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魔王、俺の初恋を返せ!

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『……あの、恥ずかしいですわ。そんなに見つめないで下さいまし』

そう、頬を赤く染めて視線を逸らした彼女の、何と儚げな姿だったか。艶やかなストロベリーブロンドの長い髪と同じ色の睫毛が縁取るエメラルドの瞳は、下を向いていて僕を見てはくれないけれど、それでもキラキラと光り輝いて思わず覗き込みたくなってしまう。

彼女が悪いのだ、そんなに可愛らしいから。だから僕は不躾にもじっと見つめてしまうんだ。お茶会で出会った、僕の初恋の彼女。それからずっと一緒だった。それなのに……。




「もう行くよ!  いつまで寝てんだ!  」

「いてっ?!  何すんだよ??  」

頭に衝撃が走って慌てて飛び起きた。
目の前にはふんっ、と鼻で笑う腹立たしいあいつが仁王立ちで俺を見下ろしていた。赤っ茶けた短い髪は傷んでゴワゴワで、日に焼けた肌に女性とは思えない、実践で付いた筋肉。……どうやらこの女に足で頭を小突かれたらしい。

「お前には優しさという概念が無いのか?!  人の頭を蹴るなって毎回言っても聞かねーな、この女ぁ……」

「何回起こしても起こしても起きないお前が悪い!  今日はジョーゼの森に行くって言ってたのに。てめーのせいで遅くなる!  森の主が居なかったら、お前、一週間飯代持ちな?  」

「んなの、転移出来るから関係ねーだろ、この暴力女!  」

そう言うと、若葉色の瞳が厳しく俺を睨む。

「あ、そー。そう言う事言うんだ?  今日は大仕事だから、朝から特性スモークオーク肉&ベリートマトのサンド作ってやったのに、いらないんだー?  」

「いります、食べさせて下さい!  ミリー様、いや、ミリー女神様!  」

「ったく、最初っからその態度にしとけっつんだよ、こいつ……」

そう言いながらも、ひょいとサンドの入った包みを俺に投げる。殆ど毎朝こんなやり取りで、はっきり言えば習慣みたいになっている。

俺達はギルド所属の流浪の冒険者だ。
13年前、お互い住んでいた国が魔王復活の余波で高まった黒い魔力で活発になった魔物に襲われて、攻防虚しくあっという間に壊滅した。
子供だった俺らはお互い命辛々逃げて来て、それとなく一緒に居る様になって、森で食べ物をどうにか集め、魔物に怯えながら暮らしていた。
一応、ギルド登録は12歳から出来たから、俺は12歳になると直ぐにギルドに所属して、薬草集めやお使いをこなして、何とか日銭を稼いで二人で生きて来れたんだ。なのに、ミリーの奴は恩を恩とも思っていない態度だ。少しは敬えこの暴力女!

「あ、うまっ」

ま、料理の腕だけは認めてやるけどな!  食事は冒険において大事だから言う事聞くけど、後は駄目だ。女子力無いし。

「あんた何か失礼な事考えたでしょ?  」

「は?料理褒めただけだろ?  」

「何か薄っすらそんな気がしたんだけどなー」

長年一緒に居るから、大体の思考が読まれるのも面倒臭い。が、良いや。後少しでこんな生活も終わるんだから。

魔王が復活してからその近辺には結界が張られて、魔王の本拠地からは禍々しい黒の魔力が放出を続け、今空は元々の澄んだ青色を失い、赤黒く変色してしまった。
魔王に近付くにはその結界の術の核を一つ一つ潰して行かないといけないんだが、まあ、そう簡単に潰させてもくれなくて、核のある場所には必ず主が居る。そしてそいつを倒さなければ核も出現しないと来たもんだ。
現れるのも条件があったりランダムだったりで、本当にこの数日は苦労させられた。
だっていねーんだもん、最後の核の主!!
ずっと時間ずらしては様子見に行って、空振りで……だが、奴は早朝、日の出の前の僅かな朝焼けの時間に現れると掴んだんだ!  まだ辺りは真っ暗だし、俺は断じて寝坊して無い!

