告白ごっこ

みなみ ゆうき

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25.接近④

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《さっすが昴流》
《マジうけた!》


瑠衣と別れ、家に帰る途中。
中田からきたメッセージを見た俺は、完全に凍りついていた。

それは一見、極ありふれた言葉が使われた何の変哲もないただの感想。

でも、俺にはその言葉がどういう経緯を経て述べられたことなのかということをハッキリと理解出来ていた。


──おそらく中田は、一緒に帰る俺達の後をつけて来た挙げ句、あの公園のどこかからこちらの様子を見ていたってことなんだろう。


瑠衣にキスしたことに後悔はない。

あれは俺がしたくてしたことだし、本音を言えばあんな一瞬のことじゃなく、もっとちゃんと瑠衣の温もりと感触をじっくりと味わいたかった。
あそこが人目の多い場所じゃなかったら、確実にがっついていたに違いない。

でもそのキスが結果的にアイツらを楽しませる見世物のようになってしまったのだ。

軽率な自分の行動に苦い思いが込み上げる。

しかも瑠衣への想いを自覚した途端、罰ゲームのために瑠衣に近付いたという事実が想像以上に重く俺の心にのしかかってきて。どう考えても最低だとしか思えない俺の行動に、急速に後悔と自己嫌悪が増していく。


いつものように軽いノリで始めた罰ゲーム。
煩わしさと虚しさと、ほんの少しの罪悪感を感じるだけのものだと思っていたそれは、たった一週間で俺の意識を根こそぎ変えていった。

告白するはずの相手に告白され、その気持ちに応えられないと言いながら恋に落ち。他人に関心がなかった俺がこんなにも誰かを失うことを怖れる日が来るとは。


あの罰ゲームがなければ俺が瑠衣の存在を意識することはなかったし、瑠衣に恋する気持ちを知ることはなかったってことはわかっている。

……わかってはいてもその事実を認めたくない自分がいるのだ。


今となっては、瑠衣とのことが罰だなんて冗談でも言いたくないし、なんなら俺の負けでもなんでもいいから罰ゲームも賭けもなかったことにして欲しいくらいで。
俺はもうこれ以上アイツらに瑠衣に関する事を口にして欲しくはなかったし、俺達のすることを逐一観察されてネタにされるのも御免だった。


いっそのこと、瑠衣は俺のものだって。俺は瑠衣を好きになったんだって。俺達は両想いだって言ってやりたい。

アイツらとの縁を切る覚悟ですぐにでも俺のこの気持ちを洗いざらいぶちまけてしまいたい衝動に駆られたものの、それが新たなデメリットを呼ぶきっかけになりかねない可能性に気付き、やるせない思いが込み上げてきた。


俺はアイツらの悪意から瑠衣を守りきれるのか。
瑠衣は事の顛末を知ってもまだ俺を好きだと言い続けてくれるのか。

つい一週間前までなかった筈の関係だというのに、手に入れた今では失うことなど考えられない。


夜の気配が濃くなった空を見上げながら、俺はひとり後悔と不安と自己嫌悪を抱え、立ち尽くしていた。


なんで俺はこんなことになるまで瑠衣の存在に気付かずにいられたんだろう?
なんで俺は瑠衣との接点だった筈のチャンスを悉く不意にしてきたんだろう?
なんで瑠衣がターゲットに選ばれてしまったんだろう?


『なんで?』『なんで?』

物を知らない子供みたいな台詞ばかりがグルグルと頭を回るだけで、一向に良い解決策なんて浮かんでこない。

その結果。焦る気持ちばかりが増した俺は、絶対に間違えちゃいけない選択をミスってしまうことになる。


再び中田からのメッセージを開き、それに対する返事を打ち込んでいく。一文字一文字入力する指の動きがやたらと遅いのは、これが俺の本意じゃないと拒否する気持ちがあるからだ。


《今マジで口説き中》
《アイツに気付かれたら困るからしばらくほっといて》
《余計な真似すんなよ》


すぐに既読がついた自分の文章に心が痛む。


俺は卑怯にもあと三週間ほどある賭けの期限までの猶予を利用して、中田達に対してはあくまでも賭けを続行している風を装い、瑠衣と一緒にいる理由を変に勘繰られないよう小細工する事を選んでしまったのだ。


──これが賭けが終わるまでしかもたない、その場しのぎの対応でしかないとわかっていながら。
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