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本編
54.生徒会ライフ!7 Side 竜造寺清雅
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伊織が使った媚薬のせいで信じられないくらいに大胆に俺を挑発し、何度目かの絶頂後、気を失うように崩れ落ちた光希を見て、俺は複雑な気持ちさせられていた。
とりあえずこのままにしておく訳にもいかず、一糸纏わぬ姿の光希を抱き上げると、ソファーにそっと横たえ、少しでもその艶かしい肌が隠れるように、俺のシャツを掛けておく。
そこまでされても全く起きる気配もない光希の寝顔をみつめながら、俺は今更ながらに自分の所業を後悔していた。
意地悪したかったわけじゃない。出来れば優しく抱きしめて快感に翻弄される身体を慰めてやりたかった。
しかし、壬生先輩や朔人にはあんな可愛い顔で微笑みかけていたにも関わらず、俺に対してはいつもと変わらないような可愛げのない態度の上、あんな状態だったにも関わらず、頼る気はまるでないと云わんばかりに自慰行為まで始める始末。
挙げ句に『羞恥プレイ』が好みかと挑発された。
俺もそこまで言われてなんとなく引っ込みがつかなくなり、つい意地の悪い態度をとってしまったのだ。
その後も煽りに煽られ、結局優しくする余裕なんてなかった。
俺は床に膝を着き、改めて光希の整った顔を間近で眺める。
野暮ったい眼鏡と伸ばしっ放しで全く構っていないような黒髪が無くなりすっかり露になった光希の素顔は、黙っていればこの学園の誰よりも人目を引く容姿だった。
少し茶色味がかった金髪に、滑らかな白い肌。
今は閉じられてしまっているアーモンドアイは魅惑的な光を湛え、いつもは俺に向かって生意気な言葉しか吐いてこない唇は終始悩ましい吐息を漏らしていた。
身体は限界のはずなのになかなか素直になれないアイツにどうしても俺を求める言葉を言わせたくて、半ば無理矢理自分の欲望を口に出す事を強要した上、俺の名前を呼ばせてみた。
その時の光希は、それまでの大胆さからは想像もつかないほど恥ずかしそうにしており、俺はそんな光希を見て、今までにないほど気持ちが高ぶっていくのを感じたのだった。
その結果。
自分でも信じられないほど余裕が無くなり、かなりガッツいてしまったように思う。
行為の最中何度も深く重ねた唇は、最初に学食で無理矢理キスした時よりも遥かに甘く感じた。
俺はもう一度その唇の甘さを確かめたくて、眠ったままの光希に覆い被さるようにしてそっと重ねてみる。
もしかしたらこのキスで目を覚ますかもしれないという俺にしては少々ロマンチックな期待をしてみたのだが、残念ながら過ぎた快感に翻弄され疲れ果てたらしい光希は、身動ぎひとつしなかった。
「ねぇ、もうそろそろ入ってもいい?」
扉の向こうから突如声を掛けられ、オレは慌てて光希から離れると、そっと扉を開けた。
すると、廊下には先程ここへ駆け付けた風紀副委員長の橘 夏樹の姿があった。
どうやら朔人達への事情聴取はひととおり済んだらしい。
そういえば、光希に落ち着いたら連絡するよう言っていたな……。
連絡してこない光希を心配して、わざわざ戻ってきたのかもしれない。
俺は大きく扉を開けると、無言で中に入るよう促した。
橘は不機嫌そうな顔で中に入ると、ソファーに寝かされている光希をひと目見るなり、大袈裟とも思えるような盛大なため息を吐いた。
「もしかしなくても竜造寺って、本命には素直になれないタイプ?」
「……何の話だ?」
訳がわからず聞き返すと、すかさず答えの代わりに嫌味が返ってきた。
「いや、こっちの話。一向に光希クンから連絡来ないから迎えに来てみたんだけどさ、なかなか終わんないから一旦出直したんだー。竜造寺って、性格と一緒でセックスもねちっこいんだね。それに自分勝手」
「……立ち聞きしてんじゃねぇよ」
「こっちだって別に聞きたくなかったよ。言っとくけどさ、竜造寺をここに残したのは選択肢が他になかったからで、光希クンを抱いて欲しいなんて誰も頼んでないよ。むしろ何もしてないヤツが一番おいしいトコ持ってくなんて何かムカつくよね?」
睨み付けてくる橘に対し、俺は何も言えなかった。
確かに橘の言うとおり、壬生先輩や朔人のように伊織と対峙したわけじゃないので、見てるだけだったと揶揄されても仕方ない。
……光希を抱いたのは完全成り行きだ。
「ま、済んだことはしょうがないよね。当の本人も大して気にしてないみたいだから、他人がどうこう言えるようなことじゃないんだけどさ」
橘はソファーに横たわる光希に視線をやると、困ったような顔をした。
「とにかく。後は俺らに任せてくれない?
