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第7話 ちぐはぐな贈り物
しおりを挟む砦の広場では、戦乙女たちが次々と訓練を終え、明るい声で談笑していた。その中にアルフレッドの姿もあったが、今日はどこかそわそわしている。
「なんだ、そんなに落ち着きがないと剣の腕が鈍るぞ」
シルフィアが訓練用の剣を片手に歩み寄り、冷ややかな声をかける。アルフレッドは慌てて振り返ると、少し気まずそうに笑った。
「ああ、そうかもな。でも今日はちょっと特別な日だからな」
「特別な日?」
シルフィアが首を傾げると、アルフレッドは懐から何かを取り出した。それは不格好に包まれた小さな箱だった。
「これ、やるよ。お前に合うものか分からないけどな」
差し出された箱に、シルフィアは目を丸くした。一瞬ためらいながらも手を伸ばし、慎重に受け取る。そして包みを開けると、中から銀色に輝くペンダントが現れた。
「これ……私に?」
「ああ、砦の近くの町で見つけたんだ。シンプルだけど、なんかお前に似合いそうだと思ってな」
少し照れくさそうに説明するアルフレッドを見て、シルフィアは無意識にそのペンダントを握りしめた。
「……なぜ私に?」
「ほら、お前っていつも真面目だろ? そういうとこがいいけど、たまにはこういうもので気分を変えてもいいんじゃないかって思ったんだよ」
シルフィアはペンダントを見つめたまま黙り込む。その反応に焦りを感じたアルフレッドは、急いで言い足した。
「ま、嫌だったら返してくれてもいいんだ。俺が無理に押し付けるものでもないしな!」
「嫌じゃない……むしろ嬉しい」
突然の言葉にアルフレッドは動きを止めた。シルフィアは視線を逸らしながら、少しだけ顔を赤らめていた。
「お前が私を気遣ってくれるなんて思わなかったから、驚いただけだ。それに……贈り物なんて初めてだから」
その言葉に、アルフレッドは口元を緩ませた。
「そうか、初めてか。それなら俺がその第一号になれて光栄だな」
「調子に乗るな。ただ……ありがとう、大切にする」
ペンダントを首にかけ、シルフィアは少し照れくさそうに笑みを浮かべた。その姿に、アルフレッドは思わず見惚れてしまう。
「やっぱり似合うな。俺の見る目は間違ってなかった」
「……そんなにじっと見られると落ち着かない」
恥ずかしさを隠すように顔を背けるシルフィア。しかし、その動作もどこか柔らかく、普段の厳格な彼女とは違う一面を感じさせる。
砦の広場に響く戦乙女たちの声は、二人にはもう届かないようだった。
アルフレッドの心には、次第にある確信が芽生え始める。シルフィアもまた、彼との時間を大切に感じているのではないかと。
その日は、砦の空気がどこか温かく感じられた。普段とは違う穏やかな夕暮れが、二人の間に新たな絆を築きつつあった。
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