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1話
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俺は犬。
人間だった頃にトラックに跳ねられて死んだんだ。
それを見かねた神様に犬として転生してもらった。
犬としての人生(?)いや犬生を全うすることになったのだ。
だが
犬でも亜人種の犬だ。
しかも魔王が父親で母親はコボルトという亜人種。だから犬なのだ。
俺は『魔族』という種族らしい。
魔王は俺の父親で、その息子である俺は必然的に魔王の後継者となる。
だから魔王の息子として日々修行をしているのだが・・・
「お父様!なぜ俺がこんなことを!?」
そう。
今現在、俺は魔王城にある北の里
お友達の勇者くんの故郷近くにいる。
別に魔王討伐も無いし(魔王と言っても何も悪いことはしてないからね)
、魔王軍も存在しない。
じゃあ何をしているかと言うと・・・
『犬王決定戦!』
と看板が立っている。
つまりは王様を決める戦いなのだ。
魔王城に居る他の魔物たちの中で誰が一番強いのかを競っているらしい。
そして今日はその決勝戦なのだ。
1位になるとその国の犬王になるのだ。
別に魔王とは関係ないけど
その国自体は……じゃあなんで出てるんだよって話だよね?まぁいいじゃない。そこは深く考えないでよ。
だって犬だよ? 犬になったらさ、やっぱり王様になりたいじゃん。
えっ?ならないって? そりゃそうだろ! 俺元人間だし! あ!でも今は犬だし? 犬王になれたらな~
歌ってる場合か?
いいじゃない!少しくらい夢見たって! そんなわけで今、決勝の舞台に上がっている。
舞台には大きな円状の闘技場がある。
そこで戦うようだ。
ちなみに、この世界では魔法は無い。代わりにスキルを使う。
例えば俺は【剣術】を持っている。これは剣を使った攻撃が強くなる。
他にも色々あるが、簡単に言えば戦闘系に特化した能力が多い。
その中でも特に使えるスキルは【身体強化】だろう。
これは魔力を使って身体能力を上げることができる。
さらに【筋力増強】などの補助系のスキルもある。
俺の場合、スキルのおかげでかなり戦えると思う。だけど相手も相当強そうなんだよな~
「さて、今回の決勝戦のルールを説明する!」
司会役の犬が説明を始めた。
ルールは簡単だ。相手を殺さずに倒せば勝ち。武器の使用もあり。ただし相手の体を5秒以上押さえつければ勝利。あとは場外に落ちれば負け。制限時間あり。
シンプルイズベスト! そしていよいよ始まった。まず最初は・・・
「我輩の名前は『ケルベロス』。地獄の番人なり」
いきなりヤバい奴が出てきたー!! なんか三頭身ぐらいで頭が三つ付いている犬がいるんだけど!?
でもそんななりでも
強いんだよな?きっと
……と、思っていたらケルベロスは一瞬にして消えてしまった。
いや、消えたように動いただけかもしれない。
気付いた時には既に遅い。
いつの間にか後ろから首根っこを押さえられていた。
「ふむ。なかなかやるのう。しかしまだまだ甘いわ!!」
そしてそのまま地面に叩きつけられた。
ドッシーン!!! 痛そう……。←戦ってたのは俺じゃないからね!
『勝者!犬王候補『ケルベロス』!!』
あっけなく勝負がついた。
まぁ予想通りかな? 次はどんなのが出てくるんだろうか? 期待しながら次の選手を待つ。
すると
「ワタシの名前は『フェンリル』。神狼です」
今度は白い毛並みの狼が現れた。
綺麗な銀色をした美しい毛並みをしている。
顔つきも凛々しく、カッコイイ感じだ。
それにしても神狼か。確かギリシャ神話とかに出てくる狼だったような気がする。
神話では無敗の王者様だったよね。
さてさてどんな戦い方するんだろう?
これは俺が戦いますからね!
「それでは始めます」
フェンリルは開始と同時に姿を消した。
速すぎて見えない。
そしていつの間にか後ろに回り込まれていた。
「終わりです」
フェンリルはそのまま前足で地面を蹴った。
その衝撃で俺は吹き飛ばされた。
「うぐ……なんてね」
吹き飛ばされながらも【筋力増強】を発動していた。
おかげでダメージは少ない。
「ほう。中々やりますね。でもこれでどうですか?」
再びフェンリルの姿が消える。
だが今回は見える。
「そこだっ!」
フェンリルがいた場所に向かって思いっきり吠える。
『ブラッディハウリング』
俺が持っているスキルの一つで、自分の声を相手にぶつけるという技だ。
これを喰らうと一時的に動けなくなる。
そしてフェンリルは動きを止めている。
チャンスだ!
俺は一気に間合いを詰める。
そしてそのまま飛びかかった。
「まだですよ」
しかしフェンリルは俺の動きに合わせて横に避けた。
「くそ……」
「貴方の攻撃パターンは読みました。残念でしたね」
そしてまた俺の後ろに回る。
そしてまた攻撃が来るのかと思いきや、急に視界から消えた。
「え?どこに行った……あ、上か……なら!」
俺は空を見上げる。
そこには空中を舞っているフェンリルの姿があった。
「やはりね!それ!!」
ジャンプしてフェンリルを捕まえる。
「なっ!離しなさいっ!」
そう言いながら必死にもがくフェンリルだったが、所詮犬の力じゃ無理がある。
そしてそのまま地面に叩きつけた。
ズドーン!! さっきより派手に音が鳴った。
『試合終了!勝者『犬王候補』『犬王』!』
俺の勝利が決まった瞬間だ。
勝ったぜ!やったー!!! って喜んでる場合じゃないよ。
早く戻らないと!
