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第二幕・牙を穿て
フェンリルと蘇る記憶①
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「お母さん……」と、茶髪の人狼は死霊の先頭に立つ人物に向け、ぼそりと言葉を放つ。
「久しぶりね、ハティ。スコル。それと九ちゃん」
「その名は嫌いだと言ってるんだけどねぇ」
死霊の大群がヘルの後ろに並び終わるのと同時に、フェンリルは前へ、前へと歩みを進め自分の娘に、友人の九尾に挨拶を交わす。
だが彼女は決して生き返った訳では無い。証拠に彼女の肌が焼け爛れていたり、青く変色している部分が見て取れるからだ。
「母さん……許してください……魔導書を取られてしまいました」
「まぁヘルが持ってる時点でそうかなと思ったけど……私は取り返してあなた達に返すことができないわ。今は……ヘルの操り人形なんだから」
「話はそこまでだ……やれ死霊達」
殺意の篭もった言葉が耳を貫くと、並んでいた死霊が少女達を襲うーー
ーーはずだった。
「Огромные гробы, которые запирают все」
聞き慣れない言葉がフェンリルの口から放たれる。刹那、襲いかかろうとしていた死霊の山を、ヘルを、九尾を隔離するかの如く、硬い檻で少女達とフェンリルを覆い尽す。
まさにそれが錬詠唱。今の一瞬で一から魔法を作りだしたのだ。
「ヘル。これは私達親子の戦いよ?九ちゃんも手出し不要だからね?」
「チッ……忌まわしいフェンリルが余計なことを……」
「ハティ!スコル!気をつけるんだよ!」
死した今でも自らの力は健在なのか、操り人形と言えど完全には操られていない様子。
だからこそ、親子同士の戦いに水を差して欲しくはないのだろう。
「さてと……ハティ。見た感じハティは魔法使いみたいね。なら錬詠唱を良く聞いてなさい。そしてスコル。私の動きをよく見て動くのよ。じゃないと殺しちゃうから」
「や、やるしかないんですか……」
実の親を相手に戦闘になる事に震える少女達。だがパンパンと手を軽く叩き、「それじゃあ行くわよ」と、震える少女をよそに、本気の殺気と共に彼女は動き出す。
「Острый остроконечный песок железная водяная пуля!」
されども少女達に隙は与えることなく、錬詠唱を使用。一から作り出した魔法は、水の弾丸。それもただの水ではなく、砂鉄を含み、鋭く尖る水の弾丸。それが二つ彼女の周りに作り出されるや否や、かするだけでも、肉を抉るほど強く速いものがハティとスコルに襲いかかる。
が、少女は生まれつき動体視力が良い。故に水の弾丸の速度は変わらないものの、どこに来るかはわかる。ならばやることは簡単。
「ひゃっ!」「と~う」
避ける。だ。
だが、フェンリルは逃すことなくスコルに向かって駆けつつ、無詠唱で〈爆発〉をハティが避けた先に向け発動。
ボンッと小さな爆発に巻き込まれると、少女は爆風により檻の端まで勢いよく吹き飛ばされる。刹那、スコルには飛び蹴りが襲いかかり、ハティとは逆の方向に放物線を描き勢いよく飛ばされる。
これは双子達を離し、一人ずつ相手をする作戦。さすが少女達の親。戦闘慣れしてるからこそ、我が子を容赦なく優位に相手しようというのだ。
しかし、少女達も負けていられない。意図的に離れ離れになった少女達は何とか体勢を戻すと、即座に行動を移す。
「あ……〈加速〉!」
飛び蹴りに加え、硬い檻に背をぶつけ吐血したスコルは、痛む身体に鞭を打ち〈加速〉を使いフェンリルに攻撃を仕掛ける。
同じくしてハティも爆風と檻に身体を打ち、痛む身体に鞭を打ち〈火〉を……いや、違う。エリスのメモに書いていた、〈爆発〉を思い出し、小さく唱え始めていた。
「甘いわよ!」
〈加速〉を利用した拳突き〈加速撃〉を繰り出すも、相手は同じ人狼。彼女にとって一瞬は見切れるものであるが、水の弾丸よりも高速で来るものは回避到底不可能に等しい。ならばと無詠唱で〈風〉をクッションの代わりにしつつ、スコルの攻撃を受ける。
と捕まれまいと少女は横に跳ぶと、同時に、スコルが唱えていた魔法、それも大きめの〈爆発〉がフェンリルを襲う。
戦闘慣れした彼女のことだ。これも対処するのだろう。その場の誰しもがそう思った。
「あ……あぁぁぁぁぁあ!!!」
爆発の中で悲鳴が轟く。
実の親に殺されまいと必死になった少女達も、その光景を見てピタリと止まってしまう。
正しくその光景は、あの時、目の前で実の親を焼かれた光景とほぼ同じ。
「ごめん……なさい」
