セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

63.生徒会ライフ!8 Side 桜庭 壱琉 その1

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僕には苦手なものが二つある。


ひとつは退屈。
そしてもうひとつは──。

──ひとつ年下の従兄弟。志波煌成。


その二つが同時に訪れるなんて、今日は厄日に違いない。

……って思ったんだけどさぁ。




◇◆◇◆




「あーあ、つまんないの。僕がいない間にゲームの決着がついてたなんて、こんな酷い話ってある?挙げ句、皆が来ないから一日中仕事ばっかしなきゃなんないし~」


僕は不満をタラタラ口にしながら、ゲームの勝者である『清ちゃん』こと、竜造寺清雅に恨みがましい視線を送った。


「壱琉センパイ。口を動かすのは勝手ですが、手も動かして下さい」

「済んだことはしょうがないけど、清ちゃんばっかズルくない?何もしてないのに『棚ぼたラッキー』なんて」


超不機嫌な清ちゃんに対し、僕は口を尖らせて拗ねている振りをしながらも、その言葉に嫌味を織り交ぜるのを忘れない。


実は、僕が実家の両親に呼び出され、この学園を離れていた土曜の午後。

膠着状態に焦れたらしい『いおりん』こと佐伯伊織が卑怯な手段を使って今回のゲームに決着をつけようとしたのだ。

それを僕以外のメンバーに見つかって、まずは『翔ちゃん』─壬生翔太─に諫められ、それでいおりんが逆ギレして、それにブチきれた『朔ちゃん』─朝比奈朔人─がいおりんを殴っちゃったんだって。

でもってそこにタイミング良く踏み込んできた風紀に三人は連れて行かれて、残った清ちゃんが頼まれてもないのに『みっきぃ』─中里光希─のお世話をしたらしい。


──それを後から聞かされた僕は当然の事ながら面白くない。


いおりんお気に入りの怪しいローションを使われてヘロヘロだったみっきぃを美味しくいただいて勝者になった清ちゃんはさ、『棚ぼたラッキー』だっただけだってわかってるけど。

結果より過程を楽しみたい僕としては、今回の功を焦ったいおりんにもムカつくけど、何にもしないくせに美味しいとこは必ず持っていく清ちゃんも充分ムカついてんだよねー。


思わずジト目で清ちゃんを見ると、『棚ぼたラッキー』っていう言葉に思うところがあったのか複雑そうな表情をしている。

てっきりいつもの俺様ぶった態度で『当然だ』とでも言うと思ったから意外。

なぁんかいつもの覇気がないんだよね~。珍しく僕に敬語とか使ってるし。

こんな清ちゃん弄ってもつまんなーい。

俺様ぶっててもそうなりきれない清ちゃんを揶揄って遊ぶの楽しかったのに~。

でも。


「もしかして、気にしてたりするの?まぁ、そりゃそうだよねぇ。自分が実力で選んでもらえた訳じゃないしね~」


ちゃんと傷を抉っておくことも忘れないよ!


「……いいから仕事してください。喋ってる余裕があるんならもっと仕事まわしますけど」


おっと。これ以上つつくと藪蛇。
撤退のタイミングを見極めるのも大事だよね。

僕は大袈裟にため息を吐くと、ホントは翔ちゃんがやるはずだった仕事をするために、サーバーに保存されているデータを呼び出した。


う~。メンドくさい。こういう地道な作業って退屈だから嫌いなんだよね……。

あ~あ。ホントに皆なにやってんだか。よりにもよってこんな忙しい時期に処分されるような真似するんて。
っていうか、よく考えると翔ちゃんは別に処分された訳じゃないんだから部屋に籠る意味なくない?

