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第五十話:電話対応で困り事
しおりを挟む今日はいつもと違って少し静かな店内。騎士様や魔物たちがあまり来ない代わりに、私はレジを片付けたり、棚を整えたりと暇な時間が続いていた。そんな時、ふとレジ横にある電話が鳴り響いた。
「ん? 電話だ…」私は急いで受話器を取る。
「はい、異世界コンビニ『ア・ドリーム・ストア』、どうも! ご注文の確認ですか? それとも新しい商品についてですか?」
電話口からは少し掠れた声が聞こえてきた。とても高齢そうな声だ。
「ア…アー、私が言いたいのは、ちょっと不安なことがあって…」電話の相手は声を震わせて言う。
「ん? 不安なこと?」私はちょっと心配になりつつも、話を続ける。
「実は、魔法のバターを注文したんだけど…」相手は言いにくそうに、さらに続けた。「そのバター、どうも料理ができなくなる魔法がかかっているみたいで…」
「え? それって…」私は思わず目を見開く。「魔法のバターって、普通のバターとは違う特殊なものだけど、そんなことあるのか?」
「いや、だから不安なんだ。昨日使おうとしたら、料理が全くできなくなっちゃって…」相手の声はさらに震えてきた。「さっきはスープを作ろうとしたんだけど、途中で全ての具材がバターに吸い込まれてしまって、見た目がデザートみたいになっちゃってさ…」
「うわっ、それは困ったな…」私は思わず笑いをこらえながらも、必死に真面目に対応する。「でも、これは不良品ではないよ。確かに魔法がかかっているけど、特別な使い方があるんだ。ちゃんと説明書を読んだ?」
「説明書、って…あー、もしかして、あの小さな紙?」相手は少し焦った様子で答える。「読んだんだけど、なんだか小さすぎて…内容がほとんど見えなくてねぇ。」
「それは大変だ…」私は頭を抱える。確かに魔法がかかっている商品には特別な注意点が必要だ。しかし、それが小さすぎて読めないとは、どうしようもない。しかも、そんなトラブルが起こるのも困ったものだ。
「実はさ…」電話の相手が声を潜めて言う。「そのバター、昨日だけじゃなくて、今朝も使ってみたんだ。そしたら、パンケーキに塗ったら、パンケーキが空を飛び始めて…」
「えっ!? パンケーキが空を…!? 飛んだ…?」私は驚きながらも必死に冷静を保とうとする。「それ…もしかして、バターの魔法じゃなくて、あなたが魔法使いじゃないのか?」
「えっ!? いや、魔法使いじゃないよ! そんなことあるわけないだろう! ただ、なんかスイーツ系のものに使うと奇妙なことが起こるみたいなんだよ!」相手は焦った声で反論する。
「なるほど、だからおかしなことが…」私はメモを取りながら、少しずつ原因を整理する。「うーん、それは予期していなかった問題だね。でも、心配しなくても大丈夫だよ。魔法のバターは、特にスイーツ系の食材には魔法の効果を発揮しやすいんだ。ただ、使い方にコツがある。冷蔵庫で冷やすと安定するよ。」
「冷蔵庫で冷やす…?」相手が少し納得した様子で言う。「それで、飛ばなくなるってことか?」
「うん、冷蔵庫でしばらく寝かせてから使うと、ちょうどいい具合に調整できるはずだよ。」私は自信を持って答えた。
「ありがとう、ありがとう…ほんとに助かったよ…」相手は安堵したようで、声が明るくなった。「でも、もう飛ばないパンケーキで食べたかったんだけどなぁ…」
「飛ぶパンケーキね…ちょっと面白いけど、料理の魔法って予期せぬ効果が出るから、注意が必要だよね。」私は笑いながら答える。「まぁ、でも普通の使い方をすれば、ちゃんと料理として使えるから心配しないで!」
「分かったよ! ありがとう!」相手は嬉しそうに電話を切った。
私は受話器を置きながら深いため息をつく。「今日もまた、魔法の力が予想外の方向に働いたんだな…」と呟きつつ、少しだけ笑ってしまった。
本当に、この世界の魔法って、いつだって予測がつかないものばかりだ。それにしても、空を飛ぶパンケーキって…今後もそういった電話対応が増えてきそうだ。
「さて、次はどんな電話がかかってくるのやら…」私はもう一度受話器を持ちながら、次のお客様に備えるのであった。
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