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10、歩く爆心地

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私の買い物の後、フェリクス様は副団長の案内で迷わず素材屋へ向かった。

素材屋は魔道具や武器に合成させる魔力の塊である魔石や宝石、魔物の毛皮や爪など、その名の通り様々な素材を取り扱っている店である。勿論薬になる素材もあるので、家を出る前には私も良くここへ来ていた。今はきっと別人とまでは言わないが印象が違って見えているだろうから、店主のお爺さんには気付かれないのが少し寂しい。

この店では、服屋と違って自由に見れるので私は大変満足出来た。ついでに近隣の森では採取出来ない高山のみに自生する薬草や、魔物の肝臓を乾燥させたものなど、珍しい物も手に取る事が出来て、もう言う事は無い。

すると、自分の買い物は終えたのか、フェリクス様が私の抱える商品を次々と店主へと渡して行く。

「フェリクス様?  これは自分で買います」

「今日だけ特別だ。これからうんと働いて貰わねばならんからな。後は、白スライムの粉は要らんのか?  」

「ご期待に応えられるか不安ですが、精進致します。騎士団で使う薬の素材は騎士団持ちでストックしてありますから。其れ等は私の研究材料です」

フェリクス様は『そうか』と空返事しつつお会計を済ませている。いくら魔道具開発の売り上げがあるからと言って、自分の生活費は大丈夫なのだろうか?  勿論、王族から抜ける時にある程度の補償金も貰っているのだろうけれど……。私は、次から買い物は一人で来ようと決めた。彼が一緒だと全部払いそうな気がするのだ。

商品を受け取り、戸口で待っていた副団長に声を掛けると、ひょいと荷物を取られ、そのまま抱えられてしまった。

「ありがとうございます」

「どう致しまして。リサと買い物に来る日が来ようとは、人生何があるか分からないな」

「確かに。町に出る時は薬師仲間とばかりですから。私も今不思議な感じです」

そんなやり取りをしている間に、次は道具屋に着いた。道具屋と言っても、ここは技術者用のお店で、他に家庭用や旅装用など様々お店が並んでいる。

フェリクス様は早速耐火様手袋や、ルーペなどじっくり見て回ると、気に入った物があったのか細々と店主に渡しては購入していた。

買い物も終わり、さて遅めのお昼でも食べようと市場のある通りへ向かう。副団長によると、そっちに美味しい店が多いらしい。副団長は兄と比べても随分と忙しい人だと思っていたのだが、休みの日は息抜きによく町へ繰り出しているらしい。

市場は専門店街からは少し距離があるので、細い脇道を通っていた時だった。後ろから尾けている気配がする。二人…三人だろうか。物取りか、はたまたフェリクス様を狙っているのか。

「フェリクス様、あの」

「フェリクス殿、先に行って下さい。憲兵が随時巡回している筈なんですが、あんな者達がうろうろするのは後を絶ちません。お恥ずかしい限りですが……」

「構いません。南の方に迷宮遺跡ダンジョンが有るのでしたね。夢破れた者達がこの町に流れて来るのも仕方ない。もしくは私絡みかも知れませんね。責任持って私がお相手しましょうか?  」

「フェリクス様、駄目です絶対に」

私は真剣に申し出たのに、フェリクス様はにやりと不穏な笑みをするだけ。何だか嫌な予感がする。

「リサ。俺はいつも倒れるまで魔法を放つ訳ではない。回数をこなすと倒れるだけだ。俺がどんな魔法を使うのか見てみたくないか?  」

「見たら最後、あの辺りのお店が崩壊すると思います」

私達が言い合っていると、追跡者は建物の陰から姿を現してしまった。物取りか何だか知らないが、こんな事を言いたくは無いけれど、彼らには勇気ある撤退をして欲しい。あの森での光景を思い出すと、フェリクス様を止めないといけないと思う。そう言えば、あの街道の工事は大丈夫なのだろうか……。

「何か?  」

フェリクス様がにこやかに追跡者達に問いかけた。いやいや、早く逃げましょう!  主に被害を出さない為に!

そんな私の気持ちなんて伝わる筈も無く。追跡者達はずんずんと此方へ向かって来る。副団長は帯刀していると言うのに、怯む様子も無い。

「ああ、当たりだ」

フェリクス様は嬉しそうに呟くと、私が止める間もなく追跡者達に歩み寄っていた。副団長は荷物を私に返すと、柄に手を掛けそれに続いた。

「一昨日、護衛だと称して供をした者達だな?  何だ、他は魔物にやられたか?  それとも、まだ隠れているのか?  」

すると、追跡者の一人が上をちらりと見た。

「なる程……」

呑気なフェリクス様の肩に、男の一人が手を掛けた。途端、口から煙を吐いて倒れた。

「「?!  」」

私が驚いていると、フェリクス様が此方を見ていた。

「リサ」

「はい?  フェリクス様、前を見て下さい!  前!  」

回復薬ポーション

「は?  」

回復薬ポーション。……やり過ぎた」

「だから言いましたのに……」

フェリクス様とは裏腹に、残された追跡者の二人の足元はがくがくと揺れていた。
仕方ないので私は鞄から回復薬ポーションを取り出す。それを確認すると、彼は今度は副団長に視線を移した。

「仕方ない。ミレリオ殿、後五歩下がって頂きたい」

副団長は何か悟ったのか黙って五歩下がった。その拍子に、合図も無しに追跡者二人の下半身が凍った。範囲はそれだけではなく、彼らの周りの道と壁をやや巻き込んでいる。その一帯が冬が来たかの様に冷気を帯びていた。

「お見事」

副団長が賛辞を口にする。確かに、恐らく初級魔法でなのだ。上級になったらどれほどの威力なのか……。

「良く聞け。私は二度と王都の地を踏まぬ。これらは見せしめに捕らえるが、次からは加減せぬ。これ以上は寝た子を起こすも同義だと飼い主に伝えよ!  」

すると、上からの探る気配が遠ざかって行った。

私はほっと胸を撫で下ろし、二人の元へ近付くと、フェリクス様が少し眉尻を下げている。

「リサ。回復薬ポーション後二つ程欲しい」


凍った男達は、血の気が失せ気絶していた。


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