セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

59.警告されました!

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再び颯真が出ていった次の日。


昨日の疲れと寝不足でフラフラだった俺をわざわざ部屋まで訪ねてきたのは、颯真の親衛隊の隊長だと名乗る八神という先輩だった。

八神先輩はすっきりとした和風系の顔立ちで、系統的には朝比奈と似たような感じだが、朝比奈ほどの華やかさはなく、一見控え目な印象の人物だ。


……まあ、親衛隊長なんて厄介な連中の頭になってるくらいだから、確実に見た目どおりの中身じゃない。


現に俺が話した印象では、独自の価値観を他人にも押し付けてくる上に恩着せがましく、颯真のことに関しては自分は何でも知っているとばかりに優越感をチラつかせてくる感じで、おおよそ好感が持てそうにないものだった。


その八神先輩とやらが、何しに来たのかというと……。


一言で云えば『警告』ということになるんだろうなぁ。

まあ、要するに、これ以上颯真に近付くなってわざわざ俺に言いに来たワケだ。


八神の言葉をそのまま使うなら。


『我々神崎様親衛隊はあなたという存在を認めません。理事長の血縁者という立場を利用して神崎様と同室者になっただけでなく、図々しくも度々神崎様のお気持ちを煩わせたことは許しがたい』

『本来ならば制裁対象となって然るべきですが、神崎様は制裁という行為に対し、よい感情をお持ちではありません。なので今回は我々も神崎様のご意志に沿う形であなたへの制裁は行いませんが、これ以上神崎様の優しさに付け込むような真似をすれば容赦しません』

『我々親衛隊は神崎様のための存在です。そして親衛隊長の私は神崎様の全てを理解し、神崎様のために動く存在。あなたのように相手のことを考えず気持ちを押し付ける自分勝手な人間とは違うのですよ』


ということになる。


ハッキリ言って余計なお世話だし、俺と颯真の関係がなんかスゴく曲解されてることに腹が立つ。

何よりもムカつくのは、俺と颯真の問題に口出ししてきたことだが、こういう自分が一番正しいと思い込んでいる輩は下手に反論すると面倒なことになりかねないため、俺は黙って八神の言うことを聞き流し、適当にその場をやり過ごした。




そして、月曜日。


今度は朝からあり得ない状況に絶句することになった。


どうやらゲームの決着がついたことがすっかり校内に知れ渡っていたらしく、いつも以上に突き刺さるような視線を感じながら教室へと向かった。

皆遠巻きに見ているだけで特に何も言われたりしないので、俺が気にしなきゃ済む話だ。

俺は基本単独行動だから誰かに迷惑がかかるわけでもない。


同じクラスの二階堂と、初日に友達になった紘斗と楓には、最初に生徒会役員達に目を付けられた時に、人目に付きそうな場所や時間帯では行動を共にせず、なるべくひとりにして欲しいと言ってある。

元々女の子とは仲良くしてても、颯真以外の男からは敬遠されてたから、ハブられんのは慣れてるんだけど。


……けど、ちょっとコレはねぇわ。


一年A組の教室の廊下側の一番後ろにある俺の席では明らかに異変がおきていた。

机には寄せ書きよろしく、俺に対する悪口らしきものが書きなぐられている。
表面が白だからよく目立つ。

呆れて物が言えないって正にこういう事なんだろう。
やってること、小学生レベルだからな……。


この馬鹿馬鹿しい状況を前に脱力感から立ち尽くす俺を見て、周りの連中は何を勘違いしてるのかニヤニヤしている。実にくだらない。

しかし、稚拙な悪口の中に『淫乱』という文字があるのを見て、俺は思わず笑ってしまった。
今まで『ヤリチン』とはよく言われてきたが、『淫乱』呼ばわりされたのは初めてだ。

経験回数二回で『淫乱』だって云うんなら、普段佐伯や生徒会長様のしもの世話をしてるっていう親衛隊の連中はもれなく全員『淫乱』に当てはまるだろう。

全く以てアホな連中だよなー。
俺にダメージを与えるつもりでこういうことしたんだろうけど、残念だが俺はノーダメージ。

むしろ古典的な嫌がらせに内心超ウケた。

よく考えてみよう!
これ、俺の私物じゃなくて、学校の備品だからさ!