「お父様~。戻りました~」
俺は舞台に戻るとすぐに魔王の元へ駆け寄った。
「おぉ。よくぞ戻った。我が息子よ」
「はい。なんとか勝つことができました。これもお父様のおかげかと思います」
「何を言っている。お前が頑張った結果であろう。私は何もしていない」
いやいや。
そんなことないでしょ。
だってお父様が鍛えてくれたんだから勝てたんだし。
「とにかく、これからも精進するように。では下がれ」
「はい。失礼します」
そして俺は部屋を出た。
その後、無事に犬王になることができた。
それから数日後。
今日も修行のために魔王城にある森へと来ていた。
ここは魔物たちの住処になっているが、危険な生物はいない。
むしろ、みんないい奴ばかりだ。
そんな平和な場所で、俺達は今日も訓練をしていた。
「はぁ!」
「ふむ。だいぶ良くなってきたな」
「ありがとうございます!」
「よし、では次に行くとするかな」
「え?もうですか?」
「あぁ。まだまだ時間はあるからな。それに、今のお前に足りないものがいくつかある」
「足りないもの?」
「そうだ。まず一つ目。それは速さだ」
「確かに。俺は速い方ではないですね」
「そこでだ。今度、【身体強化】のスキルを持つ者と手合わせをしてみろ」
【身体強化】とは、その名の通り、体を強化するスキルだ。
魔力を使って身体能力を上げることができる。
「なるほど。わかりました。それで、相手は誰にするんですか?」
「もちろん私だ」
「えぇ!?」
「なんだ?不満か?これでも元勇者だ。それなりに戦えると思うのだが」
「い、いえ。そういうわけではありません。ただ、ちょっと驚いてしまっただけです」
「ふむ。ならばよい」
「でも、なんで急に手合わせなんかしようと思ったのですか?」
「理由はいくつかある。まず、単純に強くなって欲しいというのと、もう一つは、この先の戦いに備えて、少しでも多くの経験を積んでほしいからだ」
「戦い、ですか?」
「あぁ。恐らく近いうちに人間どもとの戦争が始まるだろう。おそらく、かなり激しいものになると予想している。だから、お前には力をつけて貰わないと困るのだ。まぁ、戦争に参加するかどうかはお前に任せるがな」
「・・・」
「まぁ、あまり深く考える必要はない。とりあえず今は強くなることを優先してくれればいい」
「はい!頑張ります!」
こうして俺は、新たな目標ができたのだった。
あれからさらに数ヶ月後、ついに人間たちが攻めてきた。
その数は1000人以上。
予想以上に多かったらしい。
だがそれでも魔王軍の方が数では上回っていたため、なんとか防衛することができた。
そして今回の戦いは、魔王軍の勝利に終わった。
それから更に月日が流れた。
俺は魔王から呼び出されて会議室に来ていた。
ちなみに今回は魔王の娘も一緒である。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「はい!おかげさまで」
「そうか。それは良かった」
「お父様。本題に入りましょう」
「うむ。そうだな。実はな、ここ最近、魔族たちの間で妙な噂が流れていてな。なんでも、人間界で不穏な動きがあるとか」
「不穏、ですか?」
「うむ。具体的にはわからんが、どうやら何かを企んでいるようだ。もしそれが本当に起きた場合、我々としても黙っている訳にはいかない」
「というと?」
「場合によっては、こちらからも仕掛けることになるかもしれん」
「そうなると、俺達も戦うことになるかもしれないということですか?」
「うむ。まだはっきりとした情報は掴めていないが、警戒だけはしておくように」
「わかりました」
「それと、お前のことだ。どうせまた一人で突っ込んで行くつもりだろ」
「そ、そんなことは……」
「嘘をつくでない。お前の性格はよく知っている」
「うぅ……」
「はぁ……。わかった。お前に命令を出す。これからは単独行動を禁止する。必ず仲間と一緒に行動するんだ。いいな」
「は、はい……」
「よろしい。では下がって良いぞ」
「はい!失礼しました!」
そして俺は部屋を後にした。
それから俺は、仲間を募集することにした。
といっても、今までずっとソロで活動して来たため、一緒に組んでくれる人なんてほとんどいないんだけどね。
なので仕方なく自分で探すことにした。
「う~ん……なかなか見つからないなぁ……」
俺は森の中を当てもなく彷徨っていた。
するとその時、少し離れた場所から爆発音が聞こえた。
俺はすぐにその場所へと向かった。
そこにいたのは、全身黒ずくめの服を着ている男だった。
男は両手に銃のようなものを持っていて、それを周りの木に向けて撃っていた。
ドン!ドカン!バシュン! 放たれたものは全て命中していた。
そして全ての弾を撃ち終わると、今度は手榴弾のような物を取り出して投げつけた。
ボンッ! 大きな音と共に煙が舞い上がる。
「ふっ。こんなもんか」
そう言ってその場を離れようとする男の肩を掴んだ。
「おい」
「なんだお前……って犬王じゃねぇか。俺に何の用だ?」
「お前が何をしてたのか知りたいだけだ」
「見ての通り、実験だよ。この世界にも火薬はあるみたいだから、それを使った武器を作ってみたんだが、威力が足りなくてな」
「なるほど」
「ま、結局は失敗だったがな」
「どうしてだ?」
「そりゃ、材料が足りないからだ。ただでさえこの世界の素材は難しいのに、それ以上となるとな。それに、作るのも簡単じゃない」
「ふむ」
「ま、もう必要ないから処分するけどな」
「・・・」
「さて、もういいだろ?手を離してくれないか」
「断る」
「なんだ?俺と戦う気なのか?言っとくが、俺は強いぜ?」
「関係ない。お前はここで倒す」
「へぇー。面白れぇ!やってみな!」
こうして俺は戦闘を開始した。
まずは相手の出方を伺うために【鑑定】を使ってみる。
------------
名前:
種族:人間
年齢:25
レベル:15
職業:盗賊(暗殺者)
状態:正常
HP:800/1000
MP:600/1000
筋力:200
耐久:50
魔力:100
精神:60 敏捷:300
運:45 ----
スキル 【気配遮断】【隠密】【罠解除】【鍵開け】【投擲】【暗視】【短剣術】【格闘術】【毒耐性】【麻痺耐性】
称号
『闇夜の殺し屋』
----
ふむ。思った通りかなりステータスが高いな。
でも大丈夫。今の俺なら勝てるはずだ。
まずは一気に距離を詰める。
そしてそのまま攻撃しようとした瞬間、奴は姿を消した。
どこに行った!? 辺りを見渡すと、背後から声が聞こえてきた。
「こっちだ」
振り返ると、既にナイフが迫ってきていた。
なんとか避けることができたが、体勢が崩れてしまった。
そこを狙ってきたかのように蹴りが飛んでくる。
俺はギリギリのところでガードしたが、衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「ぐはっ!」
その後も何度も攻撃を仕掛けてくるが、俺はなんとか避け続けていた。
しかしこのままではいずれやられてしまう。
なんとか反撃しなければ……。
そこで俺はある作戦を思い付いた。
俺は相手から距離を取り、魔法を発動した。
「【火球】」
俺は火の玉を飛ばす。
すると、なんと向こうも同じ魔法を放って来た。
そしてお互いの攻撃がぶつかり合う。
威力はほぼ互角だった。
だが、次の手は打っておいた。
それは、自分の足元に向かって撃ったのだ。
当然、そのことに気付かないはずがない。
案の定、相手が近づいて来てくれた。
そして俺は全力で殴りかかった。
「はあぁ!!」
だが、それは簡単に避けられてしまい、逆にカウンターを喰らってしまった。
「がっ!」
俺は思いっきり殴られて地面に叩きつけられた。
痛い……。
あまりの痛みで動けなかった。
それでも必死に立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
「ちっ。終わりかよ。期待外れもいいところだ」
そう言いながら近付いて来る。
「くそ……」
「安心しろ。殺しはしない。せいぜい苦しむことだ」
そして俺の目の前まで来て立ち止まった。
「何か最後に言い残すことがあれば聞いてやるぞ?」
「・・・」
「そうか。無いようだな」
そうして男は俺の腹に足を乗せた。
「じゃあな」
そう言って俺の体を貫こうとした時、突然男が苦しみ出した。
「ぐああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「な、なんだこれは!!う、腕がぁぁぁ!」
よく見ると、男の右腕が無くなっていた。
一体何が起きたんだ?
