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本編
61.待ち伏せされました!
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あれから俺は二階堂と一緒に学園の総務課に備品の申請に行き、適当に時間を潰してから二時間目が始まるタイミングで教室へと戻った。
1-Aの教室内の雰囲気は妙にピリピリしているものの、二階堂に言われたことが効いているのか、俺に対して何か仕掛けてくるヤツはおらず、さっき申請したばかりだったというのに既に机は新しいものに取り替えられていた。
一見、何事もなかったかのような感じになっているのが逆に違和感バリバリで、なんか笑えてくる。
まあ、さっきキャンキャン吠えていたチワワのような小鳥遊が俺を凄い目で睨み付けてくるので、さすがに無かったことになったとは思えなかったけどな。
それから表面上は何事もなく午前の授業を終え、昼休みになるとすぐに、俺はある目的のため教室を飛び出した。
まず向かったところは旧図書館。
俺が一昨日散々な目にあったところだ。
さすがの俺もそんなところで平気な顔して弁当を広げる気にはまだなれないので、昼食はその辺の適当な木陰で摂るつもりだが、その前にやらなければならないことがあり、仕方なくそこへ足を向けることにしたのだ。
とりあえずあの部屋の状況の確認と、佐伯と一緒に食べた弁当箱の回収をしないと。
昨日のうちにやっとけばよかったんだけど、なんだかんだで後回しになってしまったので、出来たらこの昼休みのうちにやっときたい。
その後、もう一ヵ所行かなきゃならない所がある為、俺は非常に急いでいた。
……急いでたんだけど。
旧図書館へと続く並木道に差し掛かったところで、突然誰かに呼び止められてしまう。
「お前が中里光希だな?」
聞き覚えのない声に足を止めると、まるで俺を取り囲むように周辺の木の陰から数人の生徒が姿を現した。
これって、もしかして待ち伏せってやつじゃ……。
人数は全部で五人。しかも全員俺よりひと回りデカい人間ばかりだ。
もしかして朝比奈か壱琉先輩辺りの親衛隊か?
いかにも鍛えてます、といった運動部系の身体つきの人間で構成されている親衛隊といえば、まず抱かれたいランキングとかっていうフザケた人気投票で上位になったというあの二人が思い浮かぶ。
でも、なんとなくこう、見るからに硬派って感じがあの二人のイメージとは違う気もしないでもない。
まあ、何はともあれ、これが本当に誰かの親衛隊だとすれば、碌な用事じゃないだろうということだけは容易に想像出来る。
明らかに睨み付けてくるヤツとかいるあたり、どう見ても穏やかに話をするって感じじゃなさそうだし。
体格差を考えると、力づくでこられるのはちょっとマズい。
最悪誰かひとりをブッ倒して、突破口を作るしかねぇか……。
俺は自分の中でそう算段をつけると、何も答えず最大級の警戒をした。
すると。
俺のすぐ前にいる男が俺の進路を塞ぐようにして立ちはだかった。たぶんこいつがリーダーだろう。
「……俺になんか用ッスか?」
「用事があるから待っていた。我々は壬生翔太様の親衛隊の者だ。中里光希。お前に聞きたいことがある」
え……!まさかの壬生先輩の親衛隊!?
壬生先輩が親衛隊持ちだということは知っていたが、構成している人間がこういうタイプの人達だとは思っていなかっただけにビックリだ。
かといって他にどういうタイプがピッタリかと聞かれても、孤高の侍というイメージの強い壬生先輩がちやほやされたり、誰かを侍らせたりしている姿は想像出来ない。
そんな俺の気持ちが表情に表れていたのか、そのリーダーらしき人俺の顔を見て忌々しげに口を開いた。
「我々壬生親衛隊は他の方の親衛隊とは違い、抱きたい抱かれたいなどといった浮わついた気持ちでお側にお仕えしているのではない。我々は壬生様のご意志を尊重し、煩わしい思いをされぬよう陰ながら御守りするのが仕事なのだ。……だから、無断で壬生様に近付いたお前を排除せず、壬生様が望まれるのならと思いこれまであえて黙認してきた。
──なのに、何故このような事になるのだッ!」
激昂したリーダーの怒りは全て俺に向けられている。
そもそもこのような事って何だ?
