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本編
74.口説かれました!
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内心冷や汗もので、覆い被さったままの東條を見つめていると、もう一度唇が重なり、俺は慌てて身動ぎする。
しかし全身が痛んでいる今の状態ではろくに身体に力を入れることができず、ろくな抵抗にもならないまま両手でガッチリと顔を押さえられ、再び唇を奪われた。
「ちょ……!」
慌てて制止しようと口を開くが、それを切っ掛けに暴力的とも云える性急なキスは深いものへと変わっていく。
あの夜の相手が俺だということがわかったからか、東條には教師だからとか生徒相手だからとかいう配慮や遠慮は微塵も感じられない。
舌の動きが半端なくいやらしく、性感を刺激するような東條のキスはケガ人相手だというのに本当に容赦ない。
「東條、せんせ……」
ガッツリ貪られ、息も絶え絶えに名前を呼ぶと、不快そうに眉を顰められた。
「響夜って呼べよ。──光希」
唇が触れるギリギリの距離で囁かれたその声が、なんかヤバい。
これ、本気で抵抗しなかったらヤられんじゃね?
そんな危機感を覚えた俺は、痛む身体にムチ打って思い切り足を振り上げたのだが。
「いッてぇ……」
身体中を襲ったあまりの激痛に、俺が顔を顰める結果となってしまった。
東條にダメージを与えてこの状態から逃れるどころかダメージが増しただけだった俺を見て、東條が口の端を上げる。
……コイツ絶対ドSだ。
「ま、今日はこのくらいにしといてやるよ。ケガ人をあんまり無理させられないしな」
ここまでやっといて今更かよ。
文句のひとつも言いたくなり思わずじとっした視線を向けてはみたが、意味深に親指の腹で口元を拭いながら身体を起こした東條を見て、何故か何も言えなくなった。
なんか完全にコイツのペースなのが気に食わない。
少しでもこのおかしな空気を変えようと考えを巡らせたところで、俺は肝心なことをすっかり忘れていたことに気が付いた。
「そう言えば小鳥遊って……」
アイツをこの腕に抱き込んで階段を転がったところまでは記憶にある。
「小鳥遊は殴られた傷以外、特にケガはない」
「……そうですか。それなら良かったです」
でもあの自慢の顔が傷付いたことに変わりはないから、きっと今頃大騒ぎしてるんだろうな。でもって、また俺にキャンキャン吠えてくるに違いない。
助けに飛び込んだ後の小鳥遊の態度を思い出し苦笑いする。
あんな目に合った直後だというのに、アイツは泣いたり喚いたりなんて真似をすることは一切なく、助けに行った筈の俺にまで悪態をつけるほどの図太さを見せていた。
殴られたことは可哀想だったが、アイツの心に深い傷がつくような事態にならなくて良かったと思うことにしよう。
この一件で小鳥遊が見た目に反して中々骨のあるヤツだとわかったので、俺の中にあったアイツへの苦手意識が一気になくなった。
話してみたら案外面白いヤツかもしれない。
そんな事を考えていると。
「俺がここにいるのに他のヤツの事なんて考えるなよ」
見るからに面白くなさそうな表情をした東條が自分勝手なことを言いだした。
なーんかさっきから、イチイチ気に障るんだよな。コイツのこういう態度。さっきどころか、最初の夜から、結構な確率でコイツの俺様な感じの態度にイラつかせられている。
生憎俺は多少強引なところも素敵。なんていう乙女的な発想は一切ない。
「……たった一回寝たくらいで独占欲とか出してくんの止めてもらえます? あの時は成り行きと好奇心でセックスしただけで、一目惚れとかそういう甘ったるい感情とか微塵も感じて無かったんで」
ホントはちょっとドキドキしてしまっていたが、それは絶対に東條には内緒だ。
「まあ、あの夜の事はともかくとして、……今はただの担任の先生と生徒ですから」
これからの学校生活に厄介な関係を持ち込まれても困るので、キッパリとそう告げると。
「だったら、教師と生徒なんていうつまんない関係じゃなくなればいいって事だよな?」
余裕綽々といった感じで言葉を返してきた東條に唖然とさせられる。
あの……。普通教師が生徒に手を出すのってタブーなんじゃ……?
