告白ごっこ

みなみ ゆうき

文字の大きさ
上 下
39 / 50

39.リスタート④(昴流視点)

しおりを挟む
暫く固まった後、辛そうに表情を歪めた梅原は、何度も口を開きかけて閉じるということを繰り返した。


──言いたいけど言えない。そんな感じ。

一体どれほどのことが起こったのかとこちらが不安になるほどの悩み様に、俺の不安は膨らんでいく。


暫く悩んだ結果、自分の中で結論を出したらしい梅原は躊躇いがちに口を開いた。


「……ちょっと複雑な事情とかもあって、全部は話せないんですけど……。……それでもいいなら」

「勿論、それでいいよ。話せる範囲で構わない」


少しでも事情を知れるなら、俺に否やはない。


「……じゃあ、連絡先交換してもらってもいいですか? ここじゃちょっと話しづらいんで」


梅原は即答した俺に苦笑いした後、辺りを探るように視線を動かした。
確かに言いづらい事情があるんならこんなとこで立ち話をしてうっかり誰かに聞かれるよりも、個人的に連絡をとったほうが安心だ。

俺は上着のポケットからスマホを取り出すと、メッセージアプリを開き、その場ですぐに連絡先の交換を行なった。



◇◆◇◆



《高崎です。今家に戻ってきたので、いつでも大丈夫です》


瑠衣のことが知りたくて気が急いていた俺は、家に帰ってからすぐに梅原にメッセージを送った。

すると梅原のほうも俺からの連絡を待っていたらしく、すぐに着信音が鳴った。

俺はいつになく緊張しながら通話ボタンをタップする。


「はい、高崎です」

『あ、俺梅原です。今日は突然声かけたりとかしてすみませんでした。もしかして瑠衣のことを知ってるかもって思ったら、居ても立っても居られなくて』

「全然気にしてないからそっちも気にしなくていいよ。むしろ声掛けてくれて良かった。こっちこそ、言いにくい話を聞きたがったりしてゴメン」

『いえ、俺も瑠衣がひとりでいるって聞いたら、やっぱり気になるんで……』


そこまで言ったところで、梅原は何か考え込むように黙り込んでしまった。

俺のほうから先に喋っていいのかちょっと迷いながらも、まずは気になっていたことを質問する。


「中学の時の瑠衣ってどんな感じだった?」

『……クラスの中心に立つようなタイプではなかったけど、目立ってました。学校ではそこら辺の女子よりカワイイって言われたりとかして、一部の女子から反感をかったり、熱狂的に憧れられたり。いい意味でも悪い意味でも目立つ存在ではありました。でも男気があって性格もさっぱりしてるから男友達は多いほうだったと思います。
確かに見た目は可愛い系だけど、性格は全く以て普通の男でした。女の子みたいな自分の顔があんまり好きじゃなかったみたいで、顔のことで何か言われる度にプリプリ怒ってたりしてましたし。それで周りにいた俺らが『ホントの事だからしょうがない』って言って慰めにもならないことを言って、瑠衣が『嬉しくねぇ!』って言ってみんなで笑うっていうことまでが定番のやり取りだったりして』

「そんな瑠衣は想像出来ないな……」


あまりにも今の瑠衣と掛け離れた姿に、思わずポツリと呟くと。


『俺も瑠衣がいつもひとりでいるっていうのが信じられません。あんまり自分から喋るほうじゃなかったけど、いつも誰かしらと一緒にいて、ひとりでいるっていう印象はなかったので』


梅原は心なしか淋しそうな声でそう言った。


その言い方に引っ掛かるものを感じた俺は、今日青陽学園で梅原と話していた時にすぐに頭から抜け落ちてしまった違和感のことを思い出す。


梅原と瑠衣は小、中と同じ学校で部活も一緒。さっきの口ぶりじゃかなり仲が良かったことが窺える。

──なのに梅原が語る瑠衣は過去のものばかり。


いくら高校が離れたっていっても、今の状態もわからないほど疎遠になるものか?

それに、瑠衣のことを知っているかどうかもわからない俺達に、同じ高校だからって理由だけで声をかけてきたことにも違和感を感じる。

疎遠になったのが、さっき言っていたケガのせいだとしても、瑠衣の今の様子を知ってショックを受けていた事といい、俺達に声をかけてきたことといい、何やら別の理由があるような気がしてたまらない。

──それも深刻な。


「中学の時の瑠衣の事はわかった。じゃあ、瑠衣はいつからあんな感じになったんだ?」

『すみません。俺にはわかりません。俺が最後に瑠衣に会ったのは中学三年の冬休み前なんで」


随分と中途半端な時期。たぶんこの時に瑠衣の身に何かが起こったってことだろう。


「瑠衣がケガしたのはいつ?」

『……同じ日です』

「何があったか聞いてもいい?」

「…………」


少しの沈黙の後。梅原は意を決したように話し出した。


『あの時、瑠衣に妙な噂が流れてて……、その真相を確かめようとした馬鹿な連中が瑠衣にしつこく絡んでたんです。……それが段々エスカレートしていって、誰が一番に瑠衣の秘密を暴けるかっていう賭けを始めて……』


瑠衣を傷つけようとしたヤツらにムカついたのと同時に、“賭け”という言葉に、胸の奥がズンと重くなる。

俺にはソイツらを最低だと罵る資格はないのだと思い知らされ、今まで以上に深い後悔の念にかられた。


そして。


『その連中にしつこくされて身の危険を感じた瑠衣は、ソイツらから逃げるために、三階にあった教室の窓から飛び降りたんです』


予想以上にショッキングな話に、俺は暫し何も言えなくなった。

しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

それでも君を想い続けたい。

香野ジャスミン
BL
遭遇した告白場面。 思い出されるのは、自分が学生だった頃のこと。 切ない想いもずっと大切にしてきた。 あの頃、叶わなかった自分たちとは別の道へと導きたい。 そう思った主人公は...。 ※絡みシーンなし。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズにも同時公開。

山奥のとある全寮制の学園にて

モコ
BL
山奥にある全寮制の学園に、珍しい季節に転校してきた1人の生徒がいた。 彼によって学園内に嵐が巻き起こされる。 これは甘やかされて育った彼やそれを取り巻く人々が学園での出来事を経て成長する物語である。 王道学園の設定を少し変更して書いています。 初めて小説を書くため至らないところがあるかと思いますがよろしくお願いいたします。 他サイトでも投稿しております。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

処理中です...