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3章
25/カラットの大工房
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カンッカンッカンッ! キンキンキン! ガンッガンッガン! ドカァァァンンンン!!
ドワーフの国の入り口にも至らないところにも届くくらいの、ものすごい熱量と金属を叩く音が空気を揺らしている。されどそれは昔から変わらない音色で、しっかりとドワーフの里が息をしている証拠でもあった。
とはいえ時折聞こえる爆発の音は初めて聞いたのか、シルヴィとルーシャは思わず両手で耳を塞いでいた。
流石、鍛冶の里と呼ばれるだけもあり、鍛冶屋や金属を溶かす塔、物資倉庫が至る所に建築されている。そんな暑苦しく昼間は轟音に包まれている国の中を三人は歩く。彼女たちが目指して歩く先には、一つの工房。それも大通りの鍛冶屋ではなく、脇道の鍛冶屋だ。
ドワーフの少女に連れられてその場所に行くが看板にはクローズド、つまり閉まっている様子だった。
それでも動揺なんて一切浮かべ無いドワーフの少女は周りを見渡した直後シルヴィ達の前に出て。
「ようこそ! グリッド大工房へ!」
「……へ?」
「いやぁ驚くのも無理ないよ。私がここのオーナー、……カラットさ」
フードをようやく脱いだ少女、カラット。船の時に見ていた通り褐色の肌が目立つが、白銀の髪に生える蒼色のメッシュに印象の全てを持っていかれた気がした。
その特徴的な髪をみて、体の一部が蒼くなっているのは転生者の印蒼茨天啓印であるとハベルが言っていたのを思い出す。しかしカラットというドワーフはシルヴィの人生の中で出会ったことがない。似たような雰囲気の人ならばダイヤというドワーフがいたが、本人ではないだろう。第一そのダイヤという人物は旅の仲間でもあるが、ドワーフの国の皇女だったのだ。そうやすやすとこんな場所にいるはずもない。
なんて考えているとなんの反応もしていないシルヴィを上目で見つめては小首をかしげて言葉を放つ。
「どうしたの? そんな真剣な顔して」
「いや……なんかどこかで会ったことあるようなって」
「き、気のせいだよハハハ……さ、さてと君はその剣を直したいんだっけ?」
シルヴィの言葉に目を泳がせる少女。触れてほしくないのかさっさと本題に移り焦りを誤魔化していた。
「は、はい」
「じゃあ剣を預かっていいかな……と言いたいんだけど、その剣はどこで手に入れたの? ぱっと見ここらへんで作られているものじゃあないみたいだし、一本ものだけど……見たところオーダーメイドするほどの実力は持ってなさそうだしお金も無さそうだし」
シルヴィの方も聞かれたくないことを聞かれ、とっさにびくりと体が反応してしまう。瘴気を断つ剣は特殊な加工をした一品ものだからこそ、高価な一品。ボロボロとはいえ少し前まで学生だった者がそんなものを持ち歩いていれば自然と目について疑われるのも頷ける。
幸い今まで変な人に絡まれなかっただけまだマシでもあるが、流石はドワーフ。ぱっと見ただけで疑問を抱き、船の上ではなく今ここでかけたのは変に目を付けられることを避けるためだったようだ。
「んーまぁいっか。せっかくの客を疑っても仕方ないし」
「そ、そうですか……と、とにかくカラットさん、改めて剣の修繕お願いします」
「了解。じゃあ剣を預かるね。まあ修繕って言っても状態を見てみないことには何ともだけど」
とカラットは言うと、差し出された剣を預かり一度鞘から剣を抜く。
刹那、バキンッと剣が二つに折れ、剣身が地面に突き刺さった。流石に折れることは想定していなかったのか、折れた瞬間から少しの間だけその場にいる全員の時間が止まったかのようにぴたりと動かなくなり静寂が生まれる。
「そ、相当手入れ怠ってたんだね……鞘から抜くだけで折れる剣なんて見たことも聞いたこともないよ」
「わ、私もです……怪我がなくてよかった……」
冷や汗が背中を伝ったカラットが今度は慎重に地面に刺さった剣身を引き抜き鞘の中へとしまう。折れた時点で剣の状態は最悪であり刃の状態など見る必要すらなかったようだ。
だが同時に折れたことで工房の中にある材料では直せないと判断し、困った表情を浮かべる。
