告白ごっこ

みなみ ゆうき

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22.接近①

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自分が告白するはずだったのに何故かその相手から告白され。俺は自分の予定を狂わされた事に苛立ちを感じたり、男から告白されたことに対して嫌悪感を持つどころか、どこか浮き足だつような不思議な気分を味わっていた。

さすがに男から告白されたのはあれが初めてだが、告白自体はこれまで何度もされたことがある。

でもそれはいつもルーチンのように『そっか』と思い、『じゃあ、付き合おっか』と言うだけのもので、高嶋に言われた時のように心の奥底に何かが触れたような奇妙な感覚に見舞われ、思考回路が停止するなんていう経験をしたのは初めてのことだった。

自分の事なのに、俺をこんな状態にする原因となっている感情が何かってことはわからない。

でも俺はそれも含めて、高嶋瑠衣という人物をもっと知り、仲良くなりたいと思ってしまった。


たぶん俺はこの罰ゲームがなければ、高嶋に興味を持つどころか、その存在すら認識することはなかったと思う。

普段は運命とかそういうのは全く信じたこともないくせに、これはある意味運命のいたずらというか、巡り合わせ的なものなのかもしれないなんて柄にも無いことを初めて思ったりもした。

この時の俺は自分のしようとしていた愚かで残酷な行為を棚にあげ、アイツから向けられた好意にほんの少しの戸惑いを感じつつも、俺達の未来が交わった事を単純に喜んでいたのだ。



◇◆◇◆



「昴流ってばマジで頑張ってんじゃん。朝から高嶋んとこまでわざわざ話し掛けに行ったりさー」


告白された次の日の昼休み。
朝からずっとニヤニヤしながら教室での俺達の様子を見ていた中田が、いかにも喋りたくて堪らないって感じを隠そうともせずにそう切り出した。

安達はちょっとだけ意外そうな顔をしつつも、すぐに話にのってくる。


「そういえば昨日告ったんだっけ? じゃあ今はガンガンアプローチしてる最中ってこと?」

「スゲーよ。今まで誰にも見向きもされなかったボッチが昴流に話し掛けられてキョドってる姿とか、マジうけたわ。あれはオチるのも時間の問題だと思う」

「あーあ。そんなんじゃ罰ゲームどころか、難易度高めにしても結局昴流のひとり勝ち状態じゃん。つまんねー」


俺と同じく罰ゲームを実行する側になっている岡野は俺にうらめしそうな視線を向けてきた。
おそらくまた無理めなところを狙って撃沈したパターンなんだろう。

それに比べれば、もう既に好きだと言われている俺はあっさりと賭けの勝利条件を充たしているだけに、ひとり勝ちっていう表現もあながち間違いじゃない。
でも、今ここでそれを言っても信じてもらえるかどうかわからないため、もう少し様子を見てから話すつもりでいる。

俺はつい緩みそうになる表情を曖昧な笑顔を浮かべることで誤魔化しておいた。

ところが。


「もう消化試合に入ってんだろ。だったらもうちょい楽しむためにハードルあげてこうぜ」

「よし、昴流。こうなったらトコトンいっとけ!」

「お、いいねー。次何賭けるー? ボッチ君の処女喪失に」


中田がまたしても余計なことを言い出し、二人もすかさずそれにのっかってきたのだ。

いつもだったら笑って聞き流せる程度の軽口。
それどころか普段の俺だったら悪ノリするような場面だというのに、この時は何故かその物言いが酷く癇に障り。

「やめろ。おもしろがってんじゃねぇ」

つい語気を荒げてしまった。


しかしそれはヤツらには全く伝わっていなかったようで、軽く流された挙げ句に、話題はさっさと次へと移っていく。
俺もそれをわざわざ蒸し返す気にもなれず、表面上は何事もなかったかのような顔で実の無い内容ばかりの話を聞き流しておいた。

一旦芽生えてしまったモヤモヤした気持ちは簡単には消えてくれず、かといってそれを吐き出すわけにもいかず、苦々しい思いを黙って胸の内に押し込める。

コイツらと一緒にいるのがこんなにもつまらなく、苦痛に感じたのは初めてだ。


基本的に最近の俺は、誰と一緒にいても感情を大きく揺らすことはない。それはプラスの意味でもマイナスの意味においても同じこと。

でも昨日、高嶋と一緒にいた時の俺は、自分でも信じられないくらい色んな感情がぐちゃぐちゃに交わりあって、コントロールが難しい状態になっていた。

それがどういうものから来るのかということはよくわからない。


でもあの瞬間、俺の中で高嶋の存在が一気に色濃くなったのだけは確かな事だった。
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