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40.リスタート⑤(昴流視点)
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交通事故とか部活中のケガとか。
ある程度深刻な状況を想像していたつもりだけど、正直こんな事だとは思いもよらなかった。
三階の窓から飛び降りなきゃならないほどの身の危険が、一体何だったのかなんてことは想像もできない。
あり得ない事だと思いたい話。
でも瑠衣の身に実際に起こってしまった話。
どれほど瑠衣が心身共に傷付いた結果、今みたいな誰とも関わることをしない瑠衣になったのか。
──考えるだけで胸が苦しい。
しかもその原因となったものがよりにもよって『賭け』だなんて、自分のしたことが最悪過ぎて嫌になる。
ただ瑠衣の瞳にもう一度俺を映してもらいたいって思うだけで、瑠衣の事情なんて深くは考えていなかった上に、あれだけハッキリ拒絶されても、諦めなければもしかしたら瑠衣に振り向いてもらえる可能性もあるかもしれないなんて思ってた自分は、随分と自分勝手で自信過剰で楽天的な人間なんだと今更ながらに自覚させられた。
俺が後悔と自己嫌悪で何も言えずにいると、電話の向こう側で梅原が軽く息を吐いたのがわかった。そして何とも言い難い微妙な間の後、言葉を続ける。
『瑠衣はすぐに救急車で病院に運ばれて、それから二度と学校に来ることはありませんでした』
「そんなに酷いケガだったのか?」
『……わかりません。緊急手術をするって話は聞いたんですけど、その後のことは誰も知らなくて……。本人に連絡してもスマホが解約されてたみたいで繋がらないし、自宅のほうにも連絡してみたんですけど、別の場所で療養することになったから家には戻らないって言われて……。
──でもあんな高さから飛び降りたんです。無傷でいられるわけがない』
「手術ってことは入院したんだろ? 別の場所って?」
『瑠衣がどこの病院に運ばれたのか教えてもらえなかったんです。そうこうしてる内に転院したらしいっていう噂を聞いて。お母さんの実家が県外にあるって聞いたことあったんで、たぶんそっちのほうかなって勝手に思ってたんですけど。……こっちにいると気が休まらないだろうから』
「どういうこと?」
『……実は、瑠衣のお父さんは結構有名な企業の社長さんなんです。その息子が学校で大ケガ、それもイジメが原因かもしれないってことで変に注目されてしまって……。いくら口止めされてても、無責任に噂する人間はどこにでもいますから。だから瑠衣のお父さんが瑠衣を静かに療養させるためにお母さんの実家のほうに行かせたんだと思ってました』
「じゃあ瑠衣は今、自分の生まれ育った家じゃなくてお母さんの実家で暮らしてるってこと?」
『……いえ。違うと思います。瑠衣のお母さんの実家って東北のほうだって聞いたことあるので。だから先月偶然部活の遠征先の駅で瑠衣を見かけて驚いて……。まさかこっちにいると思わなかったから。
その時は俺、反対側のホームにいたんで声はかけられなかったんですけど』
「こっちに親戚でもいるのかな……?」
『そこまではわかりませんけど、もしかしたらひとり暮らししてるのかな、って。瑠衣の親なら住む場所くらい用意しそうな気がするんで』
なるほど。そうかもな。
一緒に過ごした一ヶ月。瑠衣はいつもお昼にコンビニで買ったものを食べていた。
ひとり暮らしだったのなら納得出来る。
俺は何も知らなかったんだな……。
一緒にいられるだけで浮かれて満足してた。
瑠衣がひとり暮らしかもしれないってことも、地元がこっちじゃないことも、実は社長の息子だってことも。今日梅原から聞いた瑠衣に関する何もかも、知らないことだらけだったのに。
何よりも瑠衣にそんな大変な目にあっていた過去があったなんて、想像すらしていなかった。
「手術するほどのケガだったら結構重症ってことだろ? 今の瑠衣しか知らないから、そんな事があったなんて信じられないな……」