いっそ僕もサボっちゃおっかな……。


そんな事を考えながらパソコン画面と睨めっこしていると、静かになった室内に来客を告げるチャイムが響き渡り、程なくして扉の電子ロックが解除される音がした。

嫌な予感……。


「邪魔するぞ」


こちらの返事も待たずに勝手に生徒会室に入ってきたのは、風紀委員長の志波煌成だった。

生徒会長と風紀委員長の学生証はどの部屋でもフリーパスのIDが付いているため、こうしてアウェーの生徒会室にも当然の顔して入ってくる。

ちょっとは遠慮して欲しいなぁ。




僕と、この学園で風紀委員長なんていうお堅い役職に就いている志波煌成は、従兄弟同士という間柄だ。

煌成のお父さんが僕のお母さんのお兄さんなので、ちょっとは同じ血が混ざっているはずなのに、似ているとこなんてどこにもない。
見た目も性格もあまりに違い過ぎて、最早従兄弟だということを誰かに打ち明けるのも憚られるレベルだ。

大きくて男らしい煌成と高三にもなって未だに女の子と間違われるような華奢な見た目の僕。

小さい頃から何でも完璧に出来る煌成と比べられてきたため、僕は自然と煌成に苦手意識を持つようになった。

──僕だって身長以外は何だって人並み以上なんだけどね……。

でも、どうしても見た目のせいで頼りなく見えるみたいで、周りの人間は皆煌成ばかり頼りにしてる。

その証拠に、僕のほうが年上なのに、僕の両親はこんな見た目の僕を心配して、煌成に僕のことよろしくなんて頼んでるくらいだし。

せめて僕が煌成より年下だったら良かったのに、と思わずにはいられない。

……だったら年上のプライドとか気にせずにいられるかもしれないのにな~。


ハッキリ言って僕はプライドが高い。

小さい頃から抱えてきた煌成への複雑な思いの反動か、誰かに主導権を取られるのが大嫌いなせいもあると思う。

実際、こんな見た目で抱かれたいランキングなんてものの二位にも選ばれてるけど、抱く側しかしたことない。

僕の親衛隊は僕より身体の大きい人間ばかりだけど、皆根っからのM気質で、僕にいたぶって欲しい子達ばかりだから問題ないし、僕はそんな連中を言葉で苛めて屈伏させるのが楽しくて仕方がないから、まさにウィンウィンの関係ってやつで成り立っている。

まあ、一応普段は皆の理想を壊さないよう、誰に対しても抱かれたいランキングの上位者らしく可愛らしい言動を心掛けてるからあんまり気付かれることもないけどね。

……でも、苦手な煌成相手にまでそれを発揮するつもりは毛頭ないから、塩対応になってしまうのはしょうがないと思うんだ。

ここには僕の本性知ってる清ちゃんしかいないしね~。


「風紀委員長様がここに何の用?」


いつもの五割増しの愛想のなさでそう聞くと、それを上回る不機嫌さで煌成が口を開いた。


「……中里の鞄引き取りにきた」


みっきぃの名前が出た途端、清ちゃんの肩がピクリと動く。

ものスッゴい気にしてるよね?
ちょっとつつきたくなっちゃうなぁ。
ダシにするのが煌成っていうのが気に食わないけど。


「何で煌成がみっきぃのバッグ取りに来る訳?」

「……さっき中里に頼まれた。で、どこにある?」

「みっきぃの席にはなかったと思うけど。……清ちゃん知ってる?」


わざわざ清ちゃんに話を振ると、苦虫を噛み潰したような表情で答えてくれた。


「俺が戻ってきた時にはなかったから、おそらく壬生先輩あたりが光希に返すつもりで持っていったんだろう」


ふ~ん。翔ちゃんがねぇ。

親切心からか、みっきぃと一番親しいのは自分だっていうアピールなのかはわかんないけど、こういうところを見ると、やっぱり翔ちゃんってみっきぃのこと好きだったんだな~って思う。

そんでもって、たぶん翔ちゃんだけじゃなく、僕以外の全員がそういうことになってるんじゃないかって気もするんだ。
もちろんいおりんもね。

皆みたいに恋愛感情ではないけれど、僕もみっきぃにはだいぶ好感を持っている。

思い返してみれば、今まで何回か気紛れでゲームをしてきたけど、みっきぃみたいに会って早々に僕の本性に気付くような察しのいい子は初めてだった。

頭の回転も早いし、要領もいい。

何よりも僕たちに簡単に靡かないのが一番良かったなぁ。
あのあしらい方はホント秀逸だった。

挙げ句に、僕は見れなかったけど、素顔も美人となれば惚れないわけないよね~。

ということは、ゲームは一応決着がついたけど、これからまだまだ面白い展開になりそうな予感。

今回は参加するより傍観してたほうが面白そうな気がするから、僕はここでリタイアするね!


