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3章
23/正体不明のドワーフ
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その後小屋を中心に描いた魔法陣を起動させて結界を展開し、二人は一日を森で過ごしてから森をあとにしていた。
「こ、このあとはどうするんですか……?」
外は熱く燃える太陽が天高く上り夏でもないのに肌がチリチリと刺激される暑さ。そのためか彼女たちは港町の噴水で涼んでいた。
そこにたどり着いたのは森から出て一週間ほど経過していた。
またルーシャは記憶が無いため角と翼を隠すのは困難。そのためシルヴィが適当に見繕った服で無理やり角と羽根を隠しなんとか人に溶け込んでいる。ぱっと見では大きめのローブを着た幼い子供にしか見えない。
「この後はドワーフの里に行くよ。この剣を直しにね。あそこには凄腕の鍛冶師が何人もいるからね」
「その剣は……?」
「さっき言った瘴気を断ち切る剣。と言っても今はただの剣だし、使えば多分折れるから使えないんだけど」
「は、はぇ……」
腰に携えた瘴気を断ち切る剣に手を添えて行き先を伝える。向かう先は海を渡った先にある大陸。アルシュ大陸。そこには鍛冶職を生業としているドワーフの町があり、そこで瘴気を断ち切る剣を打ちなすために港町へと来ていたのだ。
ふと空に耳を傾ければ、港から出港準備の始まりの深い音色が走っていた。
乗り遅れないように歩き始める。
「あ、あの、そういえば、魔法使い……なんですよね」
「それはわかるんだ?」
「先程変なのを書いてたからそうかなと……」
「あぁ……魔法陣ね。それでどうしたの?」
「いえ、その……あの変なので移動を楽にとかって……」
「一応それで言うと転移魔法があるね。でもね、使えないことは無いんだけど……実は転移魔法っていうのは結構不便でね。そんなに遠くまでは転移できないの。使い道としては戦闘で逃げたり不意をついたりする時に使うんだけど、魔力の消費が多いし転移酔いして倒れることもある。だから使う人はそんなにいないんだ」
「そうなんですね……」
彼女の言うとおり転移の魔法を使って移動もできるが、転移魔法はそんなに遠くまでは転移できないぽんこつな魔法。今ここで使えば海の中にまっしぐらだろう。
そんな使い勝手の悪い魔法は使用する人も数少なく、時折戦闘で不意をついたり逃げたりする時に見受けられる程度だ。
もちろん詳しく説明したシルヴィも使うことはあるが、そんな微妙な魔法だからこそ遠くに行く、それも海を渡るとなると船に乗る必要があるのである。
ルーシャの手を引き貨物船に乗ると、程なくして波に揺られ始めた。
「姉妹でこれからどこに行くの?」
「え?」
船の甲板に立ち、二人で少し話をしようとしていたところ、後ろから若々しい男の声が耳に残り、振り返ってみればそこに男はいなくフードを被り育ち盛りの子供くらいに背の小さな女性が立っていた。
おかしいと小首を傾げると。
「あぁ、ごめんね。声変えてるんだ。見つかると面倒だから」
フードの中から見上げて、今度は可愛らしい声でそう行ってきた。何故声を変えているのかはよくわかっていないが、何か事情があるのは察したようで何も言わずにフードの少女の問に答える。
「姉妹じゃあないですけど……これからドワーフの国に行くんです。この剣を直しに」
「仲良さそうだからてっきり姉妹なのかと思った。にしてもドワーフの国か……うんうん、いい選択だね。声をかけてよかった」
「てことは……」
「うん、私はドワーフ。名前は……ここでは言えないけど、その剣を遠目で見てビビってきたから声をかけたんだ」
少女は剣を見るやいなや、にこりと笑って声をかけた経緯を軽く話す。ただフード越しで表情が分かりにくい上に名前を明かさないものだから未だに怪しさはある。それでもドワーフ族であることに嘘がないように感じ、シルヴィはこう言った。
「良かったらドワーフの国に案内してくれませんか?」
「んー……まぁいいよ。私も用あるしそのついでだ!」
無い胸をどんと叩き胸を張ったからかフードの奥にある顔がちらりと見えた。
自らドワーフと言うだけあり、銀髪から覗く肌の色は太陽が大地を永遠に照らした荒野のような黒黄金に輝く褐色。
特に印象的な目はカンカンに晴れた夕暮空のごとく透き通った茜色だった。
「てことだからルーシャ……って、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ない、です……」
この間一切言葉を発しなかったルーシャに確認を採るように振り向けばシルヴィの体に隠れるようにして小さくなっているのが見えた。
怯えてるような様子からこんなにも人が多く狭く感じる場所に来たのは初めてなのだろう。いや、口を抑えていることから人ごみに慣れていないことよりも、船の揺れに酔ってしまったのだろう。
もうそろそろ限界が近いのかゆっくりと、しかし急に海に身を投げ込まんとする勢いで顔を外へと出していた。
「船に慣れてないとなるんだよね……【浮遊】……これで暫くは大丈夫だと思うけど安静にしてて」
ドワーフの少女がルーシャの様子に苦笑するとルーシャの肩に手を乗せて一つの魔法を使い、船の揺れを感じないようにほんの少しだけ浮かせていた。
【浮遊】は名前の通り対象に反重力の力を分け与えるという魔法。シルヴィが使う【迅雷の大槍】同様最上位に値する重力魔法の一つだ。