「まさか、こんなところに伏兵がいるとはな……」
「え?」
「おい、お前。名前は?」
「カイトだけど……」
「そうか。覚えておくぞ」
それだけ言って、男はそのままどこかへと行ってしまった。
いったいなにがどうなってるんだ……? とりあえず俺は、その場を後にした。
あれから数日が経過したが、未だに状況がよくわかっていなかった。あの男は誰だったのか?なぜ襲ってきたのか? 全くわからないままだ。
ただ一つ言えるのは、これからも警戒しなければならないということだけだった。
そんなある日のこと、魔王軍の幹部である吸血鬼のリリスさんから呼び出しを受けた。
なんでも話があるらしい。
そして俺は今、会議室に来ていた。
ちなみに今回は娘の姿はない。
「久しぶりですね。元気にしてましたか?」
「はい。おかげさまで」
「それは良かったです。それで今日呼んだ理由ですが、最近あなたの周りに不穏な動きをしている者がいますよね?」
「はい」
「おそらく、今回の件もその者の仕業でしょう」
「やはりそうですか」
「なので、こちらとしても対策を考えなければなりません」
「具体的にはどんな感じにでしょうか」
「まずはあなたの力の強化を行います。そのためには、他の仲間達も強くする必要があるので、その者達の指導を行ってもらいたいのです」
「わかりました」
「それと、例の裏切り者についてですが、まだ情報がありません。なので引き続き調査を続けてください」
「了解しました」
こうして話し合いは終了した。
しかし、結局のところ何も解決していないんだよな。
いっその事、直接本人に聞いてみようかな。
そんなことを考えていると、扉がノックされた。
「失礼します」
「どうぞ」
入って来たのは、以前俺に話しかけて来た少女だった。
「あの、私も訓練に参加したいんですけどいいですか?」
「別に構わないけど、どうしてだい?」
「私は強くなりたいから」
「なるほどね」
「だからお願い」
「わかった。じゃあ早速行こう」
「ありがとうございます」
こうして俺は、新たなメンバーと共に訓練へと向かった。
「まずは君のレベルを教えてくれないか?」
「はい。私のレベルは現在32になっています」
「そうなんだ。すごいじゃないか!それなら、すぐにでもレベルが上がると思うよ」
「本当ですか!?」
「うん。多分大丈夫だと思うけど、念のために確認しておくから少し待っててね」
------名前:シオン
種族:人間
年齢:15
レベル:32
職業:勇者
状態:正常
HP:3800/3800
MP:2700/2700
筋力:400
耐久:300
魔力:250
精神:200
敏捷:500運:70 ---スキル 【言語理解】【獲得経験値増加】【鑑定】
---称号
『転移者』
---
やっぱり上がってるな。
これなら問題ないだろう。
「君の現在のレベルでも大丈夫そうだよ」
「やった!これでもっと頑張れそう!」
「期待しているよ」
「任せてください!」
それから俺は、彼女に基本的な戦い方を教えた。
彼女は飲み込みが早く、どんどん上達していった。
「君は筋が良いみたいだね」
「いえ、そんなことは……」
「いやいや、謙遜することないよ。普通はそこまでできないはずだから」
「そう……なんですか」
「きっと今まで頑張ってきた証拠だよ」
「そっか……。嬉しい」
本当に嬉しそうにしている。
こんな子を見ていると、なんだか俺まで嬉しくなってきた。
「よし。じゃあ次は実戦形式の練習をしようか」
「はい!」
そして俺は、彼女と戦った。
最初は危なげなく戦えていたが、途中から徐々に追い詰められていった。
やはり強い……。
なんとか隙を突いて攻撃するも、簡単に避けられてしまう。
そして逆にカウンターを喰らってしまう始末だ。
さっきまでは簡単に倒せたのに……。
どうやら彼女の成長速度は凄まじく、もう俺よりも強くなっているようだ。
このままでは不味いな……。
そう思った俺は、一気に勝負を決めに行った。
「はぁ!!」
俺は全力で攻撃を仕掛けた。
だが、それはあっさり避けられてしまった。
そして逆に反撃を受けてしまい、地面に叩きつけられてしまう。
「ぐっ!」
さらに追い討ちをかけようとしてきたので、俺は急いで起き上がりながら魔法を放った。
「【火球】」
すると相手は、それを簡単に避けて再び向かってきた。
「くっ……」
どうする?このままじゃ負けるぞ。
考えろ、考えるんだ。何か手はあるはず。
そこでふと思った。
もしかしたら勝てるかもしれない。
俺はある作戦を思い付いた。
「いくぞ!」
そう言って相手に突っ込んで行く。
当然のように相手が対応してくるが、その攻撃をギリギリのところで回避していく。
そうして相手の懐に入ると、思いっきり殴りかかった。
「はあぁ!!」
しかし、それは読まれていたようで、簡単にガードされてしまった。
「なにをするつもりか知らないけど、無駄なことよ」
そう言って拳を振り下ろしてくる。
俺はそれにあえて当たることにした。
「ぐっ……」
かなり痛かったが、目的は達成できた。
俺はそのまま後ろに回り込むと、背後から首に手刀を当てた。
「うっ……」
そして気絶したのを確認してから、回復魔法をかけてあげた。
「ふう……やっと終わったか」
正直、かなり疲れた。
だけど、これで一安心だろう。
「あの……大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だよ」
「よかったです」
心配してくれたのか。優しい子なんだな。
「それじゃあ、これからよろしく頼むよ」
「はい!こちらこそお願いします」
こうして新たな仲間が加わった。
「今日はここまでにしよう」
「はい。ありがとうございました」
あれから数ヶ月が経過して、今はシオンさんと一緒に訓練をしている。最近はお互いの動きもわかってきて、いい感じになってきている。
「それじゃあ、また明日」
「お疲れ様でした」
こうして今日の訓練は終わり、家に帰る。
今日は久しぶりにゆっくりできそうだ。
最近、忙しかったからな。
「ただいま」
「おかえりなさい」
家に帰って来ると、妻が出迎えた。
「ご飯にする?」
「うん」
こうしていつも通りの日常を過ごしていく。
しかし、そんな日々は突然崩れ去った。
夜中のことだった。
いきなり家のドアがノックされたのだ。
いったい誰だ? 不思議に思っていると、その人物は俺の名前を呼んだ。
「カイトさん!助けてください!」
その声は、俺に話しかけて来た少女の声だった。
俺は慌てて扉を開けると、そこにはシオンの姿があった。
「どうしたんだ!?」
「実は大変なことが起きていて、私一人では対処しきれなくて、それで……」
「とりあえず落ち着いて。まずは事情を説明してくれないか?」
「はい」
俺は彼女を落ち着かせると、話を聞くことにした。
「私達は魔王軍の幹部と戦っているんですけど、一人だけ桁違いに強い奴がいるんです」
「そいつはどんな見た目をしてるんだ?」
「えっと、髪は黒で、目が紅くて、身長は180くらいあります」
「わかった。特徴は覚えているから大丈夫だよ」
「良かった……。それで、もし良ければ一緒に戦ってくれませんか?」
「もちろん構わないよ。でも、どうして俺なんだい?」
「それはあなたが一番強いからです」
なるほどね。俺なら余裕だと。
まあ確かにそうなんだけどね。
「それじゃあ、今すぐ行こう」
「はい!お願いします」
それから俺達は現場へと向かった。
「ここですね」
「そうみたいだな」
そこは、どこかの山奥にある洞窟の中だ。
そして、その中には複数の死体が転がっていた。
「これは酷いな……」
思わずそう呟いた。
目の前には大量の魔物の死体が散乱していた。
おそらく彼女が倒したのだろう。
「こんな数を相手にするのは大変だよね」
「いえ、この程度なら問題ありません」
「えっ……」
マジか……。
これがこの世界の普通なのか?
