんかべつに聞く気も失せたのでもう結構です。
という訳にもいかないようなので、気を取り直して話題を進めていく。
「なんか僕とは随分違うんだなぁ、と思いまして……」
はっきり言ってズルい。
僕も目の色が変わる程度だったら良かったのに……。
「まあ、それは生まれ持った魔力の差ってものもあるからな」
カイル様の説明によると、カイル様自身の元々の魔力は普通の人よりは遥かに多い。
しかし、魔術書と契約する前は王弟殿下のほうが魔力が高く、柔軟な発想で新たな術式を生み出そうとしていた王弟殿下は幼い頃からカイル様の憧れの人だったらしい。
他にもかつての王弟殿下がいかに優れた人物だったのかということを滔々と説明されたが、凡人の僕には、何ソレ?自慢?とツッコミたくなるような話ばかりだった。
話を聞く限り、カイル様が魔術書の力で100点の天才になったと考えるなら、何もしなかった頃の王弟殿下の能力は98点。カイル様の能力は97点といったところだろう。
魔術書と契約しても合格点にも到達しない僕に、何もしなくても97点の人が『俺、天才じゃないんだ。98点のヤツもいるから。俺が100点になったのは、お前と同じ道具を使ったからであって、本来の実力じゃない』と、ずっと抱えてきたらしい葛藤を吐露されたところで、正直全く心に響かない。
僕はこれ以上、天才の自慢話、もとい、苦悩を聞く気になれず、切りのよさそうなところで話を次の疑問点のほうに移してみた。
「しかし意外でした。まさかカイル様も『聖魔の書』と契約してるなんて」
「俺が契約したのは、『聖魔の書』じゃない。一冊の魔術書が契約できる人間は一人だけだ。その契約は契約者が死ぬまで有効だから、そいつが生きている間は、他の人間は契約できない」
じゃあ、死ぬまでこの呪いは有効ってことですか……?
──ということは僕も一生このままってことに……。
絶望的な気持ちになっている僕に、更なる追い討ちが待っていた。
「俺が契約したのは『聖霊の書』というもので、我がエセルバート家が昔から所蔵してる魔術書だ。お前が契約した『聖魔の書』のような禁術は載ってないが、興味深い術式が数多く載っている」
「え……?禁術がない?」
「ああ、どういうものが載っているかは言えないが、所謂禁術と云われている類いのものは『聖霊の書』には載っていないんだ。 一概にどうとは言えないが、禁術は難しい魔法であると同時に消費する魔力量も大きい。お前の対価の大きさも、単に魔力の問題だけじゃなくて、その辺りが関係しているのかもしれないと俺は考えている」
……その情報、教えて貰わないほうが良かったかもしれません。
「悪かった。困らせるつもりで言ったんじゃないんだが……」
そう言いながら、カイル様の大きな手が僕の髪をグシャグシャとかき回す。
──これって、もしかして自分の発言を有耶無耶にしようとしてるってことなのかな?
それとも話してしまった後の僕の反応を見て、冗談で済ませたほうがいいと判断したってこと?
でもって、話す気はなかったのに、つい言ってしまった事を後悔してるとか……?
カイル様がアレの時以外で積極的なスキンシップを図ってくるのは珍しい。これが一体どういう事なのか、僕なりにカイル様の今の心境を推測してみたものの、色々鈍い僕では察することはできそうになかった。
本当は聞かなかったことにするのが貴族としての正しいやり方なのだろうが、今の僕は平民のアーサー。やっぱり気になって仕方がないので、あえてそういう暗黙の了解的なものはまるっと無視することに決めた。
だって、どう考えても気になるよね!?
カイル様も呪われてるかもしれないんだよ!!
僕は逸る気持ちを抑えつつ、なるべく落ち着いた口調を心掛けながら話を切り出した。
ところが。
「もし、その話が本当だったら……、……え?」
そう口を開いてすぐに、カイル様の大きな手が僕の額辺りに翳され、視界が一瞬塞がれる。
そしてその手はすぐに僕の頭の上に戻り、優しい手付きで僕の銀色に近いブロンドを撫でていった。
……これは一体どういうことでしょう??