──はい。着替え。その格好じゃ戻れないでしょ」
確かに着ていたシャツは光希に貸していて上半身裸のままだし、ズボンは主に光希の精液で汚れてる状態なのでこのままじゃ自室に戻ろうにも戻れない。
だが、光希をコイツに任せるということに何となくモヤモヤするものを感じてしまう自分もいる。
ちょっと迷った末、俺は橘の気遣いを有り難く受け取ることにした。
その時だった。
「橘。話が済んだならさっさとしろ」
「東條……先生……」
扉の向こうから現れたもうひとりの人物に、俺はさすがに驚きを隠せない。
「……何故、ここに……?」
俺はおそらく事情を話したと思われる橘に対し、非難めいた視線を向けてしまった。
普通生徒間の揉め事は余程の事がない限り、生徒会と風紀委員会で解決することになっている。最終的な処分についての決定は教師や理事会の承認が必要となるのだが、こんな初期の段階で教師が出てくることはまずないのだ。
教師の力を借りることは則ち、実力不足と判断されることに等しい。
「俺は生徒会の顧問で、中里の担任だ。しかもソイツの保護者にくれぐれもよろしく頼むと言われてる身だからな」
東條先生はいかにも面倒だといった態度で中へ入って来ると、手に持っていたタオルケットを拡げて光希の身体をすっぽり包み込み、身体を密着させるようにしてそのまま抱き上げた。
その時。
光希の耳許に寄せられた東條先生の唇が声には出さずとも、『みつき』という形に動いたのを見て、妙に気持ちがざわめき立つ。
その上、光希を見つめる東條先生の表情が一瞬柔らかいものへと変わった気がして、俺は思わず自分の目を疑った。
「コイツは俺が連れていく。竜造寺は着替えたら自室に戻れ」
「ちょっと待って下さい!」
「……何だ?」
「そいつをどこに連れていくつもりですか?」
「気になるのか? お前はもうコイツとは無関係の人間だろう?」
「──どういう意味ですか?」
言われた意味が理解出来ずにいると、馬鹿にしたように鼻で嗤われた。
ここまでしといて無関係だと言われるのも気分が悪い。
ところが。
「ゲームは決着がついただろうが。勝者は竜造寺。お前だ」
思ってもいなかったこと言葉を告げられ、俺は絶句した。
「一応あんな形とはいえ、合意の上で中里を抱いたんだろ? それはお前らの云うところの勝利条件を満たしてるんじゃないのか?
