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第三十二話:魔界の魔王、ついに来店!
しおりを挟むあの日もいつも通り、店内は賑やかな魔物たちでいっぱいだった。コボルトたちはカゴにたくさんの肉を入れ、ゴブリンたちはトレーディングカードの新しいパックを開けて興奮している。騎士リオネルもいつものように食事をとりながら、すっかりこのコンビニを気に入っている様子だ。
だが、その日、普段とは違った足音が聞こえた。
ドアベルが鳴り、店内が一瞬で静まり返る。俺はレジの前に立っていると、重々しい足音とともに一人の男が現れた。黒いマントを身にまとい、鋭い目つきと威圧感を放つその人物の姿に、魔物たちが一斉に後ずさりを始めた。
「こ、これは…!」
「魔王様だ!!」
その男は、まさに魔界の支配者、魔王様――その名も「ダークシャドウ」。普段は魔界の最深部で絶大な力を誇り、表舞台には出ることはほとんどないが、異世界の噂話で名は聞いたことがあった。まさか、そんな存在がこのコンビニに来るとは!
「うむ、ここが噂の異世界コンビニか…」
魔王様は低い声で呟きながら、店内をじっと見渡す。俺はすぐに頭を下げた。「い、いらっしゃいませ! どうぞお好きなものをお買い求めください!」
「ふむ…」
魔王様は店内をゆっくり歩きながら、商品の棚を見ていく。だが、何も買わずにただじっと見ている。その姿に、周囲の魔物たちは「魔王様、買うものがないのか?」と小声で囁いていた。
魔王様、予想外のリクエスト
「店主よ、私はお前の『異世界チョコレートバー』を食べてみたくて来た」
魔王様がようやく口を開いた。その一言に、俺は内心驚きながらも、すぐに冷静を取り戻してチョコレートバーを取り出した。
「こちらがそのチョコレートバーです。特にスパイシーエディションが人気ですよ!」
魔王様はそれを受け取ると、無表情で一口かじった。周りの魔物たちは息を呑んでその反応を見守っていた。
「ふむ…この甘さと辛さのバランス…」
魔王様が目を閉じてうなずく。「悪くない。むしろ、この異世界の食べ物は、なかなかに面白いな。だが、私はこれに『魔界のスパイス』を加えてみたいのだが、店にはそのような調味料は置いてないのか?」
俺は少し考えてから答えた。「魔界のスパイス…ですか? それはちょっと難しいかもしれませんが…ちょっと待ってください!」
すぐに店内を探し、俺は代わりに「魔物専用の辛味調味料」を取り出してきた。
「これでお試しください!」
魔王様はそれを見て、しばらく黙ってから、またチョコレートバーにその辛味調味料をふりかけて一口。
「ふむ、なかなかの刺激だ。これならば、魔界の宴に出しても遜色ないな」
魔王様が満足そうにうなずいた。周囲の魔物たちもホッとしたような顔をして、次々とチョコレートバーを手に取る。
新たな常連の誕生?
魔王様はチョコレートバーを堪能した後、満足げな顔をして言った。「この店、なかなか気に入った。次に来た時はもっと『魔界風の料理』を用意しておけ。私の魔界の宴のためにな」
そして、魔王様は何事もなかったかのように店を後にした。
「魔王様が常連に…?」
リオネルがぽつりと呟く。
「まさか、こんな大物が来店するなんて…」
俺はその場の空気に圧倒されながら、棚にチョコレートバーを補充した。
その後、店内はいつもの賑わいを取り戻したが、皆が心の中で「次は魔界の宴が開かれるかもしれない」と思っていたことは間違いないだろう。
そして、俺は改めて感じた。この異世界コンビニは、どんな客が来ても面白い展開になる、そんな場所なのだと。
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