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嵌められたぁー!!!

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次の日私は治らないムカつきを抱えながら、夕飯の買い出しへと近所へ繰り出していた。

こうなったら1人ではしご酒でもしてやろうかとも思ったけれど、明日の仕事を考えればそんな無茶な飲み方はせず、家で晩酌でもしながらDVDでも見ていた方が何倍も有意義だ。

買ったのはお肉と野菜。そして第三のビール。肉と野菜はこれでちゃちゃっと炒め物でも作れば何杯だって行けちゃう。1人飯の特許だね、おつまみ1つだけってゆーのが。

駅近の商店街をブラブラと自宅に向かって歩いていると、あの憎っくき葵君が働いている何時ものお店の前に差し掛かった。そう、最寄りの駅に近いから入り浸っちゃうんだよなぁ……。

抗えない己の性に苦笑いしつつ、私は本日お休みの店の前を素通りしようとした所、いきなり肩を掴まれた。

「っひゃ……?!」

突然の事に叫ぼうにも声が出ない。嘘、こんなに喉が支えるものなの?!  私、暴漢に襲われても叫べると思っていたのに、いざとなるとそうは行かないのか!

頭の隅でそう冷静な自分が分析している間に、肩を掴まれたまま後ろへ振り向かされた。恐怖で固まっている私の目の前、そこには……

「真奈美さん、良かった!  会えたっ」

おーまーえーかー!  葵君!!

「ひ、酷っい、びっくり、したから!!  」

まだ喉がつっかえる中、何とか抗議する。本当に怖かったっ!  いや、人通りはあるから心配要らないのかも知れないけど、このご時世何があるか分からないからね?!

「すみません、見つけたら嬉しくて、つい」

この子本当に腹黒いんじゃないの?!  普通声掛けが先でしょ??  それを脅かす真似をしてっ!!

そう思ったら段々腹が立って来た。普段弄られてるけれど、私は結構勝気な方だ。葵君がその気ならやってやるぞ!

「……普通、先に声を掛けるでしょう?  いきなり肩掴むとか……脅かしたかったわけ?  良い性格してるねぇ?  葵君。昨日の事も、私了承してないんだけど。なんなの、本当」

なんてちょっと本気気味で注意すれば、葵君は分かりやすいぐらい動揺し始めた。

「す、すみません!!  真奈美さんだと思ったら、体が動いてて……!!  脅かすつもりは無かったんです、焦っててっ、ごめんなさいっ」

その慌てぶりを見たら、怒る気が失せてしまった。
こっちが怒り過ぎたみたいに見えるし、なんと言ってもここは人が行き交う往来だ。それに、私は今最もやらなければならない使命がある。

「もう、次から気をつけてくれれば良いよ。でも本当に怖かったんだからね?  それより。私が一番言いたい事があるんだけど、分かるよね?  」

そう言うと、葵君は『あー……』と曖昧に返事をして私から視線を逸らした。そんな彼をまじまじと見てみると、走って来たのか軽く汗をかいているのが分かる。

バーにいる時の様なシャツ姿じゃないと、やはり年相応かそれよりも幼く見える印象だ。私は手に持っているお肉と葵君を天秤に掛けて一瞬悩んだけれど、やはり食べ物を粗末にするのは憚れる。

「葵君て、家どこ?」

「えっ?!  3丁目の方ですけど……」

あ、不味い。唐突過ぎたかな。でも、これあれだなぁ、私の方が家が近いな……。

「あ、ごめんね。お肉持っているから、近かったらあげたかったんだけど……。私の方が家が近いから、ちょっとお肉置いて来るから、その辺で飲まない?  じっくりと話したい事もあるしさ?  」

「あ、じゃあご一緒しますよ。家ってどの辺ですか?  」

「はあ?!  良いよ、直ぐだから。あの、駅ビルにイタリアン入ってたじゃん、あそこで待ち合わせでどう?  」

「……分かりました、待ってますね」

「15分くらいで行けると思うから!  後でね」

そう言って、私は踵を返した。

ここで会ったのも何かの縁!  ちょっとお灸を据えてやらないと気が済まないっていうか、早く訂正して貰わないと付き合ってる振りさせられちゃう!!  もし店で飲んでてあの過激な子達に遭遇なんかしちゃったらどうしてくれるの、全く!!

まあ、そうしたら……残念だけど暫くお店行かなきゃ良い話だもんね。そうだよ、何良い様に年下に振り回されてるんだ、私!!

強気で行こう。振りなんて無理だって。

葵君イケメンだから、女性に関してお願いして断られた事とか無いのかも知れないね。イケメン故に他の女難には遭っているみたいだけど、だからって私じゃなくたって頼める人はいるでしょう!  きっと!

そりゃあ、私だって今日みたいに暇を潰してくれる人が欲しい……訳だけれども!  年下にそれを課せるって違う様な気もするし?!

そう悶々と考えながら歩いていると、自宅には直ぐに到着した。私は急いで冷蔵庫に買った食品を詰め込むと、近所使用の適当だったメイクを直して玄関を出る。




最寄りの駅ビルにはリーズナブルなイタリアンが入っていて、学生から家族連れまで様々な客層が利用する人気店だ。

話をするから喫茶店でも良かったけれど、そんなの静かなお店でするのも何だか変だし、ガヤガヤした店内でお酒を飲みながらでもしなきゃやってられない。

意気込んでお店に行けば、葵君を直ぐに見つけた。
けれど、見覚えのない人まで隣に座っている。
……誰?

「あ、真奈美さんこっちこっち」

私に気付いた葵君が手を振ると、店内の若い女性の目が一斉に此方へ向いた。

ああ、目立ってる……私が、じゃなくて葵君が無駄にキラキラしてるからさぁ……

私はチクチクと刺さる視線を気付かない振りで席へと向かう。すると、葵君の隣の人が軽く会釈したので、私も相槌で返した。

「葵君、この方は……」

「あ、座って下さい。こいつ、近所に住んでる大学の友達で、直樹って言います。直樹、此方が今度付き合う事になった、真奈美さん」

「えっ?!あの、」

「さ、何食べますか?  お腹空きましたよね、直樹もほら」

「俺、肉食いたい」

「あ、あの葵君?ちょっと……」

「あ、真奈美さんはクリーム系が好きでしたもんね?  これは?  海老とほうれん草のクリームパスタ。好きでしょう?  」

「えっ?  うん、まあ……」

そう返すと、直樹君とやらが『仲良いな、俺邪魔じゃん……』なんてニヤニヤして言うのだ。



は、は、嵌められたぁー!!!
 


何で友達呼んでるのよ?!  ここからどう否定すれば……葵君が恥をかくじゃないって、良いんだ、彼は自業自得だし……でも……あー、もう!!


こんのクソガキぃ~?!


私はそんな事を微塵も感じさせない鉄壁の笑顔で、目の前の若者2人の注文のやり取りを見守るしか無かった。


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