──だとしたらもう役員補佐の話は無効になったということだから、コイツは生徒会とは無関係だろ」
東條先生の言うことはある意味尤もなだけに、返す言葉もみつからない。
光希とはもう無関係なのか……。
そう認識した途端に、俺の中に喪失感に似た妙な気持ちが芽生え始めた。
──どうやら俺は生徒会室で光希と一緒に過ごす時間が自分で思っていた以上に楽しかったらしい。
俺の言葉にめげないどころか、言い返してくる人間なんて、この学園では珍しい存在だったし、何だかんだ言っても意外と義理堅い性格らしく、仕事に手を抜くことなく、こちらの期待以上のものを返してくれる光希を好ましく思っていた。
部外者があの部屋にいて、純粋に仕事に集中できる環境だったのは初めてのことだっただけに、少しだけこんな日々も悪くないと思い始めていたところだったのだ。
東條に抱かれたまま眠り続ける光希の顔をみつめながら、俺はそんな自分の気持ちがどういう種類のものから派生していたものなのか今更ながらに考えていたのだが。
「中里には俺が責任持って話をしておく。お前は明日から当分の間の生徒会の業務をどうやって回していくかということでも考えておくんだな。 何だったら他のヤツを役員補佐に付けてもいいぞ」
東條先生は、俺の考えが纏まる前に一方的にそう告げると、さっさと光希を連れて部屋を出ていってしまった。
事情をよく飲み込めていない俺が、まだ部屋に残っていた橘に視線を移すと、面倒臭そうな態度を取りながらも捕捉説明してくれた。
「佐伯と朝比奈は謹慎処分。壬生先輩は今回の責任を取って、生徒会も弓道部も辞めると言ってる。光希クンは役員補佐じゃなくなったんだから、今のところ実質残ってる生徒会役員は桜庭先輩と竜造寺だけってこと」
「何だと!?」
思わぬ余波に声を荒げる。
すると、橘はあからさまに呆れたような表情をした。
「まあ、しょうがないよね。佐伯は未遂とはいえ、光希クンに強姦紛いのことしようとしたんだし、朝比奈は佐伯を殴っちゃってるんだから。壬生先輩は真面目な性格だから、責任感じてるんじゃない?光希クンを護れなかった上に、朝比奈が先輩の代わりに一発入れたことについてさ」
聞き捨てならない言葉に、俺はその真相を確かめずにはいられなかった。
「……朔人が壬生先輩を庇ったってのか?」
「まあ、結果的にはそういう事になるんじゃないかな。本人はムカついたからって言ってるけど、光希クンの一言で朝比奈が動いたようだったって壬生先輩が証言してるし。朝比奈にしては珍しく光希クンのことを特別に思ってるみたいだねー」
そう言いながら橘は俺にチラリと物言いたげな視線を向けてきたが、俺としてはその視線の意味よりも、朔人と壬生先輩の行動がどういう意図でなされたものかのほうが気にかかってしまい、あえて深くは追求しなかった。
橘の言うとおり、たぶん朔人は光希の事が好きなのかもしれない。
だとしたら、壬生先輩は……?
その時ふと、伊織が壬生先輩に言っていた言葉を思い出す。
『やっぱり壬生先輩は光希ちゃんのこと自分だけのものにしたいって思ってるってことですか?
──なんてったってゲームに参加しないって言ったくせに、こんなとこでコソコソ二人きりでランチとかしてちゃっかり抜け駆けしてるくらいだしー』
光希と壬生先輩はここで一緒に過ごすような仲だったらしい。
もしかしたら、二人は既に親密な関係だったのかもしれない。
その証拠に壬生先輩があんな風に激昂するところなんて初めて見た気がする。
俺はさりげなくテーブルの上に置かれたままになっているランチボックスに目を移す。
それはおそらく光希が壬生先輩のために用意したものだろうと思われる。
既に食べ終わっていることと、この状況を考えると、今日は壬生先輩の代わりに伊織が一緒にランチタイムを過ごしたのだろう。
素人の手料理なんて冗談じゃないと常々言っていた伊織が、いくら光希を抱くためとはいえ手作り弁当を食べたのだとすると、もしかして本人に自覚がなくても伊織は光希の事を好きになってしまった可能性も否めない。
そう考えた瞬間。何かがチクリと胸に突き刺さったような感覚を覚え、思わず眉を寄せた。
「まあ、とにかく。くだらないゲームとやらも終わったんだから、今後一切光希クンに近付かないでよね」
橘は戸惑う俺にそう念を押すと、振り返ることなく部屋を出ていく。
ひとり取り残された俺は、すぐにでも考えなければならないことが山積み状態だというのに、色んな感情が邪魔して上手く頭が働かず、立ち尽くしていた。
暫くそうしているうちに空調のせいですっかり身体が冷えきってしまっていた俺は、ようやく先程橘に渡された新品の制服に袖を通すことにした。
