告白ごっこ

みなみ ゆうき

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28.接近⑦

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次の日。

俺は朝から落ち着かない気持ちを抱え、今までにないほどソワソワしていた。

練習が終わり、シャワールームで手早く汗を流してから急いで駅へと向かう。
トイレで私服に着替えてから荷物をコインロッカーに預け、今日行くショッピングモールの最寄り駅行きの電車に乗った。

待ち合わせには充分間に合う時間だったけど、瑠衣を待たせるのは嫌だし、何より俺が先に行って瑠衣のことを待っていたかった。
こんなにも瑠衣と長い時間一緒にいるのは初めてのことで、俺はその幸せな時間を一秒でも無駄にはしたくないと思ったのだ。


せっかく瑠衣と出掛けるっていうのに外は生憎の曇り空。今にも雨が降りだしそうな気配がしている。
まるで俺に浮かれるなと警告してるかのような天気に、俺の中に燻っている不安な気持ちが大きく膨らんでいくような気がした。

こんなのは瑠衣に対して隠し事をしている俺の下らない感傷なのかもしれない。

でも瑠衣と一緒にいられることを嬉しく思う反面、瑠衣のことを何も知らないということが思った以上に俺の心に影を落としているようだった。


ショッピングモールの最寄り駅に着き、改札を出たところで瑠衣を待つ。
待ち合わせの時間まであと十五分。

すぐに瑠衣を見つけられるよう、瑠衣からも見つけてもらえるよう、改札口がよく見える位置へと立った。

ところが。


「あー! 高崎昴流だ!」


突然名前呼ばれたと思ったら、あっという間に知らない女の子達に取り囲まれてしまったのだ。

瑠衣の事ばかり考えていて、良くも悪くも自分が目立つ存在だってことをすっかり忘れていた俺は、内心盛大に舌打ちをした。


「こんなとこで何やってんのー?」

「ひとりとか、珍しくない?」

「暇なら一緒に遊ぼうよー」


次々繰り出される言葉に、俺は苦笑いで応える。

ちょっと前までの俺なら、適当に愛想を振り撒きながらサービスとばかりにお喋りに付き合ったりもしていたのだが、瑠衣という意中の相手がいて、その相手と待ち合わせをしている今、とてもじゃないがそんな気にはなれない。


「……ごめん。待ち合わせしてるから」


やんわりと断ると。


「もしかして彼女?」

「新しい彼女出来たんだ?」

「じゃあ、別れたら遊ぼうよ。ID交換して」

「彼女いても、暇な時とか声かけてくれればいいし」


待ち合わせだって言ってるのに立ち去る気配がないどころか、勝手な事を言い出す彼女達に心底うんざりさせられた。

これがその場のノリと勢いでいい加減な事ばかりしてきた結果かと思うと、自分の最低さ加減と薄っぺらい人間性っていうのが嫌というほどわかってしまい、情けない自分がカッコ悪すぎてなんだか笑えてくる。

彼女達はその自嘲の笑みを肯定の意味ととったのか、益々お喋りを加速させていくばかり。


中身のない話にいっそのことハッキリ邪魔だって言ってやりたい衝動に駆られていると。
改札口から出てくる人波の中に瑠衣の姿を見つけた。

しかし瑠衣は俺に気付くことなく別の方向に歩いていってしまう。

すぐにでも瑠衣に駆け寄りたいのに、女の子達のお喋りは止まらない上に、その行く手すら阻まれている状態に本気で焦る。


「瑠衣ー! こっち!」


思わず大声で呼ぶと、瑠衣は驚いたような顔をしながらもバッチリ俺の方を見てくれた。


「ごめん! 待ち合わせの相手来たから!」


いつもの俺なら絶対にあり得ない行動で彼女達が呆気にとられた隙に、ここぞとばかりに輪の中から抜け出す。
そしておざなりに謝ると、急いで瑠衣へと駆け寄った。

瑠衣と会えたことが嬉しくて、自然と笑顔になっていく。

肝心の瑠衣のほうはというと、俺が今どういう状況だったのかを察したらしく、微妙な表情で俺の後ろにいる女の子達を見ていた。

別に疚しいところは何もないが、正直言ってばつが悪い。


「待ち合わせだって言ってんのにしつこくて。
あれ? なんか今日の瑠衣、いつもと感じが違うね。学校いる時とは雰囲気違って全然知らない人みたいでドキドキする」


一応言い訳をした後、まだ女の子達を気にする素振りを見せる瑠衣に俺だけを見て欲しくてわざと耳許でそう囁いた。

でもこれはお世辞とかじゃなく俺の本音。

私服の瑠衣は学校にいる時とはだいぶ雰囲気が違って見えて、いつも以上にドキドキさせられたのだ。


残念ながら瑠衣は俺の言葉になんの反応も示してくれないどころか「……じゃあ、行こうか」とだけ言ってから、俺を待たずに先に歩き出してしまった。

でもほんのちょっとだけ不機嫌そうにも感じる瑠衣の態度に、これが俺の気のせいなんかじゃなく、本当に嫉妬してくれているんだったらいいのにと思う。


そんな事を思ってしまう俺はやっぱり自分勝手な人間なんだろうななんて考えながら、瑠衣の隣に並んで歩いた。
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