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アデリーネの場合 4
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アベーヌの森の中、きらきらと光を反射する湖の前に、侍従達にピクニックのセッティングをして貰って、俺とダンは敷かれたラグに座った。美味しそうなランチの籠を広げつつ、俺は違和感を口にした。
「……妖精の居る森の割に、魔力が薄くなくって? 」
「確かに、そうかも……」
婚約の儀の霊山は溢れる魔力を感じたけど……取り敢えず地脈を流れる力を魔力とか霊力とか呼ぶらしいのだが、この世の生きとし生ける物全てに魔力が宿っている。ブロキシア山は寧ろ力が溢れ過ぎて荘厳として、返って精霊すら存在しない……みたいな感じだったけど、ここはその魔力が薄く感じる。俺の推測だが、妖精は魔力の相性云々はあるだろうが、強い力が好きな筈。物語とかだと多分そんな感じ。となると、ここには妖精は居ない……か?
「そもそもが、私に妖精が見えるのか……という問題がありますけれど」
「うーん……それは……。それにしても、聞いていた様子と全然違うね」
そう言いながら、ダンはフランスパンのハムサンドを頬張る。後ろでお茶を用意する侍女が居るから、今日はこのまま令嬢の振りを続行しなければならない。まぁ、こっちで育って早十三年目。前世を思い出した時は違和感ありまくりだったが、今となってはお手の物。寧ろその辺の令嬢より令嬢らしいと自負している。
「まぁ、今はゆっくり食べて。後で散策してみようよ。ほら、アディこれとっても美味しいよ」
「ふぐっ」
ダンは了解無しに俺の可愛らしいお口に躊躇なく白パンのサンドイッチを突っ込んだ。婚約発表してからこんな調子で、美少女を着飾るのに飽き足らずに餌付けもするつもりらしい。いや、おままごとに近いのか?
口に入ったサンドイッチを咀嚼すれば、口の中でトマトとハムの旨味がじんわりと広がった。黙って食べる俺に、満足そうに『美味しい? 』と聞いて来るので、頷いておいた。
本当、ダンは俺(美少女アデリーネ)の事好き過ぎない? 入れ替わったら鏡の前でうっとりし過ぎないか今から心配だ。そんな心配など知らずに、ダンはにこにこと俺を餌付けする。まぁ、美男子が微笑んでるのは悪い気がしないし、好きにさせるけど。侍女が微笑ましそうに見てるけど。照れ? もう慣れたよ。
そのままゆっくりと時間は過ぎて、ランチも無事終了。俺達は湖畔を散策する事にした。
静かな森だ。けど、静か過ぎる。鳥の声すら聞こえないのはおかしいって。これってあれか? ヒロインは聖女とかで、地脈の魔力の流れがおかしくて国の危機! ってところをご都合パワーで解決していって、ヒーローと絆を強くして行くとかそんな話? そんで今は危機に向かって序章が始まってるとか? 考え過ぎか? でも、ダンの話では聖域程ではないけど、澄んだ空気に魔力が満ちた森って話なのに、そんな感じが全然しない。空気はまあ、澄んでるか? 普通?
「アディの考えはどう? 」
俺の手を引きながら、ふんわりと笑う美男子。こう、美人は三日で飽きるとか嘘だよな。毎度毎度美しさとキラキラエフェクトに感動すら覚えるんだけど。
「魔力が無いなら足してみようかと思っておりますの」
「足す? 」
「はい。地力を根本から上げる程魔力を持っているとは思いませんが、この界隈の妖精の為に与えるぐらいはあるかと自負しておりますの。ちょっと試しに撒き餌を撒いてみてもよろしいですか? 」
「撒き餌……大地に魔力を注ぐって事? それなら私も一緒にやるよ」
「ですが、下手すれば枯渇するかも知れませんよ? 」
「万が一倒れても護衛も居るから大丈夫。寧ろ枯渇する程使った事がないから、どのくらいか確かめてみたい」
確かに、魔法の練習でもそんな消耗した事無いんだよな。この前の防壁魔法も簡単過ぎて無駄に強固にしてたし……俺もそうだけど、流石攻略対象だよな。ん? ダンはそうかも知れないけど、俺も力が強いのは転生者だから? それとも悪役令嬢が実は立ちはだかる中ボスだからとか言わないよな? 有り得なくも無いか?