この言い方からするに、散々壬生先輩と仲良くしてたくせに生徒会長様の勝利という形になったゲームの結果が気に食わなかったということだろうか。
そうは言っても壬生先輩も俺もお互いに対して特別な関係──例えば恋人になるとか──を望んでいたわけではないし、生徒会長様とのことは云うなれば完全に事故だったのだから、理不尽な怒りを俺にぶつけられても困るというものだ。
それを言って通用するなら苦労しないんだけどな……。
俺は自然とため息が出そうになるのをなんとか堪えた。
「……何がどう気に食わなくて文句があるのか知りませんが、俺にはあなた方と話すことは何もありません」
キッパリそう言い切ると。
「なんだと!?壬生様はな、今回のことで生徒会も弓道部すらも辞めると仰ってるんだぞ!それなのにお前は無関係だと言い張るのかッ!!」
「え!?」
思いもよらないことを聞かされ、俺は酷く驚いた。
壬生先輩が何故そんな考えに至ったのかがさっぱりわからない。
──もしかしたら、本来なら一緒にお昼食べるはずだったのが壬生先輩だったから、あんなことになってしまったことを気に病んでいるのか……?
……だとしたら申し訳無さすぎる。
あれは元々俺のうっかりが原因の一旦であって、壬生先輩には何の非もない事なのだ。
「なんで、壬生先輩はそんな事……」
「壬生様に理由をお尋ねしても、『もう決めたことだ』と仰るばかりで何も答えてはくださらない。
もしかして朝比奈様と佐伯様が謹慎処分になったことと関係があるのかと思い、お二方の親衛隊のほうにも聞いてみたのだが、謹慎処分という結果は聞かされていても、我々同様詳細は何も聞かされていないらしい」
「謹慎処分!?」
知らない情報ばかりが飛び出し、俺は驚きのあまりつい大きな声を出してしまった。
佐伯はわかる。アイツのしたことは最悪だ。
でも朝比奈は、俺の意図を汲んで壬生先輩より先に動いてくれただけに過ぎない。
──もしかして、それが壬生先輩が生徒会も弓道部も辞めたいっていう原因か?
「我々は何故壬生様がそういった決断を下されたのかということが知りたいだけだ。──お前なら何か知ってるんじゃないのか?」
俺は当事者だけど、事が事だけに気軽に誰かに喋れるような内容じゃないし、色んな意味で公に出来ないことが多過ぎて学園側から箝口令が敷かれている可能性もあるかもしれない。
絶大な人気と権力を誇る生徒会役員の不祥事なんて、周りの反応を考えたら絶対に明るみにしないほうがいいもんな。
まあ、俺も『男にヤられそうになったところを助けてもらった』なんてことを知られるのも恥ずかしいので、内緒にしてもらったほうがありがたい。
それに、この学園の連中の親衛対象に対する狂信的ともいえる態度を見ていると、ホントのことを言ったところで信じてもらえないどころか、俺が悪者にされそうな気がするから、信頼出来る人間以外には何も情報を出さないのがベストな選択だ。
「すみません。俺からお答え出来ることは何もないです」
他にどう答えてみようもなく、俺が無難にそう返したところ。
周りを取り囲んでいた男達が一気に殺気立った。
「……あくまでもしらを切るつもりか!何があったか詳細はわからずとも、今回のことは全てお前が原因だということはわかってるのだぞ!!」
うーん。困った。
半分正解なだけに否定も出来ないのが悲しいところだ。
一度堰を切ったように溢れだした俺に対する批難の感情は治まらないらしく、皆口々に俺を罵るような言葉を繰り出してくる。
さて、どうするかな。このままじゃ昼休み終わっちゃうけど……。まあ、午後からも自習だからなんとかなるかな。
俺に対する批判を軽く聞き流しながら、そんな事を考えていると。
「今この場でお前を制裁してもいいんだぞ!!」
全く顔色を変えない俺の態度が気に食わなかったのか、遂には恫喝するような言葉が飛び出した。
面倒だけど殴られんのは御免だからやるしかねぇか……。
俺は五人全員をチラリと見ると、誰を倒して逃げるための経路を確保するか、ということを考えた。
──よし、決めた。リーダーにしよう。
頭になってるヤツを潰せば、他の連中が怯む可能性も高い。
