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第四十八話:牛の魔物来店
しおりを挟む今日も異世界のコンビニは賑やかだ。騎士様たちに、魔物たち、様々な人々がやって来て、賑やかな雰囲気の中で私はレジを打ちながらお客さんを迎えている。
「こんにちは~! 今日は何を買いに来たんだ?」
レジに向かって声をかけると、店のドアが開き、店内に現れたのは……。
「モォォォォ!」
その声に振り向くと、目の前にいたのは何と、巨大な牛の姿をした魔物だった。立派な角が生え、ふさふさした体毛に包まれたその牛魔物は、見た目からして強そうだが、何やらニコニコと嬉しそうにしている。
「お、お客様! いらっしゃいませ!」私は驚きながらも、すぐに笑顔を作って応対する。
「モォ~、こんにちは! お前の店、良い感じだな! 今日は何か美味しいものをくれよ~!」牛の魔物は、何とも愛嬌たっぷりに笑っている。いや、笑顔がちょっと不気味な気もするが、これもお客様だ。
「もちろんです! 美味しいものはたくさんありますよ! 何か特に欲しいものはありますか?」私は出来るだけ丁寧に答えようとする。
「モォォ~、俺、最近ずっと草ばかり食べてたからな、たまには肉を食いたくてな! お前んとこの肉、どうだ?」牛魔物はじっと私を見つめて、頼んでくる。
「えっ、肉ですか? あ、はい、こちらに牛肉のスライスがございますが……」私は棚の上の牛肉を指さす。
「モォォ~! 俺の肉に似たような肉があったら最高だ! ちょっとそれ、くれ!」牛魔物は意気揚々と注文する。
「はい、承知しました! じゃあ、お肉のスライスを一袋ですね。少々お待ちください。」私は肉を取り出しながら、他にも何か欲しい物があるのかを気にして聞いてみる。
「よし、それでな、あと牛乳も頼む! 牛乳だ、モォ~!」牛魔物はとにかく大きな声で頼んでくる。
「牛乳ですか。承知しました! おいしい牛乳、取り揃えておりますよ。」私は冷蔵庫から牛乳を取り出し、カウンターに並べる。
「あと、俺の小腹も満たしたいから、チーズだな! チーズ!」牛魔物はさらに注文を重ねる。
「チーズですね。こちらもご用意いたします!」私はチーズを手に取りながら、店内に響く牛魔物の注文ラッシュに少し焦りを感じる。
「モォ~、これで全部だ。あとは、飲み物も頼んでいいか?」牛魔物は満足そうに頷く。
「飲み物ですね。どんなのをご希望でしょうか?」私は少し緊張しつつも、答えた。
「オレ、やっぱり……一番おいしいのはやっぱりこれだ! グビグビ飲める、あれだ!」牛魔物は腕を大きく振り上げて、熱烈に要求してくる。
「え、あれですか? …ああ、あれですね。もちろん、こちらにございます。」私はちょっと考えた後、ラムネの瓶を持ってきた。
「モォ~、それだ! ありがてぇ、兄ちゃん、やっぱりよくわかってるな!」牛魔物はラムネを受け取ると、まるで満足そうに一気に飲み干した。
「ありがとうございました! こちらが全部で、合計になります。」私はすかさずレジを通し、金額を告げる。
「モォ~、良いぞ、良いぞ! 払うぜ! 俺、こういうところに来ると嬉しくてさ、ついつい買いすぎちゃうんだよな!」牛魔物は満面の笑顔を見せて、お金を払った。
「本当にありがとうございます! また来てくださいね!」私は笑顔で送り出す。
店内が一瞬静まり返った後、周りの客たちが少しずつ笑いをこらえながら、また元の雰囲気に戻った。何だか、今日もまた、変わったお客様が来てくれたようだ。
「モォ~、じゃあな、兄ちゃん!」牛魔物は大きな足音を立てながら、満足げに店を後にした。
店のドアが閉まり、私はしばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。まさか、こんなに本格的な「牛魔物」が買い物に来るなんて、想像もしていなかった。
「…いや、もう何があっても驚かないだろうな、ここの店。」私は頭をかきながら、ふとそんなことを考えていた。
その後も次々に新しいお客様が来店し、今日はまた新たな出来事が起きる予感がする。何が待ち受けているかはわからないけれど、これもまた、異世界コンビニ経営の面白さだな、と感じる瞬間だった。
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