「それより早く行きましょう。まだ敵は残っていますから」
「そうだね」
俺達はそのまま先へと進んだ。
すると、前方に大きな影が現れた。
「お前がこいつらをやったのか」
「そうだけど」
「そうか……。ならば、俺と戦え」
「断ると言ったら?」
「殺すまでだ」
どうやら戦うしかないみたいだな。
「【身体強化】」
俺は戦闘態勢に入った。
そして相手が動き出そうとしたとき、シオンが叫んだ。
「待ってください!」
「どうしたんだ?」
「ここは私がやります。だから下がっていてください」
「そうか。じゃあ任せるよ」
そう言うと、彼女は前に出てきた。
「ここからは私の番よ」
「ほう。なかなか強そうだな。面白い」
「いくわよ!」
そうして戦いが始まった。
「はぁ!!」
シオンの攻撃が次々と繰り出される。
だが、相手はそれを簡単に避けていく。
「そんなものでは俺は倒せんぞ」
「くっ……」
このままではマズいな。
仕方ない。少し手伝うか。
「【風刃】」
俺は風の魔法を放った。
しかし、それはあっさり避けられてしまった。
そして次の瞬間、相手の攻撃がシオンに命中した。
「きゃぁ!!」
「シオン!」
俺は急いで駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!」
「うっ……」
返事がない。
まさか死んでいるんじゃないだろうな? そう思ったとき、急に相手が立ち上がってきた。
「ふぅ……危なかったぜ」
「えっ……」
「だが、もう油断はしねぇ」
そう言って再び襲ってきた。
俺はすぐに応戦したが、完全に押されていた。
「くっ……」
なんてパワーだ。このままじゃ勝てないぞ。
何か策を考えないと……。
そこで俺はあることを思いついた。
よし!これならいけるかも。
「【炎槍】」
俺は魔法を放った。
「ふん!」
しかし、それは軽く弾かれてしまう。
やはりダメか。
「無駄な足掻きを」
「どうかな?」
「なに?」
その言葉と同時に爆発が起きた。
その爆風によって、相手に隙が生まれた。
「いまだ!はあぁ!!!」
俺は全力で拳を振り下ろした。
すると、それが見事に命中した。
「ぐはっ……」
「よし!」
なんとか上手くいったようだ。
これで勝負は決まっただろう。
「さすがです!」
シオンがこちらに向かって走ってくる。
そしてそのまま抱きついてきた。
「ありがとうございます!」
「お礼を言うのはまだ早いよ」
「どういうことですか?」
「よく見てごらん」
「あっ!あいつは!?」
そこには、ボロボロになった男が立っていた。
「クソッ……。まさかこの俺が負けるとはな」
「当たり前よ。あんたが弱いだけだから」
「そうだな。確かにその通りだ。今回は俺の完敗だ」
そう言うと男は倒れたまま動こうとしなかった。
そして数秒後、その姿が徐々に薄れていった。
「ん?なんだこれは……」
「消えてるんだよ」
「そうなのか?というかなんでお前が知ってるんだ」
「実は俺もよくわからないんだよね」
俺にも何が起きているのか全くわからなかった。
「まあいい。とにかく助かった」
「いいってことよ」
こうして謎の男との戦いは終わった。
その後、俺はシオンに事情を聞くことにした。
「それで、どうしてここに来たんだ?」
「実は、魔王軍の残党がまだ残っていたんです」
「なるほどね。それで、そいつらはどこにいるんだ?」
「魔王城にいると思います」
「わかった。じゃあ早速行こう」
「はい!」
こうして俺達は魔王討伐に向かうことになった。
「魔王城はこっちですよ」
「わかった」
俺達は魔王城の前までやってきた。
「それにしても立派な建物だね」
「はい。とても綺麗です」
目の前には巨大な城があった。
なんとも迫力があるな。
そんなことを考えながら中に入ると、そこに一人の人物がいた。
「お前は誰だ?」
「私は魔王軍幹部の一人、ナイトメアです」
「なるほどね。それで、ここに来た理由は?」
「もちろんあなた達を殺しに来ました」
「そうか。でも残念だったね。君が殺るのは俺じゃない」
「えっ……」
そう言うと、シオンが前に出た。
「私です」
「ほう。貴様が相手か。面白そうだな」
「行きます!」
そうして戦いが始まった。
「はああぁ!!」
シオンの一撃が炸裂する。
しかし、それを難なく受け止められてしまった。
「ほう。なかなかやるな」
「まだまだこれからよ!」
それから激しい攻防が続いた。
お互いに一歩も引かない展開になっている。
しかし、その均衡はすぐに崩れ去った。
「くっ……。強い……」
「どうした?もう終わりか?」
「うるさい!まだ負けたわけじゃない!」
シオンの攻撃は確かに当たっている。
だが、ダメージはあまり通っていないようだ。
このままではマズいな……。
「仕方ない。ちょっと手伝ってあげるか」
俺は二人の戦いに介入した。
「【重力増加】」
すると、相手の動きが鈍くなった。
「今だ!」
「はい!」
シオンは渾身の一撃を放った。
「はぁ!!」
それは見事に命中し、相手をふっとばした。
「やったわ!」
「よし!ナイスだよ」
「いえ、コウキさんのおかげです」
「そんなことはないよ。二人で倒したようなものだ」
「そうですね!」
そんな会話をしていると、敵が起き上がった。
「くっ……。なかなかやりやがるな……」
「まだ生きてるみたいだな」
「当然だ。俺は不死身だからな」
「へぇー、それはすごい」
本当に凄いな。
あんな攻撃を受けたら普通は死ぬぞ。
「それなら、もう一度攻撃すれば倒せるんじゃないですか?」
「それは無理だと思うよ」
「どうしてですか?」
「あの人は魔法で体を覆っている。あれを破るほどの威力を出すには、かなりの魔力が必要になると思うよ」
「そうなんですか……」
「まあ、なんとかやってみよう」
俺は魔法を発動した。
「【炎槍】」
それは敵の体に直撃した。
しかし、やはり効果は薄かった。
「やっぱりダメか……」
「俺を倒すつもりなら、もっと強力な攻撃が必要だな」
「じゃあさっきよりも強いのをお見舞いしてあげましょう」
「そうだな。頼んだよ」
「任せてください!」
そう言って彼女は走り出した。
そしてそのまま勢いよくジャンプをした。
「はあぁ!!!!」
空中で回転しながら、かかと落としを繰り出した。
その攻撃は見事に命中した。
「ぐはぁ!」
「よし!」
しかし、それでも倒れることはなかった。
「クッ……。効かぬわぁ!!」
「嘘でしょ!?」
さすがに予想外だったようだ。
「おい!大丈夫か?」
「はい!なんとか……」
「よかった……」
「今度はこちらからいくぞ!」
すると、奴の姿が消えた。
そして次の瞬間、俺の目の前に現れた。
「なっ……!!」
「死ねぇ!!」
拳が俺の顔面に迫ってくる。
ヤバい!避けられない!!
「コウキさん!!」
そこで俺の前にシオンが現れた。
そしてそのまま攻撃を受け止めた。
「ぐっ……。うぅ……」
「シオォン!!!」
「だいじょうぶです……。これくらい……。はあぁ!!」
そう言うと、シオンは相手の拳を弾き返した。
「なに!?」
「次は私の番よ!!」
そして一気に距離を詰めると、強烈な蹴りを浴びせた。
その一撃によって、ついに倒れた。
「な、なぜだ!?俺の体は無敵のはずなのに……」
「確かに普通の人より頑丈そうだけど、弱点はあるのよね」
「なんだと……」
「あんたの体をよく見てみなさい」
「ん?これは……」
そこには黒いモヤのようなものがかかっていた。
どうやらそれが彼の弱点のようだ。
「おそらく、その体が魔法で作られた物なんでしょうね」
「そうなのか?だが、一体どうやって……」
「簡単な話よ。その魔法を解除してしまえばいいだけ」
「なるほどな。そういうことか」
「というわけで、大人しく捕まりなさい」
「嫌だと言ったら?」
「力づくでも連れて行くわ」
「なるほどな……」
彼は少し考えた後、突然笑い始めた。
「フハハッ!」
「何がおかしいのかしら?」
「いやなに、お前らは勘違いしていると思ってな」
「どういう意味?」
「つまり、お前らが思っているほど俺は弱くないということだ」
すると、足元に大きな魔方陣が現れた。
「なによこの魔法は?」
「こいつは召喚魔法の応用だ」
「召喚魔法?」
「簡単に言えば、他の世界の住人を呼び出すことができる」
「なに?」
まさかそんな事ができるとは……。
「俺の目的は最初からこいつにあったのだ」
「そいつって?」
「出て来い。悪魔よ!」
すると、そこから巨大な魔物が出てきた。
「グオオオォ!!!」
「なっ!?」
「この大きさはいったい……」
「これは魔王様の力により強化された最強の生物だ」
「これが悪魔の力だと?」
こんなもの、とてもじゃないが勝てる気がしないぞ。
「どうする?お前達では絶対に倒せないぞ」
「くっ……。なんてことをしてくれたんだ」
「安心しろ。すぐに楽にしてやる」
そう言うと、敵は剣を構えた。
まずいな……。どうする?
