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後日談
アメ上がり後日談『虹』
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あれから……あの事件から早一年。
彼女は来る日も来る日も、あの場所に通っていた。
あの場所というのは去年に事故で亡くなった猫がいた場所。
春の頃にお供え代わりにと、その場所に花の種を植えて育てていたのだ。
事件が起こる数日前、彼女が昔に患っていた過換気症候群、心臓発作が不幸にも再発し、倒れてしまい、猫から離れてしまった。
それだけで彼女は心臓が何かに掴まれたような不快感を覚えてしまい。それを紛らわせるようにして花を植えたのだ。
「あ、虹……」
花の様子を伺いに今日も来ていた。だが彼女の目線は花ではなく空の方。鮮やかな虹が大きくかかった空を眺めていた。
あの事件以来。天から猫が見守っているかの如く雨が降った後、かなりの確率で虹がかかるようになったのだ。
「良かった……元気そうで」
ふと彼女は今、そこには何もいないはずなのに、あたかもあの猫がいるかのように、天に向かって言葉を投げた。無論帰ってくる言葉はない。
ーー花の状態は蕾だった。
翌日彼女は再びあの場所へとむかった。
今の彼女はそれしかやる事がないからこそだ。
春に植えた花の種は育ちはしたものの、未だに花は蕾。彼女が植えた花は秋咲の花なのにも関わらず数個ある蕾が全く開かない。
しかし彼女はそれを気にすることは無かった。植物の知識は全くなく、花とはこう言うものなんだと思い込んでしまっているからだ。
「早く咲くといいな」
ーーその日も蕾のままだった。
蕾が開花するまで彼女は、花が開花しても猫も戻ってくるわけじゃないのに、朝早くから毎日通い続けた。
そんな時だった。
秋の半ばにさしあたった頃、ようやく一つだけだが蕾が開花し、小さな青い花が顔を出していたのだ。
だがそれで浮かれてはならない。水を上げ続けなければ、折角咲いた花も茶色く枯れ果ててしまうからだ。
しかし外に植えているだけあってか、秋雨前線の雨の影響を受け、ほぼ毎日水を与えているも当然だった。故に彼女は一度たりとも水をあげることは無かった。
「やっと咲いてくれた……」
彼女はほっとする。咲かずに枯れてしまったことを考えてしまったから、ここで事故にあった猫、そして自身の大切な人にむけての贈り物ができたから。
その日からは次々と蕾が開花し始めた。
彼女の強い思いが花を咲かせたのだ。
事故現場一杯に咲き誇る青花のシオン、その花でそこは埋め尽くされていた。
彼女がシオンを選び植えたのにはわけがある。それは開花時期が違うため一緒に見ることは出来ないものの、近くには虹をイメージさせるような鮮やかなアヤメが数輪咲いており、そのアヤメが持つ花言葉は『メッセージ』、そしてシオンは『君を忘れない』という花言葉がある。故に彼女はシオンを選んでいた。
「見てくれてるかな……」
いや全てが否だ。
そう全てが違う。
シオンを選び植えたのは確かだが、彼女が植えたのは去年の春。つまり猫と出会う前の話。
自身の大切な人に向けて植えた花だったのだ。
そして彼女から水を一度も上げてないのでは無い。確かに雨でほほ毎日とはいえ与えなければならない日だってある。しかし彼女は水を与えることができなかったのだ。
だからこそ、シオンの花が開花するのが遅れてしまっていたのだ。
彼女はわかっていた。水が与えられないことも、誰からも目で捉えられていないことを。
ーー自身が道端に倒れた後に命を落としていたことを。
だからこそ、彼女の日課は『花を見続けてシオンが全部開花するのを見る』という日課……いや未練になっていたのだ。
「やっと咲いてくれたよ……もうすぐ……そっちに行くよ」
全てが開花している所を見ると、漸く未練が晴れたと、もうすこしで大切な人に、あの猫に合えるとわかり、涙を流していた。
もちろんその涙は悲し涙ではない、嬉し涙。その涙をたっぷりと流した後、ふわりと体が宙に浮き、天へと登って行った。
ちょうどその時の空は全てを飲み込むかのような晴天ではっきりと現れた大きな虹がかかっていた
彼女は来る日も来る日も、あの場所に通っていた。
