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小話〜エイルから見たレナ〜

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レナがうちに来たのは、僕の誕生日が差し迫る、丁度春先の今の時期だった。

テオンが生まれて、暫く王宮へ挨拶に行ってなかった母上が少し落ち着いたということで、建国祭に合わせて王宮へと向かい、その帰りに森狼に襲われた。

魔物避けを付けていた筈が、いつの間にか盗まれていて、それを知らなかったものだから、手前の町で休まず、夕方に街道を走っていたのが不味かった。護衛の騎士が何とか応戦するものの、数が多く苦戦していたところ、

『小鬼が降ってきたと思ったわ』

というのは母上の談。
とにかく、黒いボロボロの服。目まで隠れるボサボサの髪。そして小さな体。
正体が分からない「塊」が、目にも止まらぬ速さで森狼達を斬りつけていき、そしてぱたりと倒れた。
まあ、空腹で倒れたらしいんだけど。

そんなこんなで、我が家に連れ帰られたその子は、メイド達に洗われ、医師が付き添い、自由に歩き回る頃にはすっかり可愛いらしい少女に変貌を遂げていた。

ただ、表情筋が死んだように動かない。
始めは何を考えているのか分からなかったけど、それも束の間。
目が口ほどにものを言うから。

夕陽を閉じ込めたようなオレンジ色の瞳が、輝いたり影が入ったりと、この子の心模様は案外騒がしいのかも、なんてすぐ分かった。

だから今だって

「エイル様!凄い!こんなに苺が乗ってますよ??」

なんて、ケーキを前にして瞳がキラキラと輝いているんだから。

「レナは苺が好きだもんね」

「はい!この季節しか食べられないのが残念な程です!」

そう言って大事そうに一口を頬張る姿は、リスや鼠のよう。



レナとの思い出で1番印象に残っているのは、テオンを紹介した時だった。

テオンが3歳ということで、暫く会わせてなかったけれど、初めて会わせて、テオンがもう文字を覚えたと説明した時だった。

『え……こわ……』

小さく彼女はそう言った。

それに気づいた僕が彼女を見つめると、バツの悪いような目をして、後でこっそり謝ってきた。

『申し訳ありません、エイル様。3歳で文字を覚えたなんて成長の速さがとても怖く感じて。周りの方もあまり気にしてないようでしたので、その雰囲気がつい……』

正直、僕もテオンが怖かった。僕が読み書き出来たのは5歳で、それでも早いと言われていたのに3歳でなんてと。けれど、これは誰にも言えなかった。

『ですが、エイル様。テオン坊ちゃんはそういうものなんでしょう。考えても無駄です。あ、違いますね、考えるだけ無駄です。これから先、テオン坊ちゃんが規格外のことを度々しでかすでしょう。けれど、自分と比較して思い悩む必要はございません。そういうものなんですから。エイル様はエイル様の良いところを磨き、テオン坊ちゃんがまた何かやらかしたら、またやってるな~と流せば良いのです』

しでかすやら、やらかしたなんて。
今まで周りは褒め称えるだけだったのに、まるでたわいもない悪戯のように言う彼女に、一体何の感情なのか僕はあまりにおかしくて、腹を抱えて大笑いしたのを昨日のように鮮明に覚えている。

だから僕は腐ることなく、跡継ぎとして振る舞えるのかも知れない。

あの大人びたような彼女が、今テオンと一緒に騒ぎを起こしたり、父上に叱られたりするとは思わなかったけれど。

「エイル様。ぼーっとしていたら紅茶が冷めてしまいますよ?」

「そうだね、レナがあまりにも美味しそうに食べるから見惚れちゃった」

「見惚れるなんて…面白いものじゃありませんよ」

「充分面白いよ?」 

「何をご冗談を」

レナは「このイケメン様は全く…」なんてぶつぶつ言っている。たまに意味の分からないことを言っている時があるけれど、テオンもそうだし、きっとこれもそういうものなんだろう。

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