そんな俺の常識的な考え方はどうやら東條には通用しないようで。
「じゃあこれからはただの東條響夜としてお前を口説くことにする」
何かを企んでるとしか思えない黒い笑みに、俺は完全に怯んでしまい、ついうっかり拒絶する言葉を発することを忘れ、東條の顔をガン見してしまった。
東條は再び寝ている俺の身体の両脇に手を着くと、俺の瞳を真っ直ぐに覗き込む。
「……光希、好きだ。お前の全てが欲しい」
囁くような告白の後、今度は傷付いた俺の身体を気遣うようにそっと触れるだけのキスを落としてきた。
「心も身体も蕩けるくらいに愛してやるから、俺だけのものになれよ」
自信満々に放たれた衝撃的な口説き文句を恥ずかしげもなく口にする、嫌味なくらい整った東條から目が離せない。
ところが。
「まずは身体からでもいいぜ。──俺とのセックス、悪くなかっただろ?」
余計な一言に突如金縛り状態が解けた俺は、あの日置き去りにされた不快さを思い出し、一気に心が冷えていった。
そういえばコイツ。あんな真似しといて今更口説いてくるなんて一体どういうつもりだよ。
俺は怒りを胸の内に隠してニッコリと微笑んだ。
「セックスだけ良くても意味ないでしょ?あんなんその時の気分でいくらでも良くも悪くもなるもんなんだからさ。そんな事より、優しさとか思いやりっていうもののほうがよっぽど人の心を動かすと思うけど。 少なくとも俺はセックスした相手を置き去りにするような真似をする人間を好きになることはねぇよ」
ついに言ってやったぜ! あースッキリした。
東條の勢いと雰囲気に押されて忘れそうになってたけど、コイツは俺をホテルに置き去りにした張本人だからな。
自分の所業を忘れたとは言わせねぇぞ。
さて、どういう言い訳するつもりなのかたっぷり聞かせてもらおうじゃん。
挑むように東條を見据えると、東條はさっきとは打って変わりものすごーく驚いた顔をしていた。
何でお前が驚くんだよ……? まさか忘れてたとか言うんじゃねぇだろうな?
「何だよ?言い訳があるなら聞くけど?」
「言い訳っていうか……、お前、それ誤解だ」
「は? 誤解も何も夜中に目が覚めたら、俺ひとりだったけど? アンタの姿どころか、部屋のどこにもアンタの痕跡すらなかったし……」
「……だからお前は置き去りにされたと思って怒って帰ったんだな?」
東條はベッドの脇に置かれていた椅子に座ると、大きなため息を吐いた。
「お前が帰った五分後に俺は部屋に戻ったんだよ」
「は?」
「そもそも俺があのホテルの部屋を利用してたのは、あそこで仕事関係のパーティーがあったからだ」
「え!?」
あらかじめホテルの部屋をとってあるってのは知ってたけど、まさかその理由が仕事だったとは……。
それなのに俺をナンパして部屋に連れ込んでヤることヤって。
──それ、ダメな大人がすることだよな……?
「言っとくけど、俺の本業は教師じゃない。教師は圭吾との約束で期間限定でやってるだけだ」
「それは知ってる。ホントは大企業の御曹司なんですよね?」
「まあ、生まれはそうだな。その他に俺自身で色々やってることがあるんだよ。……それはまたの機会にじっくり聞かせてやる。 そんな事より今はお前の誤解を解くのが先だ」
そしてその後、東條の口からなされた説明に俺は絶句することになった。
お互いの事を話す前にセックスに突入して。
東條がシャワー浴びてる間に俺が寝てしまって。
すぐに戻って来ようと思ってたのに結果的に戻って来れなくて。
目覚めた俺がクローゼットの存在に思い至らなかったために、東條の気配を探すことが出来なくて。
──後、五分。その僅かな時間が俺たちをすれ違わせた。
なんだか全ての事情がわかると、あの日、焦りや不安を感じて落ち込んだ俺が物凄くマヌケに感じてくる。
「あの日のことは単なる誤解ってことはわかりましたけど。……でも転校初日のあの態度はお世辞にも褒められたものじゃないと思います」
俺が東條にあんまりいい感情を抱いていなかったのは、何もあの夜の事だけが原因じゃない。
転校初日に待ちぼうけを喰らわされたこともかなり影響を及ぼしている。
すると。
「その件に関しては本当に悪かった」
東條は素直に頭を下げて謝罪してきたのだ。
いつもの不遜な態度とは全く違った東條に、俺の方がビックリさせられる。
「……そんなに驚くことないだろ。俺だって自分が悪いと思ったら素直に謝ることくらいはする」
どこか拗ねたような表情に、なんか今までイラついてきた色んな事が一気にどうでもよくなった。
「とりあえず話はわかりました。でも、東條先生が俺の担任の先生だってことに変わりはないので、お互いの為にもあの夜のことは、無かったことにしませんか?」
そう提案した途端。
東條の表情が激変する。
ヤベェ。もしかして怒らせた……?