「どうしよう……。コウキさん」
「落ち着け。まだ諦めるのは早い」
「そうだといいんですけど……」
「とりあえず、なんとか隙を作ってみるよ」
人間だった頃にトラックに跳ねられて死んだんだ。
それを見かねた神様に犬として転生してもらった。
犬としての人生(?)いや犬生を全うすることになったのだ。
だが
犬でも亜人種の犬だ。
しかも魔王が父親で母親はコボルトという亜人種。だから犬なのだ。
俺は『魔族』という種族らしい。
魔王は俺の父親で、その息子である俺は必然的に魔王の後継者となる。
だから魔王の息子として日々修行をしているのだが・・・
「お父様!なぜ俺がこんなことを!?」
そう。
今現在、俺は魔王城にある北の里
お友達の勇者くんの故郷近くにいる。
別に魔王討伐も無いし(魔王と言っても何も悪いことはしてないからね)
、魔王軍も存在しない。
じゃあ何をしているかと言うと・・・
『犬王決定戦!』
と看板が立っている。
つまりは王様を決める戦いなのだ。
魔王城に居る他の魔物たちの中で誰が一番強いのかを競っているらしい。
そして今日はその決勝戦なのだ。
1位になるとその国の犬王になるのだ。
別に魔王とは関係ないけど
その国自体は……じゃあなんで出てるんだよって話だよね?まぁいいじゃない。そこは深く考えないでよ。
だって犬だよ? 犬になったらさ、やっぱり王様になりたいじゃん。
えっ?ならないって? そりゃそうだろ! 俺元人間だし! あ!でも今は犬だし? 犬王になれたらな~
歌ってる場合か?
いいじゃない!少しくらい夢見たって! そんなわけで今、決勝の舞台に上がっている。
舞台には大きな円状の闘技場がある。
そこで戦うようだ。
ちなみに、この世界では魔法は無い。代わりにスキルを使う。
例えば俺は【剣術】を持っている。これは剣を使った攻撃が強くなる。
他にも色々あるが、簡単に言えば戦闘系に特化した能力が多い。
その中でも特に使えるスキルは【身体強化】だろう。
これは魔力を使って身体能力を上げることができる。
さらに【筋力増強】などの補助系のスキルもある。
俺の場合、スキルのおかげでかなり戦えると思う。だけど相手も相当強そうなんだよな~
「さて、今回の決勝戦のルールを説明する!」
司会役の犬が説明を始めた。
ルールは簡単だ。相手を殺さずに倒せば勝ち。武器の使用もあり。ただし相手の体を5秒以上押さえつければ勝利。あとは場外に落ちれば負け。制限時間あり。
シンプルイズベスト! そしていよいよ始まった。まず最初は・・・
「我輩の名前は『ケルベロス』。地獄の番人なり」
いきなりヤバい奴が出てきたー!! なんか三頭身ぐらいで頭が三つ付いている犬がいるんだけど!?
でもそんななりでも
強いんだよな?きっと
……と、思っていたらケルベロスは一瞬にして消えてしまった。
いや、消えたように動いただけかもしれない。
気付いた時には既に遅い。
いつの間にか後ろから首根っこを押さえられていた。
「ふむ。なかなかやるのう。しかしまだまだ甘いわ!!」
そしてそのまま地面に叩きつけられた。
ドッシーン!!! 痛そう……。←戦ってたのは俺じゃないからね!
『勝者!犬王候補『ケルベロス』!!』
あっけなく勝負がついた。
まぁ予想通りかな? 次はどんなのが出てくるんだろうか? 期待しながら次の選手を待つ。
すると
「ワタシの名前は『フェンリル』。神狼です」
今度は白い毛並みの狼が現れた。
綺麗な銀色をした美しい毛並みをしている。
顔つきも凛々しく、カッコイイ感じだ。
それにしても神狼か。確かギリシャ神話とかに出てくる狼だったような気がする。
神話では無敗の王者様だったよね。
さてさてどんな戦い方するんだろう?
これは俺が戦いますからね!
「それでは始めます」
フェンリルは開始と同時に姿を消した。
速すぎて見えない。
そしていつの間にか後ろに回り込まれていた。
「終わりです」
フェンリルはそのまま前足で地面を蹴った。
その衝撃で俺は吹き飛ばされた。
「うぐ……なんてね」
吹き飛ばされながらも【筋力増強】を発動していた。
おかげでダメージは少ない。
「ほう。中々やりますね。でもこれでどうですか?」
再びフェンリルの姿が消える。
だが今回は見える。
「そこだっ!」
フェンリルがいた場所に向かって思いっきり吠える。
『ブラッディハウリング』
俺が持っているスキルの一つで、自分の声を相手にぶつけるという技だ。
これを喰らうと一時的に動けなくなる。
そしてフェンリルは動きを止めている。
チャンスだ!
俺は一気に間合いを詰める。
そしてそのまま飛びかかった。
「まだですよ」
しかしフェンリルは俺の動きに合わせて横に避けた。
「くそ……」
「貴方の攻撃パターンは読みました。残念でしたね」
そしてまた俺の後ろに回る。
そしてまた攻撃が来るのかと思いきや、急に視界から消えた。
「え?どこに行った……あ、上か……なら!」
俺は空を見上げる。
そこには空中を舞っているフェンリルの姿があった。
「やはりね!それ!!」
ジャンプしてフェンリルを捕まえる。
「なっ!離しなさいっ!」
そう言いながら必死にもがくフェンリルだったが、所詮犬の力じゃ無理がある。
そしてそのまま地面に叩きつけた。
ズドーン!! さっきより派手に音が鳴った。
『試合終了!勝者『犬王候補』『犬王』!』
俺の勝利が決まった瞬間だ。
勝ったぜ!やったー!!! って喜んでる場合じゃないよ。
早く戻らないと!