実際、剣が折れてしまえば修繕なんてできないのだ。折れた部分をくっつけることは出来ないことではない。ただしそれをすると剣自体の強度が非常に悪くなるうえ、見栄えも切れ味も落ちる。だからこそ良質な装備を作る鍛冶師にとって折れた剣をくっつける行為は禁止でありお手上げなのだ。
それはシルヴィにももちろんわかっている。だがこれで彼女の夢はほぼ絶望に等しい状態となりショックを受けていた。
その様子にカラットは一つの提案をもちかける。
「この剣を直すのは難しいけど、新しく作ることは出来ると思う」
「本当!?」
「うん……ただ素材が足りないからそれを取ってこないとだね」
その言葉にぱあっと顔を明るくさせ目を輝かせるシルヴィ。早く行こうと足を進めようとするが直ぐにカラットに引き止められる。
「ちょちょちょーい! まだどんな素材必要かわかってないでしょー! それに私も行かないと分からないでしょ!?」
「あ」
「あ。じゃないよ全く……ルーシャちゃんも大変だねこんなのと一緒に行動するなんて」
「そ、そうでも……ないです……多分……あとなんで名前」
シルヴィを止めた後深いため息を吐くと、突然のことにあたふたしていたルーシャに声をかける。
声をかけられるとは思っていなかったのかびくりと身体が跳ねた。内心心臓が高鳴り、あまり知らない人を前にしているせいもあってシルヴィの背中へと隠れるルーシャ。それでも聞かれたことにはしっかりと返事をしていた。
「多分て……名前は船にいた時にこの人が言ってたから。あ、そういえば君の名前聞いてなかったね」
「聞かれてませんし……改めて、私はシルヴィ。よろしくお願いします」
「シルヴィ……?」
「どうかしました?」
「あぁ、いや。なんでもないよ。それじゃあとりあえず移動しながら説明するよ」
苦笑いを浮かべたカラットはシルヴィの名を聞いていなかったことに気づき改めてシルヴィの名を知る。刹那、まるで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたままシルヴィの名前を呟いていた。
だが案外直ぐに明るい笑顔を取り戻したカラット。シルヴィの心配になんでもないと誤魔化しては、フードを被り直し二人の先頭を行く形で歩き始めるのだった。
ドワーフの国の入り口にも至らないところにも届くくらいの、ものすごい熱量と金属を叩く音が空気を揺らしている。されどそれは昔から変わらない音色で、しっかりとドワーフの里が息をしている証拠でもあった。
とはいえ時折聞こえる爆発の音は初めて聞いたのか、シルヴィとルーシャは思わず両手で耳を塞いでいた。
流石、鍛冶の里と呼ばれるだけもあり、鍛冶屋や金属を溶かす塔、物資倉庫が至る所に建築されている。そんな暑苦しく昼間は轟音に包まれている国の中を三人は歩く。彼女たちが目指して歩く先には、一つの工房。それも大通りの鍛冶屋ではなく、脇道の鍛冶屋だ。
ドワーフの少女に連れられてその場所に行くが看板にはクローズド、つまり閉まっている様子だった。
それでも動揺なんて一切浮かべ無いドワーフの少女は周りを見渡した直後シルヴィ達の前に出て。
「ようこそ! グリッド大工房へ!」
「……へ?」
「いやぁ驚くのも無理ないよ。私がここのオーナー、……カラットさ」
フードをようやく脱いだ少女、カラット。船の時に見ていた通り褐色の肌が目立つが、白銀の髪に生える蒼色のメッシュに印象の全てを持っていかれた気がした。
その特徴的な髪をみて、体の一部が蒼くなっているのは転生者の印蒼茨天啓印であるとハベルが言っていたのを思い出す。しかしカラットというドワーフはシルヴィの人生の中で出会ったことがない。似たような雰囲気の人ならばダイヤというドワーフがいたが、本人ではないだろう。第一そのダイヤという人物は旅の仲間でもあるが、ドワーフの国の皇女だったのだ。そうやすやすとこんな場所にいるはずもない。
なんて考えているとなんの反応もしていないシルヴィを上目で見つめては小首をかしげて言葉を放つ。
「どうしたの? そんな真剣な顔して」
「いや……なんかどこかで会ったことあるようなって」
「き、気のせいだよハハハ……さ、さてと君はその剣を直したいんだっけ?」
シルヴィの言葉に目を泳がせる少女。触れてほしくないのかさっさと本題に移り焦りを誤魔化していた。
