14 / 34
小話〜エイルから見たレナ〜
しおりを挟むレナがうちに来たのは、僕の誕生日が差し迫る、丁度春先の今の時期だった。
テオンが生まれて、暫く王宮へ挨拶に行ってなかった母上が少し落ち着いたということで、建国祭に合わせて王宮へと向かい、その帰りに森狼に襲われた。
魔物避けを付けていた筈が、いつの間にか盗まれていて、それを知らなかったものだから、手前の町で休まず、夕方に街道を走っていたのが不味かった。護衛の騎士が何とか応戦するものの、数が多く苦戦していたところ、
『小鬼が降ってきたと思ったわ』
というのは母上の談。
とにかく、黒いボロボロの服。目まで隠れるボサボサの髪。そして小さな体。
正体が分からない「塊」が、目にも止まらぬ速さで森狼達を斬りつけていき、そしてぱたりと倒れた。
まあ、空腹で倒れたらしいんだけど。
そんなこんなで、我が家に連れ帰られたその子は、メイド達に洗われ、医師が付き添い、自由に歩き回る頃にはすっかり可愛いらしい少女に変貌を遂げていた。
ただ、表情筋が死んだように動かない。
始めは何を考えているのか分からなかったけど、それも束の間。
目が口ほどにものを言うから。
夕陽を閉じ込めたようなオレンジ色の瞳が、輝いたり影が入ったりと、この子の心模様は案外騒がしいのかも、なんてすぐ分かった。
だから今だって
「エイル様!凄い!こんなに苺が乗ってますよ??」
なんて、ケーキを前にして瞳がキラキラと輝いているんだから。
「レナは苺が好きだもんね」
「はい!この季節しか食べられないのが残念な程です!」
そう言って大事そうに一口を頬張る姿は、リスや鼠のよう。
レナとの思い出で1番印象に残っているのは、テオンを紹介した時だった。
テオンが3歳ということで、暫く会わせてなかったけれど、初めて会わせて、テオンがもう文字を覚えたと説明した時だった。
『え……こわ……』
小さく彼女はそう言った。
それに気づいた僕が彼女を見つめると、バツの悪いような目をして、後でこっそり謝ってきた。
『申し訳ありません、エイル様。3歳で文字を覚えたなんて成長の速さがとても怖く感じて。周りの方もあまり気にしてないようでしたので、その雰囲気がつい……』
正直、僕もテオンが怖かった。僕が読み書き出来たのは5歳で、それでも早いと言われていたのに3歳でなんてと。けれど、これは誰にも言えなかった。
『ですが、エイル様。テオン坊ちゃんはそういうものなんでしょう。考えても無駄です。あ、違いますね、考えるだけ無駄です。これから先、テオン坊ちゃんが規格外のことを度々しでかすでしょう。けれど、自分と比較して思い悩む必要はございません。そういうものなんですから。エイル様はエイル様の良いところを磨き、テオン坊ちゃんがまた何かやらかしたら、またやってるな~と流せば良いのです』
しでかすやら、やらかしたなんて。
今まで周りは褒め称えるだけだったのに、まるでたわいもない悪戯のように言う彼女に、一体何の感情なのか僕はあまりにおかしくて、腹を抱えて大笑いしたのを昨日のように鮮明に覚えている。
だから僕は腐ることなく、跡継ぎとして振る舞えるのかも知れない。
あの大人びたような彼女が、今テオンと一緒に騒ぎを起こしたり、父上に叱られたりするとは思わなかったけれど。
「エイル様。ぼーっとしていたら紅茶が冷めてしまいますよ?」
「そうだね、レナがあまりにも美味しそうに食べるから見惚れちゃった」
「見惚れるなんて…面白いものじゃありませんよ」
「充分面白いよ?」
「何をご冗談を」
レナは「このイケメン様は全く…」なんてぶつぶつ言っている。たまに意味の分からないことを言っている時があるけれど、テオンもそうだし、きっとこれもそういうものなんだろう。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
サモンブレイブ・クロニクル~無能扱いされた少年の異世界無双物語
イズミント(エセフォルネウス)
ファンタジー
高校2年の佐々木 暁斗は、クラスメイト達と共に異世界に召還される。
その目的は、魔王を倒す戦力として。
しかし、クラスメイトのみんなが勇者判定されるなかで、暁斗だけは勇者判定されず、無能とされる。
多くのクラスメイトにも見捨てられた暁斗は、唯一見捨てず助けてくれた女子生徒や、暁斗を介抱した魔女と共に異世界生活を送る。
その過程で、暁斗の潜在能力が発揮され、至るところで無双していくお話である。
*この作品はかつてノベルアップ+や小説家になろうに投稿したものの再々リメイクです。
異界共闘記
totoma
ファンタジー
幼い頃に事故で両親を亡くしてしまい孤独に生きる主人公の高校生相川 零はある日の下校途中交通事故に巻き込まれたと思ったら、貴族の子 クロノスとして転生していた。なんと転生先は異世界らしくその世界《アースガルド》には魔法があった。。。。。
ノベルバにても連載しております。
【※初心者マーク付いてます。まだまだ始めたばかりなので応援よろしくお願いします。】
召喚魔王様がんばる
雑草弁士
ファンタジー
世界制覇を狙う悪の秘密結社の生み出した改造人間である主人公は、改造完了直後突然に異世界へと召喚されてしまう。しかもなんと『魔王』として!
そして彼は『勇者』の少女と出会ったり、敵対的な魔物たちを下して魔王軍を創ったり……。召喚された異世界で、彼はがんばって働き続ける。目標は世界征服!?
とりあえず、何も考えてない異世界ファンタジー物です。お楽しみいただければ、幸いです。
二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す
SO/N
ファンタジー
主人公、ウルスはあるどこにでもある小さな町で、両親や幼馴染と平和に過ごしていた。
だがある日、町は襲われ、命からがら逃げたウルスは突如、前世の記憶を思い出す。
前世の記憶を思い出したウルスは、自分を拾ってくれた人類最強の英雄・グラン=ローレスに業を教わり、妹弟子のミルとともに日々修行に明け暮れた。
そして数年後、ウルスとミルはある理由から魔導学院へ入学する。そこでは天真爛漫なローナ・能天気なニイダ・元幼馴染のライナ・謎多き少女フィーリィアなど、様々な人物と出会いと再会を果たす。
二度も全てを失ったウルスは、それでも何かを守るために戦う。
たとえそれが間違いでも、意味が無くても。
誰かを守る……そのために。
【???????????????】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。
また、現在カクヨム・ノベルアップ+でも活動しております。
各サイトによる、内容の差異はほとんどありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる