『霧の中の約束』

3話

僕の心臓が激しく打ち鳴らされた。手にした本のページをめくるたびに、まるで目の前の空気が濃く重くなっていくような感覚に襲われた。言葉が僕の目に飛び込むたびに、その恐怖が一層増していくようだった。

「この本は、僕たちの過去の記録であり、未来を決定する鍵だ。」

その文字が脳裏に焼き付き、僕は一瞬、息を呑んだ。宗一郎も一朗太も、過去に何か恐ろしいことを経験していたのだろうか？ 僕が知っている限りでは、二人は幼い頃から無敵のように仲が良く、周りに困ることなく過ごしてきた。だが、今、目の前にあるこの本がすべてを変えるのか？

「宗一郎、これが意味することは何だ？」僕は声を絞り出した。

宗一郎は黙って立ち尽くしていた。その瞳は虚ろで、まるで過去の何かに引き寄せられるかのように遠くを見つめている。僕の問いかけには答えず、ただページを指で追うだけだった。

「答えを見つけるには、全てを知る必要がある。」宗一郎がようやく口を開いたその瞬間、部屋の扉が突然、軋む音を立てて開いた。

「宗一郎。」その声に僕は一瞬、足を止めた。扉の向こうに立っていたのは、一朗太だった。顔色が青ざめており、目には焦燥と恐怖が色濃く浮かんでいた。

「どうして、あの本を？」一朗太の声は震えていた。「僕が言ったじゃないか、あれを開けるのは危険だと。」

「でも、もう遅い。」宗一郎の声は冷たく響いた。「何かが始まってしまった。お前も知っているはずだ、一朗太。」

その言葉を聞いた一朗太は、何かを決意したように深く息をつき、僕と宗一郎を交互に見た。そして、ゆっくりと口を開く。

「実は、あの本には…僕たちがまだ知らない事実が書かれている。それを知った時、僕たちはもう元に戻れない。」一朗太はそう言い、書斎の隅にある小さな机に座った。そこには、また一冊の手帳が無造作に置かれているのが見えた。

「それが、何だ？」僕はその手帳を指差しながら言った。

一朗太は目を伏せ、しばらく黙っていた。しかし、ようやく口を開いた。

「それは…もう一つの秘密の記録だ。」一朗太の声は低く、震えていた。「あの日、僕たちが手に入れたものが、何かを呼び寄せてしまったんだ。それを解明するには、もう一冊の手帳を開けなければならない。」

「解明する？」僕はその言葉の意味を問いかけた。だが、一朗太はさらに重い口を開いた。

「その本、実は呪われている。僕たちがあの夜に触れたことで、すべての歯車が狂い始めた。」一朗太の目は今や完全に恐怖に満ちていた。「そして、この屋敷にも何かが…やって来た。」

その瞬間、再び屋敷の奥から奇妙な音が響いた。それはまるで、何かが蠢く音のように、床を引きずるような、重く低い音だった。僕たちは全員、その音に耳を傾けた。誰かが近づいているのか？ それとも、何かが屋敷内で動き出したのか？

「もう、逃げることはできない。」宗一郎が静かに言った。「あの夜に手に入れたものを、僕たちはまだ理解していなかった。それが全てを引き起こしている。だが、今さら後悔しても遅いんだ。」

僕はその言葉に、言いようのない不安を覚えた。その夜、何があったのか？ それが今、すべての恐怖を生んでいるのだろうか？

「その手帳に書かれていたことが、今、現実になりつつある。」一朗太が続けた。「そして、それはもう、僕たちの手に負えない。」

突然、屋敷の中で電気が消え、暗闇が一気に広がった。部屋の中にいる僕たちは、しばらくその暗闇の中で静まり返っていた。誰も動くことができなかった。その時、ふと気づくと、どこからかひときわ大きな音が聞こえた。

「ドン！」まるで屋敷の中で何かが衝突したかのような音。それと同時に、窓の外から冷たい風が吹き込んだ。

そして、窓の外に見えたのは――

誰かが立っていた。