悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

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婚約破棄後

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王立アスタリア魔導学園・2年教室前。

あぁ。憂鬱。
先日、ダドリーに婚約破棄を言い渡されたこともあって、この日はいつも以上に教室に入るのが億劫に感じた。

なんせ、教室この先にはダドリーがいる。
それだけならまだしも、教室にはダドリー以外にも面倒な人達がいるのよね。

「ジュリー、元気出して。どれだけ嫌なことを言われても、私がそばにいるから。」
私の中に隠れている精霊のワイティが、憂鬱な気持ちを察して励ましてくれた。

「....ありがとう、ワイティ。」
念話でお礼を言うと、私は意を決して教室の扉を開けた。

すると教室にいたクラスメイト達は、まるで珍獣でも見るかのような目で、遠巻きに私を見た。
遠巻きにされるのは慣れているから別にいい。
私は教室に誰がいるか、ひととおり確認した。

よかった。ダドリーとブーケはまだ来ていない。
これでダドリーと会う前にブーケと話せたら、婚約破棄の件は誤魔化せそうね。

私が婚約破棄されたことを知ったら、ブーケは怒り狂って悪魔憑きになってしまう。
私のことを想ってくれるのは嬉しいけれど、私のせいで何度も親友が悪魔憑きになるのは辛い。
後でブーケには『私がダドリーを振った』というテイで婚約破棄のことを伝えれば、大丈夫そうね。

だけどロザリアがいるのは面倒だわ。
目をつけられないように、彼女の視界に入らないようにしよう。

「あ~ら。そこにいるのは、婚約者に捨てられた残念令嬢じゃないの。」

嗚呼、最悪。
ロザリアに見つかってしまった。
私は振り返って彼女の顔を見た。

絹のように綺麗なクリーム色の髪に、エメラルドのように大きく煌めく緑色の瞳。
誰もが釘付けになる程の美貌で、由緒正しいフォルティーナ公爵のご令嬢。
これだけであれば完璧な令嬢だけれども、彼女の場合、残念な性格がそれら全てを台無しにしている。

「王子殿下達に色目を使って、肝心の婚約者に浮気されるなんて、とんだ間抜けね。ま、貴女みたいな性悪女、捨てられて当然だけど。」

「ロザリア様。再三の説明にはなりますが、私と殿下達はそのような関係では....」

「お黙り!貴女の言い訳なんて聞きたくないわ!貴女ばっかり殿下達に気に入られてて、ホント不愉快ね!」

どこをどう見たら、私が殿下達に気に入られていると勘違いできるのだろう?
第二王子のユミル殿下は生徒会役員だから一緒になる機会が多いだけだし、第三王子のカイル殿下は誰にでも優しいだけで私だけが特別ではない。

「婚約者に捨てられたのを機に殿下達と近づこうと考えているのでしょうけど、そんなこと私が許さないから!」

「許すも何も、殿下達に近づくつもりは....」
「お黙りっ!」

まずいわ。
この流れだと、ロザリアがまた怒りにとらわれて悪魔憑きになってしまう。

「ロザリア様、あのダドリー卿にすら捨てられる残念令嬢なんか、殿下達どころか誰も結婚したがりませんよ。」
「悪役令嬢が仮に結婚するとしたら、悪魔王がお似合いですよ。悪役同士、仲良く賢者様に成敗されればいいのに。」
「....それもそうね。」

ナイスよ、ロザリアの取り巻き達!
さっきまでイライラしていたロザリアは、みるみるうちに上機嫌になった。
嫌味ったらしい笑顔は癪だけど、悪魔憑きになられるよりかはマシだわ。

「いっそのこと、悪魔王と結婚しちゃえばいいのよ。貴女、アイツに気に入られているものね。いっつも貴女の周りの人間が悪魔憑きになるし。」

その『周りの人間』とやらにロザリアも入っているのだけれど?
ブーケやロザリアが、いつも私絡みで悪魔憑きになるから、余計に『悪役令嬢』だなんて言われてしまう。

「というか、この前の夜会、貴女が婚約破棄を言い渡されている時に悪魔憑きが出たらしいわね?もしかして貴女、本当に悪魔王と繋がっているんじゃないの?」

悪い冗談はやめてほしい。
私はむしろ、この国で一番悪魔王に迷惑していると言っても過言ではない。
だけど『私が悪魔王と繋がっている』というのは、このクラスのみんなが思っていることなのでしょうね。
嗚呼、もう嫌になっちゃう。
私は思わずため息が出た。

「言いがかりは、よさないか。ロザリア嬢。」
すると突然、カイル殿下が私を庇うように、ロザリアとの間に割って入った。

輝くような金色の髪に、ダイヤモンドのように綺麗な銀色の瞳。
視界に入ると、つい魅入ってしまうほどに端正な目鼻立ち。
王妃様譲りのその美しさは、第三王子の肩書きがなくても万人を惹きつける。

「彼女は悪魔王の一番の被害者だ。そんな彼女が悪魔王と繋がっているはずがない!」
殿下はたまに、今みたいにロザリアやダドリーから私を庇ってくれる時がある。
悪役令嬢と呼ばれている私にすら情けをかけて下さるんだから、殿下はとても優しい人だ。

私は殿下の顔を見る。すると一瞬、目が合った。
だけど殿下はすぐに私から目を逸らした。
その態度から察するに、殿下は私のことが苦手なのだろう。
だからロザリアは嫉妬する必要なんて一切ない。そのことにいい加減気づいて欲しい。

「カイル殿下、彼女に騙されてはいけません!彼女はそうやって被害者のフリをすることで、殿下の気を惹こうとしているのです!」
さっきまで憎たらしい笑顔をしていたロザリアは眉間に皺を寄せ、瞬く間に不機嫌になった。

この流れは、良くないわね。
前に殿下に庇ってもらった時、嫉妬に駆られたロザリアが悪魔憑きになってしまったことがあった。
またロザリアが悪魔憑きになる前に、流れを変えないと。
私はそっと、殿下に耳打ちをした。

「殿下、庇って下さってありがとうございます。ですが、これ以上は不要です。ロザリア様がまた悪魔憑きになってしまいます。」
「だけど....。」

「ロザリア様の怒りを鎮めるためにも、彼女に同調してくださいませんか?『ダドリー卿に捨てられた醜女令嬢なんか大嫌いだ』と私を罵倒すれば....」
「そんなの、できない!」

私が話し終える前に、殿下は声を荒げて拒絶した。
『芝居でも誰かを悪く言いたくない』というお心遣いは素晴らしいけど、今だけは空気を読んで欲しい。
すると殿下は、何故か私と向き合って話し始めた。
だけど相変わらず、私から目を逸らしている。

「それに君は....。」
「私は?」
「君は....か、かわ.....」
「川?」

殿下は何を言いたいの?
心なしか、顔が赤い気がする。
もしかして、熱でもあるのかしら?

「きぃぃぃ!!ムカつく!ムカつく!!」

あっ、しまった!
殿下に気を取られている間に、ロザリアが悪魔憑きになりかかっている。

「ロザリア様、落ち着いて!悪魔王の力を受け取ってはなりません!」
しかし私の声は届かず、ロザリアの姿はみるみるうちに変化していった。

絹のように綺麗だったクリーム色の髪は、夜のように真っ黒に染まり、エメラルドのような緑色の瞳は紅く光り出した。
そして制服は血のように真っ赤に染まり、ドレスのように黒い霧を纏い出した。

嗚呼、また止められなかった。
教室中がパニックに陥る中、私は逃げるフリをして人目につかない場所へ行き、光の賢者・フィーネに変身した。
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