ダンがもうちょいストーリーを覚えてくれてたら楽だったけど、そこは仕方ない。取り敢えず、関わる人と仲良くしてれば良いんだよ。現にダンとは仲良し過ぎてほぼ毎日顔を見ない日は無いからな。俺の令嬢っぷりも高評価だし、このままで行こう。
湖畔の真ん中辺りに着いて、俺達はしゃがみ込み、両手を着いて魔力を注ぐ。うーん、空っぽ……って訳じゃないよな、どちらかと言えば滞っている様な雰囲気が手から伝わって来て、ダンと頷き合う。今の所は悪い感じもしないし、これ、流れを促せば良いんじゃね? というのをアイコンタクト出来るとか俺達凄いな?
ダンと魔力を合わせて、流れを捉える。ちょっと力押しだったが、滞っていた流れが正常に動き出したのを感じ、俺とダンは地面から手を離した。立ち上がると目の前が黒くなって立っていられなくなる。やべ、結構魔力使っていたらしい。立ち眩みだ。手足も痺れて力が入らない。よろける俺の腕をダンがしっかりと掴んで、肩を抱き止めた。え? 頼もし過ぎない? 何これ男女の体力差なの? 柄にも無くドキっとしたじゃないか。くそぅ。
そのままダンに促されて座らせられた……んだけど、何これ。胡座をかいたダンの膝に座らせられたんですけど。え、新しいイベントかな?
「えっと……重くない……ですか? 」
「大丈夫、身体強化してるから。可愛いドレスが汚れちゃうから、このままね」
あ、ドレスの心配ですかそうですか。にしても、身体強化出来るぐらい余裕があると言うのか、このハイスペック王子は。えー、じゃあもし悪役令嬢がボス的立ち位置だったら、俺やられちゃわない? これ入れ替わったら俺にダンがぺしっとあしらわれて終わっちゃうよ? これは、魔力強化を図るべきなのか?
むむむと唸っていると、前髪がするっと掬われる。顔を上げれば、満面の笑みで覗き込んで来るダンの深い青い瞳が目に入った。
あーーー! 分かってるから! 綺麗なのは分かってるから! 俺に変な扉を開けさせないで! いや、美しさは男女関係ないとは思ってるけど! 何でそんなご機嫌なんだよ、自分の方が魔力に余裕があるから嬉しいのか?! そうなのか! その喧嘩買うぞ? 今無理だけど。
「……ダン様見過ぎですわ」
「せっかくこんな近くにアディが居るんだもの。じっくり堪能しても良いでしょう? 」
「うぐっ…………どうぞお好きになさって下さいませ」
本当にお前ってば俺(美少女アデリーネ)の事好きな? お兄さん将来心配だよ、ナルシスト拗らせないか。
ダンが嬉しそうに頭を撫でているので、俯き加減に頭を差し出す。くっ! いくら餌付けの照れは無くなったと言ってもこれは恥ずかしい。気持ちは良いけど、恥ずかしい! 何これ何かの羞恥プレイなの? 絶対俺の事人形扱いしてるだろ、これ!
暫くすると、大地からほわほわと魔力が上がるのが分かった。どうやら地脈が正常に流れ始めたらしい。
「これで妖精が出て来ると良いのですけれど……」
「これをやったのはお前達か? 」
突然低めの女の声がして、俺は顔を上げた。いつの間にか、俺達の前に黒髪に黒目、おまけに黒いドレスの白い肌以外は真っ黒な美人が立っていた。
護衛が側へ来ようとしているが、どうにも近付けないらしい。突然の事にまじまじと女の顔を見てしまう。黒目がちな瞳に、ふさふさの睫毛。昔の少女漫画の様な迫力美人である。
「ここは龍脈が滞っているのは知っていたが、今は流れを司る夫が不調であった為に手を出せず困っておったのだ。流れを促したのは、お前達で間違いないな? 」
「そうですね。ここの地脈の流れを弄ったのは私達です。私はダリウス・ミレネー・アダートラン。こちらは婚約者のアデリーネ・エト・ハーフス。失礼ながら、貴女様はどちら様でしょう? 敵意が無いのは分かるのですが」
ダンが俺の肩を抱き寄せ、立ち上がる。俺もゆるゆるとした動作で立ち上がると、女と対峙した。長身のモデルの様な体型で、ちょっと見上げてしまう。
「アダートラン……この地の王族だったか? ほう、それで……。妾はこの大陸の守護を司る古竜の番、メディエーヌ。ここより東の龍脈の力場を守る夫に代わり、この地の異常事態を把握しに参った」
古竜とかゲームっぽいの来た来たぁ! しかもこれはやっぱり後々のイベントだよな? 大方、不調の古竜が転じて魔王とか世界の脅威とかになるとか? それか、この龍脈の不具合をヒロインとヒーローが癒して回るとか? と、すれば一つイベントを潰せたんじゃね?