ミリーから貰ったサンドイッチを食べ終えると、肉体強化と状態以上回避が体に付与された。これは消化されるまでこのままだから、魔物の肉も強ち馬鹿に出来ない。まあ、後はミリーの付与魔法のおかげだけども。本当にそこだけだな、感心出来るの。

「よっしゃ、行くか!  」

「ったく、待ちくたびれたっつの」

本当に口悪いな、こいつ……。ミリーは体に不釣り合いな大剣を片手で持ち上げると、俺の肩に手を乗せた。

「じゃ、宜しく~」

「はいはい、離すなよ?  」

「分かってるって」

また何時ものやり取りをして、俺達は俺の転移魔法でジョーゼの森へと飛んだ。

俺達は冒険者であって、勇者なんかじゃない。勇者も何年か前連合した国々から輩出したらしいけど、そんな事は俺達には関係無い。別に聖なる剣が必要って事でも無いし、ただ、圧倒的な力が有れば良いんだ。

俺はこの13年、ただ冒険者をして細々と生きて来た訳じゃない。全てはあの憎き魔王を倒す為に鍛えて来た。しかも、他の人がしないやり方で。

まだギルドに所属出来なかった頃、ある時森の食べ物が見つからない日が続いて、あまりの空腹の為に俺達は……倒したスライムを食った。

それは魔法使いの俺が微力ながらも氷魔法で凍らせて、ミリーが木の枝で叩いて粉々にしたのだけど、背に腹はかえられないとしてそのまま噛り付いた。他の魔物だって毒無しの物は食うんだから、細かい事は言ってられなかった。
スライムは結論から言えば糞不味い。とにかく苦い。
子供の舌とか関係無く苦い。
でも、そのスライムは毒無しだったから、腹に溜まるなら何でも良いと思って食った。
だってあの頃は何処の国も村も貧しく、俺達を助けてくれる奴は居なかったんだ。

……そうしたら、倒した経験値の他に『悪食スキル』なんて変なスキルを会得して……レベルが上がった。と、同時に既存の魔力がぐんと跳ね上がった。……スライムは高魔力の塊だったのだ。俺達はそれから取り憑かれた様にスライムを喰いまくった。時には毒に何日も寝込んだり、腹を壊したり散々だった。
不味いし。どうやっても不味い。

……が、子供でも倒せるスライムなのに、子供では到底取得する事が出来ない経験値を稼ぎまくった。

だからこそ、俺は今現在転移魔法を使っても魔力は減らないし、ミリーは付与魔法を極めて何にでも魔法を付与出来る。料理然り、剣然り、肉体強化にも。でも触らないといけないのがちょっと面倒臭い。放つ系は全然覚えられないのな、脳筋だからか?

そう思っている間にも、とっくに転移してジョーゼの森をずんずんと進んでいた俺達は、目の前の光景に絶句した。

焼け焦げた木々に焦げて確認不可の魔物の死骸。そして……

「核が壊されてる……」

ミリーの呆然とした言葉に、俺は一瞬で頭に血が上った。誰だよ、人の楽しみを潰した野郎は?!
ここまでに核は12個。これが13個目だった。それを……誰も手が出せなかったそれを、時間を掛けて俺達がせっせと潰して回って来たのに、最後の締めを横から土足で踏み荒らしたな?!

恐らく目がつり上がっているだろう俺の肩を、ミリーは溜息混じりにぽんぽんと叩いた。

「仕方ない。うちらの目的は魔王だし。主の死骸も残っていて良かったじゃん?  」

そう言うミリーの顔は少し困った様にも見える。が、直ぐににんまりと笑顔になった。

「さ、あれ喰うよ。火を起こしてくれない?  」

まあ、過ぎてしまった事はこの際仕方ない。俺達は邪魔しやがった奴等を追う前に、腹は減っていないが飯にする事にした。鑑定では毒も無い様だし。それにしたって黒焦げってなんだよ、食材に対する冒涜だろうが!!  なって無いんだよ、倒し方が。


「はい、ローストビーフ風~」

無事な箇所をナイフで剥ぎ落とし作ったのは、主のローストビーフ風。ミリー特性のソースは美味いけど……肉は酸っぱ苦いな、やっぱな。核の主で美味かった試しがないもんな。今回は時間も無かったし。仕方ないな。……ソースは美味え。

肉体強化+140、状態以上回避+200、通常回復、幸運上昇、即死回避、獲得経験値10倍になったか。……うーん、俺にとっては対して変わらんけどまあ良いか。

「やっと行けるね、魔王のとこ」

考えに耽っていた俺の横にいつの間にかミリーが座っていた。膝を抱えているその姿は、珍しく怖気付いている様にも見える。

「何だよ、怖いのか?  」

そう言うと、ふるふるとかぶりを振る。

「ううん、この日が来るのをずっと待ってたんだから。奴が復活しなかったら、私の故郷は、父様と母様は……兄様だって死ななくて済んだ。罪の無い人が死なずに済んだ。絶対に許さないし、放置して良い事じゃない」

