上 下
51 / 185

第五十一話:神界からの使者

しおりを挟む

今日はいつもと少し違う予感がした。店内はいつも通りに騎士様や魔物たちがひっきりなしに出入りしているけれど、空気がどこかピリッとしている。そんな中、レジに立ちながらも、少しだけ胸騒ぎがする。

「ふーむ、今日も賑やかだなぁ。」私はひとりごち、棚を整理していた。

その時、店の扉が開く音が聞こえた。見ると、見たことのない服装をした人物が入ってきた。白いローブに金の刺繍が施されており、髪は長く、なぜか周囲に微かに光を放っている。まるで神々しい存在だが、今までの魔物たちとは何かが違う。

「いらっしゃいませ!」私は無意識に声をかけるが、その人物は目を細めて、私に向かって歩いてきた。

「ふむ…」その人物は私をじっと見つめてから、少しだけ微笑んだ。「貴様がこの異世界のコンビニを経営している者か。」

「えっ、はい。そうですけど…」私は少し困惑しながら答える。「あなたは…?」

その人物はゆっくりと口を開いた。「私は神界からの使者。名をアルファリオンと言う。」

「神界から…!?」私は目を見開く。「す、すみません、ちょっと驚いています…」

アルファリオンは手を軽く振って、気にするな、と言わんばかりに微笑んだ。「いや、驚くのも無理はないだろう。だが、急な話で申し訳ないが、貴様に頼みがあってきたのだ。」

「頼み、ですか?」私はもう一度アルファリオンを見つめた。

「うむ、実は我々神界には…新たな商品を開発しようという案があり、その試作品を貴様の店で売り出して欲しいのだ。」

「新たな商品?」私は少し考えてから、少し警戒した。「でも、神界の商品って…かなり特殊じゃないですか?」

アルファリオンはニヤリと笑った。「もちろん、普通の商品ではない。だが、心配無用だ。これはとても便利で、むしろ貴様の店にぴったりだろう。」

私はその言葉に心がちょっと躍る。でも、ちょっと警戒もした。「どんな商品ですか?」

アルファリオンは一歩前に進み、神々しい光を放ちながら、手をひらひらと振った。その手のひらに浮かび上がったのは、何か小さな球体のようなものだった。

「これだ。」アルファリオンが言った。

「それは…?」私は目を凝らして見た。その球体は、光を放ちながらも不安定な感じで揺れ動いている。

「これは、神界の最新技術で作られた『自己調整型おにぎり』だ。」アルファリオンは得意げに言う。

「え?」私は一瞬耳を疑った。「おにぎり?」

「うむ。」アルファリオンはうなずいた。「普通のおにぎりだと思うなよ。このおにぎりは、食べる者に合わせて具材を変化させるという素晴らしい魔法がかかっているのだ。」

「具材を変化…?」私はちょっと理解できなかった。「それって…どういうことですか?」

「例えば、貴様がこれを食べるとしよう。すると、このおにぎりは貴様の体調や気分に合わせて、具材を自動的に変えてくれるのだ。体調が悪いときは消化に良いもの、元気なときは栄養が豊富なもの、さらには気分が落ち込んでいる時にはおにぎりの中身が笑顔を引き出すための具材に変わるのだ。」

「それ、すごすぎませんか!?」私は思わず声を上げてしまう。「でも、なんでそんなすごい商品がここに…」

「それが問題なんだ。」アルファリオンは少し表情を険しくした。「実は、このおにぎり、まだ完全に調整が終わっていなくて…たまに具材が全然関係ないものに変わってしまうことがあるんだ。」

「全然関係ないもの…?」私は少し不安になる。「例えば?」

「例えば…この間、食べた者が激辛唐辛子を大量に食べたと思ったら、突然おにぎりの具材が完全に唐辛子だらけになって、食べるのが大変だったとか。」アルファリオンが少し苦笑いをしながら言う。

「それって…」私は心配になりつつも、少し笑ってしまった。「うーん、それは確かに大変だ…」

「だから、今度は貴様の店で実験的に販売して、正確な調整を行いたいのだ。もちろん、少しリスクはあるかもしれんが、問題があればすぐに取り換えさせていただく。」

私は一瞬考え、そして口を開いた。「うーん、確かに興味深いですけど、リスクもあるし、まずは試験的に少量から販売しませんか?」

「そうだな、それが賢明だろう。」アルファリオンは満足げにうなずいた。「では、少量をお渡しするので、うまく調整して売り出してくれ。」

そして、アルファリオンは小さな箱を私に渡してきた。「これで試してくれ。」

「わかりました。」私はその箱を受け取りながら、少し戸惑いつつも決心した。「それでは、さっそく試してみますね。」

「頼んだぞ。」アルファリオンはにっこりと笑い、神々しい光の中で店を出て行った。

「さて、どうなることやら…」私は箱を見つめながら、思わず少し笑ってしまうのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...