「お父様~。戻りました~」
俺は舞台に戻るとすぐに魔王の元へ駆け寄った。
「おぉ。よくぞ戻った。我が息子よ」
「はい。なんとか勝つことができました。これもお父様のおかげかと思います」
「何を言っている。お前が頑張った結果であろう。私は何もしていない」
いやいや。
そんなことないでしょ。
だってお父様が鍛えてくれたんだから勝てたんだし。
「とにかく、これからも精進するように。では下がれ」
「はい。失礼します」
そして俺は部屋を出た。
その後、無事に犬王になることができた。
それから数日後。
今日も修行のために魔王城にある森へと来ていた。
ここは魔物たちの住処になっているが、危険な生物はいない。
むしろ、みんないい奴ばかりだ。
そんな平和な場所で、俺達は今日も訓練をしていた。
「はぁ!」
「ふむ。だいぶ良くなってきたな」
「ありがとうございます!」
「よし、では次に行くとするかな」
「え?もうですか?」
「あぁ。まだまだ時間はあるからな。それに、今のお前に足りないものがいくつかある」
「足りないもの?」
「そうだ。まず一つ目。それは速さだ」
「確かに。俺は速い方ではないですね」
「そこでだ。今度、【身体強化】のスキルを持つ者と手合わせをしてみろ」
【身体強化】とは、その名の通り、体を強化するスキルだ。
魔力を使って身体能力を上げることができる。
「なるほど。わかりました。それで、相手は誰にするんですか?」
「もちろん私だ」
「えぇ!?」
「なんだ?不満か?これでも元勇者だ。それなりに戦えると思うのだが」
「い、いえ。そういうわけではありません。ただ、ちょっと驚いてしまっただけです」
「ふむ。ならばよい」
「でも、なんで急に手合わせなんかしようと思ったのですか?」
「理由はいくつかある。まず、単純に強くなって欲しいというのと、もう一つは、この先の戦いに備えて、少しでも多くの経験を積んでほしいからだ」
「戦い、ですか?」
「あぁ。恐らく近いうちに人間どもとの戦争が始まるだろう。おそらく、かなり激しいものになると予想している。だから、お前には力をつけて貰わないと困るのだ。まぁ、戦争に参加するかどうかはお前に任せるがな」
「・・・」
「まぁ、あまり深く考える必要はない。とりあえず今は強くなることを優先してくれればいい」
「はい!頑張ります!」
こうして俺は、新たな目標ができたのだった。
あれからさらに数ヶ月後、ついに人間たちが攻めてきた。
その数は1000人以上。
予想以上に多かったらしい。
だがそれでも魔王軍の方が数では上回っていたため、なんとか防衛することができた。
そして今回の戦いは、魔王軍の勝利に終わった。
それから更に月日が流れた。
俺は魔王から呼び出されて会議室に来ていた。
ちなみに今回は魔王の娘も一緒である。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「はい!おかげさまで」
「そうか。それは良かった」
「お父様。本題に入りましょう」
「うむ。そうだな。実はな、ここ最近、魔族たちの間で妙な噂が流れていてな。なんでも、人間界で不穏な動きがあるとか」
「不穏、ですか?」
「うむ。具体的にはわからんが、どうやら何かを企んでいるようだ。もしそれが本当に起きた場合、我々としても黙っている訳にはいかない」
「というと?」
「場合によっては、こちらからも仕掛けることになるかもしれん」
「そうなると、俺達も戦うことになるかもしれないということですか?」
「うむ。まだはっきりとした情報は掴めていないが、警戒だけはしておくように」
「わかりました」
「それと、お前のことだ。どうせまた一人で突っ込んで行くつもりだろ」
「そ、そんなことは……」
「嘘をつくでない。お前の性格はよく知っている」
「うぅ……」
「はぁ……。わかった。お前に命令を出す。これからは単独行動を禁止する。必ず仲間と一緒に行動するんだ。いいな」
「は、はい……」
「よろしい。では下がって良いぞ」
「はい!失礼しました!」
そして俺は部屋を後にした。
それから俺は、仲間を募集することにした。
といっても、今までずっとソロで活動して来たため、一緒に組んでくれる人なんてほとんどいないんだけどね。
なので仕方なく自分で探すことにした。
「う~ん……なかなか見つからないなぁ……」
俺は森の中を当てもなく彷徨っていた。
するとその時、少し離れた場所から爆発音が聞こえた。
俺はすぐにその場所へと向かった。
そこにいたのは、全身黒ずくめの服を着ている男だった。
男は両手に銃のようなものを持っていて、それを周りの木に向けて撃っていた。
ドン!ドカン!バシュン! 放たれたものは全て命中していた。
そして全ての弾を撃ち終わると、今度は手榴弾のような物を取り出して投げつけた。
ボンッ! 大きな音と共に煙が舞い上がる。
「ふっ。こんなもんか」
そう言ってその場を離れようとする男の肩を掴んだ。
「おい」
「なんだお前……って犬王じゃねぇか。俺に何の用だ?」
「お前が何をしてたのか知りたいだけだ」
「見ての通り、実験だよ。この世界にも火薬はあるみたいだから、それを使った武器を作ってみたんだが、威力が足りなくてな」
「なるほど」
「ま、結局は失敗だったがな」
「どうしてだ?」
「そりゃ、材料が足りないからだ。ただでさえこの世界の素材は難しいのに、それ以上となるとな。それに、作るのも簡単じゃない」
「ふむ」
「ま、もう必要ないから処分するけどな」
「・・・」
「さて、もういいだろ?手を離してくれないか」
「断る」
「なんだ?俺と戦う気なのか?言っとくが、俺は強いぜ?」
「関係ない。お前はここで倒す」
「へぇー。面白れぇ!やってみな!」
こうして俺は戦闘を開始した。
まずは相手の出方を伺うために【鑑定】を使ってみる。
------------
名前:
種族:人間
年齢:25
レベル:15
職業:盗賊(暗殺者)
状態:正常
HP:800/1000
MP:600/1000
筋力:200
耐久:50
魔力:100
精神:60 敏捷:300
運:45 ----
スキル 【気配遮断】【隠密】【罠解除】【鍵開け】【投擲】【暗視】【短剣術】【格闘術】【毒耐性】【麻痺耐性】
称号
『闇夜の殺し屋』
----
ふむ。思った通りかなりステータスが高いな。
でも大丈夫。今の俺なら勝てるはずだ。
まずは一気に距離を詰める。
そしてそのまま攻撃しようとした瞬間、奴は姿を消した。
どこに行った!? 辺りを見渡すと、背後から声が聞こえてきた。
「こっちだ」
振り返ると、既にナイフが迫ってきていた。
なんとか避けることができたが、体勢が崩れてしまった。
そこを狙ってきたかのように蹴りが飛んでくる。
俺はギリギリのところでガードしたが、衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「ぐはっ!」
その後も何度も攻撃を仕掛けてくるが、俺はなんとか避け続けていた。
しかしこのままではいずれやられてしまう。
なんとか反撃しなければ……。
そこで俺はある作戦を思い付いた。
俺は相手から距離を取り、魔法を発動した。
「【火球】」
俺は火の玉を飛ばす。
すると、なんと向こうも同じ魔法を放って来た。
そしてお互いの攻撃がぶつかり合う。
威力はほぼ互角だった。
だが、次の手は打っておいた。
それは、自分の足元に向かって撃ったのだ。
当然、そのことに気付かないはずがない。
案の定、相手が近づいて来てくれた。
そして俺は全力で殴りかかった。
「はあぁ!!」
だが、それは簡単に避けられてしまい、逆にカウンターを喰らってしまった。
「がっ!」
俺は思いっきり殴られて地面に叩きつけられた。
痛い……。
あまりの痛みで動けなかった。
それでも必死に立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
「ちっ。終わりかよ。期待外れもいいところだ」
そう言いながら近付いて来る。
「くそ……」
「安心しろ。殺しはしない。せいぜい苦しむことだ」
そして俺の目の前まで来て立ち止まった。
「何か最後に言い残すことがあれば聞いてやるぞ?」
「・・・」
「そうか。無いようだな」
そうして男は俺の腹に足を乗せた。
「じゃあな」
そう言って俺の体を貫こうとした時、突然男が苦しみ出した。
「ぐああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「な、なんだこれは!!う、腕がぁぁぁ!」
よく見ると、男の右腕が無くなっていた。
一体何が起きたんだ?
