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46話

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笑顔でそう返してくれる優斗を見て俺は改めて思う。やっぱり頼りになり、そして良い奴だ、と。
だからだろうか、つい気になっていたことを訊いてしまう。
「なぁ……どうしてお前はそこまで俺のために協力しようとしてくれるんだ? ただのクラスメイトでしかないっていうのに……」
すると、
「うーん、なんていうかさ……僕って昔から人見知りが激しくて、それで中々友達を作ることができなくて、ずっと寂しい思いをしていたんだよ」
「そっか……それは辛い日々だったな。でも今は違うんだろ?」
「うん。真宮先輩のおかげかな。あの人はいつも一人でいる僕のことを助けてくれたから。そして、僕もいつかは彼女を助けたいと思えるような存在になりたいと思ったんだ。その願いが届いたのか、今ではこうして親友と呼べる君とも親しくできている」
優斗のその瞳からは確かな意志を感じることができた。俺はその姿に心動かされると同時に感動を覚えた。だからか自然とその口が動いてしまう。
「そう言ってくれると俺としても嬉しいよ。ありがとう」
感謝の言葉を述べる。それに対して彼は、
「うん、こちらこそ!」
眩しく輝く笑顔を見せてくれるのであった。
翌日、早朝――。
真夏の日差しの下、駅前広場に立っている俺の元に一人の少女が現れた。言わずもがな、彼女こそが本日の協力者でありデートの相手でもある橘優菜その人である。
彼女は俺の姿を確認すると、大きく手を振って駆け寄ってきた。
「ごめんね、少し待たせちゃったかな?」
「ううん、そんなことないよ。それよりもわざわざ迎えに来てくれてありがとう。優斗くんはまだ来ていないの?」
周囲をキョロキョロと見渡してみる。だが優斗らしき人物を見つけることはできなかった。どうやらまだ到着していないようだ。
そのことを伝えようとした時だった。俺の背後に誰かが立つ気配を感じた。その瞬間、背後から俺の両肩に手が置かれ、同時に耳元で囁かれるように言葉が発せられた。
「おい……貴様! 誰の許可を得てそこにいる? さっさとそこから立ち去れ。今すぐ消えなければ痛い目を見ることになるがそれでも構わないのだな?」
聞き覚えのある声だった。なので振り返るとそこには予想通りの人物がいた。優斗である。
そして彼は不敵な笑みを浮かべていた。おそらくこの状況を作り出したのは彼なんだろうな。そうでなければここまで上手くことが運ぶはずがない。
つまり全ては仕組まれていたという訳か。全く本当に驚かされたよ。でもまぁそれも今更だろう。なにしろ彼はこういう奴なんだから。とはいえ、
「…………」
目の前に立つその威圧感溢れる姿を見て、思わず固まってしまった。というのもある種無理もない話だった。だって、
「ゆ、優菜さん!?」
彼女の格好がとても大胆で刺激的なものになっていたからだ。それはもう、目のやり場に困ってしまうくらいに……。
なので、つい動揺してしまった俺は反射的に目を逸らす。しかしすぐに疑問を抱いた。
(えっと、これって一体どういうことなんだ?)
真意を測りかねた俺は視線を元に戻して優菜さんを見やる。
「何ですか、その服? どうしてこんなことになっているんですか? もしかして今日のために用意してきたとか?」
質問をすると、
「えへ、実はそうなの。どう、似合ってるかなお兄ちゃん。一応お化粧もばっちりしたんだけど」
可愛らしくはにかみながら答えてくる優菜さん。そんな彼女の様子を見ているとどうしても胸がときめいてしまう。
しかも彼女の顔が間近にあるため余計にだ。だから俺は照れてしまってつい顔を背けてしまった。
「うん、凄く可愛いと思います」
正直に答える。実際彼女の言う通りとてもよく似合っていた。それはまるでアイドルが水着姿で現れたかのように。
しかし、そんな魅力的な姿を見せられては心配になってしまう。
というのも、彼女がもし変な男に目をつけられたらと想像するとゾッとするからである。もし万が一何かあった場合を考えると落ち着かない気持ちになってしまった。
だからこそ、
「ちょっと見せすぎじゃないですかね? いくらなんでも露出し過ぎですよ。俺以外の男にも同じような姿を見られるんですよ。だからもう少し危機感を持った方がいいんじゃないかと……」
そう助言したのだが、
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
そう微笑まれる。
「え?」
「確かにこの服装だと周りの男の人達の注目の的になるかもしれない。でもね、これはあくまでも作戦の一環。むしろこれが成功するための布石に過ぎないんだよ」
彼女は真剣な眼差しでそう言ってくる。俺はその意味を理解しようとしてすぐに思い至る。
なるほど、そうきたか。俺はその事実を噛み締めるように何度も頭の中で反すうする。そうしていると自然と頬が緩んできた。そして、
「うん、そうだね。そう考えると安心できる気がしてくるよ。ありがとう優菜さん。君のおかげで不安が払拭できた」
素直に感謝の言葉を述べることができた。優菜さんのその心遣いに報いることができたと思ったからだ。なので、
「じゃあ早速行こうか」
俺は優菜さんの手を掴んで目的地へと歩き出す。
「うん!」
優菜さんは元気良く返事をするのであった。
それから俺たちはまず水族館へと向かうことにした。その理由は単純で電車で移動すれば十分足らずで着くからという理由の他にもう一つ、ある場所に立ち寄る時間を確保するためだった。
「それにしても暑いなぁ」
駅前を離れて数分後、俺は額の汗を拭いながら呟いた。
今は夏真っ盛りの八月――つまり猛暑日である。加えて、気温の高さもさることながら湿度も高いせいか不快指数が半端ではない。
なので、自然と口数も減っていた。そんな状態でしばらく歩いていると、ふいに左手に柔らかな感触が伝わった。気になって見てみると、
「優菜さん?」
いつの間にか優菜さんが俺の手を握ろうとしていた。それは俗にいう恋人繋ぎというやつだ。俺は慌てて周囲に目を配る。すると、俺達以外にもちらほらと手を繋ぐ男女の姿を確認することができ、ホッと安堵のため息を吐きそうになった。だが次の瞬間、今度は俺の首に腕が巻きつけられる感覚が走る。その正体は、
「おい、そこのお前……何のつもりだ?」
隣で歩く優菜さんが、鋭い眼光を放ちながら優斗にガン飛ばしていた。彼女は明らかに怒っているようで今にも飛びかかりそうな勢いだった。
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