のほほん異世界暮らし

216 市場にシャズナと

朝の柔らかな光が部屋を包む頃、僕は目を覚ました。いつもなら隣で温かい存在を感じるはずの布団が、今日は少し冷たい。シャズナはすでに起きているようだ。寝ぼけ眼をこすりながらキッチンへと足を運ぶと、そこには小さく伏せをしているシャズナの姿があった。彼は両前足を可愛らしく身体に引き込み、穏やかな瞳でこちらを見つめている。「おはよう！早起きだね」と声をかけると、シャズナは小さく「にゃー」と鳴き、まるで「うん！おはよう」と返してくれたかのように感じた。

朝食の支度に取り掛かり、今日の計画を頭の中で整理する。市場への納品と行商人との取引が待っている。シャズナも今日の仕事を察しているのか、少し興奮した様子でしっぽをゆるやかに動かしている。目を輝かせる彼を見て、僕も思わず微笑んだ。

朝食が整い、シャズナと一緒に食卓につく。食事を終えると、リュックサックに納品用の野菜や果物を丁寧に詰め込んでいく。今回は荷車を使うほどの量ではなく、しっかりとした大きめのリュックサックがちょうど良かった。弁当もランチバッグに詰めて準備完了だ。

「さあ、今日も1日頑張ろうな、シャズナ！」と声をかけると、彼は元気よく「にゃー」と鳴き、まるで「そうだね、一緒に頑張ろう！」と言っているようだ。彼のその鳴き声は、まるで一日の始まりを祝福してくれているかのようで、胸の中に小さな勇気が湧いてくる。

市場に向かう道は朝の空気が清々しく、少し冷たい風が頬をかすめていく。シャズナは隣で軽やかな足取りを見せ、耳をピクピクと動かして周囲の音を楽しんでいる様子だった。道行く人々が僕たちを見かけて微笑む中、シャズナは優雅に頭を少し下げ、まるで挨拶を返すかのような仕草を見せる。その仕草に笑顔を返しながら、僕たちは市場へと足を運んだ。

市場に着くと、賑やかな声が耳を打ち、香ばしい匂いや新鮮な野菜の香りが漂ってくる。僕はリュックから品物を取り出し、納品先の店主へ渡す。「いつもありがとうな！」と笑顔で受け取る店主に軽く会釈を返し、続けて行商人のテントへと向かう。シャズナは周りの人混みにも動じることなく、しっぽをゆるやかに振りながらついてくる。

行商人のテントには、今日も見慣れた顔の行商人が立っていた。「おや、お二人さん、いらっしゃい！」と快活な声が迎える。「今日は何をお求めかね？」と聞かれ、僕はリストに目を落として必要な品を告げた。行商人はすぐに品を集めながら、「この間は特製の味噌を買っていったよね、どうだった？」と話しかけてくる。「とても美味しかったよ。味噌汁にしたら香りが良くて、シャズナも大喜びだった」と答えると、シャズナはにゃーと短く鳴いてその話に応じた。

行商人はその声に笑みを浮かべ、「シャズナも喜んでくれたなら良かった！」と笑った。品物を受け取り、支払いを済ませると、太陽はすでに空高く登り始め、昼の訪れを告げていた。市場を後にして、僕たちは帰路に向かう。隣を歩くシャズナの足取りが少し軽くなっているように見えるのは、市場での楽しいひとときの余韻が残っているからだろうか。

「今日も頑張ったな、シャズナ」と声をかけると、彼は「にゃー」と鳴き、優しい表情でこちらを見上げた。その姿を見て、僕はまた微笑み、ゆっくりと自宅への道を進んでいった。