セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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16.連行されました!

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真っ昼間の学食で、皆の憧れの生徒会長サマから暴力と変わらないような不本意なキスを受けた俺は、反撃しようと拳に力を入れたところで、その気配を察知したらしい会長サマに突き飛ばされるようにして身体を解放された。

俺はバランスを崩しながらも、意地でも床に転がるような不様な真似だけにはならないよう必死に堪えて体勢を立て直す。

そんな俺の様子を元凶である会長サマは薄ら笑いを浮かべながら見下ろしていた。


──実に気分が悪い。


挙げ句の果てに会長サマの中でどんな脳内会議が行われたのか甚だ疑問だが、突然、


「……気に入った。オマエを俺のものにする」


と、迷惑でしかない自分勝手宣言を衆人環視の中でしてくれた。

途端に悲鳴なのか雄叫びなのかわからない声が学食内のあちこちから聞こえてくる。


俺は会長サマの言動と、それを増長させている原因であろう周りの反応があまりに不愉快で、思い切り顔をしかめてしまった。

しかし当の会長サマは、俺がそれを拒否するとは露ほどにも思っていないのが丸わかりな余裕ぶった態度を崩そうとしない。

さすがに我慢の限界を迎えた俺は、反撃に出ようと心に決めた。


ところが。


「えぇ~!?なんでみっきぃが清ちゃんのなのぉ?!勝手に決めないでよぉ!」

「そうですよ。光希と私に会ったのは私なんですから。話をするのなら順番守ってくださいね」

「え~。順番関係ないっしょ。でも壱琉センパイの意見には賛成。光希ちゃんは俺に抱かれる運命なんだよね~」


口々に好き勝手なことをほざき始めた役員達に、俺は一気に毒気を抜かれてしまった。


話の内容がくだらなすぎて相手をする気にもなれなくなった俺に、注文したオムライスがちょうど良いタイミングで運ばれて来る。

俺はそれを天の助けだと理解し、こんな厄介な連中のことは気にせず、食べたらすぐに教室に戻ろうと心に決めた。


「いただきます」


そう言ってから、ふわふわトロトロのオムライスに手を付ける。

適当に決めたわりには大当たりだったことが嬉しくなり、周りを気にすることなくどんどん食べ進めていった。


そんな俺の態度を見た周りの連中は当然のように、「失礼だぞ!」「謝罪しろ!」「身の程知らずが!」「ふざけんな!」など、色んな言葉を浴びせてくる。

それでも図太く食事を続ける俺に、二階堂と楓と絋斗が微妙な表情をしているのがわかったが、あえて気付かない振りをした。


俺はこんな戯れ言は気にしない。

俺から言わせれば、この生徒会役員やそれをちやほやしている周りの人間のほうがよほど失礼だし、ふざけてる。

俺は概ね(朝比奈に一発かましてるから完全とは言えないのが悲しいが)被害者なわけで、なんで俺が謝らなければならないのか。

これはどう考えても、パワハラにセクハラにモラハラというハラスメント行為のオンパレードだ。

将来が約束された身分だかなんだか知らないが、こんな社長が経営するような会社じゃ先が見えてるというものだ。

人気、実力があって、家柄も良い人間なら、それに見合う品位ある行動をするべきであって、間違っても初対面の人間に、社会に出たら犯罪レベルのことをしてくるべきではない。

上に立つ人間が何をしても許されるなんて考え方、俺は認められない。


おそらく言っても理解してもらえそうにもないと思うので、そういう人間とは関わりあいにならないのが一番だ。


「……お前、俺たちにここまで言われて嬉しくないのか?」


無視を決め込む俺に会長サマが的外れな言葉を投げ掛けてくる。


──は?何言ってんだ?コイツ。 馬鹿じゃね?


俺は食べる手を止めて、思わず会長サマを凝視してしまった。

当の会長サマは理解できないといった表情で俺をみている。

こんなことをされてどうして嬉しいと思えるのか、逆に教えてもらいたい。


俺は自分の常識が全く通用しない相手に対して、どう対処すればいいのかわからずに途方にくれてしまった。

とりあえず、何か言わなければ収まりがつかないと思い、かなり感じが悪い言葉の選択なのはわかっていて、あえてこの言葉を口にした。


「……べつに」


この一言でまた周りからなにか罵声を浴びせられることを覚悟した俺だったが、意外にも想像したような事態にはならず、逆に不自然ほどに学食内が静まりかえってしまった。


不思議に思い、役員達のほうを見ると、会長サマ以外の三人が俯き加減で肩を震わせている。

ただ一人会長サマだけは、ものすごい勢いで俺を睨みつけていた。


──ヤバい。これって怒り心頭ってやつ!?