「……そうだな。俺だって、」

「はいはい、初恋の人の敵討ちなんでしょ!  耳タコよ。どんだけ一途?!  」

「……」

そうだ。俺だって両親も兄弟も皆、皆死んだ。あの可愛い愛しいあの子ももういない。

「さ、行こっか?  先越されたら其奴らぶん殴りそう」

「……だな、行くか。ほら、掴まれ」

「ん。ねえ、ジーク?  私……」

ミリーの言葉は、転移魔法の空間の歪みに掻き消され、聞くことが出来なかった。



魔王がいる筈の城の玉座の間へ向かう。カッカッと踵の音が響く廊下はボロボロの壁で囲まれている。今にも崩れそうだ。人気が全く無いが、まさか邪魔した奴等が倒したか?!  そんな……そんな事は許さないっ!!

勢い良く広間の扉を開けると、目の前には数人倒れて呻いてる人影が見えた……が、俺は奥の黒い靄に視線が吸い込まれた。

「魔王……っ!!  」

「ああっ何なのあの姿は?  」

それは実態が無かった。黒い霧の様な何かが、ふよふよと揺れている。けれど、しっかりと存在感があり、魔力量からしてもそこに居るのだと確信が持てる。

「……うう、君達逃げな……さい。あれは勝てない……」

辛うじて息があったのか、倒れていた女が上半身を起こして、魔王を凝視していた俺達に声を掛けてきた。

「……お前らか、最後の核を壊しやがった馬鹿共は」

俺はきっと睨んでたのだと思う。瀕死な所悪いけど、勝手したのは其奴らだ。

「なっ、何を?  私達は国連の勇者一行だ……君達では敵わない。今直ぐに増援を……!  」

そう言う瀕死の女の口に、ミリーがローストビーフ擬きを突っ込んだ。

「?!  美味……っ苦酸っぱ?!  」

まあ、あれで女は大丈夫だろう。魔王を見ると、まだゆらゆらとしていて、楽しそうにも見える。が、それが気に入らない。俺の大事なもの全て奪っておいて、こんな手間掛けさせやがって、楽に死ねると思うなよ。

