のほほん異世界暮らし

みなと劉

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262 夕飯の匂いとシャズナとの距離感

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夕方の空気はひんやりとして、日が沈みかけると、畑から戻った僕の体に冷たい風が当たる。畑仕事が終わる頃には、毎日決まったようにシャズナと一緒に帰路に就く。彼は僕の足元を跳ねるように走ったり、時折立ち止まっては草や花に顔を近づける。秋の風がまだ少し肌寒く感じられるけれど、シャズナと一緒に歩く時間は何よりも心地よく、まるで時間がゆっくり流れているかのように感じる。

家に帰ると、キッチンからは夕飯の匂いが漂ってきた。僕の好きな香ばしい匂い――お米が炊ける音や、炒め物がジュウジュウと音を立てる匂い。こうして毎日のように食事を作ることが、今では当たり前になったけれど、シャズナと一緒に過ごす夕方のひとときは、どんなに忙しくても心から幸せに感じる。

キッチンに立ちながら、ふとシャズナを見た。彼は僕の足元でおとなしく座り、鼻をクンクンと鳴らして夕飯の匂いを嗅いでいる。時折、軽く尾を振って興奮している様子が見受けられ、その姿を見るとなんだか胸が温かくなる。最近、シャズナとの距離感が少しずつ縮まっているのを実感する。以前はどこか少しおしとやかで、距離を保っていたシャズナが、今では僕の足元にぴったりとくっついてくるようになった。彼がどこにいても、常に近くにいる感じがして、たとえ何かに気を取られていても、何となくその存在を感じることができる。

夕飯の準備を終えて、食卓に並べると、シャズナはまるで待ちきれない様子で、嬉しそうに駆け寄ってくる。僕が椅子に座ると、すぐに自分もそばに座り、まるで家族の一員のように振る舞う。これが当たり前になった今、最初は少し距離を感じていた彼の行動も、もう全く違和感なく受け入れることができる自分に気づく。

食事をしながら、シャズナはテーブルの下で、時折僕の膝に顔を押し付けてきたり、手を触れればそのままぴったり寄り添ってきたりする。その行動に、以前は少し戸惑っていたけれど、今ではもう、それがどれほど心地よいことかが分かってきた。彼が僕に寄り添ってくると、心の中が温かくなり、家に帰ってきたという安堵感が湧き上がる。シャズナが僕に対して示してくれる信頼や安心感が、日々の生活に心地よい影響を与えていることを実感する。

食事が進むにつれて、彼はお皿の横に置いておいたおやつに目を輝かせて、何度も顔を向けてはおねだりする。そんな時、僕は少し笑って「今日はまだダメだよ」と言いながら、もう少し食べ終わったらあげるからと、軽く言って聞かせる。シャズナは一瞬しょんぼりした顔を見せるけれど、すぐにまた嬉しそうにしっぽを振り始め、少しも不満を表に出さない。こういう素直さや無邪気さが、僕にとっては何よりも大切で、こんな日常の中に幸せを感じる。

夕食が終わると、シャズナはもう満足そうにゆっくりと寝転び、うとうとし始める。その姿を見ながら、僕はふと思う。彼との距離感が縮まってきたことに、どれほど心が落ち着き、幸せを感じているのかを実感する。彼女が僕の近くにいてくれること、その存在が日々の生活の中でどれほど大きなものになったのかを、改めて感じる。

僕はシャズナに微笑みかけながら、静かに立ち上がると、部屋の灯りを少し暗くして、リビングの窓から外の景色を眺めた。夕焼けが少しずつ消え、夜の帳が下りていく。外の冷たい空気を感じながら、家の中で過ごす温かな時間がどれほど貴重なものか、改めて思うのだった。

シャズナと僕の距離感が、今やすっかりと近くなった。何気ない日常の中で、共に過ごす時間がどんどんと大切になっていく。そして、これからも彼と一緒にいることが、どんな未来を迎えようとも、僕にとって最高の幸せであると感じている。

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