僕が考え事をしている間に、煌成は用は済んだとばかりにこちらには目もくれず踵を返す。


「とりあえず壬生先輩のところに行ってみる。邪魔したな」


ある計画を思い付いた僕はその声で我に返り、慌てて煌成を引き留めた。


「はい、はーい!それ僕行きたい!!」


すると。

途端に煌成に怪訝そうな顔をされてしまう。

この顔はおそらく『お前何企んでんだ?』ってことだろう。


「僕に行かせて!翔ちゃんとこでバッグ回収して、みっきぃにお届けすればいいんでしょ?」

「……他にも忘れモンがあるんだよ」


そう言って煌成はその手に持っていた小さなバッグを僕に見せた。

もしかして、ランチバッグかな?
みっきぃお昼はお弁当だって言ってたもんね。

何で煌成が持ってるか気になるけど、それはまあ、本人から聞き出せばいっか。


「じゃあ、それもちゃんと僕が届けてあげるから!」

「却下だ。ただでさえ中里は今、お前らのせいで厄介な目にあってるんだ。これ以上不必要に近付いて周りを刺激するような真似はやめろ」


その言葉で僕はピンときた。


「……もしかして、制裁されてんの?」

「ああ、ゲームの決着ついたことが知れ渡ったからな。早速馬鹿な連中が動き始めてる」


チラリと清ちゃんを見ると、あからさまに顔色が変わっている。

バカだなぁ。

まさかとは思うけど、ゲームが終わったって言ったらそうなるってこと、想像つかなかったのかなー?

そりゃ今までターゲットに微塵も興味なかったから、その後どんなことになるとか考えもしなかったんだろうけどさぁ。
仮にも好きだって自覚してるんだったら、ちょっとは頭を働かせようよ。


何かに気付いたらしい煌成が清ちゃんを呆れような顔で見ていると、清ちゃんはムッとしたような表情で「俺には関係ねぇよ」と呟いた。

関係ないわりには明らかに落ち着きなくなってるけど大丈夫?
まあ、自分の好きな子が自分のせいで酷い目にあってるって知ればさすがの俺様も罪悪感がわくのかな~?

プライドが許さないのか、煌成の手前意地を張ってるだけなのか清ちゃんはこれ以上何も言うつもりはなさそうだ。

まさかとは思うけど、ここまで意識しといて無自覚とかいわないよね……?


………。


ナニソレ、面白そう!!


「僕んトコは大丈夫だよ。僕がみっきぃに本気じゃないのも知ってるし、なんだったら誤解のないように隊長も一緒に連れてくからさ~。ついでに早く業務に戻ってもらえるよう翔ちゃんに頼んでくるし、朔ちゃんといおりんにも親衛隊のことそれとなく注意を促してもらえるよう話しておくね!」


僕が元気にそう言うと、煌成は盛大なため息を返してくれた。


「言っとくが、壬生先輩はともかく後の二人は謹慎中だから、決められた風紀委員数人と担当の先生以外と会ったり連絡とったりすることは禁止されている」

「だったら翔ちゃんのトコだけ行って説得してくるから!」

「……お前に出来るのか?」


胡散臭いものを見るような目をする煌成に対し、僕は返事の代わりにニンマリと口角を上げる。


「……引っ掻き回すなよ」

「そんなことしないってば!」


多分ね……。

心の中でそう付け足して煌成が持っていたランチバッグを半ば強引に奪い取ってやった。

煌成は僕の言うことが全く信用出来ないのか、何時にも増して不機嫌そうに眉間に深ーい皺が寄っている。


あ、この表情知ってる。

自分の予測の範囲外の行動をする人間に戸惑っている顔だ。


「大丈夫。任せて!」


笑顔で請け負う僕を他所に、煌成と清ちゃんは複雑そうな表情をしていた。

普段仲悪いくせに、こんな時だけ息ピッタリだねぇ。君たち。

それを口に出すと、酷く嫌そうな顔をされた。


煌成が現れた時には最悪って思ったけど、とりあえずこれなら当分退屈しないで済みそうだし、煌成のこんな顔も見れたから、なかなか悪くなかったかもね。
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