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29、違う意味で歩く爆心地、再び

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焼き飯は深皿に平皿を蓋にして配られる。これは後で返しに来なければならないので、屋台の看板を覚えておかなければ。
熱々の器を、マキナから借りた布で包んで結び目を持とうとして、フェリクス様に奪われた。片方の手はまだ私の手首を掴んでいる。

「次は焼き魚だな?  あの屋台、売り切れて無ければ良いが……」

そう言う彼に、私は何言う訳でもなく付いて行く。一人歩きでやらかしているので、信用がないだろう事は分かっているけれど、手首を引っ張られるのは子供の世話をされている様で恥ずかしい。かと言って夫婦や恋人でもないので、腕を持つなどもっと有り得ないけれど。

先程並んでいた焼き魚の屋台はいくらか人が減っていた。どうやら焼き上がりと共に人数が捌けたらしい。また列に並び焼き上がりを待つと、買い出しに出てから随分と時間が経ってしまった。串刺しの魚を持ち帰り様の大きな葉で包んで貰い受け取ると、それは流石に自分で持って行くと言い張って死守しつつ、私達はゲルへと戻った。

人混みから出ると、フェリクス様は手を離してくれたので、ほっとする。

ゲルには既にマキナとエドが戻って来ていて竃には小鍋に入った野菜スープと、焼き魚と同じ様な葉の包みが二つ横に置いてあった。

「もう、屋台には並びたくないから、明日の朝ご飯も買っておいたよ!  」

「ありがとう!  こっちは列が凄くて……」

「こっちもだったよー。エドなんてイライラし始めてさー?  人が多いのは仕方ないって言うのに」

「あーはいはい。さて、飯も買えたし、湖散策にでも行くか」

エドは立ち上がると、持っていた剣を腰に下げた。一応、習っていたから自衛にと言っていたけれど、絶対一角獣ユニコーン対策としか思えない。

フェリクス様がその剣に興味があったらしく、エドに話しかけながらゲルを後にした。仲良くなったらしい二人に少し嬉しくなる。その後からマキナと共に外へ出る。

「買い出しやけに遅かったけど、大丈夫だったの?  屋台で何かあった?  」

「……ナンパされた」

「はっ?!  何でルーセント様が居てナンパされるの?!  それどんな強者つわもの??  詳しく!!  」

「い、いやぁ……」

そこでしまったと思っても、もう遅い。私は自分が勝手に歩いて勝手に絡まれた経緯をマキナに伝える羽目になってしまった。

「それはリサが悪いよね。森の一人歩きじゃないんだから。フェリクス様が駆けつけてくれて感謝しないと」

「みたいだよね、反省した。人混みの中では女性の一人歩きは駄目だって」 

「というか、前の眼鏡とかしていたら声かけられなかったかも知れないけど、今のリサは適齢期の女性なの!  ちゃんと自覚して!  」

「眼鏡をしていた時も適齢期だったんだけど」

去年成人しているのだから。というか、森の一人歩きは止めない辺り清々しいと言うか何と言うか。

「違うよ!  お洒落を捨てていた前と、お洒落に気を使っている今じゃ雲泥の差!  」

「えぇ……特に何もしてないんだけど」

マキナは私の前に回り込むと、びし!  っと指差した。

「眼鏡!  髪!  服装!!  アクセサリーに見える魔道具!!  化粧してなくても雰囲気はガラっと変わるの!!  リサは今、声を掛けたくなる様な可愛い女性に見えるって事!!  」

その勢いに、周りの人が何事かこちらを見ている。

「わ、分かった。変わったのは分かったから落ち着いて……」

「分かってないよ!  だから今までみたいな行動は気を付けないと駄目。分かった?  」

「今までの行動?  」

「一人で町に行くとか、一人で素材屋みたいな専門店とか武器屋とか男性しか行かない通りとかに行く事!  」

全て思い当たる節があったので、今までは良くてこれからは駄目なのが若干納得出来ないものの、マキナの勢いに大きく頷いておいた。『ほんとは化粧だってして貰いたいし、ネネの眼鏡も取り外したいの、私は!  』と心の声を漏らされ、どうして良いか分からなかった。


