告白ごっこ

みなみ ゆうき

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29.接近⑧

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買い物を終えてショッピングモールを出ると、既に雨が降りだしていた。

空はさっき以上に黒い雲に覆われていて、これから益々雨の勢いが強くなるだろうってことが簡単に予想できた。

駅まではそんなに遠くはない。
まだ小降りなうちなら走って行けばあまり濡れずに済みそうだ。


しかし。
もうすぐ駅というところで振り返ったところ、後ろにいるはずの瑠衣の姿が見えないことに気付いて超焦る。
雨足が強まってきていることもあり、何かあったんじゃないかと心配になった俺は、慌てて来た道を引き返した。

少し戻るとすぐにこっちに向かって走ってくる瑠衣の姿が見えたことにホッとする。


「瑠衣!」


走りながら名前を呼ぶと、瑠衣も慌てて駆け寄って来てくれた。


「気付いたら後ろに瑠衣がいなくて滅茶苦茶焦った……! ゴメン。俺、全然気付かなくて……」

「……俺こそゴメン。昴流について行けそうにないから途中で諦めた。わざわざ戻って来なくても良かったのに」


当然のようについて来てると思い、瑠衣の様子に気付けなかった自分が嫌になる。

だから今度こそは瑠衣をおいていくことのないように。
二度と瑠衣と離れないように、俺はしっかりと瑠衣の手を握ったまま走り続けた。


結局俺達は降る勢いを増した雨のせいで、駅に着く頃にはすっかりびしょ濡れ状態になっていた。
瑠衣は少しぐったりとした様子でホームのベンチに座っている。

何を考えているのか全く読めないその横顔に、瑠衣が遠い存在のように感じた俺は、ベンチの座面に置いてあった瑠衣の手にそっと手を重ねた。

その指先はいつもより冷たくて、瑠衣の温もりがちゃんと感じられないことが淋しかった。

中途半端に触れたせいもあり、瑠衣を求める気持ちが溢れだす。


「良かったらこの後、俺んち来ない?」


不意に口をついて出た言葉。

今まで散々中田達のほうを先に解決してからとかなんとか言い訳をして真実を打ち明けることを先延ばしにしてきたくせに、すぐにでも瑠衣の全てが欲しくて堪らなくなった。

セックスの経験は数えきれないほどあっても、これほどまでに強く誰かを求めたのは初めてだ。


それは性欲なんていう一時的な衝動なんかじゃなく、最早渇望に近いもので。


──だから俺はその狂おしいほどの渇きを癒すために、まずは全てを打ち明ける覚悟を決めた。



◇◆◇◆



「先にシャワー浴びなよ」

「……うん。ありがと」


家に着くまでに更にびしょ濡れになった俺達の身体は、体温が奪われたせいで完全に冷えきってしまっていた。

俺の思惑どうこうよりも濡れた瑠衣をそのままにはしておけず、先にバスルームへと送り込む。
俺は濡れた服を脱いでザッとタオルで身体を拭いた後、その辺にあったスウェットを履いてから飲み物の準備をするためにキッチンへと向かった。

今日家には誰もいない。

家族の留守に家に誰かを連れてくるなんて珍しいことじゃないけど、その相手が本気で好きな相手でしかもこれから大事な話をするのだと思うと、緊張せずにはいられなかった。


冷蔵庫の中にあったペットボトルを数本取り出し、瑠衣にどう話を切り出そうか必死に考えながら自分の部屋へとむかう。


真実を打ち明けると言っても、何からどう話せば上手くいくのかさっぱり見当がつかない。

いきなり罰ゲームの話から切り出したとして、その後俺の気持ちをちゃんと告白したところで信用してもらえるどころか、最後まで話を聞いてもらえるかどうかもわからないし、先に俺の気持ちを伝えてあらためて両想いであることを確認しあったとしても、俺が瑠衣に対して最低な真似をしようとしていた事を打ち明ければさすがに平静なままではいられないだろう。

泣かれても、怒られても、責められても構わない。

瑠衣が許してくれるまで何度だって謝るし、何度でも俺の想いを伝えてみせる。

──ただ瑠衣に嫌われなければそれでいい。


本当はこのまま罰ゲームのことも賭けのこともなかった振りをして、瑠衣との関係を進めてしまいたい。

でもそれをしてしまったら、俺は本物のクズに成り下がってしまう。


それだけは絶対にダメだと自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせるため、大きく息を吐きだした。



「……シャワーありがとう」


どうするべきかということをウダウダと考え続けていると、シャワーを終えた瑠衣がどこか落ち着かない様子で俺の部屋へとやってきた。


これはたぶん初めて俺の家に来たってことに緊張してるだけで、何かを期待しての反応じゃないとは思う。

頭ではそう理解出来ていても、あまりに無防備で初々しい反応をする瑠衣を前に、堪え性のない俺の理性はあっさりと自制がきかなくなってしまった。


さっきより随分と温度の高くなっている瑠衣の身体を抱き締めてキスをする。

少しだけ躊躇いつつも俺の舌を素直に受け入れてくれるのは、ここ最近毎日のように昼休みにキスしていたせいだろう。

すっかり俺のやり方に慣れた様子の瑠衣に、喜びの感情よりも後ろめたさのほうが大きくなった俺は、自分のしようとしていた事を思い出し、愕然とした。


「じゃあ俺もシャワー浴びてくる。濡れた服は乾燥機に入れとくからかして。帰るまでには乾くと思うから。飲み物用意しといたからそれでも飲みながら適当に寛いで待っててよ」


俺は何事もなかったかのように瑠衣から離れると、逃げるように部屋を後にした。
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