やり取りを見ていた周りも俺と同じ事を思ったのか、妙に張りつめた空気が学食内に漂い始めたその時。


「あははっ!みっきぃっておもしろいねぇ!!」

「フフッ……光希、やっぱりあなたは面白い人ですね」

「……光希ちゃん最高!!マジ、ウケる!!」


俺たちの想像とは全く違った反応をみせた壱琉センパイ達に、一瞬にしてホッとしたような空気が拡がる。
しかし、残念ながら会長サマの表情が和らぐ様子はない。


そんな会長サマに朝比奈が堪えきれない笑いを滲ませながらも、怯むことなく話しかけた。


「清雅。ここは一旦退散しましょう。私たちと違って一般生徒の昼休みは有限です。そろそろ終わりにしないと、皆の迷惑になりますよ」


今更だろ?とは思ったが、俺としては一刻も早くここを去ってもらいたいだけなので、あえて何も言わないでおく。


──ああ、やっと静かに食事ができる。


そう思ったのも束の間、すぐに新たな人物が現れ、再び場がざわついた。


「朝比奈の言うとおりだ。自分達が迷惑な存在だとわかっているならさっさと上に行け。これ以上騒ぎをおこして俺たちの手を煩わせるな」


声のした方をみてみると、これまた結構なイケメンが不自然に割れた人垣の間からこちらに向かって歩み寄ってくる。

眉間に深く刻まれた縦皺は、会長サマ以上に機嫌が悪そうだ。


「チッ」


現れた人物は会長サマにとってよほど嫌な相手なのか、より一層険しい表情で舌打ちしており。


「げ、風紀。ちょ~厄介!」


そう呟いた壱琉センパイは本当に嫌そうな顔をしている。


風紀委員は生徒会と同じく、この学園内ですごい権力をもっている集団だと、さっき二階堂が説明してくれた。

生徒主体で学校運営が行われているこの学園では、国の仕組みで例えるなら生徒会が政府で、風紀委員会は警察の役割を担っているらしい。

その権限は時には生徒会以上になることもあるそうだ。

──そしてこの二つの組織は非常に仲が悪いらしい。


壱琉センパイが嫌そうな顔をしたのはそういうこともあってのことだろう。

風紀委員の登場で朝比奈と佐伯からも笑顔が消えていた。


「清雅。行きましょう。相手にするだけ時間の無駄です」


朝比奈が無表情のまま、今度は風紀委員と睨み合いを始めた会長サマの肩を叩いてから先に歩き出す。


「……ああ」


そう返事をした会長サマは最後に俺をチラリと見ると、さっさと自分達の所定の位置である二階席へと行ってしまった。


「怖い人が睨んでるから僕も行くね!」


壱琉センパイは俺に向かってそう言うと、元気に走り去っていった。

ところが佐伯だけは、まだこの場に残って何故か真顔で俺をじっと見ている。

何か企んでいそうなその表情に、背筋が寒くなった気がした俺は、早く立ち去って欲しい一心で思わず声をかけてしまった。


「……早く行ったほうがいいんじゃないっすか?」


俺の言葉に我に返ったらしい佐伯は、また軟派な笑みを浮かべると、ずっと俺たちのやり取りを見ていたギャラリーに向かって軽くウィンクしながら言葉を発した。


「みんなお騒がせしてゴメンね~!」


またしても黄色い声があちこちからあがる。

風紀委員はその様子に顔をしかめると、今度は佐伯に厳しい言葉を投げ掛けた。


「佐伯。男のクセにヘラヘラしてんじゃねぇぞ。 さっさとお前も上に行け!シメられてぇのか?」


注意を受けた佐伯はウンザリしたような表情で肩を竦めると。


「はい、はい。わかってますよ。──じゃあまたね。光希ちゃん」


全くわかっていなそうな軽い口調でそう言い残し、俺にヒラヒラと手を振りながら軽快な足取りで去っていった。


周りに集まった生徒たちは、滅多にお近づきになれない生徒会役員達を間近で見れた興奮からか、すっかり浮き足立っているようで、なかなかバラけようとせずに固まってキャイキャイはしゃいでいる。

風紀委員はそんな雰囲気を一掃するかのように、残っていた生徒達を睨み付けると、そのまま一喝した。


「お前らもいつまでも溜まってんじゃねぇ!さっさと散れ!」


その一言でざわざわしていたギャラリーが一気に蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


やっと静かになった学食で、俺は途中になっていた食事を再開する。

少し冷めてしまったが、美味しさが損なわれる程ではなく安心した。


ところが。


「おい、お前。今日来たっていう転校生だな。俺と一緒に来てもらおうか」


風紀委員の鋭い視線が俺をしっかり捉える。


「は?俺まだ食べてる最中なんですけど……」


やっとゆっくり食事が出来ると思っていただけに、少し迷惑そうな顔で風紀委員を見てしまった。

途端にイケメン風紀委員の端正な顔が不愉快そうに歪む。


「あ?テメェに拒否権なんてねぇんだよ。つべこべ言わずにさっさと来い!」


凄まじい目力に圧倒された俺は、せっかくの食事を諦めて、黙ってドナドナされるしかない事を覚った。

それでも最後の悪足掻きだけはさせて欲しい。


「それって俺に拒否権は?」

「ない」


即答した風紀委員は俺の腕を掴んで立ち上がらせると、そのまま俺を引きずる勢いで歩き出す。

思わず助けを求めるように二階堂を見るが、口パクで「諦めろ」と言われてしまった。

すかさず楓と絋斗を見ると、苦笑いしながら小さく手を振っている。


俺はガックリ項垂れながら、風紀委員に連行されていったのだった。

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