「お姉さん達どうしたの?  喧嘩?  」

マキナと二人だと言うのに、知らない男性から声を掛けられた。やんわり断っても話しかけて来る。一人でも二人でも女性だけだと人混みは危険らしい。
子供の頃にここへは家族と共に来た事があったが、その時はその時で一人で歩くなと言い聞かされ、大人になった今も満足に歩けないとは思いも寄らなかった。

「ああ、連れが煩くてすんませんね。二人して遊んでんなよ、行くぞ」

エドとフェリクス様が戻って来て、エドが私達と見知らぬ男性の間に入ってくれた。そのまま湖の方へ誘導されたのだけれど、二人の目が呆れを含んでいるのが分かる。

「ここに何しに来てると思ってんだよ、さっさと前見て歩く!  」

エドにどやされ、マキナは『分かってるってば!  』と言い返していたけれど、私は一度ならず二度までフェリクス様に手間を掛けさせた事に少しだけへこんでいた。見た目の変化でこうも周りの反応が変わって来るとは。

そのまま湖へ出ると、広い湖面に小舟が何艘も浮かんでいて、湖の周りには腰掛ける人達が居て、実に楽しそうだ。暫くその景色を見ていたが、エドががしがしと頭を掻き始めた。

「歩くのも結構掛かるんだよなぁ」

エドがぼやく通り、『暗き森』側へ行くには、どっち回りでも時間が掛かりそうなのだ。

「『暗き森』側は今日無理だろうけど、続きのあの林の方は?  人も居ないみたいだし」

私が指差したのは、森が途切れた辺りからちらほらと木が見える林の方だった。皆、屋台やゲルがある方に集まっていたり、その林より手前に小舟を漂わせていたので、もしかしたらまだ人が入っていないかも知れない。何より遠いし、誰も好き好んで『暗き森』に近い林に分け入る筈もない。

「良いんじゃない?  行ってみようよ!  」

そう言うマキナの手には大きめの袋が握られている。私達は、湖を眺める事もせずに林へ向かって歩き出した。






「そろそろ良いか?  」

暫く歩くと人が居なくなった。林までは後少しという時、フェリクス様がぼそりと呟いた。

「何がです?  」

「?  」

私とマキナがきょとんとすると、フェリクス様が溜め息を吐いた。

「いつになったら、一角獣ユニコーンの角を採取しに来たと教えてくれるのかと」

実はまだ彼には旅の趣旨を伝えていなかった。

折角なら行楽気分を味わって貰いたかったし、人が居ない場所を目指すのも彼の立場から言えば人目がない方が良いだろうとの半分本音、半分見せかけの気遣いだった。……それは、勘付いて然りだろう。

「バレました?  」

「バレバレだ。というか、俺もそれが目当てで来たのもある」

やはり魔道具でも一角獣ユニコーンの素材は使うらしい。

「まあ、角が拾えたら良いな、ぐらいですけど。もし出会えたら、ルーセント様が仕留めてくれんじゃねーかな、とは思ってます」

「ちょっとエド!?  」

あまりの明け透け具合にマキナがエドの服の端を引っ張った。

「だってそうだろ、勝手に期待しといて黙っておくのは違うだろ?  」

「そうだけど……」

そんな二人を尻目に、何やら楽しそうなフェリクス様は今度は私の方をを見てくる。

「リサもか?  」

「半分期待と半分は行楽ありき……です」

「そうか」

特に何か言う訳でもなく、フェリクス様はただ納得していた。そして、ごそごそと例の鞄を探ると、

「では魔物寄せでも使うか?  」

と、その手に香をちらつかせている。


「「「それは絶対駄目ー!!  」です!  」だろ?!  」


私達は三人は必死で止めた。

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