あの場所というのは去年に事故で亡くなった猫がいた場所。
春の頃にお供え代わりにと、その場所に花の種を植えて育てていたのだ。
事件が起こる数日前、彼女が昔に患っていた過換気症候群、心臓発作が不幸にも再発し、倒れてしまい、猫から離れてしまった。
それだけで彼女は心臓が何かに掴まれたような不快感を覚えてしまい。それを紛らわせるようにして花を植えたのだ。
「あ、虹……」
花の様子を伺いに今日も来ていた。だが彼女の目線は花ではなく空の方。鮮やかな虹が大きくかかった空を眺めていた。
あの事件以来。天から猫が見守っているかの如く雨が降った後、かなりの確率で虹がかかるようになったのだ。
「良かった……元気そうで」
ふと彼女は今、そこには何もいないはずなのに、あたかもあの猫がいるかのように、天に向かって言葉を投げた。無論帰ってくる言葉はない。
ーー花の状態は蕾だった。
翌日彼女は再びあの場所へとむかった。
今の彼女はそれしかやる事がないからこそだ。
春に植えた花の種は育ちはしたものの、未だに花は蕾。彼女が植えた花は秋咲の花なのにも関わらず数個ある蕾が全く開かない。
しかし彼女はそれを気にすることは無かった。植物の知識は全くなく、花とはこう言うものなんだと思い込んでしまっているからだ。
「早く咲くといいな」
ーーその日も蕾のままだった。
蕾が開花するまで彼女は、花が開花しても猫も戻ってくるわけじゃないのに、朝早くから毎日通い続けた。
そんな時だった。
秋の半ばにさしあたった頃、ようやく一つだけだが蕾が開花し、小さな青い花が顔を出していたのだ。
だがそれで浮かれてはならない。水を上げ続けなければ、折角咲いた花も茶色く枯れ果ててしまうからだ。
しかし外に植えているだけあってか、秋雨前線の雨の影響を受け、ほぼ毎日水を与えているも当然だった。故に彼女は一度たりとも水をあげることは無かった。
「やっと咲いてくれた……」
彼女はほっとする。咲かずに枯れてしまったことを考えてしまったから、ここで事故にあった猫、そして自身の大切な人にむけての贈り物ができたから。
その日からは次々と蕾が開花し始めた。
彼女の強い思いが花を咲かせたのだ。
事故現場一杯に咲き誇る青花のシオン、その花でそこは埋め尽くされていた。
彼女がシオンを選び植えたのにはわけがある。それは開花時期が違うため一緒に見ることは出来ないものの、近くには虹をイメージさせるような鮮やかなアヤメが数輪咲いており、そのアヤメが持つ花言葉は『メッセージ』、そしてシオンは『君を忘れない』という花言葉がある。故に彼女はシオンを選んでいた。
「見てくれてるかな……」
いや全てが否だ。
そう全てが違う。
シオンを選び植えたのは確かだが、彼女が植えたのは去年の春。つまり猫と出会う前の話。
自身の大切な人に向けて植えた花だったのだ。
そして彼女から水を一度も上げてないのでは無い。確かに雨でほほ毎日とはいえ与えなければならない日だってある。しかし彼女は水を与えることができなかったのだ。
だからこそ、シオンの花が開花するのが遅れてしまっていたのだ。
彼女はわかっていた。水が与えられないことも、誰からも目で捉えられていないことを。
ーー自身が道端に倒れた後に命を落としていたことを。
だからこそ、彼女の日課は『花を見続けてシオンが全部開花するのを見る』という日課……いや未練になっていたのだ。
「やっと咲いてくれたよ……もうすぐ……そっちに行くよ」
全てが開花している所を見ると、漸く未練が晴れたと、もうすこしで大切な人に、あの猫に合えるとわかり、涙を流していた。
もちろんその涙は悲し涙ではない、嬉し涙。その涙をたっぷりと流した後、ふわりと体が宙に浮き、天へと登って行った。
ちょうどその時の空は全てを飲み込むかのような晴天ではっきりと現れた大きな虹がかかっていた
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できれば、その彼女の過去の話や後日談なども書いてもらえると嬉しいです。
長々と失礼しましたm(_ _)m
感想ありがとうございます!
癖で行数空けしてないだけなので後ほどよんだと同時に反映致します。
あと後日談は今のところまだ考えていません申し訳ないです。