『そう思えるほど、瑠衣の身体は回復してるってことですよね……。元気そうでホントに良かった……』
少し震えた声。電話の向こう側の梅原は、泣いてるような気がする。
こんなに心配してくれる友達がいるのに、なんで瑠衣は全てを捨ててひとりでいようとするんだろう……。
なんとなくだけど、さっきちょっと話に出た、瑠衣に関する『噂』っていうのが関係がある気がしてならない。
たぶん梅原がそこに詳しく触れなかったのは、連絡先を交換する時に言ってた『言えないこと』に含まれる話だったからだろう。
思い切って聞いてみようかとも思ったが、言えないことがあってもいいと言った手前問い質すのは躊躇われ、俺は少し悩んだ結果、もうひとつの気になっていたことのほうを尋ねてみることにした。
「そう言えば、そもそも何で俺らが瑠衣と同じ学校だってわかったわけ?」
瑠衣がどこにいるか知らなかった梅原が何で俺達に声をかけてきたのか、今更ながらに疑問に思ったのだ。
『たまたま知り合いが瑠衣のお姉さんの連絡先を知ってて、ダメもとで聞いてもらったんです。そしたら今は隣りの県の鳴神西高に行ってるって教えてもらえて……。そんな時に、バスケ部に鳴神西高の人が来るって言ってるのを聞いて、もしかしたら知ってるかもと思って声を掛けてみたんですけど』
「なるほどね。声掛けてくれて良かったよ。俺も瑠衣の事知りたいって思ってたから」
最初声を掛けられた時は色んな気持ちが湧いてきて複雑だったけど、梅原が声をかけてくれなかったら、俺は瑠衣のことを何も知らないまま、ただ独りよがりな想いを向け続けていたに違いない。
再び訪れた沈黙。
そして。
『……あの、こっちから声を掛けておいて今更なんですけど、高崎君と瑠衣ってどういう関係なんですか?』
躊躇いがちにそう聞かれ、俺は一瞬に言葉に迷った。
俺達の間にあったことを知ったら、梅原は俺に瑠衣のことを話したことを後悔するかもしれない。
でも。
瑠衣のことを心配している友達に下手な言い訳や嘘を言いたくなくて、俺は瑠衣との関係を正直に答えることにした。
ある程度深刻な状況を想像していたつもりだけど、正直こんな事だとは思いもよらなかった。
三階の窓から飛び降りなきゃならないほどの身の危険が、一体何だったのかなんてことは想像もできない。
あり得ない事だと思いたい話。
でも瑠衣の身に実際に起こってしまった話。
どれほど瑠衣が心身共に傷付いた結果、今みたいな誰とも関わることをしない瑠衣になったのか。
──考えるだけで胸が苦しい。
しかもその原因となったものがよりにもよって『賭け』だなんて、自分のしたことが最悪過ぎて嫌になる。
ただ瑠衣の瞳にもう一度俺を映してもらいたいって思うだけで、瑠衣の事情なんて深くは考えていなかった上に、あれだけハッキリ拒絶されても、諦めなければもしかしたら瑠衣に振り向いてもらえる可能性もあるかもしれないなんて思ってた自分は、随分と自分勝手で自信過剰で楽天的な人間なんだと今更ながらに自覚させられた。
俺が後悔と自己嫌悪で何も言えずにいると、電話の向こう側で梅原が軽く息を吐いたのがわかった。そして何とも言い難い微妙な間の後、言葉を続ける。
『瑠衣はすぐに救急車で病院に運ばれて、それから二度と学校に来ることはありませんでした』
「そんなに酷いケガだったのか?」
『……わかりません。緊急手術をするって話は聞いたんですけど、その後のことは誰も知らなくて……。本人に連絡してもスマホが解約されてたみたいで繋がらないし、自宅のほうにも連絡してみたんですけど、別の場所で療養することになったから家には戻らないって言われて……。
──でもあんな高さから飛び降りたんです。無傷でいられるわけがない』
「手術ってことは入院したんだろ? 別の場所って?」
『瑠衣がどこの病院に運ばれたのか教えてもらえなかったんです。そうこうしてる内に転院したらしいっていう噂を聞いて。お母さんの実家が県外にあるって聞いたことあったんで、たぶんそっちのほうかなって勝手に思ってたんですけど。……こっちにいると気が休まらないだろうから』