「ミリー、手を」

「うん」

手を繋いで流れる魔力に集中した。俺は魔力を練ると、ミリーの付与魔法と混ぜた。

「業火よ、燃え尽くせ!!  」

黒い霧に炎魔法最大級をお見舞いする。

「駄目だ、それでは直ぐに消されてしまう!  」

勇者一行だか何だか知らねえけど、横からごちゃごちゃうるせーな。

「空間魔法。隔離強化設定……圧縮」

「ぐああああっ」

魔王は俺の切り取った空間に閉じ込められ、炎に焼かれている。魔法の炎は空気が無かろうと魔王の魔力が尽きるまで燃え続ける。そうミリーが付与したからだ。

最初は天井まであった大きな霧が、徐々に小さくなって行く。いつまで燃え続けるのだろう?  俺はわくわくしながら、その光景を眺めていた。

「そんな、あんな魔法見たこと無い……」

女が呆然としているが、知るか。これは俺達が死にもの狂いで作った魔法なんだよ。ああ、他にギャラリーが居るとやっぱりうざったいな。二人で居たかったのに……。

「あ、こっちも息があるね、まだ食べ物あったかな……」

ミリーは魔王の最後を見届けるでも無く、倒れている奴等を助けるらしい。あの時助けてくれなかった国の奴らだっつーのに、その優しさを俺にもほんの少しくれれば良いのに。

俺は起き上がっていた女に視線を移した。少し目付きがキツくなっているかも知れない。

「おい、女」

「ひっ、は……はい」

「国は何処だ?  」

「あ、えと……ベルエンです、けど……」

「分かった。城に飛ばす」

「えっ?!  」

そう言って肩に手を置いた途端、呆けている女の顔は俺の目の前から消え去った。

「あ、ちょっとそれ受け身取れないと大変な奴でしょ?!  」

「うるさい」

俺はミリーを無視して、重症だろうが死んでいようが、転がっている全ての者に順に触れて飛ばした。

「全くもう!  乱暴なんだから!  」

「ミリー……」

「何?  」

俺はそっとミリーを抱き締めた。終わった。全て終わったんだ。あの子だってきっと……。

「ちょっと、何?!  ジーク?  」

「ミリー、終わったな。全部。……長かったな」

「……終わったんだ、ね……。長かった。長かったよ……。でも私ジークが居たから……」

「ふ、柄にも無く泣いてんのかよ。ほら、お兄さんの胸でお泣きなさい?  」

「ふふ、何よそれ……馬鹿にしてっ……ふ、く……っ……」

俺達は魔王が燃え続ける明かりの中、長い時間抱き合っていた。




ーーーーーー




それから2年が経った。



「王様万歳!!  王妃様万歳!!  」

「おめでとうございます!!  王様!  王妃様!!  」

「まあ、素敵ね。あんなにお若いのに凛々しくてらっしゃるわ」

「王妃様なんて美し過ぎて女神様の様よ、見てあの肌。色が白くてらして……羨ましい」

バルコニーの下は、新しく建国したこの国の国民達が集まっている。魔王が復活した場所は潰れてしまった前の国の城内だった。そして、復活の儀式をしたのは愚かにも……俺の父親、前国王だった。病に倒れた奴、前国王は力を欲したのだ。永遠の力を。

復活の日、第三王子で子供だった俺は王妃である母と兄二人に指示された騎士に守られ国の外へと連れ出された。その前に俺は急いでミリーだけでも連れて行く!  と、泣き叫ぶ彼女を宥めながら無理矢理一緒に逃げた。ミリーのご両親と兄達も宰相として、また国の為として何とかしようと国内に残り亡くなった。無論、俺の家族だって。俺を連れた騎士達も増えた魔物を退治しながら、一人、また一人と死んで行った。

俺は逃げた先で近隣の国へ手紙を出した。が、魔王出現による混乱の上に皆自国の守りが優先で、子供の俺の話しを聞く者など居なかった。まあ、それはそれで死んでやるものかと良い指針になったけど。


魔王は突然発生したものとして、それを俺が倒した国の英雄だと示して国庫の宝飾品を売り払い、近隣の諸侯に頭を下げて国を復興することにした。まだまだやる事は多いし、分からない事も星の数程もある。だけど、

「ミリュシオン、今日は一段と綺麗だ」

そう隣に佇むミリーに言えば、彼女は頬を赤らめて、はにかんだ。なのに、

「まあ。目が悪くなられてしまわれたのかしら?  ジークフリード様は?  」

と来たもんだ。口調は直ったけど、相変わらず口が悪いな。けれど、何を口にしたって可愛い。ずっとずっと、彼女が居るべき場所へ帰してあげたいと思っていた。

過酷な旅で荒んだ姿が嘘の様に、綺麗に結われたストロベリーブロンドの髪も、白く透き通る肌も、赤く染まる頬も、綺麗に輝くエメラルドの瞳も。昔に戻ったみたいに本来の彼女そのものへと回復した。

「そんな訳無いだろう?  が好きな人はずっと変わらないよ、初恋の人。ずっとずっと魔王の呪縛から取り返したかった。他ならぬ君を。今更だけど、心も俺のものになってはくれないだろうか、ミリー」

初恋の人が誰だと言って無かったから、ミリーは驚いた顔をしている。そんなに驚く?そこ。ずっと一緒に居るから気付いてるのかと思ってた。

「……初恋って……何よ。言ってよ。私、私だって、ずっとジークの事……」

そう言って泣き出すミリーの手を取って、そっと口付けする。

「返事をして貰えないか、ミリー」

「もう全部ジークのものにしてよ……」

おいおいおい?!  何その口説き文句?!  まだ披露宴とか続くんだけど?!  今夜覚悟しろよ!!  

俺は堪らず空を見上げた。空高く打ち上げた魔王だったモノは、まだチラチラと燃えて鈍く光っている。魔力はもう半年程で跡形も無く消えるだろう。

「初恋、返して貰ったからな。糞野郎」

そう声にもならない呟きをして、俺はミリーの手を取って、民衆へ手を振った。



ーーーーーー




魔王の所へ行く前、ミリーが口にした言葉。それは……

「ん。ねえ、ジーク?  私……初恋の人の代わりになれないかなぁ?私じゃ駄目……?  」



それは彼女の最大の勇気を込めた言葉だった。




おしまい
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