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39.リスタート④(昴流視点)
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暫く固まった後、辛そうに表情を歪めた梅原は、何度も口を開きかけて閉じるということを繰り返した。
──言いたいけど言えない。そんな感じ。
一体どれほどのことが起こったのかとこちらが不安になるほどの悩み様に、俺の不安は膨らんでいく。
暫く悩んだ結果、自分の中で結論を出したらしい梅原は躊躇いがちに口を開いた。
「……ちょっと複雑な事情とかもあって、全部は話せないんですけど……。……それでもいいなら」
「勿論、それでいいよ。話せる範囲で構わない」
少しでも事情を知れるなら、俺に否やはない。
「……じゃあ、連絡先交換してもらってもいいですか? ここじゃちょっと話しづらいんで」
梅原は即答した俺に苦笑いした後、辺りを探るように視線を動かした。
確かに言いづらい事情があるんならこんなとこで立ち話をしてうっかり誰かに聞かれるよりも、個人的に連絡をとったほうが安心だ。
俺は上着のポケットからスマホを取り出すと、メッセージアプリを開き、その場ですぐに連絡先の交換を行なった。
◇◆◇◆
《高崎です。今家に戻ってきたので、いつでも大丈夫です》
瑠衣のことが知りたくて気が急いていた俺は、家に帰ってからすぐに梅原にメッセージを送った。
すると梅原のほうも俺からの連絡を待っていたらしく、すぐに着信音が鳴った。
俺はいつになく緊張しながら通話ボタンをタップする。
「はい、高崎です」
『あ、俺梅原です。今日は突然声かけたりとかしてすみませんでした。もしかして瑠衣のことを知ってるかもって思ったら、居ても立っても居られなくて』
「全然気にしてないからそっちも気にしなくていいよ。むしろ声掛けてくれて良かった。こっちこそ、言いにくい話を聞きたがったりしてゴメン」
『いえ、俺も瑠衣がひとりでいるって聞いたら、やっぱり気になるんで……』
そこまで言ったところで、梅原は何か考え込むように黙り込んでしまった。
俺のほうから先に喋っていいのかちょっと迷いながらも、まずは気になっていたことを質問する。
「中学の時の瑠衣ってどんな感じだった?」
『……クラスの中心に立つようなタイプではなかったけど、目立ってました。学校ではそこら辺の女子よりカワイイって言われたりとかして、一部の女子から反感をかったり、熱狂的に憧れられたり。いい意味でも悪い意味でも目立つ存在ではありました。でも男気があって性格もさっぱりしてるから男友達は多いほうだったと思います。
確かに見た目は可愛い系だけど、性格は全く以て普通の男でした。女の子みたいな自分の顔があんまり好きじゃなかったみたいで、顔のことで何か言われる度にプリプリ怒ってたりしてましたし。それで周りにいた俺らが『ホントの事だからしょうがない』って言って慰めにもならないことを言って、瑠衣が『嬉しくねぇ!』って言ってみんなで笑うっていうことまでが定番のやり取りだったりして』
「そんな瑠衣は想像出来ないな……」
あまりにも今の瑠衣と掛け離れた姿に、思わずポツリと呟くと。
『俺も瑠衣がいつもひとりでいるっていうのが信じられません。あんまり自分から喋るほうじゃなかったけど、いつも誰かしらと一緒にいて、ひとりでいるっていう印象はなかったので』
梅原は心なしか淋しそうな声でそう言った。
その言い方に引っ掛かるものを感じた俺は、今日青陽学園で梅原と話していた時にすぐに頭から抜け落ちてしまった違和感のことを思い出す。
梅原と瑠衣は小、中と同じ学校で部活も一緒。さっきの口ぶりじゃかなり仲が良かったことが窺える。
──なのに梅原が語る瑠衣は過去のものばかり。
いくら高校が離れたっていっても、今の状態もわからないほど疎遠になるものか?
