告白ごっこ

みなみ ゆうき

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8.茶番④

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ほんの一瞬だけ重なった唇は、何の余韻も残さずにすぐに離れていった。


夕暮れ時。海の見える公園で不意討ちのキス。

これがドラマとかだったらさぞかし盛り上がる場面だろう。BGMに主題歌が流れ出し、次週に続きそうな雰囲気だ。

俺と目があってニコリと笑った高崎。
ビックリし過ぎて反応に困る俺。

まさかこんなとこで男相手にキスしてくるとは思わなかったからさ……。正直リアクションとか考えてなかったなー。

一言言わせてもらえるのならば、気持ちを伴わないキスがこんなにどうでもいいものだと思わなかった。って感じ。


好きな人とした時の身体の芯が溶けそうになるような幸福感も、胸が締め付けられるような感傷的な気持ちも。欲しくて堪らなくなるような渇望も何も無い、ただの接触だった。

こんなことして何が楽しいんだろ。


俺がそんな風に感じているとは露ほどにも思っていないだろう高崎はというと。


「ビックリさせちゃった? なんか瑠衣の顔見たら、勝手に身体が動いてて」


なんて事のないようにそう言ってのけた後、すぐに俺を解放し、何事もなかったかのように海を眺め始めた。


すごいな……。勝手に身体が動くって、よっぽど慣れてるってことじゃん。

こういう場合に備えてマニュアル化された行動パターンが本当にあるって言われても信じてしまいそうだ。


俺の心の中で繰り広げられている高崎への総ツッコミなど知る由もない当の本人は、ここでのイベントが完了したことで満足したのか、いくらも海を見ないうちに「もう、帰ろっか」と言い出した。

俺はただ黙って頷くと、さっきここに来た時と同様に高崎のすぐ後ろを歩く。


ホントに何がしたかったのかわかんない。


友達と出掛けたにしてはただ公園に行っただけでろくに話もしないっていうのは少々面白味にかける気がするし、俺の気持ちをがっちり掴んでおくだけにしては、過剰サービスな気がしないでもない。

いかにもなスポットでキスって。……しかもそれしかしてないし。


う~ん。これはもしかして今度こそ観客・・がいるパターンかな?

さりげなく周囲に視線を廻らせれば、少し離れた位置にあるベンチに俺と同じ制服を着た集団が見えた。その中には俺が唯一見覚えのある同じクラスの中田の顔もある。


……やっぱりな。

高崎が部活が休みなら、他のヤツらも休みだもんな。こんな面白そうなイベント、見逃せないだろうよ。

賭けのメンバーよりもあきらかに人数が多いところをみると、冴えないボッチの俺が高崎に翻弄されてオタオタしてる様子を仲間と一緒に楽しむつもりだったんだろう。

なるほど。さっきのあのキスは俺へのサービスじゃなく、アイツらへのサービスだったってことか。……よくやる。


この茶番がアイツらにとって満足のいく結果になったのかはわからない。でも俺にとっては色んな意味で大きな成果だったと思う。

基本高崎のすることは観客に向けたパフォーマンス。

それ以外の意味はなく、俺がアイツのやることを疑問に思うだけ時間の無駄なんだってことだけが、あたらめてよくわかった。
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