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黒豹に名前を付ける(中々好みには煩いです)

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鼻の良いだろう黒豹の為、千秋は緑色のあいつの様子を見る事にした。
視界に広がっていた画面は消えている。意識すればオンオフ出来るらしいので、オートモード解除と必死に念じた。戦う度に画面が現れたら邪魔で仕方ない。
水場を飛び越して、飛んで行った方向を草を掻き分け探す。やがて、草の倒れている場所に行き当たったが、死体が無い。代わりに、小さな豆粒程度の輝く石と、牙らしい物が落ちていた。

(うわ、触りたくない……)

どうしようかと悩んでいると、思い切り首を絞められた。

「うぐぅ?! 」

パーカーの首がめちゃくちゃ食い込んでいる上に、足が中に浮いている。もしや、あの緑色のあいつは生きていて、背後から襲って来たのかも知れない。

「ぐ、ぐるじぃ……」

(訳も分からずここで死ぬのか……)

そう思っていると、地面に降ろされる。急いで呼吸しむせていると、今度は腰を持ち上げられた。頭と足がぶつかりそうにだらりと下がり、何となく自分は咥えられたのが分かった。

(!!!)

黒豹に獲物の如く咥えられているのだ、どうやってもそんな体験は向こうでは出来ない。もう、何と言うか感無量である。千秋が感動に胸を震わせていると、そのまま黒豹は大きな木まで行き、ゆっくりと木の根本へ下ろされた。……どうやら、上には頑として連れて行ってはくれないらしい。

「あの、ありがとう? 」

黒豹は尻尾をゆらゆらと揺らしてじっと見つめていたが、やがてさっきの水場へと向かって行ってしまった。

「ちょっと、私はどうすれば良いの? 」

取り残されそうになり、慌てて尋ねれば、黒豹は振り向いて千秋を見つめた後、また進んで行ってしまった。

(黙ってここにいろって事? )

仕方ないので、大きな木の根本へ腰掛けて、黒豹の帰りを待つ事にした。




✴︎





「ギャウ」

「……あい、ご飯? 」

小さく鳴かれて、千秋は咄嗟にチーがお腹を空かせて鳴いたのかと飛び起きた。

「……あ……」

目の前には黒豹が、薄暗い森の中で一層黒さを纏って佇んでいた。既に空は暗くなっているのだが、不思議な事に、木の根本が所々光り輝いていて、そこまで暗くはない。

「よく寝てたみたい。どう? お腹空いて喰べる気になった? 」

「…………」

黒豹は答えない。ただじっと千秋を見つめている。尚も声を掛けようと体を起こすと、途端にざらざらと音がして、足元へ何かが大量に溢れた。

(うん? )

じっと目を凝らせば、あの綺麗な石と牙っぽいのと爪っぽいのがこんもりと膝へ乗っていた。

「ひっ……」

思わず悲鳴を上げそうになって、千秋はすんでの所で我慢した。昔、実家で飼っていた猫が、毛の生えてない鼠の赤ちゃんを目の前に持って来た事を思い出した。その時はまだ自分は子供で、猫が自分の為に獲物を取って来たのだと知らずに泣き喚いてしまった。猫は、悲しそうにして鼠を咥えると、何処かへ持って行ってしまった。後から、あれは弱い自分に獲物を分けに来たか、褒めて欲しくてした事だと知って後悔したのだ。その猫は既に亡くなってしまっていたから、余計に胸が痛んだ。

「えと……取って来てくれたの? 凄いね! 黒豹……名前は何だろう。森の主? ……呼びにくいな……黒……ノワール、シュバルツ、ネーロ……くろ助」

「…………」

「くろ助良くない? 」

バシンッ! と黒豹が尻尾を地面に叩きつけた。

「えー、駄目? じゃあ、ネーロ……ネッロは? 呼びやすいし」

「……ギャウ」

「おお、オッケー? じゃあ森の主改めネッロで。君は女の子? 男の子? 」

「…………」

「……分かんないよね、後で確認しよう」

バシンッ! またネッロが尻尾を地面に叩きつけた。どうやら、大体の言葉は通じているらしい。それにしても、だ。

(これ、どうするの? )

こんもりと積まれた石と牙っぽいのと爪っぽいのをどう処理するのか悩む。取り敢えず、酒を入れていたビニール袋にざらざらと移動させて、散らばったのも拾って入れる。後で勿論手を洗いに行く所存である。

千秋が水場で手を洗い、木の根本へ戻って来るのを見届けると、ネッロは木の上へ戻って行ってしまった。お腹が空いた千秋は、ひとまずガムを噛みつつ、夜を過ごすのだった。


清水 千春  人族(仮)

レベル12→15 /999
体力200→340 /150000
魔力1500→1800 /300000
力5→7 /100
知力10→12 /50
俊敏3→5 /50
技術力18→25 /1000
(火魔法?? 水魔法?? 土魔法?? 雷魔法?? 風魔法?? 空間魔法?? 光魔法?? 闇魔法?? 剣術E 棍棒術E )
幸運2→3 /50

スキル 鑑定A 危機回避B 自動翻訳S 擬態A

加護 猫(科)の盟友×8 森の主(ネッロ)の従僕×1 ??? ???


従僕の仮契約が本契約になったと千秋が知るのは、次の日だった。



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