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「そんな怯えた顔しないでよ。とりあえず今はもう何もしないから。」
王太子殿下は本当にこれ以上は何もする気がないのか胡散臭い笑顔を浮かべながら、僕が拘束されていたのとは別の椅子に座ると優雅に足を組んで僕のほうを見ている。
一方、僕はというと。王太子殿下の言葉や表情に妙に引っ掛かるものを感じながらも、ひとりだけ全裸という状態を一刻も早く抜け出したくて必死だった。
カイル様はそんな僕を見て苦笑いしながらも、さりげなく僕から視線を逸らし、着替えている様子を見ない振りをしてくれた。
さっきは王太子殿下と一緒に僕に恥ずかしい真似をしてきたカイル様だが、やはり気遣いのできる優しい人であることに変わりはないようでホッとする。……僕のすることをがっつり見ている王太子殿下とはえらい違いだ。
そんな王太子殿下は僕が見苦しくない程度に身支度を整えるのをしっかりと見守ってから、再び口を開いた。
「結局、対価が発動するきっかけはわからないままだけど、元に戻る方法がはっきりわかって良かったね」
今回の総括を明るく言い切る王太子殿下に、僕は思わず遠い目になる。元に戻るためとはいえ、人前に恥ずかしい姿を晒したのだ。思い出すだけで顔から火が出そうになるし、なんだか身体がむずむずするようで落ち着かない。
「──良かったんでしょうか……」
「元に戻れないよりいいでしょ。それにさ、辛いとか大変な思いするんじゃなくて、ただ気持ちよくなればそれでいいんだから楽じゃない?」
何て事のないようにそう言ってくださるが、素直に頷く気にはまるでなれなかった。
実は僕、正直この手の行為が苦手で堪らない。
男の身体でもどうしたらいいのかよくわからず必要最低限のことしかしていないのに、女の子の身体でさっき二人にされたような快感を自力で得なきゃならないなんて、乗り越えなきゃならない壁が高過ぎて軽く絶望するレベルだ。
「……自分でどうにか出来る自信が全くないんですけど……」
あまりに難しいノルマを課せられたような気になった僕は、ついうっかりと口から弱音が溢れてしまった。
すると。
「自分でどうにかするのが難しいなら、最初のうちはカイルに頼めば?」
「「え!?」」
当然のことのように提案してきた王太子殿下に、僕とカイル様の声が重なった。
……頼むって、さっきのあれを!?
驚いた表情のまま不躾にも王太子殿下を凝視すると、王太子殿下は巷で大人気の王子様らしい一見爽やかそうな笑顔を向けてきた。
「だってこれから三ヶ月、キミはカイルのところで必要な知識を身に付けることになってるんだから当然じゃない?」
当然と言われても、それは通常他人に教えてもらうようなことではない。同意する気になれず黙り込んでいると。
「それが嫌なら一刻も早く身に付けた魔力を使いこなせるようになって、その対価の仕組みを解明できるようになればいいんじゃない?」
予想外にも至極まともな言葉をかけられ、僕はその言葉を上手く認識できずに惚けてしまった。
「……え?」
「だからさ~、キミが早くすごい魔術師になれれば、全てが丸く収まるんじゃないって言ったんだけど」
二回目はだいぶ端折られてしまったが、僕が王太子殿下のいうところの天才魔術師になれれば、呪いを解く道も見つかるかもしれないということだろう。
──なるほど。それも確かに一理ある。
僕だって、目的もわからずただ王太子殿下の駒になれるよう嫌々努力するよりも、自分の身体を取り戻すという確固たる目的の為なら、がむしゃらに頑張れそうな気がする。
「僕、自分の為にも殿下の御期待に添えるような天才魔術師になれるよう頑張ります!!」
「期待しているよ」
僕の決意を聞いた王太子殿下は満足そうにそう言うと、今度こそは本当に裏のない(と思われる)笑顔を返してくれた。
王太子殿下にまんまと乗せられて、あっさりその気になった僕は、カイル様が物言いたげな表情で僕を見ていたことに全く気付いていなかった。