以前の僕だったらこんな接触にドキッとさせられるところだが、今の僕は大丈夫。いくら愚かであろうとも、少しは学習するのが人間だ。
相手は普段から僕にああいうことをしてくれてても、少しも表情が変わらないカイル様。これになんの意味もないことはわかっている。
もしこの行動に何か意味があるのだとしたら、この話をここで有耶無耶にしようという魂胆だけだろう。
僕はすぐに冷静さを取り戻すと、『誤魔化されませんよ!』という意味を目力に込めてカイル様をジッと見上げた。
目があったカイル様は困ったように笑うと、髪を撫でていた手を離し、一歩後ろに下がってから、あらためて僕と向かい合った。
僕はそんなカイル様のことはあえて気にせず、先程の言葉の続きを口にする。
「──で、カイル様の対価は何だったんですか?」
「まず気になるのがそこってことは、お前相当気にしてるんだな……」
しみじみとそう呟かれ、僕は若干イラッとした。
そりゃ気にするでしょう!女性の身体も困り物だが、元に戻ろうとする度にあんな恥ずかしいことしなきゃならない呪いなんて嫌すぎる。
「僕の事はいいんです。さっさとカイル様の話をしてください」
怒ったような口調になった僕にカイル様は苦笑しながらも、今度は誤魔化さずに答えてくれた。
「俺の対価は瞳の色だ。大きな魔力を必要とするような上級魔法を使うと、瞳の色がピンクっぽい紫色に変わる」
「………へぇ」
勿体ぶっていたわりに、羨ましいほど大したことのない対価を聞かされ、僕は急にカイル様の事情に対する興味を無くしてしまった。
「……そんなあからさまにガッカリされると、その先の話がしづらいだろうが」
いえ、なんかべつに聞く気も失せたのでもう結構です。
という訳にもいかないようなので、気を取り直して話題を進めていく。
「なんか僕とは随分違うんだなぁ、と思いまして……」
はっきり言ってズルい。
僕も目の色が変わる程度だったら良かったのに……。
「まあ、それは生まれ持った魔力の差ってものもあるからな」
カイル様の説明によると、カイル様自身の元々の魔力は普通の人よりは遥かに多い。
しかし、魔術書と契約する前は王弟殿下のほうが魔力が高く、柔軟な発想で新たな術式を生み出そうとしていた王弟殿下は幼い頃からカイル様の憧れの人だったらしい。
他にもかつての王弟殿下がいかに優れた人物だったのかということを滔々と説明されたが、凡人の僕には、何ソレ?自慢?とツッコミたくなるような話ばかりだった。
話を聞く限り、カイル様が魔術書の力で100点の天才になったと考えるなら、何もしなかった頃の王弟殿下の能力は98点。カイル様の能力は97点といったところだろう。
魔術書と契約しても合格点にも到達しない僕に、何もしなくても97点の人が『俺、天才じゃないんだ。98点のヤツもいるから。俺が100点になったのは、お前と同じ道具を使ったからであって、本来の実力じゃない』と、ずっと抱えてきたらしい葛藤を吐露されたところで、正直全く心に響かない。
僕はこれ以上、天才の自慢話、もとい、苦悩を聞く気になれず、切りのよさそうなところで話を次の疑問点のほうに移してみた。
「しかし意外でした。まさかカイル様も『聖魔の書』と契約してるなんて」
「俺が契約したのは、『聖魔の書』じゃない。一冊の魔術書が契約できる人間は一人だけだ。その契約は契約者が死ぬまで有効だから、そいつが生きている間は、他の人間は契約できない」
じゃあ、死ぬまでこの呪いは有効ってことですか……?
──ということは僕も一生このままってことに……。
絶望的な気持ちになっている僕に、更なる追い討ちが待っていた。
「俺が契約したのは『聖霊の書』というもので、我がエセルバート家が昔から所蔵してる魔術書だ。お前が契約した『聖魔の書』のような禁術は載ってないが、興味深い術式が数多く載っている」
「え……?禁術がない?」
「ああ、どういうものが載っているかは言えないが、所謂禁術と云われている類いのものは『聖霊の書』には載っていないんだ。 一概にどうとは言えないが、禁術は難しい魔法であると同時に消費する魔力量も大きい。お前の対価の大きさも、単に魔力の問題だけじゃなくて、その辺りが関係しているのかもしれないと俺は考えている」
……その情報、教えて貰わないほうが良かったかもしれません。
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