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28話

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さすがに全員というわけには行かず、奉先と呂布は一緒に行動し黄巾党を率いる代表格の人物一人がその二人に同行する事となった。
陳留郡と漢津を結ぶ道は全て黄巾党の配下や流賊などが占拠しており、ほとんどが山賊の住処になっていたため一行は一路迂回して漢津を目指したのだが、険しい山岳地帯を越える際に山賊に襲われ行軍速度を落とす事となる。
それを見ていた奉先は顔を顰めて言った。
「武人であるというならば山賊などにならぬように心掛ければ良いものを……威張り散らす為だけに山賊となるなど片腹痛い」
奉先がそう言うと郭嘉は苦笑いを浮かべながら言った。
「あれではどっちが賊なのか分からないという事でしょう」
陳宮の予測通り、黄巾党の内情はかなり酷かった。
土地の者たちは彼等を怯えて見つめるだけで抵抗しようとはしなかった為、ほとんど血を流すことなく山道を乗り越える事が出来たが、それでも山道の途中で休憩を取らねばならない状況は避けられず、山賊たちに黄巾党の旗が見えると大騒ぎをして騒ぐので迂闊に道を進む事も出来ずにいた。
山道を進みながら奉先は言う。
「このような状況では到着も遅れるのではないか?」
その言葉に李儒は肩を竦めながら言った。
「私もその様に考えています」
そんな一行の前に今度は道を塞ぐように数人ずつの騎馬が立ち塞がったのである。
それを見た奉先は李粛に向かって言う。
「奉先、かかれ」
呂布軍の兵たちが騎馬に向けて突進を始めると、奉先も馬を走らせた。
それを見た相手の騎馬隊頭らしき男が奉先に叫ぶ。
「これ以上先には行かせぬぞ!」
しかし奉先は慌てる事も無く右手に持つ方天画戟を振り回しながら威嚇するように言う。
「呂布の武名を知って居て喧嘩を売るとは良い度胸だ」
その言葉に李粛が頷くと先頭を切って敵に突入していく。
「おお!!李粛殿はやはりお強い!」
郭嘉は李粛の強さに興奮気味に言うが、奉先は平然としている。
「彼は怪力の持ち主だからな」
呂布がそう言うとその隣では陳宮も平然としており、奉先の軍師の役割を果たしている陳宮にしてみればこれは見慣れた光景でしかないのだ。
そんな二人は先ほどから聞こえてくる仲間であるはずの黄巾党の兵たちの叫び声の方に注意を払うと、敵の半分程が討ち取られ呂布軍の優勢が見て取れた。
「くっ!!このままではまずい!一旦引くぞ」
そんな相手の騎馬隊頭の言葉に部下達は馬首を巡らせると森の中へと退避していったのである。
すると陳宮は首を傾げながら言う。
「あの男、何か変だったな……」
それを聞きつけ呂布が訊ねるように顔を向けて来たので陳宮は言う。
「あの男は退却するように見せかけていただけだったように思える」
そんな言葉に奉先が不思議そうに言った。
「あのまま呂布軍と戦い続ければ自軍の兵をより多く失うというのに、何ゆえ退却すると見せかけたのか?それが奉先には納得出来なかったのか?」
奉先の言葉に陳宮は頷くと続ける。
「あの男はわざと自分が不利になるような退却の仕方をしたが、普通なら我等が怯んで逃げ出してしまうくらいの勢いで向かって来たのだし、おかしいと思ったのだ」
言われてみれば呂布も不自然だと感じたのは事実であり、そして逃げる素振りを見せながら部下達を逃がした所を見ると、そのような事をするようには思えなかった。
するとその時、後方から山賊に襲われていた味方の軍が迂回して戻ってきた。
「我等にも助勢させて下さい!」
そんな李粛の言葉に呂布や奉先達が頷くと再び黄巾党との戦いが始まったが、敵は素早い動きで巧みに呂布軍の行く手に立ち塞がり攻撃を仕掛けて来る。
さすがに戦慣れしているというべきなのか、こちらが思うように進めない事に苛立ちを感じた呂布が陳宮に向かって言う。
「どうする?」
すると陳宮はいつものように考え込みながら言った。
「そうですね……呂布将軍、少し危険な策となりますので反対されるかも知れませんが……」
そう前置きをすると続けた。
「今の戦況を打開するには敵の大将の首を取れば良いと考えますが、いかがでしょうか?」
そう言われた呂布は少し驚きはしたものの笑みを浮かべて陳宮に言った。
「分かった。ではその任を奉先に任せよう」
陳宮も呂布の言葉に頷き返すと奉先の方を向いて言う。
「将軍、敵は形勢不利と見るや大将が討ち取られぬように陣形を崩して逃げるでしょう。その時こそが敵の将の首を取る好機です」
そんな陳宮の言葉に奉先が頷くのを見て呂布は目を細めながら言った。
「さすが軍師だな。その作戦ならば敵将も逃がしてしまう事も無いだろう」
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