「うぁぁ……!」
またしても、実の親が焼かれる、それも自分達の手で焼いてしまい、トラウマの記憶が蘇ったのだ。
「久しぶりね、ハティ。スコル。それと九ちゃん」
「その名は嫌いだと言ってるんだけどねぇ」
死霊の大群がヘルの後ろに並び終わるのと同時に、フェンリルは前へ、前へと歩みを進め自分の娘に、友人の九尾に挨拶を交わす。
だが彼女は決して生き返った訳では無い。証拠に彼女の肌が焼け爛れていたり、青く変色している部分が見て取れるからだ。
「母さん……許してください……魔導書を取られてしまいました」
「まぁヘルが持ってる時点でそうかなと思ったけど……私は取り返してあなた達に返すことができないわ。今は……ヘルの操り人形なんだから」
「話はそこまでだ……やれ死霊達」
殺意の篭もった言葉が耳を貫くと、並んでいた死霊が少女達を襲うーー
ーーはずだった。
「Огромные гробы, которые запирают все」
聞き慣れない言葉がフェンリルの口から放たれる。刹那、襲いかかろうとしていた死霊の山を、ヘルを、九尾を隔離するかの如く、硬い檻で少女達とフェンリルを覆い尽す。
まさにそれが錬詠唱。今の一瞬で一から魔法を作りだしたのだ。
「ヘル。これは私達親子の戦いよ?九ちゃんも手出し不要だからね?」
「チッ……忌まわしいフェンリルが余計なことを……」
「ハティ!スコル!気をつけるんだよ!」
死した今でも自らの力は健在なのか、操り人形と言えど完全には操られていない様子。
だからこそ、親子同士の戦いに水を差して欲しくはないのだろう。
「さてと……ハティ。見た感じハティは魔法使いみたいね。なら錬詠唱を良く聞いてなさい。そしてスコル。私の動きをよく見て動くのよ。じゃないと殺しちゃうから」
「や、やるしかないんですか……」
実の親を相手に戦闘になる事に震える少女達。だがパンパンと手を軽く叩き、「それじゃあ行くわよ」と、震える少女をよそに、本気の殺気と共に彼女は動き出す。
「Острый остроконечный песок железная водяная пуля!」
されども少女達に隙は与えることなく、錬詠唱を使用。一から作り出した魔法は、水の弾丸。それもただの水ではなく、砂鉄を含み、鋭く尖る水の弾丸。それが二つ彼女の周りに作り出されるや否や、かするだけでも、肉を抉るほど強く速いものがハティとスコルに襲いかかる。
が、少女は生まれつき動体視力が良い。故に水の弾丸の速度は変わらないものの、どこに来るかはわかる。ならばやることは簡単。
「ひゃっ!」「と~う」
避ける。だ。
だが、フェンリルは逃すことなくスコルに向かって駆けつつ、無詠唱で〈爆発〉をハティが避けた先に向け発動。
ボンッと小さな爆発に巻き込まれると、少女は爆風により檻の端まで勢いよく吹き飛ばされる。刹那、スコルには飛び蹴りが襲いかかり、ハティとは逆の方向に放物線を描き勢いよく飛ばされる。
これは双子達を離し、一人ずつ相手をする作戦。さすが少女達の親。戦闘慣れしてるからこそ、我が子を容赦なく優位に相手しようというのだ。
しかし、少女達も負けていられない。意図的に離れ離れになった少女達は何とか体勢を戻すと、即座に行動を移す。
「あ……〈加速〉!」
飛び蹴りに加え、硬い檻に背をぶつけ吐血したスコルは、痛む身体に鞭を打ち〈加速〉を使いフェンリルに攻撃を仕掛ける。
同じくしてハティも爆風と檻に身体を打ち、痛む身体に鞭を打ち〈火〉を……いや、違う。エリスのメモに書いていた、〈爆発〉を思い出し、小さく唱え始めていた。
「甘いわよ!」
〈加速〉を利用した拳突き〈加速撃〉を繰り出すも、相手は同じ人狼。彼女にとって一瞬は見切れるものであるが、水の弾丸よりも高速で来るものは回避到底不可能に等しい。ならばと無詠唱で〈風〉をクッションの代わりにしつつ、スコルの攻撃を受ける。
と捕まれまいと少女は横に跳ぶと、同時に、スコルが唱えていた魔法、それも大きめの〈爆発〉がフェンリルを襲う。
戦闘慣れした彼女のことだ。これも対処するのだろう。その場の誰しもがそう思った。
「あ……あぁぁぁぁぁあ!!!」
爆発の中で悲鳴が轟く。
実の親に殺されまいと必死になった少女達も、その光景を見てピタリと止まってしまう。
正しくその光景は、あの時、目の前で実の親を焼かれた光景とほぼ同じ。
「ごめん……なさい」
「うぁぁ……!」
またしても、実の親が焼かれる、それも自分達の手で焼いてしまい、トラウマの記憶が蘇ったのだ。
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