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38.リスタート③(昴流視点)
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瑠衣の名前を聞いた途端、思考回路が停止したかのように何も考えられなくなった俺の脇腹に、安達が軽く肘を入れる。
俺のほうが瑠衣のことを知ってるんだから何か言えって事なんだろうけど、瑠衣の名前を聞いただけで動揺してしまった今の俺は、とてもじゃないが何か言えるような状態じゃない。
そんな情けない俺の状況を察したらしい安達は、若干呆れたような視線を寄越したものの、使い物にならない俺を一旦無視して話を進めることにしたらしく、いつもの人好きのする笑顔を浮かべてから目の前の彼に視線を移した。
「あー、高嶋ね~。同じ学年だし、コイツは同じクラスだから、知ってるっちゃあ、知ってるけど……。そっちは何? 高嶋の知り合い?」
目の前の彼は、俺達が瑠衣の事を知っているということを聞き、少しだけホッとしたような表情になる。
しかし、すぐに緊張を含んだような顔つきに戻ると。
「……俺は梅原賢人っていいます。瑠衣とは小、中と同じ学校で。──中学の三年間は部活も一緒でした」
やや硬い声で瑠衣との関係性を告げた。
その言い方に少しだけ引っかかるものを感じたものの、瑠衣のことを自然な口調で呼び捨てにした上に、俺の知らない過去を知っているという事のほうに気をとられ、その小さな違和感はすぐに頭の中から抜け落ちてしまった。
──正直言って俺の気持ちは、自分ではもうどうにもならないほどグチャグチャだった。
嫉妬、羨望、焦燥。
色んな気持ちが一気に溢れ出してきて、胸が苦しい。
過去だけじゃなく、名前以外何も知らない俺が、瑠衣の事を知っている誰かに会って、こんな気持ちを抱くのはおこがましいことなのかもしれないけど、その感情をすぐにコントロールするのは難しい。
拳をギュッと握り締め、必死に渦巻く黒い感情を抑え込む。
俺にはそんな資格はない。わかっているけど、瑠衣の一番近くにいるのは俺でありたい。そう思ってしまうのだ。
自分の中の身勝手で醜い感情を目の前の彼に悟られないよう、さり気なく目を伏せることで、表面的な体裁を取り繕う。
安達はそんな状態の俺をこの会話に参加させることを既に諦めたようで、俺に話を振ることなく会話を続けた。
「小学校から一緒で部活も一緒かー。もしかして部活って陸上部?」
「はい。瑠衣は中学の三年間ハードルやってて。大会とかでも結構良い成績残したりとかしてたんです」
「へぇ~、意外。高嶋って運動神経良かったんだ。大人しいイメージしかなかった」
「……体育の時の動きを見る限り、瑠衣は運動神経悪くないよ」
ちょっと瑠衣の事を侮っているような安達の言い方に思わず反応すると。
「──良かった……。瑠衣、体育出来るくらいになったんだ……」
梅原賢人がそう小さく呟いた。
普通に聞いてたら、大きなケガで陸上を断念しなきゃならなかったのかな、くらいにしか思えない一言。
でもその梅原の顔は今にも泣きそうなもので。
それが瑠衣の身に普通じゃない何かが起きたのだということを如実に物語っているような気がして。
俺はまだその内容を聞かされた訳でもなく、既に過去の話だとわかっている筈なのに、妙な胸騒ぎと焦燥感が一層高まってきてしまい、梅原に向ける視線がつい鋭くなってしまった。
安達も梅原の表情に普通じゃない何かを感じ取ったらしく、ちょっとだけ緊張したような顔つきで、やや躊躇いがちに口を開いた。
「その言い方だと高嶋が大ケガでもしたみたいに聞こえるけど。もしかして事故にあったとか?」
安達の問い掛けに、梅原の表情が一瞬固まる。
そして少しの沈黙の後。
「……まあ、そういう感じ、です」
気まずそうな表情でそう答えた。
その表情と歯切れの悪い言葉には、『はい、そうですか』といって受け流すには大分引っかかるものがある。
どうやら安達も俺と同じことを思ったらしく、踏み込んで話を聞くべきか迷っているようで、『どうする?』といった感じの視線を送ってきた。
さっきまで誰かの口から俺の知らない瑠衣の話は聞きたくないとさえ思っていたくせに、今は瑠衣の身に起こった『何か』を聞かないという選択肢を選ぶなんてことは出来そうにない。
散々傷付けた俺が言うのもなんだけど、誰とも関わろうとしない瑠衣を作った原点がそこにあるんなら、絶対に知っておきたい。
むしろここで聞かなかったら確実に後悔すると感じた俺は、安達に軽く頷き返す事で自分が話を進める意思を示すと、改めて梅原と向き合った。
「瑠衣はずっとひとりでいるよ。俺は同じクラスで色々接点があったから話したことあるけど、他の人と喋ってるところは見たことない。こんな事本人の許可なく聞いたらダメなのかもだけどさ、瑠衣はいつからあんな感じになったんだ? もしかしてそのケガと関係あるんじゃないのか?」