ズボンも履き替え、とりあえず自分自身に情事の痕跡が無くなったところで、気持ちを切り替える。
今は正直、光希のことより、生徒会の仕事をどうするかを考えることが先決だ。
そう自分に言い聞かせ、なんとか複雑な気持ちを抑え込むと、俺は足早に旧図書館を後にしたのだった。
とりあえずこのままにしておく訳にもいかず、一糸纏わぬ姿の光希を抱き上げると、ソファーにそっと横たえ、少しでもその艶かしい肌が隠れるように、俺のシャツを掛けておく。
そこまでされても全く起きる気配もない光希の寝顔をみつめながら、俺は今更ながらに自分の所業を後悔していた。
意地悪したかったわけじゃない。出来れば優しく抱きしめて快感に翻弄される身体を慰めてやりたかった。
しかし、壬生先輩や朔人にはあんな可愛い顔で微笑みかけていたにも関わらず、俺に対してはいつもと変わらないような可愛げのない態度の上、あんな状態だったにも関わらず、頼る気はまるでないと云わんばかりに自慰行為まで始める始末。
挙げ句に『羞恥プレイ』が好みかと挑発された。
俺もそこまで言われてなんとなく引っ込みがつかなくなり、つい意地の悪い態度をとってしまったのだ。
その後も煽りに煽られ、結局優しくする余裕なんてなかった。
俺は床に膝を着き、改めて光希の整った顔を間近で眺める。
野暮ったい眼鏡と伸ばしっ放しで全く構っていないような黒髪が無くなりすっかり露になった光希の素顔は、黙っていればこの学園の誰よりも人目を引く容姿だった。
少し茶色味がかった金髪に、滑らかな白い肌。
今は閉じられてしまっているアーモンドアイは魅惑的な光を湛え、いつもは俺に向かって生意気な言葉しか吐いてこない唇は終始悩ましい吐息を漏らしていた。
身体は限界のはずなのになかなか素直になれないアイツにどうしても俺を求める言葉を言わせたくて、半ば無理矢理自分の欲望を口に出す事を強要した上、俺の名前を呼ばせてみた。
その時の光希は、それまでの大胆さからは想像もつかないほど恥ずかしそうにしており、俺はそんな光希を見て、今までにないほど気持ちが高ぶっていくのを感じたのだった。
その結果。
自分でも信じられないほど余裕が無くなり、かなりガッツいてしまったように思う。
行為の最中何度も深く重ねた唇は、最初に学食で無理矢理キスした時よりも遥かに甘く感じた。
俺はもう一度その唇の甘さを確かめたくて、眠ったままの光希に覆い被さるようにしてそっと重ねてみる。
もしかしたらこのキスで目を覚ますかもしれないという俺にしては少々ロマンチックな期待をしてみたのだが、残念ながら過ぎた快感に翻弄され疲れ果てたらしい光希は、身動ぎひとつしなかった。
「ねぇ、もうそろそろ入ってもいい?」
扉の向こうから突如声を掛けられ、オレは慌てて光希から離れると、そっと扉を開けた。
すると、廊下には先程ここへ駆け付けた風紀副委員長の橘 夏樹の姿があった。
どうやら朔人達への事情聴取はひととおり済んだらしい。
そういえば、光希に落ち着いたら連絡するよう言っていたな……。
連絡してこない光希を心配して、わざわざ戻ってきたのかもしれない。
俺は大きく扉を開けると、無言で中に入るよう促した。
橘は不機嫌そうな顔で中に入ると、ソファーに寝かされている光希をひと目見るなり、大袈裟とも思えるような盛大なため息を吐いた。
「もしかしなくても竜造寺って、本命には素直になれないタイプ?」
「……何の話だ?」
訳がわからず聞き返すと、すかさず答えの代わりに嫌味が返ってきた。
「いや、こっちの話。一向に光希クンから連絡来ないから迎えに来てみたんだけどさ、なかなか終わんないから一旦出直したんだー。竜造寺って、性格と一緒でセックスもねちっこいんだね。それに自分勝手」
「……立ち聞きしてんじゃねぇよ」
「こっちだって別に聞きたくなかったよ。言っとくけどさ、竜造寺をここに残したのは選択肢が他になかったからで、光希クンを抱いて欲しいなんて誰も頼んでないよ。むしろ何もしてないヤツが一番おいしいトコ持ってくなんて何かムカつくよね?」
睨み付けてくる橘に対し、俺は何も言えなかった。
確かに橘の言うとおり、壬生先輩や朔人のように伊織と対峙したわけじゃないので、見てるだけだったと揶揄されても仕方ない。
……光希を抱いたのは完全成り行きだ。
「ま、済んだことはしょうがないよね。当の本人も大して気にしてないみたいだから、他人がどうこう言えるようなことじゃないんだけどさ」
橘はソファーに横たわる光希に視線をやると、困ったような顔をした。
「とにかく。後は俺らに任せてくれない?