しかも明後日から試験が始まるのだが、その試験中は名簿順に着席することが決まっているのだ。

ということは、試験中ここに座るの俺じゃないし。

俺は特に気にしないけど、ここで試験受けるヤツは気分悪いかもな。
しかもそれが書いた本人だったらマヌケな話だ。

他に攻撃されそうな私物は全部寮に持ち帰ってるし、この学校では基本靴を履き替えるのは体育の時くらいなので、生徒玄関に下駄箱というものがない。
きっとそういうのがあったら内履きに画鋲とか、ゴミとか入れるんだろう。


机に書かれた稚拙な落書きを見ながら、心の中でこんな真似をしたヤツを小馬鹿にしていると。


「何ニヤニヤしてるんだよ。気持ち悪い。もしかしてショック過ぎて頭イカレちゃったの?」


俺の斜め前の席から明らかに俺を貶める目的と思われる甲高い声が聞こえてきた。

その言葉を聞いて、周りの連中は声をあげて笑っている。

俺に云わせりゃ、一般的に見てこの状況が楽しいと感じるそっちのほうが頭がイカレてるとしか思えないけどな。

相手にすんのも馬鹿らしいのであえて何も言わずにいると、発言した本人である小鳥遊たかなし玲音れおが憎々しげに俺を睨み付けてきた。

そういえばコイツ、生徒会長様のことが好きで親衛隊に入ってるんだっけ。
俺にはアイツの魅力はサッパリ理解出来ないけどなぁ。

普段も優しくないのにセックスの時ですら優しくない人間なんて、正直どこに魅力を感じればいいのかわからない。


俺は小鳥遊の視線を無視すると、ウンザリした気分で席に座った。


ところが。


「この身の程知らずがッ!何とか言ったらどうなんだよッ!!」


突然、小鳥遊に掴み掛かられたのだ。

予想外の展開に、教室内が一瞬にして静まり返る。

しかし、小柄で見るからに華奢な小鳥遊では、既に座っている俺の身体を動かすまでには至らなかった。

小鳥遊は悔しそうに顔を歪め、憎々しげに俺を見下ろしている。


その時。


「何やってんだ!」


たった今登校したらしい二階堂が教室内のただならぬ空気を感じ取り、即座に俺のほうに駆け寄ってきた。

小鳥遊は舌打ちしながら俺から手を離すと、全く悪びれた風もなく二階堂に向かって口を開く。


「コイツが思い上がってこれ以上身の程知らずな真似をしないよう警告してやっただけだけど?」

「……この机も警告だっていうのか?」


二階堂は俺の机の状態を見て眉を顰めた。


「さあ?そこまでは僕にもわからないけど、これが今皆が感じてる憤りの気持ちを代弁していることは間違いないと思うよ。ねぇ、そうでしょ?」


小鳥遊の問いかけに教室のあちこちで同意するような素振りが見られる。


うわー。数に物言わせて姑息なやり口を正当化しようとか、ホント最悪。

最早呆れ果てて何も言えない俺を他所に、二階堂は周囲に鋭い視線を飛ばした。


「ようするに、このクラスには面と向かって言いたいことを言えないからって学校の備品を私物化した挙げ句、破損させた人間がいるってことだな」


そんな大袈裟な、という声がどこかから聞こえたが、二階堂が言ったことは強ち間違ってはいない。

元々これは学校の備品。

それに勝手に落書きするなんて公私混同してるとしか思えないし、机としての機能は損なわれてなくても、この小学生レベルの落書きによって授業受けるための机としての価値はなくなったに等しいから、破損ということにもなるだろう。

二階堂の指摘に教室内では徐々に気不味い空気が流れ出す。


そんな中、二階堂は視線だけで教室の外に出るよう俺に合図を送ってきた。

もしかして、どういうことか説明しろってか……?

仕方なく重い腰をあげた途端、二階堂がやや乱暴に俺の腕を掴んでさっさと歩き出してしまった。

相当ご立腹らしい。


子供のように腕を引かれるというやや情けない姿で教室から出る寸前。

タイミング悪く、朝のホームルームにやってきた東條にバッタリ出くわしてしまった。

どうするつもりなのかと思い二階堂のほうを見ると、二階堂は東條に何か聞かれる前にすかさず先手を打っていた。


「不具合のある備品が見つかってこのままでは授業を受ける上で支障があるので、総務課に新しい備品を申請してきます」


それだけ告げると東條の返事も待たず、二階堂は再び俺の手を引いて、半ば無理矢理、俺を連れ出したのだった。
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