「どういうこと?」
『……実は、瑠衣のお父さんは結構有名な企業の社長さんなんです。その息子が学校で大ケガ、それもイジメが原因かもしれないってことで変に注目されてしまって……。いくら口止めされてても、無責任に噂する人間はどこにでもいますから。だから瑠衣のお父さんが瑠衣を静かに療養させるためにお母さんの実家のほうに行かせたんだと思ってました』
「じゃあ瑠衣は今、自分の生まれ育った家じゃなくてお母さんの実家で暮らしてるってこと?」
『……いえ。違うと思います。瑠衣のお母さんの実家って東北のほうだって聞いたことあるので。だから先月偶然部活の遠征先の駅で瑠衣を見かけて驚いて……。まさかこっちにいると思わなかったから。
その時は俺、反対側のホームにいたんで声はかけられなかったんですけど』
「こっちに親戚でもいるのかな……?」
『そこまではわかりませんけど、もしかしたらひとり暮らししてるのかな、って。瑠衣の親なら住む場所くらい用意しそうな気がするんで』
なるほど。そうかもな。
一緒に過ごした一ヶ月。瑠衣はいつもお昼にコンビニで買ったものを食べていた。
ひとり暮らしだったのなら納得出来る。
俺は何も知らなかったんだな……。
一緒にいられるだけで浮かれて満足してた。
瑠衣がひとり暮らしかもしれないってことも、地元がこっちじゃないことも、実は社長の息子だってことも。今日梅原から聞いた瑠衣に関する何もかも、知らないことだらけだったのに。
何よりも瑠衣にそんな大変な目にあっていた過去があったなんて、想像すらしていなかった。
「手術するほどのケガだったら結構重症ってことだろ? 今の瑠衣しか知らないから、そんな事があったなんて信じられないな……」
『そう思えるほど、瑠衣の身体は回復してるってことですよね……。元気そうでホントに良かった……』
少し震えた声。電話の向こう側の梅原は、泣いてるような気がする。
こんなに心配してくれる友達がいるのに、なんで瑠衣は全てを捨ててひとりでいようとするんだろう……。
なんとなくだけど、さっきちょっと話に出た、瑠衣に関する『噂』っていうのが関係がある気がしてならない。
たぶん梅原がそこに詳しく触れなかったのは、連絡先を交換する時に言ってた『言えないこと』に含まれる話だったからだろう。
思い切って聞いてみようかとも思ったが、言えないことがあってもいいと言った手前問い質すのは躊躇われ、俺は少し悩んだ結果、もうひとつの気になっていたことのほうを尋ねてみることにした。
「そう言えば、そもそも何で俺らが瑠衣と同じ学校だってわかったわけ?」
瑠衣がどこにいるか知らなかった梅原が何で俺達に声をかけてきたのか、今更ながらに疑問に思ったのだ。
『たまたま知り合いが瑠衣のお姉さんの連絡先を知ってて、ダメもとで聞いてもらったんです。そしたら今は隣りの県の鳴神西高に行ってるって教えてもらえて……。そんな時に、バスケ部に鳴神西高の人が来るって言ってるのを聞いて、もしかしたら知ってるかもと思って声を掛けてみたんですけど』
「なるほどね。声掛けてくれて良かったよ。俺も瑠衣の事知りたいって思ってたから」
最初声を掛けられた時は色んな気持ちが湧いてきて複雑だったけど、梅原が声をかけてくれなかったら、俺は瑠衣のことを何も知らないまま、ただ独りよがりな想いを向け続けていたに違いない。
再び訪れた沈黙。
そして。
『……あの、こっちから声を掛けておいて今更なんですけど、高崎君と瑠衣ってどういう関係なんですか?』
躊躇いがちにそう聞かれ、俺は一瞬に言葉に迷った。
俺達の間にあったことを知ったら、梅原は俺に瑠衣のことを話したことを後悔するかもしれない。
でも。
瑠衣のことを心配している友達に下手な言い訳や嘘を言いたくなくて、俺は瑠衣との関係を正直に答えることにした。
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