のほほん異世界暮らし

みなと劉

文字の大きさ
上 下
557 / 669

紅花の季節と油の恵み

しおりを挟む
翌朝、柔らかな朝陽に目を覚ますと、空には少しだけ薄雲がかかりながらも、冬の寒々しい雰囲気から解放されたような暖かさを感じる空気が漂っていた。窓を開けると、遠くの畑には紅花が咲き始めているのが見える。この地方では、紅花が春先に一斉に開花し、その後、種を搾って油を取るのが古くからの習慣だった。

「そろそろ紅花の収穫も始まる頃か……。」

一人呟きながら、朝の支度を整えた。今日は農場で紅花を見に行き、その油の利用方法について地元の人々と話し合う予定だ。シャズナ、リッキー、ルシファンの三匹もいつものように足元をちょこまかと動き回りながら、出発の準備に興奮している。


---

紅花畑の光景

魔力式トラックを走らせ、近くの紅花畑に到着すると、辺り一面に黄色やオレンジの花が風に揺れていた。紅花の独特な香りが漂い、空気に甘さと青さが混じるような不思議な匂いがした。

畑の中央では、農夫たちが忙しそうに収穫作業を進めている。紅花の茎を一つ一つ丁寧に切り取り、大きな籠に集めている様子を見ながら、僕は近くの農夫に声をかけた。

「収穫は順調ですか?」

「まあね。今年は寒さが長引いたから心配してたけど、いい出来だよ。この後は種を搾って油を取る作業が始まるから忙しくなるね。」

紅花油はこの地域の貴重な産物で、料理用のほか、灯油や化粧品の原料としても使われる。農夫は手に取った花を見せながら、その使い道について教えてくれた。


---

地元の知恵と交流

畑での作業を見学した後、地元の小さな加工場を訪ねた。そこでは紅花の種を大きな石臼で搾る工程が行われており、機械の音とともに、搾りたての油の香ばしい匂いが漂っていた。

「これが今年初の搾りたて紅花油だよ。」

加工場の主人が瓶に詰めたばかりの油を手渡してくれた。その透明な黄金色の液体は、陽光を受けて美しく輝いている。思わず手に取って覗き込むと、シャズナが「にゃん」と声を上げ、興味深そうに匂いを嗅ぎにきた。

「お前も気になるのか、シャズナ。」

リッキーは瓶を見上げて「ぴっ」と短く鳴き、ルシファンは「ちち!」と落ち着きなく動き回る。どうやら三匹とも新しいものには興味津々のようだ。

加工場では地元の人々が紅花油をどのように活用しているのか、さまざまな話を聞いた。料理では、天ぷらやサラダのドレッシングに使うのが人気だという。さらには、魔力式の灯油ランプにも活用できるという話を聞き、興味が尽きなかった。


---

帰り道の安らぎ

紅花油の瓶を慎重にトラックに積み込み、帰路についた。途中、まだ雪がわずかに残る田園地帯を抜け、温かな風に揺れる木々を眺めながら運転する。車内では三匹がそれぞれ居場所を見つけてくつろいでいる。

「今年の紅花油、どんな料理に使おうかね。」

一人言葉にしながら、家に到着すると、三匹は再び興奮気味にトラックから飛び降り、家の中に駆け込んでいった。


---

春の訪れを感じる食卓

その日の夕方、紅花油を使って新しい料理に挑戦することにした。玉キャベツと豚肉を使った炒め物に、紅花油をひとさじ加えると、香りが一層引き立ち、野菜の甘みを引き出してくれるようだった。

「これが今年初の春の味だな。」

皿をテーブルに並べると、シャズナがそわそわとテーブルに近づき、「にゃー」と一声鳴く。リッキーもテーブルの下から「ぴっ」と鳴いて存在をアピールし、ルシファンは椅子の背もたれに飛び乗って、「ちち!」と短く鳴いた。

三匹とともに過ごす食卓には、冬の寒さを抜けた喜びと春の訪れを感じる温かさが満ちていた。紅花油の香りとともに、新しい季節の始まりを祝うような穏やかな時間が流れていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...