「そんな事は絶対させない。お前が俺を忘れたいって言うんならどんな手段を使ってでも、俺の存在をお前に刻みつけるだけだけど?」
東條は険しい表情のまま立ち上がると、恐ろしい事をサラッと言ったと思ったら俺の顔をガッシリと掴み、噛みつくようなキスを仕掛けてきたのだ。
その時。
病室の扉が開き、姉の光里が驚いた表情をしてこちらを見ている様子が視界の端に映り込む。
東條は全く動じることなくゆっくりと唇を離すと、憎らしいくらいに落ち着いた様子で姉に向かって挨拶し、そのまま病室を後にした。
残された俺はというと。
──気不味い事この上ない。
「さっきの人、東條財閥の御曹司よね? 経済誌で見たことあるわ」
「……今は俺の担任だけどね」
「その担任の先生と今こんなとこで何してたのよ?」
「え~っと……」
もしかしなくても見られたよな……。さっきのアレ。
「……っていうか、ホントにアンタ、あの学校で普段何してる訳?」
姉の本気で呆れたような声色に。
俺は何と答えてみようもなく、ただ曖昧に笑って誤魔化しておいたのだった。
しかし全身が痛んでいる今の状態ではろくに身体に力を入れることができず、ろくな抵抗にもならないまま両手でガッチリと顔を押さえられ、再び唇を奪われた。
「ちょ……!」
慌てて制止しようと口を開くが、それを切っ掛けに暴力的とも云える性急なキスは深いものへと変わっていく。
あの夜の相手が俺だということがわかったからか、東條には教師だからとか生徒相手だからとかいう配慮や遠慮は微塵も感じられない。
舌の動きが半端なくいやらしく、性感を刺激するような東條のキスはケガ人相手だというのに本当に容赦ない。
「東條、せんせ……」
ガッツリ貪られ、息も絶え絶えに名前を呼ぶと、不快そうに眉を顰められた。
「響夜って呼べよ。──光希」
唇が触れるギリギリの距離で囁かれたその声が、なんかヤバい。
これ、本気で抵抗しなかったらヤられんじゃね?