「まさか、エインテルのドラゴンの番? まさかここまで御出でになるとは」
「本来ならばエインテル周辺の調節だけで手一杯なのだが……。ここも後数年は保つかと思い放っておいたのだが、よもや解消し得る者がおったとは、妾も驚いた」
うーん、転移魔法が出来る程の魔女が手一杯って相当なのか?
「失礼ながら、古竜様はそこまでお体の調子が悪いのですか? 」
「……十三年程前からか、地脈の流れが滞る様になって来てな。まあ、千年周期でそうなるらしいとは聞いていたのだが……。古竜は龍脈の管理をし、世界の調節に携わる者。淀んだ龍脈を体内を通して浄化するのだが……浄化が追いつかぬ」
すらすら重要案件教えてくれるのは有り難いけど、これあれじゃね? このまま行くと世界が淀んだ魔力で溢れるって事で、ヒロインは聖女召喚されて登場しそうな気がする! という事はこれを解決して行けば、ヒロイン来ない、ゲーム始まらない、誰も傷つかない。そんで入れ替わって俺とダンもそれぞれハッピーエンド、ヒロインも異世界から誘拐紛いな事をされずに一安心。
…………何これ最高かよ。
「淀んだ龍脈がこのまま溜まって行くとどうなるのですか? 」
「……我が夫が、気を病んでしまうかも知れぬ。淀んだ龍脈はこの世の毒。溢れれば、今異常魔性の化け物が生まれる事になるだろう」
ふんふん、淀んだ魔力のせいで魔物が増えると。エンシェント……長いな、古竜が狂う前に解決必須か。
「……ダン様。今魔物討伐の手は足りておりますの? 」
「うーん、増えている報告はあるけど、足りてない程じゃない筈」
「では、もう少し増えても問題ございませんわよね? 」
「え? 」
「は? 」
ダンと魔女が驚いた声を上げたけど、そんなに驚かんでも。
「古竜様にだけ負担を強いるから後々大変になるのです。狭い範囲とはいえ、ダン様と私でこの場の流れを変えられたのですから、他の力のある方達と協力し合えば出来ない筈ございませんもの。ほら、地脈は川の様に流れていると言われますから、川の形や重要点を教えて頂ければ、その地に人を寄越して対処出来ますでしょう? 皆で住む土地ですもの。皆で助け合うのは当たり前の事ですわ。それによって多少時間が掛かり、魔物が増えても対処して行けば、魔石や毛皮などアイテム取り放題。騎士や冒険者の仕事が回る……。序でに戦争してる暇が無くなるので、暫く安泰……とは、そこまで上手く行きませんかしら」
にっこり微笑めば、二人共固まったままこちらを凝視している。え、無理なの? まあ世界の調節とか言ってるから、もうそれ神の域だもんね? え、この世界の神はドラゴンなの? そんなの人がやるとか烏滸がましいか?
「……古来からそれが古竜や番の責務だと考え生きて来たから、要請は受けても他の者に任せるなど思いもせなんだ。相性はあるやも知れぬが……出来なくは無い……か? 」
「後、古竜様も小出しに力を放出されたら良いのです。多少火山が噴火してしまうか、魔物が増えるかは分かりませんが、エインテル火山は今も溶岩溢れる活火山だと聞いております。多少頻度が増えても、大噴火に比べたら世界への影響も少ないでしょう。浄化するのを止めろとは申しませんが、多少の不具合が混ざっているものの、噴火のエネルギーに昇華させても良い気はするのです」
「……面白い。世界を混沌に沈めても良いと? 」
「このまま行けば混沌となるので、その前に消化して行きましょう、というご提案ですわ」
魔女の笑顔迫力あります。が、俺も負けじとうふふと笑ってみせる。
「古竜様は最早神にも等しいお立場。天啓として各国のトップにお伝えすれば、国自体が動くやも知れません。馬鹿な者は動かないでしょうが、全く無いよりは幾人かが動いた方がマシというもの」
「ふふ、世界の行く末を案じての言葉に聞こえるが、それだけか? そなたの案は一計の価値があるが、只の無欲で動くとは思えぬが」
お? 話が分かるね!
