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第八話:魔物の常連客
しおりを挟む魔物が現れた瞬間、俺は完全にパニックに陥った。「これ、どうしよう…!」と頭の中で必死に考えながらも、目の前に立つ巨大な怪物に圧倒されていた。
「うわああああ!」
魔物の咆哮にびっくりして、思わず後ろに飛び退く。だが、騎士は冷静だった。
「落ち着け、君のチョコレートバーがあれば、この魔物はすぐに退散する。」
騎士はさっきと同じように、あっけらかんと言ってきた。
「ちょっと待って、さっきの一発で本当に効いたんだよ? まさか、またお菓子で倒せるなんて思えないんだけど!」
俺は焦って言い訳をしようとしたが、騎士はまるでおかしなことを言っているみたいに、真顔で頷いた。
「問題ない、君のチョコレートバーには特殊な力がある。信じろ。」
「信じろって…でも魔物だよ?」
俺は半信半疑だったが、気づけばもう一度、チョコレートバーを取り出していた。
そして、遅れを取らないように、そのチョコレートバーを魔物に向かって投げた。
「食べろ!」
投げつけた瞬間、魔物は一瞬動きを止め、しばらくチョコレートバーを見つめた。すると、まさかのことが起きた。魔物がそのチョコレートバーをパクッと食べると、目を丸くして満足そうな顔を浮かべた。
「う、うそだろ…?」
俺は呆気に取られながらその様子を見守った。
そして、魔物はうれしそうに尻尾を振りながら、ゆっくりと後ろを向き、遺跡の奥へと歩いて行った。
「ま、魔物が…退散した…。」
俺は呆然とその場に立ち尽くしていた。
「おい、どういうことだ?」
騎士も驚いていたが、すぐにその顔がほころんだ。
「やっぱり、君のチョコレートバーの力はすごいな。」
俺は疑問を抱えながらも、遺跡の中に踏み込む。だが、魔物はすでにどこかへ行ってしまった。意外にも、すごくあっさりと事が済んだ。
その後、遺跡内を少し調べて、無事に封印された宝物を手に入れたが、俺の頭の中では一つの疑問がぐるぐる回っていた。
「まさか、あの魔物、また来るんじゃないだろうな…?」
遺跡を後にして帰る途中、俺は不安になっていた。
その夜、遅くに店を閉めていると、突然、扉がガラリと開いた。
「こんばんはー。」
現れたのは、あの魔物だ。だが、驚くべきことに、今度は普通に立って、俺に向かって手を振ってきた。
「え…お前、まさか…?」
俺は驚きのあまり声が出なかった。その魔物、何故か人間のように、歩いてやってきた。そして、コンビニの商品棚を見回していた。
「いらっしゃいませ…?」
俺は緊張しながらも、レジの前に立つ魔物を見つめる。
「昨日、あのおいしいチョコレートバーを食べた者です。」
「あ、ああ…君か。」
俺はまさかの再会に目を大きく見開いた。その魔物は、昨日の戦闘で見せた威圧感など一切なく、まるで常連の客のように、棚の商品をじっくり選んでいる。
「チョコレートバーはもちろん買うとして、それ以外にも何か美味しいものはあるかな?」
「うーん、そうだな…」
俺はあっけに取られていたが、なんとか会話を続ける。確かに昨日、あれだけチョコレートバーを喜んで食べた魔物なら、何か別のお菓子にも興味を示すだろう。
「ポテトチップスとかはどうかな?」
俺が提案すると、魔物は目を輝かせて言った。
「それ、試してみる! どんな味がするんだろう?」
「まあ、普通に塩味だけど…」
俺は軽く説明したが、魔物はその後、ポテトチップスを手に取り、満足そうにレジに持ってきた。
「お会計は、合計で500ゴールドだよ。」
俺が金額を言うと、魔物は財布から何やら取り出した。だが、その財布が予想外のものだった。
「え…その財布…?」
俺が驚いて見ていると、魔物は平然と、巨大な袋からゴールドコインを取り出し、しっかりと支払った。
「おお、ちゃんと支払いできるんだな…」
俺は驚きながらも、受け取ったゴールドを確認した。間違いなく、これは本物の貨幣だ。
「ありがとう! また来るね!」
魔物はチップスを手に持って、満足げに店を出て行った。
その日の夜、俺はただただ呆然と立ち尽くしていた。昨日戦った魔物が、翌日からコンビニの常連客になるなんて、誰が想像しただろうか。
「異世界、何でもありすぎだろ…」
俺は少しだけ笑いながら、レジの奥にあったチョコレートバーの棚を見つめた。
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