そんな危機感を覚えた俺は、痛む身体にムチ打って思い切り足を振り上げたのだが。
「いッてぇ……」
身体中を襲ったあまりの激痛に、俺が顔を顰める結果となってしまった。
東條にダメージを与えてこの状態から逃れるどころかダメージが増しただけだった俺を見て、東條が口の端を上げる。
……コイツ絶対ドSだ。
「ま、今日はこのくらいにしといてやるよ。ケガ人をあんまり無理させられないしな」
ここまでやっといて今更かよ。
文句のひとつも言いたくなり思わずじとっした視線を向けてはみたが、意味深に親指の腹で口元を拭いながら身体を起こした東條を見て、何故か何も言えなくなった。
なんか完全にコイツのペースなのが気に食わない。
少しでもこのおかしな空気を変えようと考えを巡らせたところで、俺は肝心なことをすっかり忘れていたことに気が付いた。
「そう言えば小鳥遊って……」
アイツをこの腕に抱き込んで階段を転がったところまでは記憶にある。
「小鳥遊は殴られた傷以外、特にケガはない」
「……そうですか。それなら良かったです」
でもあの自慢の顔が傷付いたことに変わりはないから、きっと今頃大騒ぎしてるんだろうな。でもって、また俺にキャンキャン吠えてくるに違いない。
助けに飛び込んだ後の小鳥遊の態度を思い出し苦笑いする。
あんな目に合った直後だというのに、アイツは泣いたり喚いたりなんて真似をすることは一切なく、助けに行った筈の俺にまで悪態をつけるほどの図太さを見せていた。
殴られたことは可哀想だったが、アイツの心に深い傷がつくような事態にならなくて良かったと思うことにしよう。
この一件で小鳥遊が見た目に反して中々骨のあるヤツだとわかったので、俺の中にあったアイツへの苦手意識が一気になくなった。
話してみたら案外面白いヤツかもしれない。
そんな事を考えていると。
「俺がここにいるのに他のヤツの事なんて考えるなよ」
見るからに面白くなさそうな表情をした東條が自分勝手なことを言いだした。
なーんかさっきから、イチイチ気に障るんだよな。コイツのこういう態度。さっきどころか、最初の夜から、結構な確率でコイツの俺様な感じの態度にイラつかせられている。
生憎俺は多少強引なところも素敵。なんていう乙女的な発想は一切ない。
「……たった一回寝たくらいで独占欲とか出してくんの止めてもらえます? あの時は成り行きと好奇心でセックスしただけで、一目惚れとかそういう甘ったるい感情とか微塵も感じて無かったんで」
ホントはちょっとドキドキしてしまっていたが、それは絶対に東條には内緒だ。
「まあ、あの夜の事はともかくとして、……今はただの担任の先生と生徒ですから」
これからの学校生活に厄介な関係を持ち込まれても困るので、キッパリとそう告げると。
「だったら、教師と生徒なんていうつまんない関係じゃなくなればいいって事だよな?」
余裕綽々といった感じで言葉を返してきた東條に唖然とさせられる。
あの……。普通教師が生徒に手を出すのってタブーなんじゃ……?
そんな俺の常識的な考え方はどうやら東條には通用しないようで。
「じゃあこれからはただの東條響夜としてお前を口説くことにする」
何かを企んでるとしか思えない黒い笑みに、俺は完全に怯んでしまい、ついうっかり拒絶する言葉を発することを忘れ、東條の顔をガン見してしまった。
東條は再び寝ている俺の身体の両脇に手を着くと、俺の瞳を真っ直ぐに覗き込む。
「……光希、好きだ。お前の全てが欲しい」
囁くような告白の後、今度は傷付いた俺の身体を気遣うようにそっと触れるだけのキスを落としてきた。
「心も身体も蕩けるくらいに愛してやるから、俺だけのものになれよ」
自信満々に放たれた衝撃的な口説き文句を恥ずかしげもなく口にする、嫌味なくらい整った東條から目が離せない。
ところが。
「まずは身体からでもいいぜ。──俺とのセックス、悪くなかっただろ?」
余計な一言に突如金縛り状態が解けた俺は、あの日置き去りにされた不快さを思い出し、一気に心が冷えていった。
そういえばコイツ。あんな真似しといて今更口説いてくるなんて一体どういうつもりだよ。
俺は怒りを胸の内に隠してニッコリと微笑んだ。
「セックスだけ良くても意味ないでしょ?あんなんその時の気分でいくらでも良くも悪くもなるもんなんだからさ。そんな事より、優しさとか思いやりっていうもののほうがよっぽど人の心を動かすと思うけど。 少なくとも俺はセックスした相手を置き去りにするような真似をする人間を好きになることはねぇよ」
ついに言ってやったぜ! あースッキリした。
東條の勢いと雰囲気に押されて忘れそうになってたけど、コイツは俺をホテルに置き去りにした張本人だからな。
自分の所業を忘れたとは言わせねぇぞ。
さて、どういう言い訳するつもりなのかたっぷり聞かせてもらおうじゃん。
挑むように東條を見据えると、東條はさっきとは打って変わりものすごーく驚いた顔をしていた。
何でお前が驚くんだよ……? まさか忘れてたとか言うんじゃねぇだろうな?