ただ重力魔法は非常に扱いが難しく一歩間違えると人はおろか、土地、大陸、海などあらゆる物質を動かせてしまう魔法である。最も物を浮かせて運ぶことに関しては物質量に比例して魔力を消費することになるため、今まで大陸を浮かせた者は一人しかいないが。
「こ、このあとはどうするんですか……?」
外は熱く燃える太陽が天高く上り夏でもないのに肌がチリチリと刺激される暑さ。そのためか彼女たちは港町の噴水で涼んでいた。
そこにたどり着いたのは森から出て一週間ほど経過していた。
またルーシャは記憶が無いため角と翼を隠すのは困難。そのためシルヴィが適当に見繕った服で無理やり角と羽根を隠しなんとか人に溶け込んでいる。ぱっと見では大きめのローブを着た幼い子供にしか見えない。
「この後はドワーフの里に行くよ。この剣を直しにね。あそこには凄腕の鍛冶師が何人もいるからね」
「その剣は……?」
「さっき言った瘴気を断ち切る剣。と言っても今はただの剣だし、使えば多分折れるから使えないんだけど」
「は、はぇ……」
腰に携えた瘴気を断ち切る剣に手を添えて行き先を伝える。向かう先は海を渡った先にある大陸。アルシュ大陸。そこには鍛冶職を生業としているドワーフの町があり、そこで瘴気を断ち切る剣を打ちなすために港町へと来ていたのだ。
ふと空に耳を傾ければ、港から出港準備の始まりの深い音色が走っていた。
乗り遅れないように歩き始める。
「あ、あの、そういえば、魔法使い……なんですよね」
「それはわかるんだ?」
「先程変なのを書いてたからそうかなと……」
「あぁ……魔法陣ね。それでどうしたの?」
「いえ、その……あの変なので移動を楽にとかって……」
「一応それで言うと転移魔法があるね。でもね、使えないことは無いんだけど……実は転移魔法っていうのは結構不便でね。そんなに遠くまでは転移できないの。使い道としては戦闘で逃げたり不意をついたりする時に使うんだけど、魔力の消費が多いし転移酔いして倒れることもある。だから使う人はそんなにいないんだ」
「そうなんですね……」
彼女の言うとおり転移の魔法を使って移動もできるが、転移魔法はそんなに遠くまでは転移できないぽんこつな魔法。今ここで使えば海の中にまっしぐらだろう。
そんな使い勝手の悪い魔法は使用する人も数少なく、時折戦闘で不意をついたり逃げたりする時に見受けられる程度だ。
もちろん詳しく説明したシルヴィも使うことはあるが、そんな微妙な魔法だからこそ遠くに行く、それも海を渡るとなると船に乗る必要があるのである。
ルーシャの手を引き貨物船に乗ると、程なくして波に揺られ始めた。
「姉妹でこれからどこに行くの?」
「え?」
船の甲板に立ち、二人で少し話をしようとしていたところ、後ろから若々しい男の声が耳に残り、振り返ってみればそこに男はいなくフードを被り育ち盛りの子供くらいに背の小さな女性が立っていた。
おかしいと小首を傾げると。
「あぁ、ごめんね。声変えてるんだ。見つかると面倒だから」
フードの中から見上げて、今度は可愛らしい声でそう行ってきた。何故声を変えているのかはよくわかっていないが、何か事情があるのは察したようで何も言わずにフードの少女の問に答える。
「姉妹じゃあないですけど……これからドワーフの国に行くんです。この剣を直しに」
「仲良さそうだからてっきり姉妹なのかと思った。にしてもドワーフの国か……うんうん、いい選択だね。声をかけてよかった」
「てことは……」
「うん、私はドワーフ。名前は……ここでは言えないけど、その剣を遠目で見てビビってきたから声をかけたんだ」
少女は剣を見るやいなや、にこりと笑って声をかけた経緯を軽く話す。ただフード越しで表情が分かりにくい上に名前を明かさないものだから未だに怪しさはある。それでもドワーフ族であることに嘘がないように感じ、シルヴィはこう言った。
「良かったらドワーフの国に案内してくれませんか?」
「んー……まぁいいよ。私も用あるしそのついでだ!」
無い胸をどんと叩き胸を張ったからかフードの奥にある顔がちらりと見えた。
自らドワーフと言うだけあり、銀髪から覗く肌の色は太陽が大地を永遠に照らした荒野のような黒黄金に輝く褐色。
特に印象的な目はカンカンに晴れた夕暮空のごとく透き通った茜色だった。
「てことだからルーシャ……って、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ない、です……」
この間一切言葉を発しなかったルーシャに確認を採るように振り向けばシルヴィの体に隠れるようにして小さくなっているのが見えた。
怯えてるような様子からこんなにも人が多く狭く感じる場所に来たのは初めてなのだろう。いや、口を抑えていることから人ごみに慣れていないことよりも、船の揺れに酔ってしまったのだろう。
もうそろそろ限界が近いのかゆっくりと、しかし急に海に身を投げ込まんとする勢いで顔を外へと出していた。
「船に慣れてないとなるんだよね……【浮遊】……これで暫くは大丈夫だと思うけど安静にしてて」
ドワーフの少女がルーシャの様子に苦笑するとルーシャの肩に手を乗せて一つの魔法を使い、船の揺れを感じないようにほんの少しだけ浮かせていた。
【浮遊】は名前の通り対象に反重力の力を分け与えるという魔法。シルヴィが使う【迅雷の大槍】同様最上位に値する重力魔法の一つだ。
ただ重力魔法は非常に扱いが難しく一歩間違えると人はおろか、土地、大陸、海などあらゆる物質を動かせてしまう魔法である。最も物を浮かせて運ぶことに関しては物質量に比例して魔力を消費することになるため、今まで大陸を浮かせた者は一人しかいないが。
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