「は、はい」
「じゃあ剣を預かっていいかな……と言いたいんだけど、その剣はどこで手に入れたの? ぱっと見ここらへんで作られているものじゃあないみたいだし、一本ものだけど……見たところオーダーメイドするほどの実力は持ってなさそうだしお金も無さそうだし」
シルヴィの方も聞かれたくないことを聞かれ、とっさにびくりと体が反応してしまう。瘴気を断つ剣は特殊な加工をした一品ものだからこそ、高価な一品。ボロボロとはいえ少し前まで学生だった者がそんなものを持ち歩いていれば自然と目について疑われるのも頷ける。
幸い今まで変な人に絡まれなかっただけまだマシでもあるが、流石はドワーフ。ぱっと見ただけで疑問を抱き、船の上ではなく今ここでかけたのは変に目を付けられることを避けるためだったようだ。
「んーまぁいっか。せっかくの客を疑っても仕方ないし」
「そ、そうですか……と、とにかくカラットさん、改めて剣の修繕お願いします」
「了解。じゃあ剣を預かるね。まあ修繕って言っても状態を見てみないことには何ともだけど」
とカラットは言うと、差し出された剣を預かり一度鞘から剣を抜く。
刹那、バキンッと剣が二つに折れ、剣身が地面に突き刺さった。流石に折れることは想定していなかったのか、折れた瞬間から少しの間だけその場にいる全員の時間が止まったかのようにぴたりと動かなくなり静寂が生まれる。
「そ、相当手入れ怠ってたんだね……鞘から抜くだけで折れる剣なんて見たことも聞いたこともないよ」
「わ、私もです……怪我がなくてよかった……」
冷や汗が背中を伝ったカラットが今度は慎重に地面に刺さった剣身を引き抜き鞘の中へとしまう。折れた時点で剣の状態は最悪であり刃の状態など見る必要すらなかったようだ。
だが同時に折れたことで工房の中にある材料では直せないと判断し、困った表情を浮かべる。
実際、剣が折れてしまえば修繕なんてできないのだ。折れた部分をくっつけることは出来ないことではない。ただしそれをすると剣自体の強度が非常に悪くなるうえ、見栄えも切れ味も落ちる。だからこそ良質な装備を作る鍛冶師にとって折れた剣をくっつける行為は禁止でありお手上げなのだ。
それはシルヴィにももちろんわかっている。だがこれで彼女の夢はほぼ絶望に等しい状態となりショックを受けていた。
その様子にカラットは一つの提案をもちかける。
「この剣を直すのは難しいけど、新しく作ることは出来ると思う」
「本当!?」
「うん……ただ素材が足りないからそれを取ってこないとだね」
その言葉にぱあっと顔を明るくさせ目を輝かせるシルヴィ。早く行こうと足を進めようとするが直ぐにカラットに引き止められる。
「ちょちょちょーい! まだどんな素材必要かわかってないでしょー! それに私も行かないと分からないでしょ!?」
「あ」
「あ。じゃないよ全く……ルーシャちゃんも大変だねこんなのと一緒に行動するなんて」
「そ、そうでも……ないです……多分……あとなんで名前」
シルヴィを止めた後深いため息を吐くと、突然のことにあたふたしていたルーシャに声をかける。
声をかけられるとは思っていなかったのかびくりと身体が跳ねた。内心心臓が高鳴り、あまり知らない人を前にしているせいもあってシルヴィの背中へと隠れるルーシャ。それでも聞かれたことにはしっかりと返事をしていた。
「多分て……名前は船にいた時にこの人が言ってたから。あ、そういえば君の名前聞いてなかったね」
「聞かれてませんし……改めて、私はシルヴィ。よろしくお願いします」
「シルヴィ……?」
「どうかしました?」
「あぁ、いや。なんでもないよ。それじゃあとりあえず移動しながら説明するよ」
苦笑いを浮かべたカラットはシルヴィの名を聞いていなかったことに気づき改めてシルヴィの名を知る。刹那、まるで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたままシルヴィの名前を呟いていた。
だが案外直ぐに明るい笑顔を取り戻したカラット。シルヴィの心配になんでもないと誤魔化しては、フードを被り直し二人の先頭を行く形で歩き始めるのだった。
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