「まさか、こんなところに伏兵がいるとはな……」
「え?」
「おい、お前。名前は?」
「カイトだけど……」
「そうか。覚えておくぞ」
それだけ言って、男はそのままどこかへと行ってしまった。
いったいなにがどうなってるんだ……? とりあえず俺は、その場を後にした。
あれから数日が経過したが、未だに状況がよくわかっていなかった。あの男は誰だったのか?なぜ襲ってきたのか? 全くわからないままだ。
ただ一つ言えるのは、これからも警戒しなければならないということだけだった。
そんなある日のこと、魔王軍の幹部である吸血鬼のリリスさんから呼び出しを受けた。
なんでも話があるらしい。
そして俺は今、会議室に来ていた。
ちなみに今回は娘の姿はない。
「久しぶりですね。元気にしてましたか?」
「はい。おかげさまで」
「それは良かったです。それで今日呼んだ理由ですが、最近あなたの周りに不穏な動きをしている者がいますよね?」
「はい」
「おそらく、今回の件もその者の仕業でしょう」
「やはりそうですか」
「なので、こちらとしても対策を考えなければなりません」
「具体的にはどんな感じにでしょうか」
「まずはあなたの力の強化を行います。そのためには、他の仲間達も強くする必要があるので、その者達の指導を行ってもらいたいのです」
「わかりました」
「それと、例の裏切り者についてですが、まだ情報がありません。なので引き続き調査を続けてください」
「了解しました」
こうして話し合いは終了した。
しかし、結局のところ何も解決していないんだよな。
いっその事、直接本人に聞いてみようかな。
そんなことを考えていると、扉がノックされた。
「失礼します」
「どうぞ」
入って来たのは、以前俺に話しかけて来た少女だった。
「あの、私も訓練に参加したいんですけどいいですか?」
「別に構わないけど、どうしてだい?」
「私は強くなりたいから」
「なるほどね」
「だからお願い」
「わかった。じゃあ早速行こう」
「ありがとうございます」
こうして俺は、新たなメンバーと共に訓練へと向かった。
「まずは君のレベルを教えてくれないか?」
「はい。私のレベルは現在32になっています」
「そうなんだ。すごいじゃないか!それなら、すぐにでもレベルが上がると思うよ」
「本当ですか!?」
「うん。多分大丈夫だと思うけど、念のために確認しておくから少し待っててね」
------名前:シオン
種族:人間
年齢:15
レベル:32
職業:勇者
状態:正常
HP:3800/3800
MP:2700/2700
筋力:400
耐久:300
魔力:250
精神:200
敏捷:500運:70 ---スキル 【言語理解】【獲得経験値増加】【鑑定】
---称号
『転移者』
---
やっぱり上がってるな。
これなら問題ないだろう。
「君の現在のレベルでも大丈夫そうだよ」
「やった!これでもっと頑張れそう!」
「期待しているよ」
「任せてください!」
それから俺は、彼女に基本的な戦い方を教えた。
彼女は飲み込みが早く、どんどん上達していった。
「君は筋が良いみたいだね」
「いえ、そんなことは……」
「いやいや、謙遜することないよ。普通はそこまでできないはずだから」
「そう……なんですか」
「きっと今まで頑張ってきた証拠だよ」
「そっか……。嬉しい」
本当に嬉しそうにしている。
こんな子を見ていると、なんだか俺まで嬉しくなってきた。
「よし。じゃあ次は実戦形式の練習をしようか」
「はい!」
そして俺は、彼女と戦った。
最初は危なげなく戦えていたが、途中から徐々に追い詰められていった。
やはり強い……。
なんとか隙を突いて攻撃するも、簡単に避けられてしまう。
そして逆にカウンターを喰らってしまう始末だ。
さっきまでは簡単に倒せたのに……。
どうやら彼女の成長速度は凄まじく、もう俺よりも強くなっているようだ。
このままでは不味いな……。
そう思った俺は、一気に勝負を決めに行った。
「はぁ!!」
俺は全力で攻撃を仕掛けた。
だが、それはあっさり避けられてしまった。
そして逆に反撃を受けてしまい、地面に叩きつけられてしまう。
「ぐっ!」
さらに追い討ちをかけようとしてきたので、俺は急いで起き上がりながら魔法を放った。
「【火球】」
すると相手は、それを簡単に避けて再び向かってきた。
「くっ……」
どうする?このままじゃ負けるぞ。
考えろ、考えるんだ。何か手はあるはず。
そこでふと思った。
もしかしたら勝てるかもしれない。
俺はある作戦を思い付いた。
「いくぞ!」
そう言って相手に突っ込んで行く。
当然のように相手が対応してくるが、その攻撃をギリギリのところで回避していく。
そうして相手の懐に入ると、思いっきり殴りかかった。
「はあぁ!!」
しかし、それは読まれていたようで、簡単にガードされてしまった。
「なにをするつもりか知らないけど、無駄なことよ」
そう言って拳を振り下ろしてくる。
俺はそれにあえて当たることにした。
「ぐっ……」
かなり痛かったが、目的は達成できた。
俺はそのまま後ろに回り込むと、背後から首に手刀を当てた。
「うっ……」
そして気絶したのを確認してから、回復魔法をかけてあげた。
「ふう……やっと終わったか」
正直、かなり疲れた。
だけど、これで一安心だろう。
「あの……大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だよ」
「よかったです」
心配してくれたのか。優しい子なんだな。
「それじゃあ、これからよろしく頼むよ」
「はい!こちらこそお願いします」
こうして新たな仲間が加わった。
「今日はここまでにしよう」
「はい。ありがとうございました」
あれから数ヶ月が経過して、今はシオンさんと一緒に訓練をしている。最近はお互いの動きもわかってきて、いい感じになってきている。
「それじゃあ、また明日」
「お疲れ様でした」
こうして今日の訓練は終わり、家に帰る。
今日は久しぶりにゆっくりできそうだ。
最近、忙しかったからな。
「ただいま」
「おかえりなさい」
家に帰って来ると、妻が出迎えた。
「ご飯にする?」
「うん」
こうしていつも通りの日常を過ごしていく。
しかし、そんな日々は突然崩れ去った。
夜中のことだった。
いきなり家のドアがノックされたのだ。
いったい誰だ? 不思議に思っていると、その人物は俺の名前を呼んだ。
「カイトさん!助けてください!」
その声は、俺に話しかけて来た少女の声だった。
俺は慌てて扉を開けると、そこにはシオンの姿があった。
「どうしたんだ!?」
「実は大変なことが起きていて、私一人では対処しきれなくて、それで……」
「とりあえず落ち着いて。まずは事情を説明してくれないか?」
「はい」
俺は彼女を落ち着かせると、話を聞くことにした。
「私達は魔王軍の幹部と戦っているんですけど、一人だけ桁違いに強い奴がいるんです」
「そいつはどんな見た目をしてるんだ?」
「えっと、髪は黒で、目が紅くて、身長は180くらいあります」
「わかった。特徴は覚えているから大丈夫だよ」
「良かった……。それで、もし良ければ一緒に戦ってくれませんか?」
「もちろん構わないよ。でも、どうして俺なんだい?」
「それはあなたが一番強いからです」
なるほどね。俺なら余裕だと。
まあ確かにそうなんだけどね。
「それじゃあ、今すぐ行こう」
「はい!お願いします」
それから俺達は現場へと向かった。
「ここですね」
「そうみたいだな」
そこは、どこかの山奥にある洞窟の中だ。
そして、その中には複数の死体が転がっていた。
「これは酷いな……」
思わずそう呟いた。
目の前には大量の魔物の死体が散乱していた。
おそらく彼女が倒したのだろう。
「こんな数を相手にするのは大変だよね」
「いえ、この程度なら問題ありません」
「えっ……」
マジか……。
これがこの世界の普通なのか?