とはいえ、俺から先に手を出すのはマズいから、一発くらい当てられた振りして軽くいなしとくかな。
俺はヤツらに動きを覚られないよう体勢を変えたりせずに、いつでも反撃できるよう感覚だけは研ぎ澄ませておいた。
最初で全てが決まる。そう覚悟したその時。
「待てッ!」
緊迫した空気を切り裂くように、制止の声が響き渡った。
1-Aの教室内の雰囲気は妙にピリピリしているものの、二階堂に言われたことが効いているのか、俺に対して何か仕掛けてくるヤツはおらず、さっき申請したばかりだったというのに既に机は新しいものに取り替えられていた。
一見、何事もなかったかのような感じになっているのが逆に違和感バリバリで、なんか笑えてくる。
まあ、さっきキャンキャン吠えていたチワワのような小鳥遊が俺を凄い目で睨み付けてくるので、さすがに無かったことになったとは思えなかったけどな。
それから表面上は何事もなく午前の授業を終え、昼休みになるとすぐに、俺はある目的のため教室を飛び出した。
まず向かったところは旧図書館。
俺が一昨日散々な目にあったところだ。
さすがの俺もそんなところで平気な顔して弁当を広げる気にはまだなれないので、昼食はその辺の適当な木陰で摂るつもりだが、その前にやらなければならないことがあり、仕方なくそこへ足を向けることにしたのだ。
とりあえずあの部屋の状況の確認と、佐伯と一緒に食べた弁当箱の回収をしないと。
昨日のうちにやっとけばよかったんだけど、なんだかんだで後回しになってしまったので、出来たらこの昼休みのうちにやっときたい。
その後、もう一ヵ所行かなきゃならない所がある為、俺は非常に急いでいた。
……急いでたんだけど。
旧図書館へと続く並木道に差し掛かったところで、突然誰かに呼び止められてしまう。
「お前が中里光希だな?」
聞き覚えのない声に足を止めると、まるで俺を取り囲むように周辺の木の陰から数人の生徒が姿を現した。
これって、もしかして待ち伏せってやつじゃ……。
人数は全部で五人。しかも全員俺よりひと回りデカい人間ばかりだ。
もしかして朝比奈か壱琉先輩辺りの親衛隊か?
いかにも鍛えてます、といった運動部系の身体つきの人間で構成されている親衛隊といえば、まず抱かれたいランキングとかっていうフザケた人気投票で上位になったというあの二人が思い浮かぶ。
でも、なんとなくこう、見るからに硬派って感じがあの二人のイメージとは違う気もしないでもない。
まあ、何はともあれ、これが本当に誰かの親衛隊だとすれば、碌な用事じゃないだろうということだけは容易に想像出来る。
明らかに睨み付けてくるヤツとかいるあたり、どう見ても穏やかに話をするって感じじゃなさそうだし。
体格差を考えると、力づくでこられるのはちょっとマズい。
最悪誰かひとりをブッ倒して、突破口を作るしかねぇか……。
俺は自分の中でそう算段をつけると、何も答えず最大級の警戒をした。
すると。
俺のすぐ前にいる男が俺の進路を塞ぐようにして立ちはだかった。たぶんこいつがリーダーだろう。
「……俺になんか用ッスか?」
「用事があるから待っていた。我々は壬生翔太様の親衛隊の者だ。中里光希。お前に聞きたいことがある」
え……!まさかの壬生先輩の親衛隊!?
壬生先輩が親衛隊持ちだということは知っていたが、構成している人間がこういうタイプの人達だとは思っていなかっただけにビックリだ。
かといって他にどういうタイプがピッタリかと聞かれても、孤高の侍というイメージの強い壬生先輩がちやほやされたり、誰かを侍らせたりしている姿は想像出来ない。
そんな俺の気持ちが表情に表れていたのか、そのリーダーらしき人俺の顔を見て忌々しげに口を開いた。
「我々壬生親衛隊は他の方の親衛隊とは違い、抱きたい抱かれたいなどといった浮わついた気持ちでお側にお仕えしているのではない。我々は壬生様のご意志を尊重し、煩わしい思いをされぬよう陰ながら御守りするのが仕事なのだ。……だから、無断で壬生様に近付いたお前を排除せず、壬生様が望まれるのならと思いこれまであえて黙認してきた。
──なのに、何故このような事になるのだッ!」
激昂したリーダーの怒りは全て俺に向けられている。
そもそもこのような事って何だ?