「私の望みは……」
そうして、俺は魔女へと近づく。彼女は少し訝しげに片眉を上げたが、俺のしたい事を察して屈んでくれた。それを受けて俺は手を添えて彼女の耳元に小声で話しかける。聞き終わった彼女は姿勢を正すと、
「そなた……阿保よなぁ……」
と、残念な子を見るかの様に俺を見下ろした。は? 切実なんですけど? いや、俺も美少女な自分は好きだけどさ。良いじゃんか、希望を持ったって。
「……妖精の居る森の割に、魔力が薄くなくって? 」
「確かに、そうかも……」
婚約の儀の霊山は溢れる魔力を感じたけど……取り敢えず地脈を流れる力を魔力とか霊力とか呼ぶらしいのだが、この世の生きとし生ける物全てに魔力が宿っている。ブロキシア山は寧ろ力が溢れ過ぎて荘厳として、返って精霊すら存在しない……みたいな感じだったけど、ここはその魔力が薄く感じる。俺の推測だが、妖精は魔力の相性云々はあるだろうが、強い力が好きな筈。物語とかだと多分そんな感じ。となると、ここには妖精は居ない……か?
「そもそもが、私に妖精が見えるのか……という問題がありますけれど」
「うーん……それは……。それにしても、聞いていた様子と全然違うね」
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「まぁ、今はゆっくり食べて。後で散策してみようよ。ほら、アディこれとっても美味しいよ」
「ふぐっ」
ダンは了解無しに俺の可愛らしいお口に躊躇なく白パンのサンドイッチを突っ込んだ。婚約発表してからこんな調子で、美少女を着飾るのに飽き足らずに餌付けもするつもりらしい。いや、おままごとに近いのか?
口に入ったサンドイッチを咀嚼すれば、口の中でトマトとハムの旨味がじんわりと広がった。黙って食べる俺に、満足そうに『美味しい? 』と聞いて来るので、頷いておいた。
本当、ダンは俺(美少女アデリーネ)の事好き過ぎない? 入れ替わったら鏡の前でうっとりし過ぎないか今から心配だ。そんな心配など知らずに、ダンはにこにこと俺を餌付けする。まぁ、美男子が微笑んでるのは悪い気がしないし、好きにさせるけど。侍女が微笑ましそうに見てるけど。照れ? もう慣れたよ。
そのままゆっくりと時間は過ぎて、ランチも無事終了。俺達は湖畔を散策する事にした。
静かな森だ。けど、静か過ぎる。鳥の声すら聞こえないのはおかしいって。これってあれか? ヒロインは聖女とかで、地脈の魔力の流れがおかしくて国の危機! ってところをご都合パワーで解決していって、ヒーローと絆を強くして行くとかそんな話? そんで今は危機に向かって序章が始まってるとか? 考え過ぎか? でも、ダンの話では聖域程ではないけど、澄んだ空気に魔力が満ちた森って話なのに、そんな感じが全然しない。空気はまあ、澄んでるか? 普通?
「アディの考えはどう? 」
俺の手を引きながら、ふんわりと笑う美男子。こう、美人は三日で飽きるとか嘘だよな。毎度毎度美しさとキラキラエフェクトに感動すら覚えるんだけど。
「魔力が無いなら足してみようかと思っておりますの」
「足す? 」
「はい。地力を根本から上げる程魔力を持っているとは思いませんが、この界隈の妖精の為に与えるぐらいはあるかと自負しておりますの。ちょっと試しに撒き餌を撒いてみてもよろしいですか? 」
「撒き餌……大地に魔力を注ぐって事? それなら私も一緒にやるよ」
「ですが、下手すれば枯渇するかも知れませんよ? 」
「万が一倒れても護衛も居るから大丈夫。寧ろ枯渇する程使った事がないから、どのくらいか確かめてみたい」
確かに、魔法の練習でもそんな消耗した事無いんだよな。この前の防壁魔法も簡単過ぎて無駄に強固にしてたし……俺もそうだけど、流石攻略対象だよな。ん? ダンはそうかも知れないけど、俺も力が強いのは転生者だから? それとも悪役令嬢が実は立ちはだかる中ボスだからとか言わないよな? 有り得なくも無いか?