それに、瑠衣のことを知っているかどうかもわからない俺達に、同じ高校だからって理由だけで声をかけてきたことにも違和感を感じる。
疎遠になったのが、さっき言っていたケガのせいだとしても、瑠衣の今の様子を知ってショックを受けていた事といい、俺達に声をかけてきたことといい、何やら別の理由があるような気がしてたまらない。
──それも深刻な。
「中学の時の瑠衣の事はわかった。じゃあ、瑠衣はいつからあんな感じになったんだ?」
『すみません。俺にはわかりません。俺が最後に瑠衣に会ったのは中学三年の冬休み前なんで」
随分と中途半端な時期。たぶんこの時に瑠衣の身に何かが起こったってことだろう。
「瑠衣がケガしたのはいつ?」
『……同じ日です』
「何があったか聞いてもいい?」
「…………」
少しの沈黙の後。梅原は意を決したように話し出した。
『あの時、瑠衣に妙な噂が流れてて……、その真相を確かめようとした馬鹿な連中が瑠衣にしつこく絡んでたんです。……それが段々エスカレートしていって、誰が一番に瑠衣の秘密を暴けるかっていう賭けを始めて……』
瑠衣を傷つけようとしたヤツらにムカついたのと同時に、“賭け”という言葉に、胸の奥がズンと重くなる。
俺にはソイツらを最低だと罵る資格はないのだと思い知らされ、今まで以上に深い後悔の念にかられた。
そして。
『その連中にしつこくされて身の危険を感じた瑠衣は、ソイツらから逃げるために、三階にあった教室の窓から飛び降りたんです』
予想以上にショッキングな話に、俺は暫し何も言えなくなった。
──言いたいけど言えない。そんな感じ。
一体どれほどのことが起こったのかとこちらが不安になるほどの悩み様に、俺の不安は膨らんでいく。
暫く悩んだ結果、自分の中で結論を出したらしい梅原は躊躇いがちに口を開いた。
「……ちょっと複雑な事情とかもあって、全部は話せないんですけど……。……それでもいいなら」
「勿論、それでいいよ。話せる範囲で構わない」
少しでも事情を知れるなら、俺に否やはない。
「……じゃあ、連絡先交換してもらってもいいですか? ここじゃちょっと話しづらいんで」
梅原は即答した俺に苦笑いした後、辺りを探るように視線を動かした。
確かに言いづらい事情があるんならこんなとこで立ち話をしてうっかり誰かに聞かれるよりも、個人的に連絡をとったほうが安心だ。
俺は上着のポケットからスマホを取り出すと、メッセージアプリを開き、その場ですぐに連絡先の交換を行なった。
◇◆◇◆
《高崎です。今家に戻ってきたので、いつでも大丈夫です》
瑠衣のことが知りたくて気が急いていた俺は、家に帰ってからすぐに梅原にメッセージを送った。
すると梅原のほうも俺からの連絡を待っていたらしく、すぐに着信音が鳴った。
俺はいつになく緊張しながら通話ボタンをタップする。
「はい、高崎です」
『あ、俺梅原です。今日は突然声かけたりとかしてすみませんでした。もしかして瑠衣のことを知ってるかもって思ったら、居ても立っても居られなくて』
「全然気にしてないからそっちも気にしなくていいよ。むしろ声掛けてくれて良かった。こっちこそ、言いにくい話を聞きたがったりしてゴメン」
『いえ、俺も瑠衣がひとりでいるって聞いたら、やっぱり気になるんで……』
そこまで言ったところで、梅原は何か考え込むように黙り込んでしまった。
俺のほうから先に喋っていいのかちょっと迷いながらも、まずは気になっていたことを質問する。
「中学の時の瑠衣ってどんな感じだった?」
『……クラスの中心に立つようなタイプではなかったけど、目立ってました。学校ではそこら辺の女子よりカワイイって言われたりとかして、一部の女子から反感をかったり、熱狂的に憧れられたり。いい意味でも悪い意味でも目立つ存在ではありました。でも男気があって性格もさっぱりしてるから男友達は多いほうだったと思います。
確かに見た目は可愛い系だけど、性格は全く以て普通の男でした。女の子みたいな自分の顔があんまり好きじゃなかったみたいで、顔のことで何か言われる度にプリプリ怒ってたりしてましたし。それで周りにいた俺らが『ホントの事だからしょうがない』って言って慰めにもならないことを言って、瑠衣が『嬉しくねぇ!』って言ってみんなで笑うっていうことまでが定番のやり取りだったりして』
「そんな瑠衣は想像出来ないな……」
あまりにも今の瑠衣と掛け離れた姿に、思わずポツリと呟くと。
『俺も瑠衣がいつもひとりでいるっていうのが信じられません。あんまり自分から喋るほうじゃなかったけど、いつも誰かしらと一緒にいて、ひとりでいるっていう印象はなかったので』
梅原は心なしか淋しそうな声でそう言った。
その言い方に引っ掛かるものを感じた俺は、今日青陽学園で梅原と話していた時にすぐに頭から抜け落ちてしまった違和感のことを思い出す。
梅原と瑠衣は小、中と同じ学校で部活も一緒。さっきの口ぶりじゃかなり仲が良かったことが窺える。
──なのに梅原が語る瑠衣は過去のものばかり。
いくら高校が離れたっていっても、今の状態もわからないほど疎遠になるものか?
それに、瑠衣のことを知っているかどうかもわからない俺達に、同じ高校だからって理由だけで声をかけてきたことにも違和感を感じる。
疎遠になったのが、さっき言っていたケガのせいだとしても、瑠衣の今の様子を知ってショックを受けていた事といい、俺達に声をかけてきたことといい、何やら別の理由があるような気がしてたまらない。
──それも深刻な。
「中学の時の瑠衣の事はわかった。じゃあ、瑠衣はいつからあんな感じになったんだ?」
『すみません。俺にはわかりません。俺が最後に瑠衣に会ったのは中学三年の冬休み前なんで」
随分と中途半端な時期。たぶんこの時に瑠衣の身に何かが起こったってことだろう。
「瑠衣がケガしたのはいつ?」
『……同じ日です』
「何があったか聞いてもいい?」
「…………」
少しの沈黙の後。梅原は意を決したように話し出した。
『あの時、瑠衣に妙な噂が流れてて……、その真相を確かめようとした馬鹿な連中が瑠衣にしつこく絡んでたんです。……それが段々エスカレートしていって、誰が一番に瑠衣の秘密を暴けるかっていう賭けを始めて……』
瑠衣を傷つけようとしたヤツらにムカついたのと同時に、“賭け”という言葉に、胸の奥がズンと重くなる。
俺にはソイツらを最低だと罵る資格はないのだと思い知らされ、今まで以上に深い後悔の念にかられた。
そして。
『その連中にしつこくされて身の危険を感じた瑠衣は、ソイツらから逃げるために、三階にあった教室の窓から飛び降りたんです』
予想以上にショッキングな話に、俺は暫し何も言えなくなった。
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