この言い方からするに、散々壬生先輩と仲良くしてたくせに生徒会長様の勝利という形になったゲームの結果が気に食わなかったということだろうか。
そうは言っても壬生先輩も俺もお互いに対して特別な関係──例えば恋人になるとか──を望んでいたわけではないし、生徒会長様とのことは云うなれば完全に事故だったのだから、理不尽な怒りを俺にぶつけられても困るというものだ。
それを言って通用するなら苦労しないんだけどな……。
俺は自然とため息が出そうになるのをなんとか堪えた。
「……何がどう気に食わなくて文句があるのか知りませんが、俺にはあなた方と話すことは何もありません」
キッパリそう言い切ると。
「なんだと!?壬生様はな、今回のことで生徒会も弓道部すらも辞めると仰ってるんだぞ!それなのにお前は無関係だと言い張るのかッ!!」
「え!?」
思いもよらないことを聞かされ、俺は酷く驚いた。
壬生先輩が何故そんな考えに至ったのかがさっぱりわからない。
──もしかしたら、本来なら一緒にお昼食べるはずだったのが壬生先輩だったから、あんなことになってしまったことを気に病んでいるのか……?
……だとしたら申し訳無さすぎる。
あれは元々俺のうっかりが原因の一旦であって、壬生先輩には何の非もない事なのだ。
「なんで、壬生先輩はそんな事……」
「壬生様に理由をお尋ねしても、『もう決めたことだ』と仰るばかりで何も答えてはくださらない。
もしかして朝比奈様と佐伯様が謹慎処分になったことと関係があるのかと思い、お二方の親衛隊のほうにも聞いてみたのだが、謹慎処分という結果は聞かされていても、我々同様詳細は何も聞かされていないらしい」
「謹慎処分!?」
知らない情報ばかりが飛び出し、俺は驚きのあまりつい大きな声を出してしまった。
佐伯はわかる。アイツのしたことは最悪だ。
でも朝比奈は、俺の意図を汲んで壬生先輩より先に動いてくれただけに過ぎない。
──もしかして、それが壬生先輩が生徒会も弓道部も辞めたいっていう原因か?
「我々は何故壬生様がそういった決断を下されたのかということが知りたいだけだ。──お前なら何か知ってるんじゃないのか?」
俺は当事者だけど、事が事だけに気軽に誰かに喋れるような内容じゃないし、色んな意味で公に出来ないことが多過ぎて学園側から箝口令が敷かれている可能性もあるかもしれない。
絶大な人気と権力を誇る生徒会役員の不祥事なんて、周りの反応を考えたら絶対に明るみにしないほうがいいもんな。
まあ、俺も『男にヤられそうになったところを助けてもらった』なんてことを知られるのも恥ずかしいので、内緒にしてもらったほうがありがたい。
それに、この学園の連中の親衛対象に対する狂信的ともいえる態度を見ていると、ホントのことを言ったところで信じてもらえないどころか、俺が悪者にされそうな気がするから、信頼出来る人間以外には何も情報を出さないのがベストな選択だ。
「すみません。俺からお答え出来ることは何もないです」
他にどう答えてみようもなく、俺が無難にそう返したところ。
周りを取り囲んでいた男達が一気に殺気立った。
「……あくまでもしらを切るつもりか!何があったか詳細はわからずとも、今回のことは全てお前が原因だということはわかってるのだぞ!!」
うーん。困った。
半分正解なだけに否定も出来ないのが悲しいところだ。
一度堰を切ったように溢れだした俺に対する批難の感情は治まらないらしく、皆口々に俺を罵るような言葉を繰り出してくる。
さて、どうするかな。このままじゃ昼休み終わっちゃうけど……。まあ、午後からも自習だからなんとかなるかな。
俺に対する批判を軽く聞き流しながら、そんな事を考えていると。
「今この場でお前を制裁してもいいんだぞ!!」
全く顔色を変えない俺の態度が気に食わなかったのか、遂には恫喝するような言葉が飛び出した。
面倒だけど殴られんのは御免だからやるしかねぇか……。
俺は五人全員をチラリと見ると、誰を倒して逃げるための経路を確保するか、ということを考えた。
──よし、決めた。リーダーにしよう。
頭になってるヤツを潰せば、他の連中が怯む可能性も高い。
とはいえ、俺から先に手を出すのはマズいから、一発くらい当てられた振りして軽くいなしとくかな。
俺はヤツらに動きを覚られないよう体勢を変えたりせずに、いつでも反撃できるよう感覚だけは研ぎ澄ませておいた。
最初で全てが決まる。そう覚悟したその時。
「待てッ!」
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