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40話

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「いえ、当然のことをしたまでです。他にご質問などはありませんか」
「大丈夫だ」
「かしこまりました。それではすぐに準備を始めましょう」
「わかった」
俺はリリアに連れられて、部屋を出ていくとすぐに移動を開始した。
案内されたのは広い部屋の中だった。そこには既に複数の人達の姿が確認できる。どうやら、これから試験が始まるようだ。そして、その中にはさっき別れたばかりのシルビアの姿もあった。
彼女はどこかソワソワしているように見える。おそらく緊張しているのだろう。無理もない、初めての実戦を経験した後だからな。ちなみに、シルビア以外にも見覚えのある人物が二人いる。片方はさっきも見た顔だ。確か名前はカルドと言ったはずだ。年齢は二十代前半といったところだと思う。そして、もう片方は初めて見る人物だ。年齢は恐らく三十前後で細身の体型をしており、かなり背が高い。そして、その顔立ちは非常に整っている。まさにイケメンという感じだ。
ちなみに、この二人は俺と同じパーティのメンバーらしく、今回は同じチームを組むことになったらしい。どうやら実力の方は申し分無いようだ。ただ、少しばかり心配事がある。それは、俺がこの世界での一般的な戦闘技術を知らないということだ。果たして、どの程度の力を持っていればいいのか。正直言ってかなり悩む。
「それではこれより適性検査を開始する。まずは筆記の試験を行うので呼ばれた者から前に出てくるように」
どうやら早速始まったみたいだ。
まぁ……とりあえず今は考えるのをやめよう。それからしばらくすると次々と名前が呼ばれていき、全員が呼ばれると今度は別の場所へ移動するように言われた。その場所にはいくつかの武器が用意されており、それぞれ使いやすいものを選んで手に取るように指示される。そして、それを順番に振り回していく。
その結果は予想通りだった。ほとんどの人間がまるで使えないといった感じの反応を示した。そんな中、意外にも使えると答えた人間はたったの一人。その男は俺達の中で一番若い少年。彼は剣を選んだ。だが、他の連中と違ってあまり満足そうな顔をしていないことから察するにおそらく才能がないのだろう。そんな風に思ってしまった。
「では、次は近接格闘だ。これは実際に相手を倒すことを目標にして行われる。それ故に、危険度は非常に高い。その為、万が一に備え魔法の使用を許可する。また、こちらが危険だと判断した場合は介入することも辞さない」
つまり、殺る気でいけってことだろ。正直に言って気が乗らない。だけど、ここで逃げたら元も子もないか……。仕方ない、腹を括ろう。
「では……始め!!」
「はぁぁあああ!!!!」
合図と同時に一斉に攻撃が開始された。俺もその例に漏れず真っ先に飛び出していった。だが、その途中で足を止める。その理由は簡単だ。俺の正面に一人の女性が立っていたからだ。それも俺よりも遥かに強いと思われる相手が。
「あなた……中々のスピードね」
「……そりゃどうも」
見た目から判断する限り、この女性は相当な実力者であることがわかる。それに、今の発言で確信した。俺の考えは間違っていない。この女はおそらく俺と同格以上の力を持つ人間だ。だからこそわかる。こいつは……強い。そう思うだけで嫌になるな全く。こんな時くらい普通の強さでいさせてくれよ!!まぁ……考えても無駄なことだってわかってはいるが。
「でも、まだ私と戦うつもりはないんでしょ」
「当たり前だろ。悪いけど俺は別に戦いたいわけじゃないんだ」
そうだ。俺はあくまで元の世界で平和な暮らしを送りたかっただけだ。だから、こんなところで死ぬなんて御免だし、こんな奴と戦ってまで手に入れたい物もない。はっきり言ってしまえば戦うメリットが一つもない。むしろデメリットの方が大きい。
まぁ……だからこそ困っているんだけど。このままだと間違いなく負けてしまうからな。
そうならない為にはどうにかしないとな。よし、決めた。ここは一旦引くことにしよう。
そう思って、後ろに振り返ろうとした瞬間……目の前の女が視界いっぱいに迫ってきていた。
俺は咄嵯に身を捻り回避を試みたが……間に合わない。
次の瞬間、俺は背中に強い衝撃を受け地面に倒れ込んでしまった。
何が起こったのかわからないまま、なんとか視線を上げると、そこに映ったのは拳を振り下ろしている女の姿で……俺は、自分が負けたことを悟った。
「はぁ……やっぱり勝てなかったか」
正直に言う。今のは絶対に油断していたからじゃない。完全に全力を出して挑んだ。その上で……負けたのだ。
この世界は、やはり元の世界より格段にレベルが低い。それはもう間違いないだろう。だけど……この女は違う。きっとこの世界にきてからの期間が長い。もしくは、この世界の基準で考えれば俺達が異常過ぎるのかもしれない。
どちらにせよ、この世界で生きる為にはまだまだ足りないものが多いということだけは理解できた。
「大丈夫?」
倒れたままの俺を見て心配してくれたのか。声をかけてくれた。どうやらいい人みたいだな。こういう人は嫌いじゃないぜ。
「ありがとうございます。助かりました」
俺は起き上がると、そのまま立ち上がって女性に頭を下げた。
「そんなかしこまらなくても大丈夫よ。ほら、私は別に怪我とかしていないし」
「それでも、一応感謝していますから」
「ふーん。そう……じゃあ受け取っておくわ。それよりも早く戻りましょう。みんなが待っているわ」
「わかりました。すぐに行きます」
そう言って俺はその場を離れようとしたが、そんな時に一つの疑問を覚えた。どうして彼女は俺を助けたのだろうか。と、いうことだ。彼女は俺のことを殺すことができたはずだ。にもかかわらず、わざわざ手を抜いた。その理由は何なのか。俺はそれが気になった。そこで俺は彼女を呼び止めることにした。
「あの!」
彼女は不思議そうな顔を浮かべながらこちらへと振り向いた。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと質問があるんですけど」
「何かしら?答えられることなら答えるけど」
「それじゃ遠慮なく。なんで俺のことを殺さなかったんですか?あんな一撃を放てるほどの実力があったにも関わらず……」
そう言った瞬間、俺達は周囲の人間達全員の注目を浴びていた。それも当然だ。いきなりそんなことを聞かれたら驚くのも無理はない。だが、俺はどうしても聞きたかった。
彼女の意図を知っておきたかった。
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