「何だよ?言い訳があるなら聞くけど?」
「言い訳っていうか……、お前、それ誤解だ」
「は? 誤解も何も夜中に目が覚めたら、俺ひとりだったけど? アンタの姿どころか、部屋のどこにもアンタの痕跡すらなかったし……」
「……だからお前は置き去りにされたと思って怒って帰ったんだな?」
東條はベッドの脇に置かれていた椅子に座ると、大きなため息を吐いた。
「お前が帰った五分後に俺は部屋に戻ったんだよ」
「は?」
「そもそも俺があのホテルの部屋を利用してたのは、あそこで仕事関係のパーティーがあったからだ」
「え!?」
あらかじめホテルの部屋をとってあるってのは知ってたけど、まさかその理由が仕事だったとは……。
それなのに俺をナンパして部屋に連れ込んでヤることヤって。
──それ、ダメな大人がすることだよな……?
「言っとくけど、俺の本業は教師じゃない。教師は圭吾との約束で期間限定でやってるだけだ」
「それは知ってる。ホントは大企業の御曹司なんですよね?」
「まあ、生まれはそうだな。その他に俺自身で色々やってることがあるんだよ。……それはまたの機会にじっくり聞かせてやる。 そんな事より今はお前の誤解を解くのが先だ」
そしてその後、東條の口からなされた説明に俺は絶句することになった。
お互いの事を話す前にセックスに突入して。
東條がシャワー浴びてる間に俺が寝てしまって。
すぐに戻って来ようと思ってたのに結果的に戻って来れなくて。
目覚めた俺がクローゼットの存在に思い至らなかったために、東條の気配を探すことが出来なくて。
──後、五分。その僅かな時間が俺たちをすれ違わせた。
なんだか全ての事情がわかると、あの日、焦りや不安を感じて落ち込んだ俺が物凄くマヌケに感じてくる。
「あの日のことは単なる誤解ってことはわかりましたけど。……でも転校初日のあの態度はお世辞にも褒められたものじゃないと思います」
俺が東條にあんまりいい感情を抱いていなかったのは、何もあの夜の事だけが原因じゃない。
転校初日に待ちぼうけを喰らわされたこともかなり影響を及ぼしている。
すると。
「その件に関しては本当に悪かった」
東條は素直に頭を下げて謝罪してきたのだ。
いつもの不遜な態度とは全く違った東條に、俺の方がビックリさせられる。
「……そんなに驚くことないだろ。俺だって自分が悪いと思ったら素直に謝ることくらいはする」
どこか拗ねたような表情に、なんか今までイラついてきた色んな事が一気にどうでもよくなった。
「とりあえず話はわかりました。でも、東條先生が俺の担任の先生だってことに変わりはないので、お互いの為にもあの夜のことは、無かったことにしませんか?」
そう提案した途端。
東條の表情が激変する。
ヤベェ。もしかして怒らせた……?
「そんな事は絶対させない。お前が俺を忘れたいって言うんならどんな手段を使ってでも、俺の存在をお前に刻みつけるだけだけど?」
東條は険しい表情のまま立ち上がると、恐ろしい事をサラッと言ったと思ったら俺の顔をガッシリと掴み、噛みつくようなキスを仕掛けてきたのだ。
その時。
病室の扉が開き、姉の光里が驚いた表情をしてこちらを見ている様子が視界の端に映り込む。
東條は全く動じることなくゆっくりと唇を離すと、憎らしいくらいに落ち着いた様子で姉に向かって挨拶し、そのまま病室を後にした。
残された俺はというと。
──気不味い事この上ない。
「さっきの人、東條財閥の御曹司よね? 経済誌で見たことあるわ」
「……今は俺の担任だけどね」
「その担任の先生と今こんなとこで何してたのよ?」
「え~っと……」
もしかしなくても見られたよな……。さっきのアレ。
「……っていうか、ホントにアンタ、あの学校で普段何してる訳?」
姉の本気で呆れたような声色に。
俺は何と答えてみようもなく、ただ曖昧に笑って誤魔化しておいたのだった。
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