──はい。着替え。その格好じゃ戻れないでしょ」
確かに着ていたシャツは光希に貸していて上半身裸のままだし、ズボンは主に光希の精液で汚れてる状態なのでこのままじゃ自室に戻ろうにも戻れない。
だが、光希をコイツに任せるということに何となくモヤモヤするものを感じてしまう自分もいる。
ちょっと迷った末、俺は橘の気遣いを有り難く受け取ることにした。
その時だった。
「橘。話が済んだならさっさとしろ」
「東條……先生……」
扉の向こうから現れたもうひとりの人物に、俺はさすがに驚きを隠せない。
「……何故、ここに……?」
俺はおそらく事情を話したと思われる橘に対し、非難めいた視線を向けてしまった。
普通生徒間の揉め事は余程の事がない限り、生徒会と風紀委員会で解決することになっている。最終的な処分についての決定は教師や理事会の承認が必要となるのだが、こんな初期の段階で教師が出てくることはまずないのだ。
教師の力を借りることは則ち、実力不足と判断されることに等しい。
「俺は生徒会の顧問で、中里の担任だ。しかもソイツの保護者にくれぐれもよろしく頼むと言われてる身だからな」
東條先生はいかにも面倒だといった態度で中へ入って来ると、手に持っていたタオルケットを拡げて光希の身体をすっぽり包み込み、身体を密着させるようにしてそのまま抱き上げた。
その時。
光希の耳許に寄せられた東條先生の唇が声には出さずとも、『みつき』という形に動いたのを見て、妙に気持ちがざわめき立つ。
その上、光希を見つめる東條先生の表情が一瞬柔らかいものへと変わった気がして、俺は思わず自分の目を疑った。
「コイツは俺が連れていく。竜造寺は着替えたら自室に戻れ」
「ちょっと待って下さい!」
「……何だ?」
「そいつをどこに連れていくつもりですか?」
「気になるのか? お前はもうコイツとは無関係の人間だろう?」
「──どういう意味ですか?」
言われた意味が理解出来ずにいると、馬鹿にしたように鼻で嗤われた。
ここまでしといて無関係だと言われるのも気分が悪い。
ところが。
「ゲームは決着がついただろうが。勝者は竜造寺。お前だ」
思ってもいなかったこと言葉を告げられ、俺は絶句した。
「一応あんな形とはいえ、合意の上で中里を抱いたんだろ? それはお前らの云うところの勝利条件を満たしてるんじゃないのか?