ダンがもうちょいストーリーを覚えてくれてたら楽だったけど、そこは仕方ない。取り敢えず、関わる人と仲良くしてれば良いんだよ。現にダンとは仲良し過ぎてほぼ毎日顔を見ない日は無いからな。俺の令嬢っぷりも高評価だし、このままで行こう。
湖畔の真ん中辺りに着いて、俺達はしゃがみ込み、両手を着いて魔力を注ぐ。うーん、空っぽ……って訳じゃないよな、どちらかと言えば滞っている様な雰囲気が手から伝わって来て、ダンと頷き合う。今の所は悪い感じもしないし、これ、流れを促せば良いんじゃね? というのをアイコンタクト出来るとか俺達凄いな?
ダンと魔力を合わせて、流れを捉える。ちょっと力押しだったが、滞っていた流れが正常に動き出したのを感じ、俺とダンは地面から手を離した。立ち上がると目の前が黒くなって立っていられなくなる。やべ、結構魔力使っていたらしい。立ち眩みだ。手足も痺れて力が入らない。よろける俺の腕をダンがしっかりと掴んで、肩を抱き止めた。え? 頼もし過ぎない? 何これ男女の体力差なの? 柄にも無くドキっとしたじゃないか。くそぅ。
そのままダンに促されて座らせられた……んだけど、何これ。胡座をかいたダンの膝に座らせられたんですけど。え、新しいイベントかな?
「えっと……重くない……ですか? 」
「大丈夫、身体強化してるから。可愛いドレスが汚れちゃうから、このままね」
あ、ドレスの心配ですかそうですか。にしても、身体強化出来るぐらい余裕があると言うのか、このハイスペック王子は。えー、じゃあもし悪役令嬢がボス的立ち位置だったら、俺やられちゃわない? これ入れ替わったら俺にダンがぺしっとあしらわれて終わっちゃうよ? これは、魔力強化を図るべきなのか?
むむむと唸っていると、前髪がするっと掬われる。顔を上げれば、満面の笑みで覗き込んで来るダンの深い青い瞳が目に入った。
あーーー! 分かってるから! 綺麗なのは分かってるから! 俺に変な扉を開けさせないで! いや、美しさは男女関係ないとは思ってるけど! 何でそんなご機嫌なんだよ、自分の方が魔力に余裕があるから嬉しいのか?! そうなのか! その喧嘩買うぞ? 今無理だけど。
「……ダン様見過ぎですわ」
「せっかくこんな近くにアディが居るんだもの。じっくり堪能しても良いでしょう? 」
「うぐっ…………どうぞお好きになさって下さいませ」
本当にお前ってば俺(美少女アデリーネ)の事好きな? お兄さん将来心配だよ、ナルシスト拗らせないか。
ダンが嬉しそうに頭を撫でているので、俯き加減に頭を差し出す。くっ! いくら餌付けの照れは無くなったと言ってもこれは恥ずかしい。気持ちは良いけど、恥ずかしい! 何これ何かの羞恥プレイなの? 絶対俺の事人形扱いしてるだろ、これ!
