駅の果てで

みなと劉

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4話: 初めての依頼

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翌日、北原聡はライオネルと共に再び冒険者ギルドを訪れた。冒険者としての初めての依頼を受けるためだ。昨日の登録手続きを終えたばかりだが、彼はすでに新しい生活に対する期待と不安が入り混じった気持ちでいっぱいだった。

「まずは簡単な依頼を探そう。最初から無理な仕事に手を出すと、命を落としかねないからな」
ライオネルはギルド内にある掲示板を指さし、聡を促した。

掲示板には数え切れないほどの依頼が貼られていた。魔物討伐から採集依頼まで、様々な内容が記されているが、聡が目を引かれたのは比較的簡単そうな依頼だった。

「これなんかどうだ?『薬草の採集』って書いてあるな。報酬もそこそこだし、危険も少なそうだ」

ライオネルが指さした依頼は、近くの森で薬草を採集するというものだった。冒険者としての第一歩にはちょうど良さそうだ。聡はうなずき、その依頼書をカウンターに持っていった。

「初めての依頼は薬草採集ですね。安全な場所ですが、油断は禁物です。くれぐれも気をつけてください」
受付嬢が微笑みながら、注意を促してくれた。

「ありがとうございます。大丈夫です、まずはこれで経験を積んでいこうと思います」
聡はしっかりと返事をし、ライオネルと共にギルドを後にした。


---

薬草を採集するために向かったのは、街の郊外にある小さな森だった。道中、ライオネルが冒険の心得を教えてくれた。

「初心者にとって最も大事なのは、準備と情報だ。どんな簡単な依頼でも、しっかりと準備をしておけば、想定外のトラブルに対処できる」

「なるほどな。そういう基本的なことをしっかりやらないと、後で困るってわけか」
聡は真剣な表情でライオネルの言葉を聞き入れた。

森に入ると、辺りはしんと静まり返っていた。太陽の光が木々の間から差し込み、心地よい空気が広がっている。聡は少し緊張しながらも、ライオネルと共に薬草を探し始めた。

「これが薬草だな。意外と見つけやすいな…」
聡は地面に生えている小さな草を見つけ、そっと摘み取った。

「そうだ、その調子だ。気を抜かずに、慎重に集めていこう」

彼らはしばらくの間、薬草を黙々と採集していた。聡は慣れない手つきながらも、一つずつ薬草をカバンに詰めていく。その間、森は静かで、特に危険な気配は感じられなかった。

「やっぱり、最初はこれぐらいの依頼で正解だったな…」
聡は安心しながら、もう一度周囲を見渡した。しかし、その時、森の奥からかすかな物音が聞こえてきた。

「ライオネル、今の音…何かいるのか?」
聡は緊張した声で尋ねた。

ライオネルは眉をひそめ、慎重にその方向を見つめた。「気をつけろ、聡。何か近づいてきている。薬草採集の場所でも、たまに小型の魔物が出ることがある」

聡は思わず息を飲んだ。森の奥から現れたのは、獣のような形をした魔物だった。大きな牙を持つ狼のような生き物が、じっと二人を見つめている。

「くそっ、いきなり魔物か…!」

「落ち着け!あれは一匹だけだ。俺が前に出るから、お前は後ろで待機しろ」
ライオネルが聡を守るように前に出た。彼は剣を抜き、魔物に対して構えを取る。聡はその姿を見て、自分の無力さを痛感した。

「俺は…今は何もできないのか」

ライオネルは冷静に魔物を観察し、動きを見極めていた。そして、一瞬の隙をついて剣を振り下ろす。剣が魔物の体を斬り裂き、あっという間に倒してしまった。

「終わったぞ。もう大丈夫だ」

ライオネルが剣を収め、聡に声をかけた。聡はようやく息をつき、緊張が解けた。

「ありがとう、ライオネル。俺、何もできなかったな…」

「気にするな。最初は誰でもこんなものだ。経験を積んで、少しずつできることを増やしていけばいい」
ライオネルは聡の肩を叩き、優しく励ました。


---

無事に薬草採集を終えた二人は、夕方にはカリサンの街に戻ってきた。ギルドに戻り、依頼を報告すると、受付嬢が温かく迎えてくれた。

「お疲れさまでした。初めての依頼、大変だったでしょう?報酬はこちらになります」

そう言って手渡されたのは、銀貨数枚だった。聡にとってはそれが初めて手にする異世界での報酬だった。

「これが、俺の初めての稼ぎか…」

銀貨を手に取ると、その冷たい感触が彼の新たな生活の現実味を感じさせた。ライオネルは横で微笑んでいた。

「よくやったな、聡。これで君も立派な冒険者だ」

「ありがとう、ライオネル。次はもっと頑張ってみるよ」

聡は決意を新たにし、自分の冒険者としての道が本格的に始まったことを実感した。


---

北原聡の異世界での冒険者としての生活は、順調な滑り出しを見せた。しかし、これから待ち受ける数々の試練と、さらなる未知の出会いが、彼の運命を大きく揺さぶることになるだろう。

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