俺の指摘に梅原は大きく目を見開いた。
俺のほうが瑠衣のことを知ってるんだから何か言えって事なんだろうけど、瑠衣の名前を聞いただけで動揺してしまった今の俺は、とてもじゃないが何か言えるような状態じゃない。
そんな情けない俺の状況を察したらしい安達は、若干呆れたような視線を寄越したものの、使い物にならない俺を一旦無視して話を進めることにしたらしく、いつもの人好きのする笑顔を浮かべてから目の前の彼に視線を移した。
「あー、高嶋ね~。同じ学年だし、コイツは同じクラスだから、知ってるっちゃあ、知ってるけど……。そっちは何? 高嶋の知り合い?」
目の前の彼は、俺達が瑠衣の事を知っているということを聞き、少しだけホッとしたような表情になる。
しかし、すぐに緊張を含んだような顔つきに戻ると。
「……俺は梅原賢人っていいます。瑠衣とは小、中と同じ学校で。──中学の三年間は部活も一緒でした」
やや硬い声で瑠衣との関係性を告げた。
その言い方に少しだけ引っかかるものを感じたものの、瑠衣のことを自然な口調で呼び捨てにした上に、俺の知らない過去を知っているという事のほうに気をとられ、その小さな違和感はすぐに頭の中から抜け落ちてしまった。
──正直言って俺の気持ちは、自分ではもうどうにもならないほどグチャグチャだった。
嫉妬、羨望、焦燥。
色んな気持ちが一気に溢れ出してきて、胸が苦しい。
過去だけじゃなく、名前以外何も知らない俺が、瑠衣の事を知っている誰かに会って、こんな気持ちを抱くのはおこがましいことなのかもしれないけど、その感情をすぐにコントロールするのは難しい。
拳をギュッと握り締め、必死に渦巻く黒い感情を抑え込む。
俺にはそんな資格はない。わかっているけど、瑠衣の一番近くにいるのは俺でありたい。そう思ってしまうのだ。
自分の中の身勝手で醜い感情を目の前の彼に悟られないよう、さり気なく目を伏せることで、表面的な体裁を取り繕う。
安達はそんな状態の俺をこの会話に参加させることを既に諦めたようで、俺に話を振ることなく会話を続けた。
「小学校から一緒で部活も一緒かー。もしかして部活って陸上部?」
「はい。瑠衣は中学の三年間ハードルやってて。大会とかでも結構良い成績残したりとかしてたんです」
「へぇ~、意外。高嶋って運動神経良かったんだ。大人しいイメージしかなかった」
「……体育の時の動きを見る限り、瑠衣は運動神経悪くないよ」
ちょっと瑠衣の事を侮っているような安達の言い方に思わず反応すると。
「──良かった……。瑠衣、体育出来るくらいになったんだ……」
梅原賢人がそう小さく呟いた。
普通に聞いてたら、大きなケガで陸上を断念しなきゃならなかったのかな、くらいにしか思えない一言。
でもその梅原の顔は今にも泣きそうなもので。
それが瑠衣の身に普通じゃない何かが起きたのだということを如実に物語っているような気がして。
俺はまだその内容を聞かされた訳でもなく、既に過去の話だとわかっている筈なのに、妙な胸騒ぎと焦燥感が一層高まってきてしまい、梅原に向ける視線がつい鋭くなってしまった。
安達も梅原の表情に普通じゃない何かを感じ取ったらしく、ちょっとだけ緊張したような顔つきで、やや躊躇いがちに口を開いた。
「その言い方だと高嶋が大ケガでもしたみたいに聞こえるけど。もしかして事故にあったとか?」
安達の問い掛けに、梅原の表情が一瞬固まる。
そして少しの沈黙の後。
「……まあ、そういう感じ、です」
気まずそうな表情でそう答えた。
その表情と歯切れの悪い言葉には、『はい、そうですか』といって受け流すには大分引っかかるものがある。
どうやら安達も俺と同じことを思ったらしく、踏み込んで話を聞くべきか迷っているようで、『どうする?』といった感じの視線を送ってきた。
さっきまで誰かの口から俺の知らない瑠衣の話は聞きたくないとさえ思っていたくせに、今は瑠衣の身に起こった『何か』を聞かないという選択肢を選ぶなんてことは出来そうにない。
散々傷付けた俺が言うのもなんだけど、誰とも関わろうとしない瑠衣を作った原点がそこにあるんなら、絶対に知っておきたい。
むしろここで聞かなかったら確実に後悔すると感じた俺は、安達に軽く頷き返す事で自分が話を進める意思を示すと、改めて梅原と向き合った。
「瑠衣はずっとひとりでいるよ。俺は同じクラスで色々接点があったから話したことあるけど、他の人と喋ってるところは見たことない。こんな事本人の許可なく聞いたらダメなのかもだけどさ、瑠衣はいつからあんな感じになったんだ? もしかしてそのケガと関係あるんじゃないのか?」
俺の指摘に梅原は大きく目を見開いた。
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