王太子殿下は本当にこれ以上は何もする気がないのか胡散臭い笑顔を浮かべながら、僕が拘束されていたのとは別の椅子に座ると優雅に足を組んで僕のほうを見ている。
一方、僕はというと。王太子殿下の言葉や表情に妙に引っ掛かるものを感じながらも、ひとりだけ全裸という状態を一刻も早く抜け出したくて必死だった。
カイル様はそんな僕を見て苦笑いしながらも、さりげなく僕から視線を逸らし、着替えている様子を見ない振りをしてくれた。
さっきは王太子殿下と一緒に僕に恥ずかしい真似をしてきたカイル様だが、やはり気遣いのできる優しい人であることに変わりはないようでホッとする。……僕のすることをがっつり見ている王太子殿下とはえらい違いだ。
そんな王太子殿下は僕が見苦しくない程度に身支度を整えるのをしっかりと見守ってから、再び口を開いた。
「結局、対価が発動するきっかけはわからないままだけど、元に戻る方法がはっきりわかって良かったね」
今回の総括を明るく言い切る王太子殿下に、僕は思わず遠い目になる。元に戻るためとはいえ、人前に恥ずかしい姿を晒したのだ。思い出すだけで顔から火が出そうになるし、なんだか身体がむずむずするようで落ち着かない。
「──良かったんでしょうか……」
「元に戻れないよりいいでしょ。それにさ、辛いとか大変な思いするんじゃなくて、ただ気持ちよくなればそれでいいんだから楽じゃない?」
何て事のないようにそう言ってくださるが、素直に頷く気にはまるでなれなかった。
実は僕、正直この手の行為が苦手で堪らない。
男の身体でもどうしたらいいのかよくわからず必要最低限のことしかしていないのに、女の子の身体でさっき二人にされたような快感を自力で得なきゃならないなんて、乗り越えなきゃならない壁が高過ぎて軽く絶望するレベルだ。
「……自分でどうにか出来る自信が全くないんですけど……」
あまりに難しいノルマを課せられたような気になった僕は、ついうっかりと口から弱音が溢れてしまった。
すると。
「自分でどうにかするのが難しいなら、最初のうちはカイルに頼めば?」
「「え!?」」
当然のことのように提案してきた王太子殿下に、僕とカイル様の声が重なった。
……頼むって、さっきのあれを!?
驚いた表情のまま不躾にも王太子殿下を凝視すると、王太子殿下は巷で大人気の王子様らしい一見爽やかそうな笑顔を向けてきた。
「だってこれから三ヶ月、キミはカイルのところで必要な知識を身に付けることになってるんだから当然じゃない?」
当然と言われても、それは通常他人に教えてもらうようなことではない。同意する気になれず黙り込んでいると。
「それが嫌なら一刻も早く身に付けた魔力を使いこなせるようになって、その対価の仕組みを解明できるようになればいいんじゃない?」
予想外にも至極まともな言葉をかけられ、僕はその言葉を上手く認識できずに惚けてしまった。
「……え?」
「だからさ~、キミが早くすごい魔術師になれれば、全てが丸く収まるんじゃないって言ったんだけど」
二回目はだいぶ端折られてしまったが、僕が王太子殿下のいうところの天才魔術師になれれば、呪いを解く道も見つかるかもしれないということだろう。
──なるほど。それも確かに一理ある。
僕だって、目的もわからずただ王太子殿下の駒になれるよう嫌々努力するよりも、自分の身体を取り戻すという確固たる目的の為なら、がむしゃらに頑張れそうな気がする。
「僕、自分の為にも殿下の御期待に添えるような天才魔術師になれるよう頑張ります!!」
「期待しているよ」
僕の決意を聞いた王太子殿下は満足そうにそう言うと、今度こそは本当に裏のない(と思われる)笑顔を返してくれた。
王太子殿下にまんまと乗せられて、あっさりその気になった僕は、カイル様が物言いたげな表情で僕を見ていたことに全く気付いていなかった。
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