「それより早く行きましょう。まだ敵は残っていますから」
「そうだね」
俺達はそのまま先へと進んだ。
すると、前方に大きな影が現れた。
「お前がこいつらをやったのか」
「そうだけど」
「そうか……。ならば、俺と戦え」
「断ると言ったら?」
「殺すまでだ」
どうやら戦うしかないみたいだな。
「【身体強化】」
俺は戦闘態勢に入った。
そして相手が動き出そうとしたとき、シオンが叫んだ。
「待ってください!」
「どうしたんだ?」
「ここは私がやります。だから下がっていてください」
「そうか。じゃあ任せるよ」
そう言うと、彼女は前に出てきた。
「ここからは私の番よ」
「ほう。なかなか強そうだな。面白い」
「いくわよ!」
そうして戦いが始まった。
「はぁ!!」
シオンの攻撃が次々と繰り出される。
だが、相手はそれを簡単に避けていく。
「そんなものでは俺は倒せんぞ」
「くっ……」
このままではマズいな。
仕方ない。少し手伝うか。
「【風刃】」
俺は風の魔法を放った。
しかし、それはあっさり避けられてしまった。
そして次の瞬間、相手の攻撃がシオンに命中した。
「きゃぁ!!」
「シオン!」
俺は急いで駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!」
「うっ……」
返事がない。
まさか死んでいるんじゃないだろうな? そう思ったとき、急に相手が立ち上がってきた。
「ふぅ……危なかったぜ」
「えっ……」
「だが、もう油断はしねぇ」
そう言って再び襲ってきた。
俺はすぐに応戦したが、完全に押されていた。
「くっ……」
なんてパワーだ。このままじゃ勝てないぞ。
何か策を考えないと……。
そこで俺はあることを思いついた。
よし!これならいけるかも。
「【炎槍】」
俺は魔法を放った。
「ふん!」
しかし、それは軽く弾かれてしまう。
やはりダメか。
「無駄な足掻きを」
「どうかな?」
「なに?」
その言葉と同時に爆発が起きた。
その爆風によって、相手に隙が生まれた。
「いまだ!はあぁ!!!」
俺は全力で拳を振り下ろした。
すると、それが見事に命中した。
「ぐはっ……」
「よし!」
なんとか上手くいったようだ。
これで勝負は決まっただろう。
「さすがです!」
シオンがこちらに向かって走ってくる。
そしてそのまま抱きついてきた。
「ありがとうございます!」
「お礼を言うのはまだ早いよ」
「どういうことですか?」
「よく見てごらん」
「あっ!あいつは!?」
そこには、ボロボロになった男が立っていた。
「クソッ……。まさかこの俺が負けるとはな」
「当たり前よ。あんたが弱いだけだから」
「そうだな。確かにその通りだ。今回は俺の完敗だ」
そう言うと男は倒れたまま動こうとしなかった。
そして数秒後、その姿が徐々に薄れていった。
「ん?なんだこれは……」
「消えてるんだよ」
「そうなのか?というかなんでお前が知ってるんだ」
「実は俺もよくわからないんだよね」
俺にも何が起きているのか全くわからなかった。
「まあいい。とにかく助かった」
「いいってことよ」
こうして謎の男との戦いは終わった。
その後、俺はシオンに事情を聞くことにした。
「それで、どうしてここに来たんだ?」
「実は、魔王軍の残党がまだ残っていたんです」
「なるほどね。それで、そいつらはどこにいるんだ?」
「魔王城にいると思います」
「わかった。じゃあ早速行こう」
「はい!」
こうして俺達は魔王討伐に向かうことになった。
「魔王城はこっちですよ」
「わかった」
俺達は魔王城の前までやってきた。
「それにしても立派な建物だね」
「はい。とても綺麗です」
目の前には巨大な城があった。
なんとも迫力があるな。
そんなことを考えながら中に入ると、そこに一人の人物がいた。
「お前は誰だ?」
「私は魔王軍幹部の一人、ナイトメアです」
「なるほどね。それで、ここに来た理由は?」
「もちろんあなた達を殺しに来ました」
「そうか。でも残念だったね。君が殺るのは俺じゃない」
「えっ……」
そう言うと、シオンが前に出た。
「私です」
「ほう。貴様が相手か。面白そうだな」
「行きます!」
そうして戦いが始まった。
「はああぁ!!」
シオンの一撃が炸裂する。
しかし、それを難なく受け止められてしまった。
「ほう。なかなかやるな」
「まだまだこれからよ!」
それから激しい攻防が続いた。
お互いに一歩も引かない展開になっている。
しかし、その均衡はすぐに崩れ去った。
「くっ……。強い……」
「どうした?もう終わりか?」
「うるさい!まだ負けたわけじゃない!」
シオンの攻撃は確かに当たっている。
だが、ダメージはあまり通っていないようだ。
このままではマズいな……。
「仕方ない。ちょっと手伝ってあげるか」
俺は二人の戦いに介入した。
「【重力増加】」
すると、相手の動きが鈍くなった。
「今だ!」
「はい!」
シオンは渾身の一撃を放った。
「はぁ!!」
それは見事に命中し、相手をふっとばした。
「やったわ!」
「よし!ナイスだよ」
「いえ、コウキさんのおかげです」
「そんなことはないよ。二人で倒したようなものだ」
「そうですね!」
そんな会話をしていると、敵が起き上がった。
「くっ……。なかなかやりやがるな……」
「まだ生きてるみたいだな」
「当然だ。俺は不死身だからな」
「へぇー、それはすごい」
本当に凄いな。
あんな攻撃を受けたら普通は死ぬぞ。
「それなら、もう一度攻撃すれば倒せるんじゃないですか?」
「それは無理だと思うよ」
「どうしてですか?」
「あの人は魔法で体を覆っている。あれを破るほどの威力を出すには、かなりの魔力が必要になると思うよ」
「そうなんですか……」
「まあ、なんとかやってみよう」
俺は魔法を発動した。
「【炎槍】」
それは敵の体に直撃した。
しかし、やはり効果は薄かった。
「やっぱりダメか……」
「俺を倒すつもりなら、もっと強力な攻撃が必要だな」
「じゃあさっきよりも強いのをお見舞いしてあげましょう」
「そうだな。頼んだよ」
「任せてください!」
そう言って彼女は走り出した。
そしてそのまま勢いよくジャンプをした。
「はあぁ!!!!」
空中で回転しながら、かかと落としを繰り出した。
その攻撃は見事に命中した。
「ぐはぁ!」
「よし!」
しかし、それでも倒れることはなかった。
「クッ……。効かぬわぁ!!」
「嘘でしょ!?」
さすがに予想外だったようだ。
「おい!大丈夫か?」
「はい!なんとか……」
「よかった……」
「今度はこちらからいくぞ!」
すると、奴の姿が消えた。
そして次の瞬間、俺の目の前に現れた。
「なっ……!!」
「死ねぇ!!」
拳が俺の顔面に迫ってくる。
ヤバい!避けられない!!
「コウキさん!!」
そこで俺の前にシオンが現れた。
そしてそのまま攻撃を受け止めた。
「ぐっ……。うぅ……」
「シオォン!!!」
「だいじょうぶです……。これくらい……。はあぁ!!」
そう言うと、シオンは相手の拳を弾き返した。
「なに!?」
「次は私の番よ!!」
そして一気に距離を詰めると、強烈な蹴りを浴びせた。
その一撃によって、ついに倒れた。
「な、なぜだ!?俺の体は無敵のはずなのに……」
「確かに普通の人より頑丈そうだけど、弱点はあるのよね」
「なんだと……」
「あんたの体をよく見てみなさい」
「ん?これは……」
そこには黒いモヤのようなものがかかっていた。
どうやらそれが彼の弱点のようだ。
「おそらく、その体が魔法で作られた物なんでしょうね」
「そうなのか?だが、一体どうやって……」
「簡単な話よ。その魔法を解除してしまえばいいだけ」
「なるほどな。そういうことか」
「というわけで、大人しく捕まりなさい」
「嫌だと言ったら?」
「力づくでも連れて行くわ」
「なるほどな……」
彼は少し考えた後、突然笑い始めた。
「フハハッ!」
「何がおかしいのかしら?」
「いやなに、お前らは勘違いしていると思ってな」
「どういう意味?」
「つまり、お前らが思っているほど俺は弱くないということだ」
すると、足元に大きな魔方陣が現れた。
「なによこの魔法は?」
「こいつは召喚魔法の応用だ」
「召喚魔法?」
「簡単に言えば、他の世界の住人を呼び出すことができる」
「なに?」
まさかそんな事ができるとは……。
「俺の目的は最初からこいつにあったのだ」
「そいつって?」
「出て来い。悪魔よ!」
すると、そこから巨大な魔物が出てきた。
「グオオオォ!!!」
「なっ!?」
「この大きさはいったい……」
「これは魔王様の力により強化された最強の生物だ」
「これが悪魔の力だと?」
こんなもの、とてもじゃないが勝てる気がしないぞ。
「どうする?お前達では絶対に倒せないぞ」
「くっ……。なんてことをしてくれたんだ」
「安心しろ。すぐに楽にしてやる」
そう言うと、敵は剣を構えた。
まずいな……。どうする?
「どうしよう……。コウキさん」
「落ち着け。まだ諦めるのは早い」
「そうだといいんですけど……」
「とりあえず、なんとか隙を作ってみるよ」
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