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第百七十話:迷惑なお客様、魔王の弟来店
しおりを挟むある日のこと、コンビニ「ワンダー」の自動ドアが重厚な音を立てて開くと、そこに立っていたのは誰もが一瞬息を呑む存在だった。全身を黒いマントで包み、目には燃えるような赤い光——魔王の弟、マルドゥークだった。
店内は一瞬で静まり返り、騎士たちの視線が集中する。「ま、まさか魔王の弟がこんな場所に来るなんて!」と驚愕の声が漏れる中、魔物たちも緊張した面持ちで様子を伺う。
「いらっしゃいませ~!」と、全く動じない店長が声をかける。「今日は何をお探しですか?」
魔王の弟は無言のまま店内を見回し、棚に並ぶ商品をじっと睨む。「このコンビニに伝説の『勇者ドーナツ』があると聞いてな…。まさか噂は嘘か?」
店長は笑顔を崩さず、指で棚を示した。「こちらですよ。新入荷です!勇者の魂が練り込まれていると言われてますが、実はただのシュガーリングです。」
すると、騎士団の一人が叫んだ。「いや、そんなものが存在するわけないだろ!?」
魔王の弟は真剣な顔でドーナツを手に取り、じっくりと観察する。そしてポツリと言った。「…甘い香りだ。だが勇者の力は…ないようだな。残念だ。」
店長はすかさず「でも、美味しいですよ!」と薦め、ついには魔王の弟が「一ついただこう」とレジに向かった。
その瞬間、店内が拍手と笑いに包まれる。勇ましい騎士たちも、「なんだ、意外といい奴じゃないか」と笑顔を見せ、魔物たちもホッとした顔つきで店の雰囲気を楽しむ。
コンビニ「ワンダー」はまたしても、騒動とともに平和を取り戻したのであった。
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