暫くすると、大地からほわほわと魔力が上がるのが分かった。どうやら地脈が正常に流れ始めたらしい。
「これで妖精が出て来ると良いのですけれど……」
「これをやったのはお前達か? 」
突然低めの女の声がして、俺は顔を上げた。いつの間にか、俺達の前に黒髪に黒目、おまけに黒いドレスの白い肌以外は真っ黒な美人が立っていた。
護衛が側へ来ようとしているが、どうにも近付けないらしい。突然の事にまじまじと女の顔を見てしまう。黒目がちな瞳に、ふさふさの睫毛。昔の少女漫画の様な迫力美人である。
「ここは龍脈が滞っているのは知っていたが、今は流れを司る夫が不調であった為に手を出せず困っておったのだ。流れを促したのは、お前達で間違いないな? 」
「そうですね。ここの地脈の流れを弄ったのは私達です。私はダリウス・ミレネー・アダートラン。こちらは婚約者のアデリーネ・エト・ハーフス。失礼ながら、貴女様はどちら様でしょう? 敵意が無いのは分かるのですが」
ダンが俺の肩を抱き寄せ、立ち上がる。俺もゆるゆるとした動作で立ち上がると、女と対峙した。長身のモデルの様な体型で、ちょっと見上げてしまう。
「アダートラン……この地の王族だったか? ほう、それで……。妾はこの大陸の守護を司る古竜の番、メディエーヌ。ここより東の龍脈の力場を守る夫に代わり、この地の異常事態を把握しに参った」
古竜とかゲームっぽいの来た来たぁ! しかもこれはやっぱり後々のイベントだよな? 大方、不調の古竜が転じて魔王とか世界の脅威とかになるとか? それか、この龍脈の不具合をヒロインとヒーローが癒して回るとか? と、すれば一つイベントを潰せたんじゃね?
「まさか、エインテルのドラゴンの番? まさかここまで御出でになるとは」
「本来ならばエインテル周辺の調節だけで手一杯なのだが……。ここも後数年は保つかと思い放っておいたのだが、よもや解消し得る者がおったとは、妾も驚いた」
うーん、転移魔法が出来る程の魔女が手一杯って相当なのか?
「失礼ながら、古竜様はそこまでお体の調子が悪いのですか? 」
「……十三年程前からか、地脈の流れが滞る様になって来てな。まあ、千年周期でそうなるらしいとは聞いていたのだが……。古竜は龍脈の管理をし、世界の調節に携わる者。淀んだ龍脈を体内を通して浄化するのだが……浄化が追いつかぬ」
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…………何これ最高かよ。
「淀んだ龍脈がこのまま溜まって行くとどうなるのですか? 」
「……我が夫が、気を病んでしまうかも知れぬ。淀んだ龍脈はこの世の毒。溢れれば、今異常魔性の化け物が生まれる事になるだろう」
ふんふん、淀んだ魔力のせいで魔物が増えると。エンシェント……長いな、古竜が狂う前に解決必須か。
「……ダン様。今魔物討伐の手は足りておりますの? 」
「うーん、増えている報告はあるけど、足りてない程じゃない筈」
「では、もう少し増えても問題ございませんわよね? 」
「え? 」
「は? 」
ダンと魔女が驚いた声を上げたけど、そんなに驚かんでも。
「古竜様にだけ負担を強いるから後々大変になるのです。狭い範囲とはいえ、ダン様と私でこの場の流れを変えられたのですから、他の力のある方達と協力し合えば出来ない筈ございませんもの。ほら、地脈は川の様に流れていると言われますから、川の形や重要点を教えて頂ければ、その地に人を寄越して対処出来ますでしょう? 皆で住む土地ですもの。皆で助け合うのは当たり前の事ですわ。それによって多少時間が掛かり、魔物が増えても対処して行けば、魔石や毛皮などアイテム取り放題。騎士や冒険者の仕事が回る……。序でに戦争してる暇が無くなるので、暫く安泰……とは、そこまで上手く行きませんかしら」
にっこり微笑めば、二人共固まったままこちらを凝視している。え、無理なの? まあ世界の調節とか言ってるから、もうそれ神の域だもんね? え、この世界の神はドラゴンなの? そんなの人がやるとか烏滸がましいか?
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「後、古竜様も小出しに力を放出されたら良いのです。多少火山が噴火してしまうか、魔物が増えるかは分かりませんが、エインテル火山は今も溶岩溢れる活火山だと聞いております。多少頻度が増えても、大噴火に比べたら世界への影響も少ないでしょう。浄化するのを止めろとは申しませんが、多少の不具合が混ざっているものの、噴火のエネルギーに昇華させても良い気はするのです」
「……面白い。世界を混沌に沈めても良いと? 」
「このまま行けば混沌となるので、その前に消化して行きましょう、というご提案ですわ」
魔女の笑顔迫力あります。が、俺も負けじとうふふと笑ってみせる。
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お? 話が分かるね!
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