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第十一話:騎士様とコボルト、そしてゲームの課金カード
しおりを挟む今日は久しぶりに、あの騎士様が店に来る日だった。もう何度も顔を合わせているけれど、毎回驚かされるのはその圧倒的な存在感だ。あの鎧の輝きが店に入るたびに、まるで騎士映画のワンシーンのように感じる。
「おお、久しぶりだな、店主。」
騎士様が堂々と店に入ってきた。今までより少しリラックスした様子だ。後ろには、いつものコボルトがぴょこぴょことついて来ている。
「お久しぶりです、騎士様。」
俺は少しびっくりしながらも、笑顔で挨拶した。
「ところで、今日は何をお求めで?」
騎士様が真剣な顔で答える前に、コボルトが元気に声を上げた。
「課金カード、課金カード!」
「ああ、そうだ、コボルトがゲームの課金カードを欲しがってるんだ。」
騎士様はちょっと恥ずかしそうに言ったが、その言葉に俺は驚きと共に、少し笑いが込み上げてきた。
「ゲームの課金カード…?」
「うむ。実はコボルトがこの間から、どうしても欲しがってな。」
コボルトは大きな目を輝かせながら、興奮している。
「ねえ、ねえ、店主! ゲームのアイテムを手に入れるために、課金したいんだよ!」
「あ、ああ、なるほど。」
俺は少し困惑しながらも、意外な展開に面白くなってきた。
「それで、ゲームの課金カード…って、この世界にもそんなものがあるわけじゃないんだけど、何を求めてるんだ?」
「ええ、実は…」
騎士様は一息ついてから、少し照れたように話し始めた。
「俺、最近ファンタジーRPGのゲームにハマっているんだ。それで、コボルトも一緒にやろうと思ってな。」
コボルトはすっかり嬉しそうで、両手をパタパタと振りながら、さらに興奮気味に続けた。
「俺、最強のモンスターをゲットするんだ! すごく強いアイテムがほしいんだよ!」
「そうか…」
俺は呆れつつも、なんだか可愛らしいなと思ってしまった。
「そんなに課金カードが必要なんだ?」
「うむ、それがないと、強くなれん。」
騎士様は真剣な顔で頷き、コボルトも一生懸命に頷いている。
「なるほど、わかった。じゃあ、あいにくうちには“課金カード”はないけれど、代わりにこれならどうだ?」
俺は冷凍庫からカード型のチョコレートを取り出し、それを差し出してみた。
「これなら、いくらでも“課金”できるぞ。」
「課金…?」
騎士様は不思議そうにそのカードを見つめ、コボルトも同じように目を輝かせて見ている。
「これ、食べたら力が湧いてくるんだ。」
「おお、それは面白い! 早速食べてみるぞ!」
コボルトはすぐにカードを取ると、そのまま口に入れてしまった。
「うまい! すごくおいしいぞ!」
騎士様も驚きながらも、少し微笑んだ。
「これは確かに力が湧いてきそうだな。だが、ゲームの課金には…」
「ゲームに関してはまた今度だ。」
俺はそう言って肩をすくめると、店の棚を指差して続けた。
「ここの店でも、アイテムを集める手助けになるようなものをいくつか置いてる。たとえば、魔法の粉とか、精霊の石とか、冒険に役立つかもしれない品物もあるぞ。」
「ほう、精霊の石…?」
騎士様は少し興味深そうにその話を聞いていたが、コボルトはまた新たに食べ物を見つけて興奮し始めた。
「ねえ、これ! 魔法のビスケットだ!」
「それは食べ物で、特に魔法の効果はないんだ…」
「でも、ビスケットが魔法みたいだ!」
コボルトは笑顔でそのビスケットを取って、ポリポリと食べ始めた。
その様子を見ながら、俺は少しだけ顔を引きつらせた。確かに、魔物たちの欲しがるものは、ゲームのアイテムだろうとチョコレートだろうと、なんだか一貫している気がしてきた。
「まあ、ゲームの“課金”が本物の魔物を使役する力には勝てないけど、少なくともこの店の“課金”でお腹を満たしてもらうなら、喜んでもらえるかもしれないな。」
俺は心の中でそう思いながら、騎士様とコボルトが楽しそうに店内を歩き回るのを見守っていた。
「さて、今日はもう少しここにいてもらって、次回の冒険に備えるか。」
騎士様はその言葉と共に、また新しいアイテムを物色し始めた。
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