──だとしたらもう役員補佐の話は無効になったということだから、コイツは生徒会とは無関係だろ」
東條先生の言うことはある意味尤もなだけに、返す言葉もみつからない。
光希とはもう無関係なのか……。
そう認識した途端に、俺の中に喪失感に似た妙な気持ちが芽生え始めた。
──どうやら俺は生徒会室で光希と一緒に過ごす時間が自分で思っていた以上に楽しかったらしい。
俺の言葉にめげないどころか、言い返してくる人間なんて、この学園では珍しい存在だったし、何だかんだ言っても意外と義理堅い性格らしく、仕事に手を抜くことなく、こちらの期待以上のものを返してくれる光希を好ましく思っていた。
部外者があの部屋にいて、純粋に仕事に集中できる環境だったのは初めてのことだっただけに、少しだけこんな日々も悪くないと思い始めていたところだったのだ。
東條に抱かれたまま眠り続ける光希の顔をみつめながら、俺はそんな自分の気持ちがどういう種類のものから派生していたものなのか今更ながらに考えていたのだが。
「中里には俺が責任持って話をしておく。お前は明日から当分の間の生徒会の業務をどうやって回していくかということでも考えておくんだな。 何だったら他のヤツを役員補佐に付けてもいいぞ」
東條先生は、俺の考えが纏まる前に一方的にそう告げると、さっさと光希を連れて部屋を出ていってしまった。
事情をよく飲み込めていない俺が、まだ部屋に残っていた橘に視線を移すと、面倒臭そうな態度を取りながらも捕捉説明してくれた。
「佐伯と朝比奈は謹慎処分。壬生先輩は今回の責任を取って、生徒会も弓道部も辞めると言ってる。光希クンは役員補佐じゃなくなったんだから、今のところ実質残ってる生徒会役員は桜庭先輩と竜造寺だけってこと」
「何だと!?」
思わぬ余波に声を荒げる。
すると、橘はあからさまに呆れたような表情をした。
「まあ、しょうがないよね。佐伯は未遂とはいえ、光希クンに強姦紛いのことしようとしたんだし、朝比奈は佐伯を殴っちゃってるんだから。壬生先輩は真面目な性格だから、責任感じてるんじゃない?光希クンを護れなかった上に、朝比奈が先輩の代わりに一発入れたことについてさ」
聞き捨てならない言葉に、俺はその真相を確かめずにはいられなかった。
「……朔人が壬生先輩を庇ったってのか?」
「まあ、結果的にはそういう事になるんじゃないかな。本人はムカついたからって言ってるけど、光希クンの一言で朝比奈が動いたようだったって壬生先輩が証言してるし。朝比奈にしては珍しく光希クンのことを特別に思ってるみたいだねー」
そう言いながら橘は俺にチラリと物言いたげな視線を向けてきたが、俺としてはその視線の意味よりも、朔人と壬生先輩の行動がどういう意図でなされたものかのほうが気にかかってしまい、あえて深くは追求しなかった。
橘の言うとおり、たぶん朔人は光希の事が好きなのかもしれない。
だとしたら、壬生先輩は……?
その時ふと、伊織が壬生先輩に言っていた言葉を思い出す。
『やっぱり壬生先輩は光希ちゃんのこと自分だけのものにしたいって思ってるってことですか?
──なんてったってゲームに参加しないって言ったくせに、こんなとこでコソコソ二人きりでランチとかしてちゃっかり抜け駆けしてるくらいだしー』
光希と壬生先輩はここで一緒に過ごすような仲だったらしい。
もしかしたら、二人は既に親密な関係だったのかもしれない。
その証拠に壬生先輩があんな風に激昂するところなんて初めて見た気がする。
俺はさりげなくテーブルの上に置かれたままになっているランチボックスに目を移す。
それはおそらく光希が壬生先輩のために用意したものだろうと思われる。
既に食べ終わっていることと、この状況を考えると、今日は壬生先輩の代わりに伊織が一緒にランチタイムを過ごしたのだろう。
素人の手料理なんて冗談じゃないと常々言っていた伊織が、いくら光希を抱くためとはいえ手作り弁当を食べたのだとすると、もしかして本人に自覚がなくても伊織は光希の事を好きになってしまった可能性も否めない。
そう考えた瞬間。何かがチクリと胸に突き刺さったような感覚を覚え、思わず眉を寄せた。
「まあ、とにかく。くだらないゲームとやらも終わったんだから、今後一切光希クンに近付かないでよね」
橘は戸惑う俺にそう念を押すと、振り返ることなく部屋を出ていく。
ひとり取り残された俺は、すぐにでも考えなければならないことが山積み状態だというのに、色んな感情が邪魔して上手く頭が働かず、立ち尽くしていた。
暫くそうしているうちに空調のせいですっかり身体が冷えきってしまっていた俺は、ようやく先程橘に渡された新品の制服に袖を通すことにした。
ズボンも履き替え、とりあえず自分自身に情事の痕跡が無くなったところで、気持ちを切り替える。
今は正直、光希のことより、生徒会の仕事をどうするかを考えることが先決だ。
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