のほほん異世界暮らし

212 シャズナと大蜥蜴

農場での作業を終え、空が穏やかな夕方の色へと移り変わる中、僕はシャズナとともに自宅へと続く道を歩いていた。穏やかな風が肌を撫で、遠くからは小鳥たちのさえずりが微かに聞こえる。シャズナは鼻先をひくつかせて周囲の香りを楽しんでいるようで、耳をピクピクと動かし、しっぽをゆるやかに揺らしていた。

しばらく歩いていると、道の先に巨大な影が見えた。道の真ん中で日向ぼっこをしているかのように、のんびりと横たわるそれは、大きな大蜥蜴だった。厚く硬そうな鱗が夕陽に照らされてかすかに光り、その体躯は威圧感を漂わせていた。しかし、その目は優しげで、何かを企む様子は全くなかった。

僕はシャズナを見た。彼はまったく恐れた様子もなく、好奇心のまなざしをその大蜥蜴に向けていた。耳をピクピクと動かし、しっぽをゆるやかに振りながら、大蜥蜴の動きをじっと見守っている。大蜥蜴もこちらを見つめたまま動かず、その大きな瞳には何の敵意もなかった。お互いに見つめ合うこの静かな瞬間、時間が止まったかのように感じられた。

数秒後、大蜥蜴はゆっくりと頭を下げ、まるで挨拶をするように軽く会釈をした。そして、重厚な体を持ち上げると、草むらの中へと静かに歩き出した。その動きは思いのほか滑らかで、風に草が揺れる音とともにその姿は次第に遠ざかっていった。

シャズナは「にゃー」と小さな声を上げて、大蜥蜴の背中を見送る。その声はまるで「またね」と言っているかのようで、僕は思わず微笑んでしまった。ふたりの姿はまるで長年の友人が再会して別れる時のようだった。自然の中で繰り広げられるこの不思議な交流が、なんとも心温まるものに感じられた。

しばらくして、大蜥蜴の姿が完全に見えなくなると、シャズナは僕の方を振り向き、にゃんと鳴いてから再び歩き始めた。その瞳には安心感と満足感が漂っており、彼にとっても特別な一瞬だったに違いない。僕たちは再び家路をたどりながら、今日の農場での一日と、この驚くべき遭遇を心に刻んだのだった。